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閑話 ~レドの策略~


ほんのつかの間の独り占め。

 

 きゃあきゃあとくすぐったいですよ、とリュームが笑い声を上げる。

 その声音が耳朶をくすぐって心地よい。

 押し付けるように身体を預ければ、リュームは抱きとめてくれる。


「レド、くすぐったいです」


 きゃあ!と声が上がった後に続く笑い声がまた心地よくて、もっと聞きたいがためにその頬を舐めまわした。


 温かな陽射しが木漏れ日となって降り注ぐ、ここはレドもリュームもお気に入りの場所。


 誰にも邪魔されない場所・・・だったらよいのに!


 ・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。・


「リューム」


 レドの耳にはとっくにこの男の荒々しい靴音が届いていたが、リュームはそうではない。

 名を呼ばれて初めてそちらを注視した。


「はい?」


 苛立ちを露わにした男に見下ろされ、リュームの声が強張る。

 咄嗟にレドの首へとしがみつく。


「リューム。こちらに来い!」


 乱暴に取られた腕に痛みを覚えたのだろう、顔を引きつらせる。

 それでも、いやいやと首を横に振り、か弱い力での抵抗を試みている。

 この男は腹を立てている。

 リュームが言う事を聞かないからだ。

 男の側には来ず、レドの側に居たがるのを不快だと全身で訴えていた。

 レドも負けじと威嚇して訴えたいが、リュームが怯えると悪いからやらない。

 代わりに胸をそらせて勝ち誇って見せる。


 いいだろう。羨ましいだろう!リュームはレドと居たいんだ。


 なぜ、このヒトは怒っているのだろう?

 なぜ、こんなに怖い人の言う事を聞かなきゃならないの?

 なぜ、こんなにもこのヒトは・・・・・・?


 わけがわからないといった様子で、リュームが泣き出した。


「リューム」

 男が苛立ちも露わな、それでいて弱り切った声を上げた。

 リュームがいよいよ本格的に、しゃくり上げ始めたからだ。

「いや・・・なぜ?」

「いいから、来い」

「どうして?リュームはレドと遊んでいるのです。行きたくない」

「俺の言う事を聞け」

「どうして貴方の言う事を聞かなければならないのですか?」

「リューム」


「貴方は誰?」


「ヴィンセイルだ」

「ヴィ、ヴぃセル、いや!あっちに行って下さい」


 リュームがぎゅうぅと抱きついてきてくれた。

 そうなのだ。

 この姿ではリュームを抱きしめ返す事は出来ないが、リュームはこの格好の方が自ずから抱きついてきてくれるのは学習済みだ。

 せっかく体得した人型への変身はすこぶる評判が悪いようなのだ。

 何せ、抱きつこうものなら本気でふり払われてしまうのだから残念だ。

 どちらもおなじレドなのに。


 ””そうだ。向こうへ行け、若領主。リュームはレドと遊ぶのだから””


 そう。

 今日はリュームを独り占めにする。

 そのために早朝、霧の深い中へあえて散歩に行こうと誘ったのだから――。


 ・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。・


『おはようございます。どうしたのですか、レド?』


 ””リューム。今朝は霧がとても深くてキレイ。だからレドと少しお散歩しよう?””


『まあ!レド、喜んで』


 早朝、起きぬけのリュームの部屋に訪れてそう誘ったのだ。

 リュームとお散歩。

 目的地はジャスリート家の領域の境目にある橋。


 レドは知っているのだ。


 その橋は霧が深い時に渡ると、一番大切な人の事を忘れてしまうって。


 ただし――。


 ・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。・


「リューム。俺はしばらく仕事で来れなくなる。何かあったら公爵殿に頼んであるから、すぐに言え。いいな?レドも、リュームを頼んだぞ」

 ””オマエに言われるまでも無い!リュームはレドと遊ぶのだから、早く帰れ””

「・・・・・・。」


 それだけを告げると若領主は立ち上がって背を向けた。


 ””リューム。あいつ、行ったよ。だから安心して?””


 リュームは何やら考え込んでいるようで、動かない。

 ただ涙をこぼしながら、立ち去る若領主を見ている。

 そ、とその涙を舐め取ってあげた。


 日が高く昇る。


 立ち込めた霧をふり払うかのように。


 ・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。・


「ご領主様っ!!」


 待って、待ってください、思い出しましたよ!今!


 リュームがレドを振り切って、その背に向って駆けて行ってしまった。


 その背を追いかけることなく見送った。


 ああ。魔法、とけちゃった。

 橋の霧の効力は日が昇ると共に消えてしまうのだ。

 それにやっぱり、リュームはレドの事は忘れなかった。


 ツ マ ン ナ イ ノ 。


 こんな気持はリゼライに聞いてもらうに限る。


 そう思い立って駆け出した。


 一瞬だけ振り返ってみると、リュームは若領主の腕の中に居た。





 ※ レド、少し精神が成長した模様。それに伴なって言葉使いも大人になりかけ。



レド、聞き耳を立てて 「領主がいつくるのか」 など等を把握済み。

嫌な猫たん(じゃないけど。)ですね~。


あいつらは見くびってはなりません。


人の事をよーく・よーく観察している、小さいけれど立派な魔物・獣様です。


この後レドはリゼライにまとわり付いてウザがられます。


――キリが無いのでこのへんで!



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