閑話 ~女同士の作戦会議~
予告どおりの小話です。
今回はディーナ目線です。
「リュームはあの通りでございましょう?ですから私がしっかりしないとって、いつも幼い時から思っていたんですの」
「まぁ」
未だ興奮も冷めやらず、時折り涙をこぼしながら小さな令嬢は言い切った。
「ミゼルード嬢もリューム嬢が大好きなのね」
「はい。そうです、ディーナ様。だってあんまりにもぼんやりしていて、放っておかれないのですもの。危なっかしくて!」
「ふふふ。リューム嬢にとってミゼル嬢はそりゃあ大切なお友達でしょうに」
ルゼ様からそう言われて、この金髪の少女はとたんに気をよくしたらしく得意げに微笑んだ。
「リュームはあの性格だし、それに体も弱かったから。私がいつも遊んであげていましたの。それなのに、私に何の断りも無くシェンテラン家を飛び出したと聞いた時はそりゃあ腹が立ちましたわ!」
「ところで、ミゼル様はおいくつなのかしら?」
「もうじき15歳になります」
「では、まだ14歳なのですか?」
「ハイ。あと、少しです」
「ではリューム嬢とはよっつ違いなのですね?」
「はい。でもリュームは実年齢よりも精神年齢はうんと下ですから、私よりも幼いくらいですわ。そんな子がお嫁に行くなんて、いくらなんでも早すぎます」
ルゼ様と二人、お互い視線だけを合わせる。
真剣な表情で訴えてくるこの小さな貴婦人を笑う気はない。
もっともルゼ様はその扇の陰では間違いなく、唇を笑みの形にしているだろうが。
微笑ましい気持ちで見守るような感じで自然と笑みがこぼれてしまう。
この少女にとって身体の弱いリューム嬢は、守るべき妹のように映るのだろう。
お姉さんぶりたい少女に、リューム嬢はずっと微笑んでいたに違いない。
彼女の方がずっとお姉さんだな、とその時点で思った。リューム嬢は何ていうのか。
優しいのだ。
優しすぎて、人を威張りたい気にさせるのだろうと推測する。
恐らく本気で、この年下の少女に腹を立てた事も無いのがよくわかる。
この上から目線の物言いの少女の好きにさせてきたに違いあるまい。
ある意味この子のような性格の子は、こうやってキツイいい方をしても受け止めてくれる者を必用とするのだろう。
それが甘えているというのだが、当のリューム嬢があの調子なのでは周りも放置するだろう。
結果、この幼い令嬢はますますお友達付き合いが限られたものとなるだろうに。
周囲は知っても知らぬフリなのかもしれない。
なにせシェンテラン家のご令嬢で、まだ幼いとくれば許されてしまう部分もかなり多かろう。
(だからこそ、付け上がらせちゃうんでしょうねぇ~)
この家の血筋の者は良くも悪くも強者であり、征服者の気質なのだろうと思う。
要はいつだって、何につけても上から目線というか。
それにほわほわと頷き、疑いもせず好きにさせてしまうリューム嬢は支配される者の気質満点である。
でもそれじゃあいけないのだ。いつまでたっても、堂々巡りになる。
それにいい加減気が付き、断ち切ることが出来て初めて同じ目線で物が言えるようになるのだから。
このミゼル嬢のような幼い少女だから、ただのわがままで許されるのだろうが、そうで済まされない者の面影を浮べる。
いつも決まって必ず訪れては、リューム嬢を連れ戻そうと躍起になっている彼だ。
いい気味だと思う。
もうしばらくこのままの調子で続けてやってよいのではないかと思う。
しかし、あまりじらし過ぎて実力行使に出られても面倒だ。
それに、だ。
リューム嬢が夜な夜な、涙ぐみながら縫い取り物を進めているのだ。
彼女からかいつまんで聞いた七年間を思うと、ナゼそのような気持ちになるのかがハッキリ言ってナゾだ。
リューム嬢に素直にそう意見を述べたら、彼女にもわからないそうだ。
思わずフィルガ殿の顔を浮べてしまいながら、一緒になって考え込んでしまった。
全くもってこの病ばかりは患うと面倒でならない。
リューム嬢が上着に語り掛けているのも知っている。こっそりと。
この生粋の獣耳に届いてしまう、微かな呟きの数々はわたしの胸にも響く。
それを知っているだけに、もう会わせてやるくらいなら許そうか・・・という気も起きるというものだ。
なので、とりあえずお茶会にご招待である。
そこで勝負となりましょう。
(ふふふ。彼らはどう出るかしらね?)
