第九話 シェンテラン家の来賓
がんばれ、リューム
みんな暖かく見守っているぞ。
――ガンバレ〜ヴィンセイル
みんな生ぬる―く、見守ってるよ?
何と・・・・・・何とご領主様自らに付き添われて、連れて来られたのは一番正門に近いこのお部屋。
お客様をお部屋にご案内する前に、お待ち頂く為の間です。
いつもキレイに整えられた間ですが、今日はまた一段と綺麗にされています。お花もたくさん。
この美しい白磁が来客時用の花瓶だと、リュームも知っています。
お部屋も来るべき高貴な方をお出迎えするために、よそ行き顔なようですね。それは何やらこの場も、誇らしげな気さえします。
――嫌でも緊張感が高まります。何せリュームも・・・・・・初めてに近い公式の場。
『リューム様っ!ご健闘をお祈りいたしますわ!』
この半月あまり折にふれ繰り返された言葉。ニーナを筆頭に、お世話してくれる皆からもらった激励を胸にリュームはこの日を迎えました。
しくじるわけには、いかないのであります!
リュームとて心得ております。リュームが『どこから見てもシェンテラン家の誇る淑女』とやらを演じ切れば、それこそニーナたちにも少しはご恩返しが出来るってものでしょう!
(脱・役立たずのまたとない好機到来でございますとも!!)
そんな力の入れようをおくびにも出さないのが、淑女のハズなので黙っておりますが。ええ。
『演じきる』等と思っている辺りで、だいぶ本来のリュームではなし得ない領域に食い込んでいる気がしないでもありませんが。
・・・・・・そこはそれ。リュームの本質は庶民なのだから、仕方の無い事です。大目に見て貰いましょう。
「ここで控えていろ」
そう命じられるままに頷き、促がされるまま椅子に腰を下ろしました。
「――じき、公爵家の方がお着きになる。そうしたら式が始まる前に、挨拶だ。出来るな?」
「・・・・・・は、い」
右手を取られたまま見下ろされて、リュームは小さく答えるのがやっとという有様。
これからそんな偉い方にお会いするという緊張感もさる事ながら、この只今の状況も誰か!誰か説明してください!
(な、何だっていうのでしょう。この方のこの調子は・・・ちょっと、いつもと様子が・・・・・・?)
何とも言えない違和感です。
それがまた居心地の悪さとなって、リュームの心はそわそわと落ち着きません。
落ち着く事が何よりも大切な場に臨むというのに、こんな調子でダイジョウブですか?――と自問自答。
いいえ、大丈夫じゃありません!・・・何て言ってる場合でもありませんが。
とにかく。この心臓に悪いお方に出来るだけ離れていただく事が、何よりの解決策と思われるのですが。が・・・・・・・。
「あ、の、ごりょ、しゅさま?」
「何だ」
「え、と?手――手を」
離してくれないのだろうか?まさかこの状況のまま、公爵様のご到着を待つおつもりなのでしょうか?
そんな事された日には、今日の挨拶した時点で気力・体力共に使い果たしてしまうと思われますが〜?
掴まれた手を引き抜こうとしたのですが、それも一瞬。リュームはその手をまた、自分から握り締めていました。
「・・・・・・?」
「どうした!?」
「ごりょしゅさまは、寒いのですか?」
不思議に思いながら手を見つめます。そしてそれは恐らく、ご領主様も。――お互いに。
「――いや。寒い?何故だ」
「手が・・・冷たくてらっしゃるから」
――寒いのかと思って。
そう言葉を続けるよりも早く、ご領主様の大きな手のひらが視界を占めました。
思わず目を固く瞑ってしまったのですが、別にぶたれたりしませんでした。
ただ、額に手を当て込まれて。大きく後ろにのけ反りそうになったくらいです。
「リューム・・・・・・オマエ」
「はぃ?」
「――控えているか、ニーナ!このバカに熱さましの薬を!」
―― は い ! た だ い ま !
