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第三十話 シェンテラン家に忍び寄る闇


『小話は取り合えずまた今度!』


続きが書きたくて仕方ありません。どうぞ!


 

「ご領主様、嫌です」

 首筋に彼の唇を受けながら、身を捩ります。どうにかこうにか。

「嫌です。リュームは嫌です。怖いです。止めて下さい」

 震えながら訴えを続ける間だけ、彼の動きが止まりました。

 胸元に彼の頭を抱え込んでいる体勢ため、その表情は見えません。

 ほんのつかの間の静寂の合間、お互いの呼吸だけが響きます。

「ごりょ、しゅ、さま。嫌・・・嫌なの!余裕なんかであるわけがないでしょう?」

 ご領主様は何も答えてくれません。まるっきり無視ですか。哀しくなりますね。

 そのまま彼の手が、リュームのドレスの裾を捲り上げる形で太ももを撫で上げました。

 身体が自分でも驚くほど、跳ね上がります。

「嫌です――!いや――っ!」

 容赦なく腰元までに侵入してきた手に驚いて、身体が逃れようとのけ反りました。

 その首筋にかつての痛みと同じ刺激を与えられ、リュームは半狂乱で叫びます。

「嫌です、嫌です、嫌ぁ!!」

 無意識に(かぶり)を振れば、またしても彼の与える痛みが増します。

 首筋に埋められた彼の金の髪を恨みがましく見下ろしても、何の威力もありません。

 何て無力なんでしょうかと、空しくなりました。

「ごりょしゅ、さま、ごりょぅ、しゅ、さま・・・いやです。やだぁ!たすけて、ヴィン、セィル・・・」

 お願いですから、リュームの気持をこれ以上ないがしろにしないで下さい。

 そうでなければきっとまた、リュームはこの方の事を許せなくなるでしょう。

 それはお互いに辛くてクルシイものになります。

 本当はわかっているのでしょう?

 そんな必死の想いが、彼の名を呼びかけさせたようです。

 そもそもおかしな言動に出てしまったものです。

 リュームを踏みにじり乱暴を働く、当の本人に助けを求めるだなんて。ねぇ?

 涙が頬を伝いました。

(一番・・・助けを求めてしまう相手に、ヒドイ目に合わされてるって

 どれだけ救いがないのでしょうか?)

 何だかんだ言って、一番頼りにしているっていう事でしょうかね。

 この方を――。

「っ・・・ふぇ・っ、っく」

 その事実にまたもや胸が悲鳴を上げ始めています。

 しゃくり上げるたびに、胸の中心がずきずきと痛むのです。

 もちろん、呼吸だって狭まります。

 苦しくて。肉体的にも精神的にも苦しいのには、どうしようもない絶望感に襲われます。

 嗚咽が漏れて身体が浮くたびに、ほんの僅かですが自分から彼に身体を押し付けているようで情けなくもなります。

 

「たすけて、ニーナぁ、ミゼルさま、シンラぁ・・・!おとー様ぁ、っく・・・おかー様ぁ――怖いよ、いやぁ――!」

 絶望感に(さいな)まれながら、助けを求めてしまう自分が何を口走っているか何て。

 頭の隅の方では何を馬鹿なことをと思う自分がいます。

 だって。おとー様もおかー様ももう、この世のどこにもいらっしゃらない。

 ただただ子供が泣き喚くかのようにしか、助けを求めるしか出来ないのです。

 ますます涙の勢いが増して行きます。止め処も無く溢れます。

(ご領主様、ヴィンセイル様!このままだと、取り返しの付かない事になってしまいます!)

 どうあっても助けてと叫ばずにはいられない、この気持ちをどうかわかって欲しいのです。

 他でもない、今リュームをむちゃくちゃにしようとしているこの方に。

 

「リューム。俺を挑発するオマエが悪い」

「っ!?・してなぃ!いや――ぁぁぁ!」

 頭を振ろうにも首筋を押さえ込まれていては、どうしようもありませんでした。

 そのまま彼の手は、無情にも肩をも押さえます。

 胸元の飾り紐が弛められたため、ドレスの肩口からの侵入も容易く許してしまったようです。

 はだけた肌に感じる空気の冷たさと同時に、彼の大きな手のひらから伝わる熱にはおののくしかありません。

 こうやって見せた事の無い肌を彼に(なぶ)られるのは、今までの行いの比ではないほどの恐怖でした。

 精一杯顔をそむけても、それはただ彼に首筋を余計に差し出しただけのようです。

「い・・・ぃやぁ・・・ぃやあ!や、めて、や、めて、やめて――!!」

 もはや歯の根は噛みあわず、訴える声さえも震えています。

「リューム。今ここで俺に引けと?もっと俺に狂えと言うのか?もう待てるか」

 何を仰っているのか。

 アナタが引かねばわたしの方こそ、おかしくなるのです。今度こそ壊れてしまいますよ。

 だから訴えを止めるわけには行かないのです。

 唇を強く噛み締めて嗚咽を堪え、呼吸を整えます。

 

