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第三話 シェンテラン家の度胸試し


リュームに苛立ちを感じて下さったらそれは「ご領主さま」目線でございます。

OK!OK!――狙いどうり(?)でございます。


リュームに憐れみを感じてくださっても、それもまた――。

 

 二度と俺に微笑み掛けてくれるな――。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・+・:。・。:*:・。:・+・。・:*:・。:*:・。・+・。・

 

「!!」

「――シンラ!よせ!!」

 

 噛まれる!!――こうがっちりと掴まれていては逃げようがナイので、リュームはそう覚悟を決めて目を閉じたのですが。

「――?」

 いつまで待っても痛みは訪れません。その事に疑問を覚えてそろそろと瞼を持ち上げてみますと、信じられない光景が飛び込んできました。

「!!?」

 ――ひっと思わず息を飲み込みました。目の前に牙を剥き出しにした犬・狼(ケン ロウ)の姿があったものですから――。

 獣の彼の牙が腕に食い込んでいます。・・・・・・その腕はリュームでは無く、あろう事かご領主様の左腕なのです。

「――シンラ。・・・・・・わかったから(・・・・・)、放せ」

 ・・・・・・ウウ・・・グぅ・・ヴゥゥゥゥ・・・・・・!!

 低いくぐもった唸り声を止ませる事も泣く、シンラの牙は緩みそうもありません。一体・・・?

 一体何がどうしたっていうのでしょう?

 彼はとてつもなくお利口さんで、ご領主様の一番の猟犬であり護衛でもある『忠犬』なのは間違いありません。

「きゃぁぁぁぁぁ―――ぁぁあああ!!」

 

 目の前には食い込む真っ白い獣の牙。

 それがこの目の前の、腕に――。その腕はリュームのものでは無いのです。

 ナゼですか?ナゼ、リュームの腕じゃ無いのですか?

 いつまでも食い込み続ける牙に、疑問しか覚えません。

 なぜ、この腕を伝って滴り落ちる赤い雫は・・・リュームのものでは無いのでしょうか?

(あかい・・・あか。――血?・・・・・・血!!)

「きゃあああ――・・・・・・!いやー!!っいやぁぁぁぁ!!」

 うるさい。何て耳障りな。嫌な叫び声でしょうか。誰かが叫んでいる――。誰・・・?誰が?

「 リ ュ ー ム ! リ ュ ー ム 、し っ か り し ろ 。 大 丈 夫 だ か ら  、 リ ュ ー ム ! ! 」

 そして『誰か』がリュームの名を呼んでいるようなのですが。

 ――遠くて。何もかもが遠いのです。

 目に焼きつくその鮮血の赤のみが、私の目と耳と・・・全てを支配していくのを止められません。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 あの娘に与えてはならないもの。それは・・・鮮血の記憶に加えて炎の記憶。それと憐れみの心。

 そういい含められてきた事を思い出し、鋭く舌打つ――。

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。

 

 ・・・・・・・・・・・・―――。

「リューム。この大バカ娘。正気に戻ったか」

「・・・・・・・?」

 緑の瞳に覗きこまれ、ただ(せわ)しなく瞬きを繰り返しました。

「――ここ・・・?」

 どこでしょうか。疑問に思って尋ねるために発した声は掠れていて、弱弱しいものです。ああ・・・そういえば、さっき驚いて叫んだからだと思い出しました。

()は俺の部屋だ」

 そう言われててみればここはかつて、お義父さまの私室だったお部屋です。リュームが幼い頃何度か訪れた事のある。

 歳を重ねるに連れて体裁もあり、あまり気軽には訪れなくなっていたお部屋。――小さい頃にこっそりと、お義父さまを訪ねて以来。

 しかし記憶とは少し違う部屋の表情に、すぐには思い当たらなかったのです。

 あの頃よりももっと人を寄せ付けないかのような、スキの無い完成度の高さに息が詰まるばかりです。

 寝台と布張りの椅子とテーブルだけという素っ気無さでありながら、その一つ一つがこの館の主に相応しい造りで有る事くらい、大バカのそしりを受けた娘にだってわかります。

 作りつけられた書棚には厚く重みのありそうな書物がずらりと並べられ、書物の傷みを避けるためなのか採光もごく僅かです。

 先ほどまでの春の日差しなど全て遮られたかのような造りに、身体が冷えて行くのを感じますが止められません。

 目の焦点が合う頃には、自分の状況も飲み込めて来ました。

 自分は今、椅子に腰掛けており両頬を挟まれている事。道理で逸らしようのない苛立った眼差しを、もろに仰ぎ見ているわけですね。

 おまけに立ち上がろうにも――。椅子の背もたれとこの部屋の主に挟まれていては、身動きが取れませんな状況です。

『拘束』は早速開始のようですね・・・・・・。

(これは大っ変に――マズイ状況かと思われますがいかがでしょうか?)