扉の向こうで、ニーナの張り上げた声が答えました。
慌てたように礼を取り、すぐさまニーナは準備に取り掛かるべく駆け出してしまったようです。
「・・・・・・・・・・・・べ、別に、熱なんか――へいきです、よ」
と、押さえつける手のひらを跳ね返すべく、頭を持ち上げたのですが。
このバカ、とまたぎゅうと押さえ付けられてしまったのでした。
・・・・・・・本当にもう。やっぱり予想通りな展開に、自分でも笑うしかありませんよ。
本当にもう、何て言っていいやら。・・・・・・申し訳ございませんです、すみませんでした!
そのまま重みに負けて、うな垂れてしまいそうな頭を必死で持ち上げます。
「これくらい、なんてことはないのです」
「――・・・・・・。」
「いつもの事、ですから!」
「無様に引っくり返って恥をかかせる可能性があるなら無理をせず・・・・・・部屋に戻れ」
「それはご命令ですか?」
「いや」
「では、戻りません」
「リュ−ム」
「立派にやり遂げて見せます」
見ていてください、リュームの生き様を・・・って大げさな。まあ、それくらいの勢いと意気込みで臨む今日という晴れの日。
大きな手のひら越しに、緑の眼と睨みあったのでした。
「見得を切ったものだな」
「・・・・・・ぅ、」
(切りますともぉ!そりゃ、切りますよ!何ですか、この気合と熱意の込められた衣装に加えて、期待のこめられた瞳に送り出されてごらんなさいませよぉぉ!)
――本当はそう叫びたいのは山々ですが。
叫んだら折角の見得を切る演技も台無しなんで、黙っておくに越した事はありません。黙っておきます。
人はこうしてオトナになるんでしょうか?――ええ、そうでしょうとも!
「この次・・・館内で行き倒れたらどうなるか。覚悟の上だろうな」
””二度と自分の巣に戻れなくても””
「!?」
え〜と?あの、やっぱり部屋で大人しくしていた方が身の為でしょうか・・・ね?
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正直なところ不覚にも一瞬、ためらいを見せてしまいましたが。でもそれも、すぐに引っ込めました。
リュームは無理やり唇の両端をつり上げて見せました。目尻にも無理を強いて、下がるように命じます。
(それはそれで・・・いいきっかけになるかも知れないデス!上手く行ったら皆の期待する『良家に嫁入り』とやらになりうるかもだけど。むしろ下手を打つ可能性のほうが高い訳でして。――『二度と自分の巣』=『シェンテラン家』に置いてやらないと仰ってるのだから。むしろ、『いい機会』かもしれない)
――このいたたまれない関係にも、終止符が打てると言うものでしょう。
そう納得の上で臨む決戦の場です。敵に背を向けるなど、今さら。――今さらです。
それなのに。何やら・・・この胸が軋むのはなぜですか?
リューム、息苦しさから思わず自由な左手で胸元をぎゅ、と握り締めてしまいました。
(あ、いけない・・・・・・っ!)
かさ、と軽く音を立ててリュームの左肩を飾る、お花のコサージュが存在を主張しました。
ドレスと同じ生地をこれまたレースと組み合わせてお花に模した、これもニーナ達の気使いのひとつです。
そのコサージュの大きさと位置を測るときの、彼女達の細心の注意と眼差しを思い出したら。
(・・・・・・・・うわ・・・っ!)
