閑話 ~ 舞台の袖に射しこむ光 ~
彼なりに戦いに臨む前。
リュームが手にした花を髪にさしたので、苦笑した。
耳の上に添えられた小さな手ごとそっと外し、上着の胸元へと導く。
リュームは「せっかく似合ってらして、おそろいでしたのに」と不満げに訴えてきた。
こいつ。―――後でどうしてくれようか。
そんな想いがちらりと掠める。
まずは先程の礼にと額に口付けを返してやるに留めるが。
リュームにも女神の加護があるようにと、らしくもなく願いを込めた。
そのまま両手を絡ませ合う。
そうやってお互いの手を取り合って、額同士をくっつけたまましばらくそうしていた。
祈りを捧げる。
もはや言葉にならなかった。
ただひたすらにお互いの無事と成功を祈る。
先に面を上げたのはリュームの方だった。
もう行かねばならない。
わかっている。
リュームが日の差し込む方へと向いた。
ゆっくりと、目線で俺の事を気使い促がしながら。
その儚くも決意に満ちた強さに心奪われた。
食い入るようにその眼差しを見つめ続けたくてすがった。
追った視線はやがて光にぶつかる。
やんわりと手を引かれて一歩を踏み出した。
差し込む光が彼女のまとう 衣装を透けさせてなおの事儚さを見せつける。
――― 魅せ付ける。
そのまま光に吸い込まれて行きそうな彼女の風情に、放した手を空に泳がせる。
リュームが両手を広げて陽射しを抱き込むかのように、舞台へと臨むのを見送ってからそれに続いた。
正に一世一代の晴れ舞台と呼ばれるであろうものに、これから二人で挑むのだ。
リュームに付き添うように進み、定位置まで行く。
リュームが頭を下げる。
同じように頭を下げる。
人々の歓声が上がる。
何気にリュームは好戦的な所があると気が付いている。
そこを好ましくも思うし、心配の種だとも思う。
正直、非力な少女がここまで闇を晴らすべく腹を決めているとは思わなかった。
歌う前からリュームはいつも神がかりになる。
そうなってくると俺の言葉は届かなくなる。
他の何かを感じ取るので精一杯になるからだろう。
目に見えない何かを感知し拾い集めて、それをまた光に放つかのような事をやってのける娘。
全てが済めば、俺の花嫁となる娘。
リュームはいつだって歌う前から眼差し一つでその場を支配してしまう。
今までに経験した事の無い大観衆の前でも、それは変わらないようだ。
祭典はもう始まっている。
―――― 歌が始まる。
戦いも既に始まっている。
『祭典の装いは花嫁のようでいて そうでもない。』
らしいですよ。
え? どういうこと?
『自分との婚礼のためにまとった衣装ではないからだ』
と、いう事だそうですよ。
ヴィンセイルと作者との(痛い)脳内会話でした。