笑いをかみ殺しながらお茶を注いだ。
思い知って下さい、是非!
うんと、あのリューム嬢のかわいらしさと得難さを。
失う恐ろしさを!
嫌われたり悲しめたりしたくは無い存在である事をどうか噛み締めて欲しいと願う。
ふと気配を感じて、窓の外を見やればレドである。
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耳を澄ませば、獣耳のわたしに届くのは白毛の獣の言葉。
””リューム!レドはカラス娘など真っ黒だから嫌いだが、ディーナに頼まれたから仕方が無い。今日の茶会とやらの会場となる庭園を案内しておいてやる!いいか?頼まれたから仕方なくなのだぞ。レドはリュームなんて本当は見たくも無いのだからな。ああ、もう、礼などいいから早くしろ!のろま!””
まぁ。レド、申しわけありません。助かります。ディーナ様にもよろしくお伝えください。
あ、もちろん!ちゃんとわたくしからもお礼をお伝えしたいです。
このジャスリート家で一番格下のレドにまで威張られても、リューム嬢は相変らずほわほわ笑っている。
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レドまでがこの調子なのである。
あの白い獣は能力は高いのだが、精神の造りが少し幼い。
そのせいもあって、他の獣たちからはいくらか格下扱いをされてしまっているのは否めない。
要は子供扱いをされているようなのだ。
ダグレスがその筆頭で、事ある毎にレドを小ばかにしている。(何度注意しても改めない。)
レドがあんなに威張りたがりやだとは思いもしなかった。
何せわたしには絶対服従だから。ただの甘えたがりにしか思っていなかったのだ。
実に新鮮である。
(罪な子ねえ)
あの様子では必ず礼を言いに来るだろう。
その時はレドも呼び出しておこうと思う。
そしてこう言ってやるのだ。
「まぁ。わたくし頼んでなんておりませんよ?レド?」
もうこれ以上、リューム嬢に歪んだ愛情表現をする者を増やしてなるものかと思うのだ。
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それもあるが、何せこの間リゼライさんから叱られてしまったせいもある。
『頼むからアンタはもっと自分の獣の躾をしっかりしろ私は忙しい。』
レドが彼女から預かったという手紙には、ただこの一文がしたためてあった。
得意そうに褒められるのを待ち侘びているレドに問い質せば、ここの所しょっちゅうリゼライに意見をもらいに入り浸っているという。
明らかにリゼライさんの都合を考えずに押しかけて、迷惑を掛けているのがその時点でわかった。
よくよく聞けばダグレスもらしかった。いつのまに。
自由気ままな獣サマ達のお母さん役は楽しいが、また苦労も付きものなのである。
ルゼにディーナにミゼル。
年齢差はありますが、女同士が集まればそんな事は関係ありません。
この後もリュームを話題にしばし盛り上がります。
ちなみに。割とディーナはそんなにしゃべる子じゃないようです。
人の話に耳を傾けつつ、内心で自分の考えをまとめるタイプ。
話に不参加のようでいてそうでない。
ミゼルはしゃべりながら自分の考えをまとめて行くタイプ。
自分の言った事で興奮しやすいので、宥め役となるルゼのような達観者が必要不可欠です。
この中で一番会話が上手いのは、やはりルゼだなと思いました。




