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閑話 ~気を利かせたミゼルード~

気を利かせたっていうか。


気をもんだミゼルード。

 

 リュームと来たら、バカだから。


 見ず知らずの若い男の方に話しかけられるのを許して。

 あまつさえ、言いたい放題言わせて。

 しまいには泣き出しそうになって逃げ出すって、どういう事なの!?


 ヴィンセイルもヴィンセイルだ。

 それをおめおめと許すなんてどうかしている!


 気が付けば彼の手を取って、駆け出していた。


 ・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・


 右手にリュームの左手。

 左手にはヴィンセイルの右手。


 いつもはお父様とお母様の定位置だ。


 右側半分は何だかドキドキ、びくびくしてるリュームの緊張が伝わってくる。

 それに左半分からは何ともいえないヴィンセイルの熱が伝わってくる。


 その両者の想いに挟まれた中心が私、ミゼルード。


(そう。わたくしは二人の仲を取り持つ・・・取り持っているの!)


 それは何とも言いがたく涙が溢れた。

 幸せだなって思えた。


 ずっとこのままでいられたらいいのに。


 もっとずっと幼かった頃も今みたいにして歩いた。

 同じように私がくたびれて、でも自分で歩くんだって意地を張った時と一緒だった。


 あの頃よりも解るようになった事がある。

 私と手をつないで歩く二人に挟まれると、胸が苦しくなる。

 それは苦しいんだけども、けっして苦痛ではなくて。

 伝わってくるものや、こみ上げてくるもので、私の胸ひとつでは収まりきらなくてぎゅうぎゅうになって破裂しそうに感じるからだ。

 二人の気持ちが手を通して伝わって来て、私の中心でちょうどぶつかる。

 そんな感じだ。

 そもそも自分自身の胸に手を重ね合わせると、上手い具合に手というものは胸と一直線だと思うのだ。

 この温かさ満ち溢れる想いは両手を介して人に伝わるもの。

 それでいて、自分自身が温かなもので満たされるかのように心地が良くて、それが溢れんばかりだ。

 だからきっと、溢れた分が涙になって零れそうになるのだろう。

 この気持ちを何て呼ぶのかしら?


 お父様とお母様ともまた違う、この切ない気持ちが何だかくすぐったくて少しだけ身を捩りたくもなる。


 不思議な感覚にちょっとだけ、のぼせてしまう。

 くらくらする。


 まだ口にした事は無いが、お酒を飲んで酔っ払うときっとこうなるのかもしれない。

 ふふふ、と思う。


 私という子の手を介してだけれども、いま二人は手をつないでいるに違いない。

 そうは思っても何だかもどかしい。

 沈黙が心地よい。

 だけれども。

 言葉交わす以上に何か交わされているのだって解るけれども、もどかしいのはなぜかしら。


『お二人の邪魔をしないのよ?』


 そう言って送り出してくれた、お母様め。

 後ろでひっそり頷く、同じくお父様め。


 まったくもってお父様もお母様も失礼しちゃう。



『私は邪魔なんてしないわ!むしろ、二人の仲を取り持ちに行くのよ!』


 言って参りますから!そう勢い良く家を後にした娘を見くびらないでいただきたいものだ。



 ふいに立ち止まってみる。


 イタズラ心からではない。


 そのまましゃがみ込む。


「わわ・・・っ、ミゼル様っ!どうされましたか?だいじょうぶですかっ!?」

 リュームがよろめく。

「ミゼルード、疲れたのか?」

 ヴィンセイルが屈みこむ。

「うん」

 言いながらも二人の手をぎゅぅっと掴んだ。

「ミゼルード」「ミゼル様」

 二人とも私に優しいの。それはそれはもう、とびっきり。それは疑いようも無い。


 今、私が精一杯引っ張りながらしゃがみ込んだおかげで、二人の手の甲が触れ合う。


 触れ合っている。


 途端に感ずるリュームの、ヴィンセイルの――手から伝わってくる熱量の変化に満足する。


 それなのに!

 二人ともすぐ手を放すなんて!どういう事なの!?


「ミゼルード。ほら」

「ミゼル様、もう少しですから」


 ヴィンセイルは私を抱え上げてしまった。

 リュームはそんな私を心配そうに覗き込みながら、額に掛かる髪を払ってくれた。

 二人とも、意識を私に向けてくれているのだ。


「うん・・・・・・。」


 もうこうなると心地良すぎて、目蓋を閉じるしかなかった。


 お父様。


 お母様。


 何故かお二人の事を思いながら、ゆっくりと意識を手放すのを自分自身に許した。


 ・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・


 ミ ゼ ル 様 お 疲 れ に な っ た の で す ね 。


 ま っ た く 仕 方 の 無 い ヤ ツ だ。


 ・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・


(リュームはもっとその・・・(したた)かになるべきで・・・ヴィンセイルは私に感謝すべきでしょうよったら)


 夢うつつで悪態を付いた。それが精一杯だった。



 意識の遠い、遠い遠いところでかすかに、にゃーんという猫の鳴き声を聞いた気がした。




『おい。』


二人に向き合うんじゃなかったのか、という突っ込みもお待ちしております!


これは本編と同時進行でした。

むしろそれよりも早い仕上がり。


どうしても書いてしまった感じです。


どうでもいいでしょうが一応、伏線とやらを張ったつもりです。


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