「ごりょぅ、しゅさ・・・ま」

「リューム」

 彼の手がリュームの頬を、流れる涙を、撫でていました。

 まるで壊れ物に触れるかのように、やわらかく、そっと。

 そんな気遣いが感じられたので、恐るおそる彼を見上げる事が出来ました。

「ジ・リューム――タラヴァイエ」

 気が付けば彼の唇がリュームの名を呼ぶ様を、食い入るように見つめておりました。

「ヴィ、ヴィ、シェー・シェイ、ル・・・っく、ヴィン・セ・・・ィール」

 しゃくり上げながらなので、発音はまったくの不明瞭です。

「ヴ ィ ン セ イ ル」

 またもやあの時のように、ゆっくりと発音されました。

「ヴィ、っく・・・セイル」

「そうだ。リューム」

「ヴ ィ ン 、セ ィ ル ・ シ ェ ン テ ラ ン」

 彼の瞳が満足そうに眇めらます。それに見入っている自分がいました。

 

 さ よ う な ら 。

 

 リュームの唇は音を発さないまま、別れの言葉を告げました。

 

 。・。:*:・。・:*:・。・:::・。*::・。:*:・。・:*・。・*::・。:*:・。・:

 

 

「何っ!?」

 その瞬間、ご領主様が素早く身を翻し寝台から背後を振り返りました。

 ですがもう手遅れです。

 主に彼の目元にまとわり付くかのように、闇が忍び寄っていました。

 それがご領主様の視界を完全に封じてしまうのも、時間の問題でしょう。

 闇は意思を持って目的を遂行します。

 

 ””リューム嬢に無体を働くようなら側にはおかぬと忠告しておいてやったのになぁ。

 残念だったな、若領主。ルゼとこの娘との約束をないがしろにするようなら、この娘。

 公爵家が預かるとはかねてから宣告済みぞ?よもや忘れたとは言わさんからな!””

 徐々に輪郭をあらわにした獣の蹄が床を打ちました。

 その蹄の主の一角が彼へと向けられています。

 日がかげるに連れてこの部屋を支配しだした闇の主。

 それは公爵様のお使いの獣、ダグレスです。

「ダグレスっ!貴様!!」

 ご領主様が歯を食いしばりながら、目元を押さえ込まれています。

 痛そうです。苦しそうです。

 途端に恐ろしくなります。ダグレスにやめてと叫びだしそうになります。

 

 悔しそうに唸る声をくぐり抜けて、リュームは寝台から転がるように下りました。

 ダグレスに駆け寄り、その首筋にすがり付きました。

「ダグレス、ダグレスっ!ご、領主さまにあまり酷い事しないでっ」

 ””ふん。案じずともせいぜい苦しむのは一晩ほど。手加減してやったのは、

 他でもないこの娘に免じてだと肝に銘じよ、このばか領主!””

「一晩も・って、ダグレス!?あなた話ができるのですね?リュームが聞こえなかっただけ?」

 ””そうだ。我はずっと話していたさ。しかしオマエの耳には届かなかっただけの話。

 もっとも、そこなる若造には最初から伝わっていたがな。忌々しい話だ。

 我の声が届く者は乙女らだけでよいものを。野郎なんぞと話していても無駄だからな。

 行くぞ。早く我に乗れ、タラヴァイエの娘よ。詳しい話は後だ””

 ダグレスが勢い良く顎をしゃくり、その背へと促がします。

 しかし、リュームはためらいました。何度もご領主様とダグレスとを見比べます。

 ご領主様は寝台の上で起き上がってこそはいるものの、片手でシーツを固く握り締めながら目を覆われているのです。

 彼の頭周りに薄闇がまとわり付いているのが見えました。

 それがダグレスによる、意思持つ闇の仕業という事くらいリュームにとて解ります。

 

