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第六十話 神殿から見下ろす広場


祭典準備完了まで あと わずか。

 

 巫女王様に呼ばれ、ご領主様と二人で改めてお伺いしました。


「ヴィンセイル殿には剣舞を奉納してもらいます。彼もまた穢れを祓わねばならない身ですからね」

「二人で始めた事だったのだろう? だったら二人で終わらせるのが筋ってもんだ。ま、俺も奉納試合の際には相手役として上がるがね」


 ギルムード様もご一緒です。

 リュームは頷きました。

 二人で始めたこと。確かにその通りです。

 その事もそうですが、あの黒い獣サマからも同じような事を言われたように思います。

 ぼんやりとそんな風に目の前の騎士様であらせられる、ギルムード様を見上げました。


「お?何ですかな、リューム嬢。このギルムードの顔に見惚れてくれていると自惚れていいのですかな?」


 にこやかにいたずらっぽく、ギルムード様が片目をつぶって見せます。


(おひげ、無かったら。目が紅かったら。ダグレスの人型に似ている気がいたします)


 そんな事を告げるわけにも行きませんので、曖昧に微笑むしかありません。

「あの、不躾に見てしまって申しわけありません。お義父様のおひげと一緒だなと思って、懐かしかったものですから、つい」

 そんな出まかせで誤魔化すより他にありませんでした。

「そうですか。お義父上の面影をこのギルムードに……。ははは。まだまだ若いつもりでいるのですが、確かにリューム嬢くらいの娘がいてもおかしくない年齢ですしなぁ」

「貴方もさっさと結婚しておしまいなさいな」

「姉上。ははは、違いない。努力致しておりますよ」


 そんなお二人の気兼ねない会話も交えながら、打ち合わせなるものが段々と形になって行きます。


 全く、その間も無言ってどういうことですか、この隣のお方。

 そしてえもいわれぬ威圧感。

 彼特有のナゾの圧力に息苦しさを覚えてしまうのは、リュームだけ……のようですね。

 巫女王様もギルムード様も、そんな圧力なんかどこ吹く風といったご様子でいらっしゃいます。


 なんでしょうかね~?この気に入らないんだよ、オマエ。という不機嫌さが向けられているのは、リュームだけだからでございましょうかね~?

 この期に及んで相変らずの関係に、気力も何もかも持って行かれてしまいます。


 ・。・:*:・。・:・*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


「リューム嬢、少しこちらにいらしてみてくれるかしら?」

「はい」


 巫女王様に手招きされて、日の差し込む大きな窓際に歩み寄りました。

 ご領主様も自然と、リュームに続いたようです。

 背後に感じる圧力でそう判断いたしました。

 不機嫌のカタマリ様が後ろにいると、やはり緊張してしまいます。


お義兄様(・・・・)はそちらでお茶でも飲んで休んでいてくれるかしら? 随分、警戒されてお疲れのようだから」


 そう、巫女王様がきっぱりと遮られました。

 有無を言わせず。

 そんな威厳を感じさせる一声でした。

 そして何気に彼を、リュームの義兄呼ばわりです。

 何かしらの含みを感じさせる言い回しでありますね。

 流石のご領主様も大人しく従うようです。

 頭を下げると、そのままお付の巫女様に促がされるまま椅子に腰掛けました。

 そつの無い動きで、巫女様たちはお茶を淹れて下さいます。

 辺りにふんわりと心地よい、ほのかな甘みと苦味が入り混じった香りが漂います。

 良い香りです。これでいくらか不機嫌虫が治まってくれますように――!

 リューム、彼の出方をドキドキしながら見守ってしまいました。


「申し訳ない」


 おお。一応、ちゃんとお礼は言えるようですね。良かったです。

 ご領主様ともあろう御方が、いついつまでも他人サマに礼儀知らずなマネを続けるようなら、リュームとて考えがありマスからね!

 ちょっと勇気が必要ですが、実行に移しますよ。


 リュームだって、負けずにムスムスムスッとしてやりましょうぞ。

 そんな圧力が彼に届いておりますように。

 澄ましきったお顔でお茶をいただくご領主様の横で、ギルムード様がにこにこしながら見下ろされておりました。

 リュームと目が合うと、また片目を閉じて微笑み掛けてくれました。

 おそらく、任せておけという事でしょう。


 リュームは安心して、巫女王様に向き合いました。


「さ。こちらにいらしてみてね」


 促がされるままに、大きく開け放たれたバルコニーに踏み込みます。

 全身で光を受け止めるかのような感覚に、一瞬くらりとしてしまいました。


「……どうかしら?」

「え、と? はい?」


 あまりの眩さに、巫女王様のお言葉を聞き逃していたようです。

 慌てて返事を致します。


「祭典時はここで歌ってはどうかしらねって、お尋ねしたのよ。どうかしら?」

「えっ……!」


 ひえええええええええ!!??


 思わず言葉を失ってしまいましたが、心の中では大絶叫してしまいました!


