第八話 シェンテラン家の主の名
(仮)タイトルは『予想通りぐったり。』でした。
だから何だ、毎回?ですね〜すみません。一応方向性が伝わりやすいので報告。
――そう。そして(仮)タイトルは大抵次回へと持ち越されるのでした★
はい。
そもそもこうしてご領主様の晴れの舞台に立ち会う前にですねー・・・・・・。
あらかた体力を消費してしまったのです。
ただでさえ持ち合わせも少ないと言うのにですね〜。
本当にもうどうしましょうかという焦りすらどこか遠い、意識を保つのが精一杯いっぱいなのが窺えます。
そこら辺は妙に冷静に己を分析出来るあたりで、かなり。ええ。
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朝も早い時間からニーナ達の何やら思い入れのこもった衣装に着替えさせられ、念入りに髪を結い上げられ。
普段なら絶対に履かない先細りの華奢な靴に、歩き出す前から何ともいえない嫌な予感がひっしひしと圧し掛かってきましたんですよ。
何て事は・・・『ああ――!朝からいい仕事をしたわ!』という表情のニーナたちに誰が申し伝えられましょう。
いかに大バカのそしりを受け続けて(根に持って)いるリュームとて、場の空気ぐらい読めますことよ?
しかしですね〜、さすがにここまで。準備の段階からして――思い出しただけで思わず視線は遠―・くをさ迷います。
ただでさえ念には念をというか。もはや執念と言いましょうか、この念の入れようは。
『リューム様を何処から見ても立派なシェンテラン家の誇る淑女に!』
何に対しての意地なのかもはやリュームには量りかねますが・・・・・・。
ニーナを筆頭に侍女の皆様方のこの熱い想いを背負って、出で立つリュームの姿を勇姿と捉えてくださる方!
――大募集でございます。
等とは訊いてはなりません。何となく本能が回避せよとお伝え下さることには。
(ニーナが・・・絶対に真っ先に挙手してくれるに決まってますけどね。せっかくだけども、リュームちょっと疲れちゃったなぁ)
いつも以上に食事と薬と就寝の時間は厳守の半月。
それはいいです。『この脆弱極まりない身体を人並みの体力に持って行こう!おー!』月間はいまだに開催中ですもの。
しかーし。・・・・・・食事の。場合によっては薬の時間も、にですね――。
『ご領主様・ご同席』だったですよ。ここ半月ばかり。おぉうぅ。
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「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ほとんど所か!ほぼ無言の食事時間はもはや拷問の時間でしたとも!
ある時は。
「リューム様。『もう少しお召し上がりになるように』とのご領主様からのご伝言ですわ」
「――はい。努力いたしておりますとお伝え下さい」
ちなみにご領主様は上座。リュームはその斜め向かい前。何も長テーブルのはじっことはじっこに、お互い席を取っているワケではございません。椅子一つ分距離は空けてあります程度です。空けてありますのは、まぁ。・・・習慣でしょうかね。
元はお義父様が今ご領主様が座られているお席。リュームとおかー様は隣同士で。その真向かいは、義兄と呼ばせなかったこの方が。
ちらりと盗み見ましたら、ご領主様は何食わぬ顔で食事に専念されておられるようです。
「・・・・・・。」
ふ、と思わずため息をこぼしてしまいました。
(・・・・・・本当は『ちゃんと食え!』と言いたいに違いない。だから貧弱なんだとか百回以上は言われ続けてますから、知ってます。でも無理でしょ?――この状況でいつもより食べられなくなるとは考えられませんで?)