 ダグレス。闇に属する獣。

 ルゼ公爵様の元にお仕えしている人智を超えた存在。

 その闇色の獣を見つめるうちに、視界がだんだんとその美しい闇一色に塗り替えられて行くようです。

 しばし呆然とその毛並に魅入られて、我を忘れ去っていたリュームの耳に悲痛な叫びが届きました。

「リュームっ!!」

「ご領主さまっ!」

 彼に駆け寄ろうとしたリュームを阻んだのは、他でもないダグレスです。

 ””待て。こやつは放っておけ。良い薬だ。コイツにはちと思い知らせてやるが良い。

 娘よ、オマエはこの者に無体を働かれたのだろう?何を同情する必要があるのだ?””

 確かにその通りです。ですがリュームはゆるゆると首を横に振って見せました。

「ダグレス。彼は大丈夫なのですか?本当に一晩でちゃんと治りますか?」

 ””嘘だと言ったら?””

「ダグレス、そんな!このまま彼を放っておけるわけがありません」

 紅い紅い宝石のごとく煌く瞳。

 紅すぎて黒に近しい(まなこ)と視線がぶつかります。

 彼の操る闇は、その紅い眼の言うなりになるのでしょう。

 ダグレスは一度ご領主様と牙を交えています。

 その時思ったのは、この獣がけして本気ではないという事でした。

 このような攻撃の仕方まで身に備わっている獣の彼にしてみたら、剣による攻撃など本気になるまでも無かったのでしょう。

 

 こうして手を下さず一定の距離を保ちながら、闇をけしかけて来たダグレスに寒気を覚えました。

 他愛ない。彼はそう思っていたに違いありません。それは今も変わらずそうなのでしょう。

 眼差し一つで闇を操るのですから、当然と言えばそれまでですが。

 ならば、手加減を願うまでです。

 その首筋を両手で捕らえながら、自らその両目に映る様にと覗き込みました。

 必死で首を横に振ります。今度はしっかりと。

 その途端に涙の雫が飛び散るほどに激しく、リュームは頭を振り続けます。

 

 ””ふん。ならばオマエが軽くしてやれ。闇ふり払うのは得意分野だろう、タラヴァイエよ?””

「得意?」

 ””そうだ。歌えカラス娘。魂にまで刻み込んだ闇ふり払うその調べを、

 オマエは知っているハズだ””

 

 歌え、カラス。

 

 その言葉だけでリュームには充分でした。

 

 。・。:*:・。・:*:・。・:::・。*::・。:*:・。・:*・。*::・。:*:・。・:

 

 闇ふり払い給え

 我らが光

 

 そして迎える

 数多の光

 祝福されし

 我らが光 

 

 闇ふり払いし

 数多の光

 闇ふり払り給え

 彼方の光

 

 これほど切迫した祈りを込めて歌ったのは、初めてかもしれません。

 リューム自身瞳を固く閉じて歌い終わるまで、瞼を持ち上げる事ができませんでした。

 カラスの歌声がどこまで闇に太刀打ちできるのかと、吐き気がするほどの恐怖という闇の中で対峙した気分です。

 闇が恐ろしいのではなく、その闇に敵わないかもしれない己が怖かったです。

 

(闇ふり払い給え 我らが光――!)

 

 幾度も幾度も心の中でもそれだけを繰り返しながら、抱きかかえた彼の額に瞼にと唇を寄せていました。

「リューム」

 大丈夫だと告げるようにご領主様の手が伸び、リュームの右頬に触たようです。

 それでやっとリュームは薄目を開けて、彼を見る事ができました。

 彼の眉間は寄りまだ焦点は定まらないようですが、それでも幾らか苦痛は去ったように見受けられます。

 彼にまとわり付いていた闇は霧散したようです。

 そうです。それはまるで弾け散ったエキのように、どこかに退散してくれたようです。

 ほっと息をつき、彼の頭を再び抱きかかえました。

 闇は完璧までにとは行かなくても、去ってくれたようです。

 

 ””やってくれるな、タラヴァイエの娘。我の闇を薄めおった!はははは、()愉快だ!