リューム新たな胸の痛みに思わず、身体を屈めてしまいました。
胸を切り裂かれたような痛みと。
胸を占める切なさと。
この胸を満たすあたたかな疼き。
同じこの胸にいっぺんにせめぎ合う、何やら種類の異なる『痛み』の正体は――つかないようで、ついています。
このひとつの胸には抱えきれない想いが、出口を求めているのだとしても。
リュームは手放したりせずに、大切に抱えておこうと思います。
――この方とのどうしようもない七年間に、抉るような痛みを絶え間なく与えられたとしても。
『さ、リューム様・・・これで傷痕は見えませんからね』・・・そう、泣きそうな顔でコサージュを付けてくれた皆の気使いに、感謝でいっぱいですよ。
(ありがとう・・・リューム、バカな真似してごめんなさい)
何も考えずに軽々しく、自身を傷つけました事を深ーく・お詫び致します。そして、二度としませんと誓います。本当に今さら理解できました。確かに大ばか者のそしりを受ける訳ですね。とほほ。
「――どうした、リューム?」
「な、な・でも、ありませ・・・・・・」
――ん、とそのまま息を飲み込みました。いつの間にやら。
前のめりのリュームを、覗き込むようにしていたご領主様の視線がそうさせたのでございます。
「すこし、胸が・・・苦しくなっただけです」
「――リューム・・・・・・」
「いつものことだから、平気です。お薬、いただけば、治まるでしょう」
――治まりますかねぇ?
などと思ったのは、もちろん秘密ですが。
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風が吹き抜けて行ったようです。
それはリュームがちょうど、水薬を飲み切ったのと同時でした。これは正直、飲むのに勇気と言うか。覚悟がいるのです。
・・・・・・たいそう、苦いので。容赦なく。飲み口もさることながら、飲み下した後もしつこく残る苦さですよ。
一口、いかがですか?・・・って――リュームがちゃんと飲み切るのを見届けるまで、睨んでいたご領主様にもお勧めしてみたい。
そうしたら『熱なんて平気ですよ』=『薬なんかに頼るまでも無い』と強がったリュームの気持ちのいくらかはご理解頂けるかと?
睨むのは数瞬で止めといてやるか位には、ご容赦いただけるんじゃないでしょうかね?
風が吹き抜けたのは、正門に続く扉が開け放たれたから。それは、もちろん意味する所はですね。
――来ました、ですよ。
もちろん、今日の来賓の方々がですけど。意味合いとしては『リューム・ついにこの時が来ましたか!』の、来ましたでもあります。
(さぁ!行きますか!)
吹き抜ける風は心地よく、リュームの上がりすぎた熱を冷ましてくれるようです。何とも頬を撫でる冷たさが・・・って、アレ?
アレ?
え、ちょ、っと?
待って下さいよ?
「顔が赤い――と思ったら、だんだん青白くなって行くな」
そりゃあああああああ、そうでございましょうともぉおおおおおお!!
またしても。両頬をこの方の大きな手のひらで挟みうちにされりゃあ、当然の反応でしょう。
「お薬、飲みました・からね・・・・・・」
まじまじ、じろじろと。まさか、ご領主様に顔色を窺われる日が来るとは思いませなんだよ!
顎を掴まれては逸らしようも無い。
はは。ははは。はははは〜よく効きますね〜・・・って、そんなワケありますかぁ!
リューム、その場に硬直。そら、身動きも思考も停止しますよ。嫌でも、あの初・喧嘩が思い起こされてしまいます。
あの時もいつの間にかでしたが、今回もまた違った意味でいつの間にかでした。少なくともリュームにとっては。
しかもそれが、また。頬を撫でる冷たい風と同じくらいの、さりげなさと有っては〜リュームの判断も遅れますよ。
本気で一瞬、何が起こったのか理解できませんでした!
ああ・・・今日の場を乗り切る体力温存もままならないまま、いざ、ご挨拶ですよ。
ちなみに本日の主要行事の『任命式』及び『祝賀会』は、まだまだ先のことです・・・何て事は!考えないに限ります。
まずは目前の『ご挨拶』を乗り切るのが先決ってものでしょう。
扉を開けてくれた従者の方が被っていた帽子を胸に構え、畏まった様子で深く礼を取りました。それは合図でもあります。
「――行くぞ」
強く頷いて見せた途端に、勢い良く引っ張り上げられました。
もちろん・・・その拍子に勢い余って、早速転びましたよ。・ビタンっ!といい音がしました。
どこ打ったらこんなにいい音がするのか、リューム生々しく身体で実感。
痛いです。膝もおでこも、ついでに視線が突き刺さっているであろう背中も。
「あああああ〜もぉう!お加減というものを、少しは――!」
そう声を上げて、見事に床に這い蹲るリュームを、素早く助け起こしてくれたのは。
これまたもちろん、ニーナなのでした――。
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おでこ、赤いでしょうかね。
もしかして”まあるく赤い”何てことは、ありませんでしょうかね?