自分の目の前に盛られたお皿には、まだ半分以上お肉も野菜も残っています。それに向き合おうにも、どうにも胸がいっぱいな気がしてしまうのです。とても重苦しくてやるせない。
食事を残し続ける罪悪感と共に、それは募って行くのです。
「――リューム様。俯きながらのお食事はあまり見栄えがしませんよ?」
「はい。申しわけありません」
(でしたら。この思い切り良く視界に入れたくないお方とは、食事の時間は別に設けてくださいまし)
そして、ある時は。
(「リューム様。せっかくのご領主様とのお食事の席ですのに。何かお話になってはいかがでしょうか?」)
「・・・・・・はい?お話・・・することですか?あ、の?特にはござぃませ・が?」
あまりの無言の食卓に気をもんで下さったらしい給仕の侍女さんを、思わず見上げてしまいました。
彼女はこそ、っと小さく言ってくれたのですが。リュームの声が驚きのあまり、少しばかり大きかったようでして――。
(いや・いや・いや・いや。何かまた気に障る様なこと口走りかねないので、黙っておきますよ)
そんな気持ちは汲まれようも無く。むしろ『誰が貴方様と話すことなんか――!ありゃしませんよ?』と受け取られたとしても、何の言い訳も出来やしません。
『――俺の方でも貴様と話す事など無い。オマエと食事を一緒に取っているのは忍耐力を養うためだ』
またしてもいつの間にか。――自室のテーブルの上に置かれていた紙の両端を引き裂きましたよ。ビリッとね。
そんな事!睨んでいる暇がお有りなら、その場で言って下さいましよ!そんなにリュームと直接口をきくのは疎ましいのですか!ああ、そうですか!左様でございますか!忍耐力なくしてはリュームとは口もきけぬと!
(何おぉぉぅう!!――望むところですよ!だーぁれーが・あ、貴方サマと話す事何かあるもんですか!)
――いや。本当はお聞きしたい事はあるのですけど、とってもじゃないけど面と向かってお聞き出来るような心臓。リュームは持ち合わせちゃおりませんの。ええ。
(――はっ!?そうか!わかった!わかりましたよコレはリュームを鍛えるためですね。公爵家の方々の前でも緊張の余り倒れたりしないように!)
はたまた、ある時などは――。
「リューム様――。お食事の最中に上の空なのはいかがかと思われます」
「はい。上の、空で・た」
「リューム様・・・・・・。ご領主様から『その挙動不審は時と場所を考えて選べ』というお達しです」
しかも後々、こんな調子の反省会付き。
そんなこんなの半月を過ごした自分を振り返り、改めてよくがんばったものだと褒めて頂きたいくらいです。
えらい!仮病も使わず。えらい!かくれんぼしつつ、館内を逃亡とかしなかった!――えらく・・・・・・ないですね。
だって〜ですねぇぇ?
リューム毎食時こんな席を設けられていたら、餓死・・・・・・とまでは行かなくとも脆弱さにより一層磨きが掛かる所だったと踏んでいます。
栄養不足間違いなし。ただでさえその傾向にある身なのに。
思わずうな垂れて自分の体の線を見下ろしてみても、何てすっきりしたものでしょうかと思いました。
見下ろしたら真っ先に目に入るものは、自分の胸元であって欲しいものです。
しかしソレは叶わずなのは間違いない事実です。
――そこは咳と誰かさんの言葉の両刃から、胸をえぐられる様な日々のせいと踏んでいるリューム。
曲がりなりにもこの、リューム。あのおかー様の実の娘なんですから、もうちょっと、こう・・・ねぇ?
出るところは出ていても――いいと思うんですよねぇ。
(・・・・・・・・・な、何てよく言えばサワヤカな着こなしが・・・・・・できているのでしょうか!リュームよ!)
見下ろしたら視界に真っ先に入るのは、己の靴の先ですの。なんてねぇ・・・はは。ははは・・・はぁぁぁぁぁ〜ですよ?
思わず胸元に手を当てると撫で下ろした格好になる、鏡の中の自分と目が合ってしまいました。
(そんなリュームにあえてこのような胸元がすーすーするドレスを選んだのは、何の賭けですかニーナ。冒険ですか。ああ、そうですか。リュームにコレで戦い抜けと言うわけですか?)