 たかが人の子の分際で何とも小賢しいなこの娘も。ますます貴様の側にはもったいなくて置けぬわ。良かったな若造。

 本音を申せば、あと三日三晩は苦しむ予定だったのだぞ?感謝するのだな””

 そんなダグレスの嘲りの言葉から彼を庇うように、リュームは泣きながら謝りました。

「ご領主様、少しは楽になりましたか?ですが、これ以上はリュームには無理なようです。

 ごめんなさい。ごめんなさい――!」

「リューム、泣いているのか?何故、(いと)わしい俺のために泣く?」

 彼の指が涙の雫に触れたようです。

「本当に、もぅ!どうしてか、胸が痛むんですよ、ご領主様」

 このまま闇が去り切ってくれなかったら、この方はどうなってしまわれるのでしょうか?

 それを思うと胸が押しつぶされるそうになるのは、どうしてでしょうか。

 そう、こちらがお尋ねしとうございますよ!

「リューム」

「ご領主様が悪いんですよ!リューム、散々やめて下さいってお願いしたのに。もう!

 もぅ・・・ご領主様のばかばかばかっ!怖かったんですからね?怖かった、んですから。

 ですから、最終手段に出るしかなくなったではないですか」

 公爵様からのご提案通りにせざるを得なくなったのは、彼の自業自得です!

「さっさと俺のものにならないオマエも悪い」

「まだそれを言いますか!」

 むかぁっとしたので、その額を叩いて差し上げました。

 身動き取れない彼が悪いとばかりに、やりたい放題させていただいております。

 もちろんご領主様は、黙ってヤラレっぱなしでいる訳がありません。

 負けじと伸びて来る手を、リュームはひょいっとかわしてやりました。

「リューム。後で覚えていろ」

「ルゼ様のお言葉を忘れたとか、ぬけぬけと言い切るご領主様のお言葉なんか、だぁーれが覚えているものかですよ」

「黙れ」

 ――彼の唇が、呟きながら近付きます。

 

 ””いい加減、我の存在を忘れていちゃつくのはやめろ。そして領主は一晩枕でも抱いて反省していろ。行くぞ、リューム””

 ダグレスが苛立った調子で割り込んできました。

 リュームの首根っこをその口が(くわ)えて引っ張ります。ぐぇえ、ですよ!

 思わずご領主様を抱えていた手を放して、バタつかせてしまいます。

 ひょいっと、いとも容易くリュームの身体は半回転のち、無事に床に着地しておりました。

 

 見ればご領主様も手をこちらに伸ばされていました。

 視界がハッキリしないのでしょう。

 何度もまばたきを繰り返しながら上体を乗り出して、リュームの姿を探しているようです。

 慌てて駆け寄ろうとすると、ダグレスがまたもや間に入ります。

 今度はクッションを咥えると、どっさとご領主様に押しつけましてゴザイマス。

 ””さ。これで良い。さっさと行くぞ。オマエらの威力を見くびっておったわ。この調子では回復までに一晩とかかるまいよ””

 ぐぐぃっと鼻先でクッションをご領主様に押し付けながら、ダグレスはリュームを横目で見ました。

 ダ グ レ ス !

 その厚み越しにくぐもった、恨みがましい声が聞こえます。

「ダグレス、それくらいで。ご領主様、息苦しいでしょうから」

 ””ふん。それくらいでコヤツにはちょうど良いわ。””

 ダグレスは何というか、その。とってもいい性格をしているみたいですね。

 ミゼル様がそう言っていたのも頷ける気がします。

 

「リューム!どこに行く!?」

 悲痛な叫びに扉に向った足を止めます。

 ダグレスに目配せを送ると今一度、慎重にご領主様に近付きました。

「ご領主様。どうかお休みください。そうすれば闇も明けますから・・・ね?」

 落ち着かせるように彼の額の髪をかき上げ、撫で付けます。

 相当苦しいものと思われます。この彼が立ち上がることも出来ないでいるのですから。

 気が付けばリュームから、苦悶に歪んだ眉間に唇を落としていました。

 その僅かな温もりに少し安心されたのか、彼の呼吸が落ち着きを取り戻します。

「ゆっくり身体を休めてください。リューム、お側におりますから」

 その青ざめた頬をさすると、彼の呼吸が緩やかなものへと変わりました。

 リュームへと伸ばされていた手もぱたりと落ち、寝台がやわらかく受け止めます。

「おやすみなさいませ」

 ご領主様は意識を手放し、眠りへと誘われたようです。

 

 正直彼をこのまま闇の中に一人、置き去りにするのは気が引けました。

 でもこのままここに居ては、彼をダメにしかねません。

(ご領主様。ヴィンセイル様。行ってまいりますね。どうか自棄(やけ)を起こされませんように)

 リュームは決意を固めると、立ち上がったのでした。

 

 。・。:*:・。・:*:・。・:::・。*::・。:*:・。・:*・。 *::・。:*:・。・:

 

 ダグレスの首に縋りながら、久しぶりに回廊を渡りました。

 実に宴から数えて、幾日振りでしょうか?

