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閑話 ~願うのは君の声~


眠り姫の目覚めを待ちわびる


王子ってがらじゃない若者と獣。

 

 額同士を軽く小突くようにして合わせる。


 その閉じられたままの目蓋が開かれる事を期待して。


 リュームのその唇が生きている喜びをつむぎ出すのを待っている。


「・・・・・・。」


 頭を撫でる。

 頬を撫でる。

 唇の輪郭をなぞる。

 くすぐるように。


 無理のないように、少しだけ抱き上げてみる。

 寝台から軽く浮く身体はやはり華奢で、改めて常日頃の食事量を咎めたくなる。

 何の抵抗も無い身体は、白い咽喉をこちらに差し出すようにのけ反っている。

 痛々しいほど白いのは、何も肌の色のせいだけではない。

 リュームの首筋に巻かれた包帯にそっと唇を押し当てた。

 これで意識があればその首筋に詫びるのだが、謝罪の思いも言葉も今のリュームには届くまい。


 深く沈みこんだままの意識は浮上しないまま、二日目の夜を迎えている。


 ・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・


 気がつけば眠り込んでしまっていたらしい。

 頬を微かに撫ぜた風に目を覚ますと、部屋の灯りは消えており暗かった。

 そんな中に浮かび上がる毛並の、白い獣がいた。

 レドとかいうこの獣もリュームを想っているらしく、昨晩も俺の意識が途切れる頃に訪れていた。

 昨晩は花を咥えてきたらしく、リュームの枕元に綺麗に白い花が飾られていた。

 今日は何を持ってきたのかと目を凝らせば、それは黒い――?


 獣はずるずると引き摺るように運んできた黒い塊を、そっとリュームの手元に置く。


 それから寝台に前脚を掛けると、リュームを覗き込んだ。

 そっと窺うように目をこらせば、獣は鼻先でリュームの頬を突いたり、舌先で舐めたりしているようだ。


 ””リューム、リューム、起きて。起っきして。いつまで眠っているの?””


 もうイジワルな事言わないし、しないから。

 イジワルなこという奴がいたら、やっつけるから。

 だから起きて。


 ””ねぇ、これ。上着もリゼライに直してもらったから””


 確かにリュームは今、何もかもを拒絶するために眠っているのかもしれない。

 ふとそんな考えがよぎったが、ふり払うべく頭を振る。


「レド」


 ””!?””


 声を掛けると獣の身体は面白いくらいに跳ね上がった。


 一応は人の気配に賢しいはずなのに、まるきりリュームに夢中で俺の存在などは家具にも等しかったのだろう。

 レドはそのまま部屋を飛び出していった。

 大きな身体なのに物音一つ、立てなかった。


「・・・・・・。」


 椅子に腰掛けたまま眠り込んでしまったため、軋む身体を少し伸ばした。


 やはり寝台に置かれた物は、俺の上着だった。

 リュームの言う、俺に相応しい縫い取りが施されている筈のものだ。


 表面は見たところ、これといって何の装飾も見られない。

 だとしたら裏地に施されているのだろうか。


 どのような?

 どのように?

 期待が膨らむ。


 かつてリュームが必死で縫い取っていた、華やかな花畑ばかりが浮かぶ。

 暗にあれは俺にやりたくないと全身で訴えていた。

 おかしかった。

 大方ミゼル用かニーナにやろうという心積もりだったのだろう。


「リューム、早く目を覚ませ」


 上着を裏返したい気持を押さえ込み、リュームに掛けてやった。



お久しぶりの小話です。


満足です。



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