食料
川の近くに拠点を構える。
長い木の枝をいくつか用意し、縄で組み立てることで骨格を造る。
あとは緑の多い枝葉を壁として重ねれば、簡易テントの完成だ。
簡素なものだが、夜をしのげればそれでいい。
拠点が完成すれば、次ぎは食料調達だ。
腹が減っては戦が出来ぬ。
栄養が不足すれば、身体の動きに鈍りが出る。
物事に対する反応や思考も、遅れてしまう。
だから、俺たちはまず二つの指令よりも、食料調達を優先した。
「――時期に日が沈むな」
演習の初日は、とにかく忙しい。
時間はあっと言う間に過ぎ、気がつけば空が茜色に染まっていた。
「残り二日分も、とまではいかないかな。流石に」
「まぁ、それはしようがない。暗くならないうちに拠点に戻ろう」
いま確保してある分の食料だけを持って拠点に戻る。
川沿いを歩いて到着する頃にはすでに薄暗く、急いで竈に火を付けた。
石を重ねて造った竈は、うまく機能している。
簡易テントを造る際に薪を確保しておいたから、夜が明けるまでは持つはずだ。
「ふー、ギリギリだったー」
「なんとか、間に合ったな。夜の森を歩かずに済んだ」
初日はこれで終わり。
いわば、生活基盤を整えるために捨てた一日だ。
お陰で夜に憂いはほぼなくなった。
順調だ。
これで残り二日を、指令をこなすために使える。
「さて、お次は選別作業だ。頼んだぞ、アイル」
「くあー!」
俺たちは竈の近くで調達した食料を広げる。
主に木の実とキノコ。いくつかの果実。
あとは川の位置を見つけに行った際に捕らえたカエルが二匹。
携帯食料と合わせれば、結構な量になった。
問題は、これが喰えるか喰えないか、ということだけ。
一応、調達の際に毒性のあるものは省いているが、万が一ということもある。
だから、最終確認は使い魔たちに任せよう。
「アイル。これは?」
「くあー!」
使い魔は人間よりも直感に優れている。
本能的な危機回避が可能で、それを応用すれば食料の選別すら可能だ。
「じゃあ、これは?」
次ぎに差し出したのはキノコ。
アイルはそれの匂いを嗅ぎ、あらゆる角度から観察する。
「くあー?」
そして首を傾げた。
このキノコはダメっぽい。
「そう言えば、いま思い出したんだけどさ」
「ん?」
「遭難したらキノコは食べるなって中学の時の先生が言ってたよね」
「そう言えばそうだな。ほとんど栄養がないから、消化に使う体力がもったいないとかなんとか」
食べることで得られるプラスより、消化で失うマイナスのほうが大きい。
「まぁ、大丈夫だろ。遭難している訳じゃないし、キノコだけが食料じゃないし」
「緊急時って訳でもないし、まぁいっか」
せっかく取ってきたんだ、のけ者にせずに食べるとしよう。
「でも、こうしてると思い出すよ。中学の時のこと」
「まぁ、あの頃はこういうことばっかり学んでたからな」
中学時代は、魔法使いとなる下準備の段階だ。
体育の授業は戦闘訓練だし、座学の授業は普通校からかけ離れた内容だった。
簡易テントの造り方も、食料の見分け方も、仕留めた獲物の解体法も。
すべて中学で学んできたものだ。
「あの頃は楽しかったな。入学と同時に卵をもらってさ、わくわくしてた」
「どっちが先に孵るかで競争してたよね」
「あぁ、結果は惨敗だったけどな」
アイルを一撫でしつつ、過去に思いを馳せる。
ギンが卵から孵ったのが、中学二年に上がったころだった。
比較的、早い段階での孵化に、当時はみんな驚いていたっけ。
それから周囲の生徒も次々と孵化していった。
その歳の夏休みが終わる頃にはみんな孵っていたほどだ。
俺だけが、取り残されていく。
ちょうどその頃だったかな。
俺が落ちこぼれと呼ばれるようになったのは。
「まぁ、それも昔の話だ。いまはアイルがいるからな」
「くあー!」
アイルが孵ってから、なにもかもが変わりはじめている。
あの時から止まっていた時計の針が、動き出したかのようだ。
「よかったね、本当に」
「あぁ」
アイルには、感謝してもしきれない。
「――よし、これで終わり」
食料の選別も終わり、残すはカエルが二匹となる。
「カエル……カエルか……」
「しようがないだろ。食用に適した魔物が見つからなかったんだから」
魔物にも人の口に合う合わないがある。
例えば、最初に倒した四足獣の魔物。
あれの肉は筋張っていて食えたものじゃない。
「肉が食えるだけありがたいと思わないとな」
「わかってるけどさー」
気が進まないみたいだった。
なので、二匹とも俺が捌くことにする。
捌き方は手順を理解し、慣れていればそれほど難しくない。
まず後ろ足を持って、近くの岩に叩き付けてることで即死させる。
そうしたら腹にナイフを入れて開き、内臓を体外に出す。
その後、頭を落として完全に内臓を取り除き、川で血を洗い流す。
ついでに皮を剥げば、下準備は完了だ。
あとは細い枝を串にして突き刺し、塩を振って竈で焼けばいい。
カエルは見た目の割に食べるところが少ないのが、残念なところだ。
「内臓とかは土に埋めてっと」
カエルを焼いている間に、深い穴を掘って内臓や落とした頭、皮を埋めた。
そうして時間が経つ。
「ほら、焼けた」
「むー……」
串刺しになった頭のないカエル。
見た目は決して良いとは言えないけど、食べられるものだ。
乃々は恐る恐ると言った風に、串を受け取った。
「うん。なかなかいけるな。鶏肉に近い感じがする」
「そう、だね。おいしい、おいしいけど……うーん」
乃々は神妙な顔をしながら、カエルを食べていた。
「ふー……まぁ、これだけ腹が膨れれば上等だろ」
食事が終わり、腹が満たされる。
腹八分目と言ったところ。
この状況下でこれだけ栄養が取れれば文句なしだ。
「明日は朝早くに出発だな」
「なら、今のうちから寝とかないと」
「あぁ、そうだな。じゃ、事前に決めてた通り、俺が火の番をしてるから」
「うん。数時間したら起こしてね」
基本的に、揃って就寝することはない。
必ずどちらかが起きていて、周囲を警戒し続ける。
無防備な姿を晒したが最後、魔物のエサに成り果ててしまうからだ。
「明日は大変だぞ、アイル」
「くあー」
果実をすこしずつ頬張っていたアイルが、こちらを見る。
「頑張ろうな」
「くあー!」
そうして時は過ぎていく。
頃合いを見て乃々を起こし、入れ替わるように眠りについた。
明日への意気込みと、不安を抱いて。
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