 おそらく片手では足りない日数が経過しているでしょう。

 それを思うと色々と頭が痛くなってきますね。

「ふぅ」

 ””疲れたなら背負ってやるが?””

「ありがとうございます。ですが大丈夫です。もう少しだけ、歩かせて下さいませ」

 ””構わぬが。無理はするなよ””

「はい」

 ダグレスの気遣いに感謝しながら、リュームは自室を目指しました。

 ご領主様のお部屋からはまるっきり離れていますね。本当に!遠い。さすが離れです。

 今まで同じ館に住んではいても、滅多にご領主様と遭遇しないで済んだのも頷けます。

 リュームは気を抜くとふら付く足を慎重に運びました。前へ前へ。

 そのゆっくりと進む回廊の所々、いたる所に花が飾られておりました。

 いつもお花は欠かされる事がないのですが、それにしても多すぎる気がします。

 リュームが十歩も歩かないうちに、両脇を固めるようにして花瓶が四つも。

 その先に視線を走らせれば、同じように配置された花瓶が続きます。

 それぞれ花の種類も色合いも違います。

 何より、そのお花たちはシェンテラン家の庭先に咲くものとは趣が異なります。

 綺麗です。もちろん、文句なんてありませんが見慣れないので違和感を覚えました。

 リュームこれでも庭仕事を日課としていたので、この館に植えられているお花をある程度

 把握しています。

 シェンテラン家のお花は基本、淡い色合いのものが多く選ばれています。

 館内を飾るときは余計にと皆、それを意識していました。

 その室内の様子に合うようにと、色合いを控えた白やクリーム色に薄紅を少し混ぜる程度だったはずなのですが?

 目に鮮やかな赤に黄色に紅に紫に僅かに白を加えた花たちが、惜しげもなく咲き誇っており豪華です。

 その花びらの重なり具合からしても、相当手入れが行き届いているのが解ります。

 悔しいですが庭仕事としてはリューム、負けた気がします。

「綺麗ですねぇ。悔しいです」

 ””何だ、その感想は?””

 

 。・。:*:・。・:*:・。・:::・。*::・。:*:・。・:*・。・*::・。:*:・。・:

 

「リューム様ぁ!!」

 しばらく歩みを止めて見入っていると、名を叫ばれました。

 ごとん、と何か重たいものが落ちる音も同時に耳に届きます。

 何事かと驚いて回廊の先を見ればそこには、ニーナの姿がありました。

 足元にはこの回廊に置かれたものと似たお花が、花瓶に活けられております。

「お嬢さま!リューム様っ」

 それに少し遅れてバルハートさんも駆け寄って来ました。

「ニーナ!バルハートさんも!」 

 二人とも安堵とも不安とも取れる、複雑な表情を浮べております。

 ニーナはリュームに抱きつくと、そのまま泣き崩れてしまいました。

 そうなのです。リュームはニーナとは久しぶりに会うのです。

 何でもニーナは体調を崩したとかで、休んでいるとご領主様からお聞きしていたのですが?

 この様子だとご領主様め、嘘を付いていたようですね?まったく!

「ニーナ。バルハートさん。リュームは大丈夫です。心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

 肩を震わせて泣くニーナを抱き止めながら、二人に謝りました。

「リューム様。その獣は」

「はい。ダグレスは公爵様のお使いなんです。リュームを迎えに来てくれました」

 

「「――迎え?」」

 

 二人の声が重なりました。

 ダグレスは誇らしげに胸をそらして見せます。

 

 

 

 



『一応・R−15なんでこのくらいが限界かと?』

 

 そんな理由ではい!ここまで〜。そんなワケがありません。

 思いとどまれ!ヴィンセイル!

 オマエのやってる事は立派な犯罪だ!!

 ――と思いつつ、このかわいそうと思う気持ちと。

 その泣き叫ぶ憐れな感じが余計に男を煽るんだよ。みたいな。

 今回、ヴィンセイルの目線で書いたなぁと思います。

 リュームにしてみたら嫌だと訴えている事を率先して実行されてはますます信じられなくなりまする〜。


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