でなければ、こんなにも満面の笑みでいらっしゃる公爵様の・・・笑いを堪えているであろう風情に説明がつきません。
あ・き・ら・か・に・!
その扇の向こうにお顔を忍ばせ気味にされてらっしゃるルゼ様が、小刻みに揺れてらっしゃいますものね〜?
せめてもの救いといえば。
フィルガ様はあくまで、にこやかーに・温かーく・見守るがごとき笑みを湛えて下さっている事です。
不思議な深みのある銀の髪とお揃いの瞳の、フィルガ様。初めて目にする珍しい色合いです。
件のご領主様の上着を、かがっていた刺繍糸と同じ色です。リュームはそれしか例えが見つかりません。
これがまたご領主様の金の髪と並ぶと、対照的でありました。
お日様の光を跳ね返したかのような黄金色と、月明かり受け止めて――柔らかく光放つかのような灰味の強い銀色。
(あ!そうだっ!――シンラの毛並に似ていらっしゃるのです)
良い例えが見つかりました。うん、うんとリューム一人で納得して満足です。
「――今日という晴れの日を楽しみにして来ました。シェンテラン家の若き主とその妹御のお二人。ご両親のご葬儀以来ですわね?」
「はい。その節は大変お世話になりました。既に喪も明け、亡き両親も哀しみから解き放たれた事でしょう」
ご領主様は礼に乗っ取った口調で、頭を垂れながら答えられています。リュームもその横でそれに倣います。
「そうですね。今日はご両親にとっても、誉れとなる祝いの日となるでしょう――。どうぞお二人。お顔をお上げになって?」
「は」
「っ、は・・・ぃ」
ルゼ様は明るくはっきりとした口調でいらっしゃるのですが、笑いを含んでいらっしゃるせいかとても親しげに感じます。
時折り目が合うと、ニッコリと笑いかけて下さいます。その瞳の色もまた、ご領主様と同じ深い緑なのですが。
ずいぶん印象が違って見えます。もっと――厳しい方を想像していたリュームにとっては、これもまた救いになりました。
お二人が自然に放たれている『威厳ある者の持つ特有の威圧感』も、何やら薄らいでいるようでリュームとしては助かりましたけど。
――せっかくの厳かな場に臨む緊張感は、その・・・台無しのような?
(一応、ご挨拶は無事終了でございますよ?でも、どうしましょうか、ご領主様・・・・・・?何だか、ルゼ様に示しとやらがつきませんでしたかね?)
何やらおでこに視線を感じるのですが、それは気のせいであって頂きたいものです。そう祈らずにはいられません。
「リューム嬢?」
「――はい」
「今日はお体の方はよろしくて?無理されてないかしら?」
「え・・・・・・?あ、の?はい、だいじょ・ぶですが」
なぜ、そんな事を?ルゼ様が尋ねるのかと思いました。それがまた、表情と口調に現われていた模様。
気がついた時にはもう遅い。ああ、演じきろうにも――。何とも危うい淑女です。
「私のこと、忘れちゃった?」
「え!?え・・・・・・と。は、い?」
小首を傾げて覗き込むようにされて、ルゼ様がリュームを見つめます。
「――申し訳ありません。義妹は葬儀の際は動揺して、取り乱しておりましたから。正気であったとは言い難く」
「いいのよ。別に責めているわけではありませんよ、リューム嬢。あなた・・・ご葬儀の時もだいぶ、咳き込んでいらっしゃったから。だからね。貴女の体力ではこの今日の席も危ぶまれるかもしれないとお義兄さまから、お聞きしていたので気になったのです」
「ごしんぱぃ、いただいて・ありがとうございます。だ、だいじょ・ぶ、です」
(あわわわ〜『はじめまして』とか、挨拶してしまいましたよ!葬儀の時?思い出せ!思い出すんだ、リューム!