 そう尋ねられたら誰だって、首を縦に振るに決まりきった状況です。ええ。大ばかのそしりを―以下略。しつこいですから。

 下手したらこれは自分が最高に具合の悪かったあの日よりも、何かしら危機的な状況だと認めざるを得ません。

 今すぐにこの方から逃れなければならないと、自身の深みから這い上がってくる何かが告げてきます。

 ええ。そんなの。実行可能ならとっくに。ええ――はい。

 眼差しに射すくめられている事に対する恐怖より、強制的に首を持ち上げられてる体勢の方が辛くて、目線を逸らしました。

 許されたほんの少しだけの角度。それなのに・・・俯いたその拍子に自分でも自覚していなかった、温かな雫が零れ落ちました。

 不覚でした。そのまま上を見ていたら、流れる事も無く済んでいたものを。そうは悔し紛れに思ってはみたものの一度、(せき)を切ってしまった涙を圧し止める理由にもなりはしないようです。

「また、泣くのか。・・・・・・いい加減泣き止め。もう、シンラもいない」

 でもあなたが居るではないか。そう言い返そうにも口を開く事すら、ましてや何かを深く追求するために思考を働かせるのすら億劫で。

 何ごとかと今一度、この身体を支配する虚脱感のワケをこの方に尋ねたつもり。

 それは力ない眼差しを向ける、という所作だけで済ましてしまうやり方で。

「――あれだけ泣き叫べば声も枯れよう。オマエいい加減に学習したらどうだ?たとえ『健康になった』としても、体力など持ち合わせちゃいない脆弱な作りの身だという事実を。まったく」

 ようは無駄に体力を消耗してしまったと。そういうことですね。ハイ。

 おかしい。おかしいな。こんな時こそ、頼りにしている『気力』なるものの力が・・・湧き上がってくるはずなのですが。

「・・・・・・。」

 まだまだ今日は始まったばかりです。挑戦しなければならない、自分目標も山積みであるのですからね。

 そんな時の頼みの綱がいっこうに見えません。おかしいな・・・もう気力まで使い果たしちまったって事ですか。早すぎやしませんか。

 

 とにかくこの手を放して頂きたい。そんな想いを込めてそろそろと、ご領主さまの両手首に手を掛けてみましたが。

「――!?」

 右手に感じた違和感にはじかれた様に、すぐさま手を引っ込めてしまいました。

 衣服の袖口は冷たく湿っており、思わず確認するように見た自分の指先を見て、そのワケを鮮明に思い出したのです。

 あかい。その指先を彩った赤に、よりいっそう視界がぼやけ始めました。

「っ、怪我を・・・・・・!?シ、ラ、シン、ら・・・な・・・で?」

「たいした傷ではない。シンラとて加減を心得ている」

「シ、・・・らぁ・・・か、噛んだ・・・ぇぅっ、く」

「――泣くな。シンラは・・・始末(・・)するから」

「!?」

 っっくと、大きくしゃくり上げて自分の耳を疑います。言われた言葉の衝撃は、一瞬息が出来なくなるほどの威力。

 告げられた言葉が意味する所を、理解するよりも早く。ものすごい勢いで首を振っていました。もちろん、横に。

 ですがそれもすぐに大きな手の力に、止められてしまいます。

「だ、ダメで・・・ダメ!いぁで・・・す、だめぇ!!」

「駄目?何故だ。シンラは四つ足の分際で、この俺に歯向かったのだぞ?」

「――だめ、だ・・・め!どして・も、だめぇ!」

「俺に指図するか。この館の主に逆らったものは、何者(・・)であろうと処罰は受ける決まりだ。例外は無い(・・・・・)