何やら戦いに行く前から戦意喪失。というよりも『戦意』なんぞ、はなから持ち合わせちゃいないリューム。
それでもニーナ達の期待に少しでも応えるべく、なけなしの自信を引っかき集めて鏡の前でにらめっこです。
うす淡いクリーム色の光沢ある生地に、それ一枚だけでは向こうが透けて見えるよなレースを重ねて。
その縁をかがるのは、生まれたての木立の若芽の刺繍が目に鮮やかです。
繊細なレースをふんだんに用いて、それでいてドレスの型はいたって簡素なもの。
リュームの体の線をさらけ出し過ぎることの無い、控えめな裁断となっておりますのはどなた様のお気使いでしょうか?
それは――。
・。: ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ :・。・ 〜 ★
『リューム様は鎖骨の線がキレイに出ますから。その辺りを強調してみてもいいのでは?』
『――しかし。しかーし・・・ですね!そういった物にしますとその、お胸元が・・・・・・。』
『あくまで控えめな程度に。あまり切り込みは深くない方向で、それで背中も肩甲骨の上部が覗く程の深みを持たせようかとオモイマス!』
『危なくはありませんか?』
『危なく・・・ならない程度で』
『華やかさを出すために背面にはレースを腰帯に、裾にまで流れるよう施しましょうか。やや、交差させるように段差を付けて』
『長さは床に触れるか触れまいかといった長さで、ドレスよりも気持ち長く持たせて――歩くたびに風になびかせましょう』
『スカート部分は広がりは持たせずに、さりげなく脚にまとわりつくようにしましょう。裾の所々からレースが覗くように丈も計算しますから』
『――背面に飾りの留め具を付けませんか?』
『それは・・・・・・危なくは・・・・・・?』
『あえて。今にも零れ落ちそうな雫型の飾りをひとつ、目立たせる方向を一押し』
『それは危ないかもしれませんよ・・・・・・?いやいや。う〜ん。それくらいお楽しみが有った方がいいかもしれませんが』
『そこはそれ。リューム様の髪の長さを生かして。一部はまとめ上げますが、少し後ろに流すよう残しましょう。ですから露骨に晒す事も無い訳ですよ。で・も!ちょっとした動きによっては――・チラ見せる作戦ではいかがでしょうか?』
『それは賛成!後姿までも手抜かりなく――行きましょう』
『いいですねー。嫌でも想像を駆り立てることでしょうねー。腕が鳴りますよね、本当に!』
『清楚で可憐。それでいて幼さの残る危うい色香。本人が気がつかない所がまた、悩ましいまでに罪作り。そんな幼い色仕掛け。そこら辺を踏まえて、表現していきませんか?』
隅々まで抜かりなく、仕掛けていく方向で行きましょう!
『『『ええ!』』』
なんの危険度が増すのでしょうか?――リュームの転ぶ確率が、でしょうか?
お楽しみ?かき立てられる――・・・って何がですか?何かおもしろい事でもやりかねない、リュームの間抜け具合でしょうか?
””なかなか楽しそうだねーリュームの周りの侍女サン達ぃ””
「そーだねぇ、エキぃ・・・・・・。あ〜それにしても暖かくって、眠たいねーシンラぁ?」
””リュームぅ?も・ちょっとは興味持ったらどう?仮にも君の事みたいだし””
呆れながら言うエキだって、あくびをしつつの助言です。
そんなこと言われましてもねぇ。この状態では聞かなかったことにするのが、礼儀って物でしょうよ?