う――ん、と。う―――んん、と??
「――貴女と。喪が明ける頃には、きっとまた会いましょうと。その時は、と『約束』したの。覚えていない?」
「・・・・・・・・・・・・・!!」
「思い出していただけたようね?」
ふふ、と。いたずらっぽく笑われるその様まで、何やら高貴な香りがします。
リューム、すっかり動揺してしまいまして。
無言でひたすら、こくこくと首を縦に振り続けました。言葉を発しようにも、忘れてしまいました。
自分がしゃべれるのを――すっかり、きれいに。
「じゃあ『約束』もかしら?」
「!!」
再び、ぶんぶんと勢い良く首を縦に振って答えました。
「そう。嬉しいわ。――では、後ほどまたね?」
楽しみにしていますよ。
そう付け加えられて、いやにその言葉がぐるぐると頭の中を回り始めました。
楽しみ・・・楽しみにって、楽しみにされてい、らっしゃいましたか!
・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・:*:・。・:*:・。・:*・。・
案内に従って来賓室に向かわれたルゼ様とフィルガ様の背を、ご領主様と二人――。深々と礼をとり、見送りました。
そのお姿がすっかり見えなくなっても、しばらくそうしていました。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「――リューム。一体何を約束したのだ?」
「・・・・・・・・・・・・はぃ」
「 ジ ・ リ ュ ー ム ・ タ ラ ヴ ァ イ エ 」
リュームその場でいっそのこと、意識を手放してしまえたらどんなに楽かと思いました。
お疲れ様でございました!
またしても、長い。
恒例の(?)小話は、明日(2009・2・17)にはここに書いときます。
予定は未定ですけど。
ってか、次回にしとけ?
・・・・・・・・・・。
では。
・・・・・・・・・『有言実行!』〜いきまっす!『どうでもよくね?――小話』
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
「やりましたね」――ニヤリと笑うは、ニーナ。
「やりました!」――満面の笑顔は、サラ。
「やりましたともっ」―拳を振り上げるは、スゥミル。
「・・・でも、ちょっとやりすぎましたかね?」
「「・・・・・・・・・・かも・・・・ね?」」
「もぅ、少し胸の切り込みは浅くても良かったかもしれませんね」
「――盛りすぎたかも」
「パッドは何枚入れたんです?」
「――入れてません」
「「!?」」
「じゃ、何っ!?この半月で?」
「ううん。採寸ミス。・・・ちゃんと矯正下着付けてからも、測ればよかったね。リューム様、はと胸タイプだし。実際よりもふっくら感が・・・目立たせるよね」
「――−−・・・・・・。」
「それ以外にもここの所の努力の甲斐あって、ふっくらされてきたしねぇ。いい事だ」
「うん」「同感」
「・・・それにあの奥方様の血を引いてらっしゃるしね。将来に期待・大でしょう」
「それでも〜リューム様ね、ご自身の事を”貧相なのであんまり身体の線が出ないものがいいです”って仰ったんだよ!」
「!?」
((お、恐るべし!思い込み!))
「ま・・・何にせよ。その思い込みを植えつけたであろう、張本人サマの前に立ちはだかってるという訳だ」
「勝敗は」
「・・・・・・もう」
「ついてるんじゃないかな〜あ?」
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
「ニーナ!ご領主様がリューム様に何か羽織る物を用意せよとの事だ」
「バルハートさん。リューム様どうされました?寒がってらっしゃるんですか?」
「いや・・・だが、用意させるようにと」
「バルハートさん。ボレロは夜会用で、祝賀会のドレスには合いませんの」
「ええ」
「はい。御召し物に合わない、不自然なショールくらいしか」
「・・・・・・わかった、ニーナ。ならばそうご領主様に申し上げてきなさい」
「――あら、大変。私、持ち場に戻らないと♪」
そんなワケで勝利を確信できた私達『リューム様を見守る会』なのでした。