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閑話 ~闘わずについた勝敗~



 

 ご領主様は訓練を終えられ、リュームもまたリゼライさんとの今日の特訓を終えた夕暮れ。


 日が暮れるまで中庭で、今日の出来事を報告しあうようになっておりました。


 そんな穏やかな時間とも言える時に、ご領主様は仰ったのです。


 ・。・:*:・。・:*:・。・ :*:・。・:*:・。・


「そして俺が勝った」


 はいぃ!?


 だから何故、事後報告なのですか!!


 何でもレドとご領主様、どちらがリュームに相応しいかを争ったそうでして。


「な、何という勝負をされるのですか!」


 ・。・:*:・。・:*:・。・ :*:・。・:*:・。・


 ディーナ様も神殿にいらっしゃったようなのです、とダグレス経由の情報をご領主様にお話したのです。


「ダグレス、落ち込んでいました。最近会っておりませんが、レドもきっと沈んでいる事でしょう」

「ああ。レドならそうそうオマエに姿を見せられないはずだ」

「何故でしょう?」

「勝負に負けたからだ」

「何のでしょう?」

「レドが申し込んできたから受けて立った」


 で す か ら 何 を !


 彼の言葉の少なさにいつも悩まされるリュームであります。

 そんな彼には根気良く根掘り葉掘り訊かねばならないものと、ようやっと学習したリュームでゴザイマスよ。


「お聞かせ下さいませ、ご領主様。何ゆえレドが姿を見せてくれないのかを」

「……だから勝負に負けたからだとさっきから言っている」

「で す か ら ! 何の勝負でございましょうかとお聞きしてございます、先程から!」


 リュームがしつこく食い下がるからでしょう。

 ご領主様は面倒臭そうに教えて下さいました。

 リュームがこれ以上つっこまなかったら、うやむやにする気満々でしたね。まったく!


 ・。・:*:・。・:*:・。・ :*:・。・:*:・。・



 ご領主様とギルムード様の特訓中にレドは現れたそうです。

 あの王子様と見まごう若者の姿で、手には剣を持っていたそうです。


「領主! レドと勝負してっ!」


 ご領主様は毎回本気で仕掛けてくる、ギルムード様の太刀を受けている最中だったそうです。

 ですからレドに向き合う事もままならず、横目で窺うのが精一杯だったとか。


「……レド、俺は今手が放せないのだが」

「おお? オマエ、レドか? 久しいな! いつの間に人型が取れるまでに成長したんだ? さすがディーナ嬢の元へ行った事はあるな」


 幸い(?)わずかばかりですが、ギルムード様の手が緩んだそうです。


「ギルムードは黙ってて!」


「おおぅ、何だ、何だ? 勇ましいなレド!」


 そんな揶揄する調子のギルムード様をひと睨みしたレドは、剣の切っ先をご領主様に向けて宣告したそうでして。


「領主、レドと勝負!!」


「何の勝負だ?」

「どちらがリュームに相応しいか決める! だから決闘」


「それはリュームが決める事だろう」


 沈黙が続いたそうです。


 その後、レドは獣さまの姿に戻ると何やら叫びながら立ち去ったそうです。


 ・。・:*:・。・:*:・。・ :*:・。・:*:・。・


 ご領主様はそれきりそんな出来事など、忘れ去っていたそうです。

 相変らずヒドイ方ですね。

 しかもさらりと「俺が勝った」ときっぱり言い切りましたよね?

 闘ってもいないのに堂々の勝利宣言。

 そこは、リュームの気持ちが伝わっていると喜ぶべきなのでしょうか。

 

 しかしながら当然――。

 レドの方は忘れちゃいなかったようです。


「目覚めると枕元にヒキガエルがのびていた。今朝は三匹も」

「カエルさん、ですか」


 リューム、思わず身震いしながら尋ね返しました。

 何てサワヤカとは程遠い目覚めでしょうか。おおぅ。


「何故カエルに敬称を付ける。しかも日に日に大きなカエルになって行っているし、数も増えている」

「と、言う事は嫌がらせも三日目ですか」


 ご領主様は嫌っそうに頷きながら続けます。


「しかも仮死状態にしてあるらしく、俺が触った途端部屋を跳ね回るのだ。俺の朝はそんなカエルを追い出すことから始まる」

「触らずに置いてはいかがでしょうか?」

「アホウ。そのままにしておいてみろ。一日中気がかりであるばかりではなく、本格的に干からびた状態のカエルが寝そべる寝台に上がる気があるか」

「それもそうですね。カエルさんも可愛そうですしね。起こしてあげて下さい」

「俺が一番可愛そうだ」

「……。」

「何だ」


 そこは賛同しかねます思いましたが、いいえええ! と首を横に振りましたよ。

 本音と分けて、建前とやらを立てるようになったリュームでございます。


 レド。

 レドはとても可愛いです。

 話に聞くだけならそんな嫌がらせも何て可愛らしいのかと褒めたいです。


 何て地味に嫌な現象でしょうか。

 あのひんやりした感触が枕元にある目覚め。

 あまり想像したくありませんね。


「最近、リュームが目覚めるとお花が枕元にあるのです。それもきっとレドの仕業でしょうね。あんなに大きな身体の子が忍んで来ているのに、目が覚めたことはありません」

「リュームの寝つきのよさは俺が保障する」

「まぁ。そうなのですか?」


 きょとんとしてしまいます。

 リューム、寝つきが良かったんですか~。そうですか。

 初めて知りましたよ。


 そんな新鮮な気持ちでご領主様を見上げました。


「俺が痛めつけるような口付けを幾度くれても、昏々と眠り続けていたからな。多少、実力行使に出てみても、目を覚ます気配は無かったから呆れたものだ」


「そそそっそれはいつ時分のお話ですか!?」


 聞き捨てなりません。

 リューム、顔を真っ赤にしながら全力で叫びました。


 ――― ガササっ。


 二人、顔を見合わせました。


「……。」

「……。」


 二人、頷きあいます。


 せーのっ! と心の中で掛け声を掛けて振り返りました。

 先程から視界の端で見え隠れしていた白い尻尾の先。


 ・。・:*:・。・:*:・。・ :*:・。・:*:・。・


 少し離れた樹の影に、見え隠れする白い毛並に声をかけます。


「レドっ、お花ありがとうございます」


 ちょこっとお顔を覗かせたレドと目が合いました。

 何だか嬉しそうでした。


「レド。カエルさんもありがとうございます。ですが……。」


 カエルさんの話題になった途端、レドはそぉっと顔を引っ込めてしまいました。


「リューム、カエルさんがちょっと苦手です。レドはそのぅ、お口で咥えてカエルさんをご領主様に届けているのでしょうか?」


 尻尾がぱたぱたと左右に揺れました。

 恐らく肯定と取っていいのでしょう。


「そうですか。リューム、これからレドに『ちゅう』するのをためらってしまいます」


 ・。・:*:・。・:*:・。・ :*:・。・:*:・。・


 翌朝からご領主様は仮死状態のカエルさんと目が覚める事はなくなったそうです。






『レドは納得行かなくて決闘を申し込んだらしい。』


仮タイトルです。


嫌 な 猫 た ん で す ね ~ 。


そんなテーマです。


実家の飼い猫がこんな調子です。


朝、目覚めると枕元に――――遠い目みたいな。


そしてしっかり聞き耳を立てているレド、相変らずお邪魔虫。


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