リュームはエキとこっそりと、部屋を抜け出して納屋の中。リュームはシンラに寄りかかり、エキはリュームの膝の上です。
干草の上にごろごろしながら、そんなやり取りを耳にしながらうとうとしていた次第です。
声の中心はニーナでしたし。まさかここで口を挟みでもしたら驚かせちゃいますもの。
――しかも。リュームが部屋を抜け出してシンラと、干草の上にいる所を見つかってごらんなさいよ?それこそまた騒ぎの元ですよ。
というワケで。何やらひそひそ声からだんだんと。もはやそんな調子で収まりのきかなくなった彼女達の声を子守唄に、お昼寝続行しました。存分に満喫。
今思えばそれがこの半月のうちで、最もくつろげた時間だったかもしれません。ええ。
その日のくれる頃には、満面の笑みのニーナが――。
弾んだ声で『さ!リューム様。採寸を致しますよ』と訪れたのでした。ハイ。
その後はもう。時間割なるものが組まれておりまして。
食事・お薬・教養・お勉強・お裁縫・沐浴・髪とお肌のお手入れ後に就寝。
きっっっちりと組まれておりましたとも!何やら力のこもった眼差しを彼女達から受けつつこなす・・・そんな日々。
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そんなこんなで迎えた晴れの日に――相応しい装い。
それは少し気恥ずかしくてくすぐったい。でも何だかどこかにお出かけしたくなるような。
不思議にふわふわした気持ちです。これからどんな方たちに出会えるんだろうと思って、期待に胸も弾むよう。
やっぱり何だかんだ言ったって、リュームだって女だったんだな〜と実感してみた次第です。
気持ちも改まって心も浮き立つものですね。
そもそもこのシェンテラン家全体が、浮き立っているように感じますもの。
なにせルゼ・ジャスリート公爵様とそのお孫さまで跡取りの・・・え〜と?フィ、フィルガ様が直々にご訪問とあっては、そりゃ力が入りますよね皆。
ちなみに毎日ご挨拶の練習(書き取りと発音)させられました。
名前・・・・・お二人の名前呼び間違いでもしたら・・・・・・・どうなるかなんて想像もしたくないです。
ぶんぶんと頭を振って、気を取り直しました。すは、と一つ深く息を吸い込みました。
「はじめまして。お目にかかれて光栄でございます、ジ・リューム・・・と申します」
「本日はようこそ、おこし下さいました、ルゼこうしゃくさ・ま、フィ、ル、ガさま」
落ち着いて。ていねいにゆっくり発音すれば大丈夫なハズです!
ただ――問題は次。お次ですよ〜・・・・・・。
「――我が義兄・・・ヴィ、ン、セル・シェン、テランの為に・・・・・・」
「””ヴィンセイル””」
「・・・・・っ!?」
またしてもガッターーンッ!と勢い良く椅子を倒してしまいましたよ!
(いいいいいいいつのまにっ、いらしていたのですかっ――ご領主様!)
リューム思い切り動揺。当たり前です。またしても意識を飛ばし気味だったせいで、不覚にも気がつかなかった模様。
(おおぅぅ!!な、なんてところを見られ・・・聞かれてしまったんでしょうかぁぁぁ〜あああ!)
そもそも。今日の主役ともあろう方がこんな所で何を?リュームに構っている場合ではないでしょうに。
そのご立派な出で立ちからして既に、彼は誰もが認める『シェンテラン家の主』で『ご領主様』であらせますのに。
「””ヴィンセイル””だ」
「は、はぃ・・・っ・・・・・・!」
「””ヴ ィ ン セ イ ル””」
ご領主様は扉にもたれ掛かられていらしたのですが。ゆっくりと近付きながら、ご自分のお名前を繰り返されました。
「・・・・・・・も、もうしわけあり、」
「”” ヴ ィ ン セ イ ル ””――」
リュームは驚きと恐怖のあまり、声が震えてしまいました。思わず一歩下がります。
といっても、鏡台に阻まれてしまいそれ以上は下がれませなんだ。
(これじゃ先が思いやられるとか!やっぱり恥だから欠席しろとか!そんなお達しにいらしたのでしょうか?)