「そんなそんな恐れ多いです。ここ、ここは、巫女王様が、巫女王様が皆様にご挨拶するための神聖な特等席なのですよね。リュームのような、何の資格も無い者がおいそれと立って良い場所ではありませんっ!」

「別に私が認めた歌姫なんだから、構わないんじゃないかしら。じゃあどうする? やっぱり入場者が限られてしまうけれども、最初の案のまま聖堂にしておく?」

「ええと」


 確かに聖堂では、入場者の方に制限を設けねばならなくなるのです。

 なるべくたくさんの方に歌をきいて貰いたい、楽しんでいただきたい―――。

 そんな意見が誰からとでもなく自然と出たのです。

 リュームもその意見には大賛成でした。

 その件をギルムード様にご相談申し上げたのです。


「では、姉上にお尋ねしてみよう。あの方は良いように計らうさ」


 と、なりまして。お尋ねするつもりで参ったのです。


 巫女王様はあっさりと恐れ多い場所をご提供くださいましたが、そこはちょっとケジメといいましょうか。

 やはり、そこは巫女王様のための特別席のままであって欲しいなと願うのが、一国民としてあります。


 まさか逆にどうする?等と尋ねられてしまうとは、思いも寄らない事態です。


 ・。・:*:・。・:・*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 リューム、怖々、巫女王様のバルコニーから身を乗り出してみました。


 眼下に広がるのは神殿前広場です。


 そこに見えるは懐かしい石畳。

 上から見下ろしてみて初めて気が付きましたが、何やら幾何学的な紋様を描いているようです。


「まぁ」


 乗り出すと自分の黒髪がさらりと視界をよぎります。

 それをかき上げ耳に掛けながら、巫女王様を振り返りました。


「どうかされましたか、リューム嬢?」

「広場の石畳は何かしらの意図でこのように綺麗に並べられているのですね。今、こうやって見下ろしてみて初めて気がつきました」

「綺麗?」

「ええ。歌うのならばあの広場の中央が良いです。力がうんと揮える事、間違いありません」

「何故です?」

「え? だってあそこが一番紋様に彩られていて、気持が良さそうな風が吹きぬけておりますから」


 あの他よりほのかな光を放つ場所は、花びらをいくつも重ねたようにも見えるのです。


 何て綺麗なのでしょう!

 ふと振り返ると巫女王様は固まったように動きを止め、ただ瞳を見張られておりました。

 その瞳はまっすぐにリュームを見据えております。


 嬉しくなってはしゃいだ声を上げてしまったのが、いけなかったでしょうか?

「あの、巫女王様?」

 怖々声を掛けると、はっと我に返ったように巫女王様は首を横に振りました。

「ギルムード!」

 同時にリュームを見つめたままで、声を張り上げられます。


「どうされましたか、姉上?」


 すぐさまお側にいらしたギルムード様の後ろに、何事かと続いたご領主様のお姿もありました。


「リューム嬢の祭典時の立ち位置が決まったわよ。あそこがいいのですって。あの、神殿前広場の中央が」


「は。そりゃまた……何ゆえ?確かにあそこなら入場者に制限無しだ。ただ警備の点においては面倒ですがね。何、女神の使いの乙女らに不埒を働こうという腐れ根性の輩がそうそういるとも思えないが……さて?」


 ギルムード様が腕を組み顎に手を当てながら、警備に着いての采配をぶつぶつと呟き始めました。


「あそこに決定よ。リューム嬢なら間違いなく女神の加護を受けて能力を発揮するわ。ねえ、リューム嬢。もう一度聞かせて下さる? あそこがいいのはどうしてかしら」


「はっ、はい。あそこはお花の花びらを幾重にも重ねた紋様が浮かびあがって見えます。薄っすらと光を放っております。とても綺麗に見えます。他の場所より、キラキラしているのです。それに少し離れていますが、立派なフィローの樹があって、白いお花が咲いていて、風に揺れていて、とてもいい風が流れ込んできております、ですから・です」


 リュームの拙い表現力を駆使して、感じた事を一生懸命説明いたしました。

 身振り手振りを用いてというよりも、ただあそこに紋様が樹がと指差しながら。


 少し息切れしながら説明し終わる頃には、ギルムード様も巫女王様と同じような表情でリュームをぼんやりと見下ろされておりました。


「ね、ギルムード。この娘は油断なら無いでしょう。この神殿の機密をいとも簡単に暴いて行くわ」


「違いない」

「え?」

「このギルムードの目にはただの石畳にしか見えておりませなんだよ、リューム嬢」


「あそこは確かに意図して石畳の裏一つ一つに(まじな)いが施してあるの。それを組み合わせて紋様を描く事で呪術の場を仕立て上げてあるの。災厄を遠ざけ、祝福を得るべくね。いいわ。貴女の言うとおりだわ。あそこに祭壇を設えさせましょう。剣舞の祭壇も同じようにね。貴方達二人でお互いの戦い様がよく見えるように手配しましょう」


 ・。・:*:・。・:・*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 ある意味、巫女王様のバルコニーよりも緊張する場所ですよ!


 いいのでしょうか? そんなにも特別な場所で歌うお許しをいただいてしまって!


 リューム、広場と皆様の顔を代わる代わる見るしか出来ずにおりました。


 何かしらの期待と驚きを込めた巫女王様とギルムード様の視線に、しかっりしなければと姿勢を正します。

 その後ろで驚くほど静かな眼差しでリュームを見つめる緑の眼に、その本心を探れずに泣けてもきます。


 まるで理解の範疇を超えた生き物を見るかのようなご領主様。


 彼は改めてリュームという生き物をどう思われたのでしょうか?


 今更ですが。


 そこが気になって仕方のないリュームなのであります。





「何気に術者の実力満点リュームさん」


人とは違う視点でものを見ているコですからね。


色んな意味で。


人目なんて気にしない~っちゃ、気にしない。


それでも恋する乙女は彼からの評価が気になるようですね。


さて、領主。


君の目にはどう映るのかな? の 次回です。


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