「・・・ちが・・ます。し、シ・ラは、まちがぇたのです!き、と、りゅーむを怒って・たのです。ぇも、ごりゅ、りゅ、しゅ・・・」

 つっかえつっかえ。言葉が上手く紡げない焦りがまた焦りを呼び、伝えようとする言葉の並びにならず、自分自身嫌気がさします。早く。きちんと事実をお伝えしなければ。

 シンラはリュームを狙ったのに、ご領主さまの腕が間にあったから・・・きっと間違ったのです、と。

「耳障りな」

「――っ!?」

「その舌足らずは計算のうちか?」

「けぃ、さん?」

「自分を弱者と見せかけて。強者の憐れみを誘う作戦か?」

 ―― 忌 々 し い ・ ・ ・ そ の 舌 。 い っ そ 、引 き 抜 い て や ろ う か 。

 心底リュームは(さげす)むべき者として、この(まなこ)に映るようです。それ以外には見当たりません。

 この深く暗い――凍てついた瞳以外で、私が映る事はないまま・・・もう、七年?その次も?これから先々いくら年月を重ねてもずっと、リュームはこの湖底に沈められ続けるしかありませんか?

「ふぇっ・・・く」

「飲み薬を止めたな、リューム?何が『健康になったから薬は要らぬ』だ。――服用を怠らねば口蓋(こうがい)に残る麻痺も、いくらか和らぐと言うのに。バカめ。そうやって弱々しさを前面に(さら)け出さねば生きられぬくせに!何が一人で生きていくだと?はっ!――笑わせるな」

 

 ああ――。もう本当にリュームの行動のどれを取ってみても、ご領主さまにとって不快だと言う事くらい。

 もう、存分にわかっておりますから。

 いい加減、その眼差しから逃してくれてもいいものを。それが互いのためでしょうに。

(始末・・・・・・逆らう者は皆、例外なく(・・・・)!)

 ならばと唇をかみ締めて、リュームは次に取るべき行動に移りました――。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・+・。・

 

「リューム・・・貴様。何のマネだ?オマエもシンラ同様・・・血迷うたか?」

 何の抑揚も無い言葉を振り切るためにも、自分の顎に力を入れます。

 ヴぅ――ぅぅぅっとですね、力の込めどころか今ひとつ掴めないのですけど。・・・シンラに噛み付かれた方の手を選んだのは、わざとです。それくらいしなけりゃ、この方には歯が立ちませんから。文字どうり。

 何を血迷ったかと言いますとですね。狙いを定めて・・・『がぶぅっ』と、いかせていただきました!

 ああこりゃもう、次は完璧にやられるでしょうよ。ええ。

(――望むところだ、こんちくしょう!!)

 口に広がる血の味に思わず顔をしかめます。リュームの歯とはまるで違うシンラの牙。さぞや深々と肉をえぐった事でしょうよ。いい気味だと。努めてそう、くり返し考えている自分がいました。

(ざまーみろですよ!!飼い犬・・・二頭(・・)に噛まれる気分はどうだ!痛いだろう!)

 できれば・・・少しでもリュームと同じ所が痛みを感じていることを、願ってしまいます。

「・・・・・・リューム。貴様もよほど始末を受けたいとみえる」

「・・・・・・・・・・・・ヴぅ!!」

 

 望むところですよ――。

 でもその言葉は発せませなんだ。どうせ、もたつくに決まっているから――自ら飲み込みました。

 それに。答える代わりに最後の気力を振り絞って、顎に力を込めているのに忙しかったですし。

 

「いい度胸だ」

 凄みのある声が短く発されると同時に、そのまま抱え上げられてしまいました。片手であっさりなのが気に入りません。

 こうも力の差は歴然なのかと、悔しさしか感じません。ちなみに、そんな悔しさをバネにして――。

 

 浮遊感にも負けじと、リュームはいい度胸を保ち続けております!

 


はい、15禁らしくなってきました〜・・・・・・。

そうか?という、突っ込みはさておき。

今回の話は「萌え」ていただけましたか(笑)


私は燃え尽きましたよ、精一杯だ!!

「萌え」って何でしょう!

            ↓

この意味不明のコメントは、まるっきり内輪受けでございます。少しでも興味をもたれた方・・・お待ちしております。


http://ameblo.jp/mitunappa/


・・・みつなっぱの気持ち。

ブログです〜

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