静かに息を飲み・・・言い渡されるであろう処遇を待ってはみましたが、なかなかお言葉は振ってはきませんでした。
「?」
不思議に思ってそろりと見上げて、眼差しで問い掛けますれば。深い緑の眼がゆっくりと、ため息と共に伏せられました。
「””ヴィン””」
――顎をしゃくりながら、ご領主様は繰り返しました。
「・・・・・・ヴィン?」
「そうだ。””セイル””」
「セ・・・セイル」
「”” ヴ ィ ン セ イ ル ””」
「ヴィン セェル」
「もう一度」
「ヴィン、セィル」
「もう少し。””セイル””」
「ヴィン・・・セ イ ル ?」
「――そうだ。それでいい」
今度は深く頷かれました。それにはリュームも少しばかり小首を傾げました。何やらいつもと様子が違うので。
「””ヴィン――””」
すいと手が差し伸べられました。リュームはただそれをぼんやりと眺めるのみです。
「””セイル””」
そして根気良く繰り返されます。リュームはといえば、ただ。呟くような歌うような――。その独特の言い方に集中しておりました。
そのせいでしょうか。何の構えもためらいも無く自分の右手を預けておりました。
まるでお利口さんの犬みたいに、お手――。
それはもはやただの条件反射でしかありませんでしたが、気がついたらご領主様に手を引かれて歩き出しておりました。
「ヴィン、セェール?」
「””ヴィン、セイル””」
「ヴィン、セ イ ル?」
「そうだ。””ヴィンセイル””」
「ヴィン・・・・・・セィル」
「””ヴィンセイル””」
「ヴィンセ、ル」
歩きなれた館内の回廊を渡ります。
ずっとご領主様の繰り返す名前を、これまた独特の口調を真似ながら続いたのでした。
その様子を。すれ違い様に礼を取って下さる館の皆様の。
――表情が何やらおかしそうに、口角を持ち上げ目尻を下げて。
・・・・・・笑いを堪えているような気がしますのはなぜでしょうか?
そしてその中でも、一番深い礼を取っていたのがニーナです。
彼女の表情も何やら堪えたものでした。――そこはリューム見抜いておりますよ。
そして。ひっそりと曲がり角で、ニーナが拳を振り上げるのも見ておりましたとも。
――15禁。
の割りに『ほのぼの』しちょります。
ま。
嵐の前の静けさでございます。
最初は18禁にするか迷ったのですが。
『そりゃ、あんまりだ!闇ふり払える兆しがねぇ!』になるのでやめました★
さて〜。どうでもいい裏話。行きます ↓
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さて。
今日は私どものお嬢様こと、ジ・リューム様が公の場に臨む大切な日。
いうなれば私どもの、綿密な計画と根回しと配慮が試される日でもございます。
「――ヴィン、シェ・・・・・?」
「””ヴィン、セイル””」
「ヴィ、ヴィ、セイル」
「””ヴィン セイル””」
『おもしろいものが見られるよ!急いで!』
そんな慌ただしい中の、火急を知らせる情報に館内の人間が集まって来ているのには笑えた。
――ふふふふふふ。
やりましたねぇ、リューム様!
あの『ご領主様』が直々にお出迎えですよ!
ま。当のご本人は何が何やらといったご様子ですが、そこがまた愛しいワタクシのお嬢様です。
ええ。
ワ・タ・ク・シ・の、ですよ?――ご領主様?
そんな調子で礼を深く取りながらも、心の中で勝ち誇っておりましたよ。
そんな主サマと一瞬視線が絡みましたが、先にかわしたのはあちらでした。
その事がさらに手応えを感じてほくそ笑んでしまいます。
「あら・・・・・・。バルハートさん」
「こんな所で何だ、ニーナ?持ち場に戻りなさい」
館内をまとめる、初老の彼にじろりと睨まれたが慣れているせいもあってか、ニッコリと笑って見せた。
「はい。私の持ち場はリューム様のお側ですから。そういうバルハートさんこそ」
「わたしの持ち場はご領主様のお側だ」
――主に事情通の勤め人の顔がこの回廊に揃っているのには、笑えた。
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