ルゼ様からの贈り物
しょうもなくも、幸せな日常です。
(そうか?)
「公爵様からお届けものですよ、リューム様」
「ルゼ様からですか」
まぁ、どうしましょう~とうろたえているリューム様に、嬉々としてお箱を差し出した。
リューム様は若干困惑の色を浮べながらも、嬉しそうだ。
全くもって控えめで可愛らしいったらない。
さすが(まだ)ワタクシのお嬢さまだ。
ええ。まだ、ワタクシのと主張させていただきたい。
それくらいの特権を心の中でする主張くらいまかり通らせていただきたいんですよ、ちくしょうめ。
あの祭典時の熱も冷めやらぬ今日この頃。
いかがお過ごしですか、皆々様。
お久しぶりのニーナでございます。
「このまま婚礼式になるか!?」
という流れをきっぱりと断ったのは、意外にもご領主様ご本人でしたとも。
ええ。
ええぇ!? せっかくの勢いのある流れを読もうよ、ご領主様!
そんなツッコミを飲み込んで、みんな(ミゼル様、ギルムード様、リゼライ様、弟、夫、白と黒の獣さま)で彼を見たらばさ。
「今日のこれは祭典の衣装であって、婚礼の衣装ではない。我が花嫁には相応しく着飾らせてやりたい。だから今日は婚礼を挙げると皆の前で誓うに留める」
―――さようでございますか。
「いいのか。それで」
「ああ」
「うん。俺ならガマンできない。色々と」
「……。」
ギルムード様が神妙な面持ちで尋ねました。
ええ。ワタクシだって同じ事を尋ねたかった。
流石です、ギルムード様!
オ マ エ 、 ガ マ ン で き る の か ? 出 来 な い だ ろ ?
「もう禁欲の必要もないだろう」
!?
うっわ! 言い切ったよ、このお人は!?
その場で皆、同じ事を思ったに違いないと思うのです。
ワタクシはさり気に、ミゼル様のお耳を塞いでいて「何て出来た侍女だろうか」等と、思わず自画自賛でございましたよ。
「ところで。当のご本人のリューム嬢のご意見はいかがなものかな?」
そこで大事に抱え込まれたリューム様の異変に、やっと気がついたという有様です。
お顔を真っ赤にされて押し黙っているのは、照れていらっしゃるのかと思っていたのですが、違ったようです。
「リューム?」
「リュ、リューム様!?」
「……。」
返事がありません。
ただ、虚ろな瞳でこちらを見上げてくるばかりです。
リューム様はご領主様の腕の中で、ぐったりとされておりました。
そりゃあ、無理もないと思うのですよ。
ものすごく、ものすごぉく!
リューム様、頑張りましたからね。緊張し通しの日々だったと思います。
先程の恐ろしい闇に立ち向かい、それでも愛情を向けて両手を広げたリューム様を思い出して、再び熱いものがこみ上げてきます。
(お見事でした! リューム様、闇は光に還ったのですね。)
脅威は去りましたが、また違った意味での脅威の到来ですものね。
ぐったりもすると思うんですよ。
それでなくても体力そんなにあるほうでは、けっしてございませんものね……。
「リューム、頑張ったものな。すぐに休ませよう。すまないが、今すぐ手当ての準備を頼む。ニーナ、手伝ってくれ」
承知いたしました!
リゼライ様と一緒にすぐさま神殿に駆けて行きましたよ。
「あのこ、大丈夫なの?」
リゼライ様がぽつりと漏らした呟きが、何を指しているのか。
特に身体の具合だけではないんでしょうね。そう思ったので、こうお答えした次第でゴザイマス。
「ええ、多分。我が主人は恐らく忍耐を重ねて早、七年くらいは経ってますから! そんじょそこらの忍耐力ではない事は保障いたします」
「ちっとも大丈夫な気がしないけど」
「そこは何ともはや~」
流石です、リューム様。
相手にお預けを喰らわせ続けるその威力、破壊力はいかほどかと感心してしまいます。
そのまま、リューム様は寝込まれまして。
お式はおおよそ一ヵ月後となったのですよ。
そして、お式を控えた三日前の本日。
ぞくぞくとお祝いの品が届き始めておりますの。おほほほ。流石ワタクシの、リューム様。
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「ニーナ?」
「さささ、リューム様!開けて見られませんか?」
「はい。ルゼ様、感謝いたします」
しゅるり、とリボンを紐解いて編み籠で出来た入れ物の蓋を持ち上げると、目に飛び込んできたのは真っ白な――。
「まぁ、綺麗なレースですね!すごいです、こんなに繊細なレース編んでみたいです」
(いやだから何故そういう所に目線が行くんですか。さすがワタクシのリューム様なんですけど。)
「素敵ですね。新婚家庭に正に相応しいレースですねぇ」
ぶつぶつとこれなら編み棒は最少じゃなきゃムリかも、など等の明後日方向の感想を呟きだすリューム様に適当な所で相槌をいれる。
そうでもして止めなければ留まるところを知らないからだ。
「ええ。素敵すぎて普段からテーブルに置いては、お食事のたびに緊張してしまいそうですね」
言いながら恐るおそるレースを取り出したリューム様の動きが止まった。
「これは――?」
うん。ハイ、リューム様。
完璧にそれテーブルクロスなんかじゃございませんね。
確かに新婚家庭に贈る定番として、そのようなリネンはもってこいだと思いますよ。
「ニーナ」
これは、そのう、透けすぎているというか、布地が少ないというか、涼しすぎませんか、といった感じなのですが――――。
リューム様が恐るおそるといった感じで、手にしたお寝間着の感想を言ってこられた。
うん。
それ見せるためのものですから、そのような造りなんですよ。
その縫製で間違いございません。
レースの向こうに肌が透ける様子は、あまりに刺激的過ぎて想像しちゃなりませんね。
腰元をリボンで縛って身に付ける造りは、何てなまめかしい曲線になる事でしょうかね……。
むちゃくちゃリボンが多くて、胸元のソレなんてしゅっと引いたら一発で肌蹴るでしょうね。
ルゼ様、趣味は良いですが、お人が悪い。
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”” 気に入ったか。ルゼの見立てだぞ! ””
「獣様。ほどほどに」
何を言っているかは解らないが、リューム様が居たたまれなさそうにしているから、大体察しは付く。
ちょっとムカついたので、窓際ではやし立てる黒い獣様を閉め出してやった。
ワタクシめは、きっと。花嫁の父親なる心境なんですよ、多分。
アホ話、第二弾です。
しかも、本編よりも早く出来上がっていたとかいう。