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第二十五話 シェンテラン家の扉の向こうで

リュームさん、一人反省会のようです。


だいぶ、お疲れなのは間違いありません。


★小話UPしました★〜7・8〜後書きにてどうぞ!


・・・スクロール・・・大変ですみません。


 

 またしても、と言いましょうか。毎度の事と言いましょうか。

 ご領主様のお怒りをかってしまったリュームでございます。

(あ〜あ〜あ〜。ただ、確かめたかっただけなのにな。どうしてあんな嫌な言い方してしまったんでしょうか。

 ご領主様が怒るのも無理ないですね。それでなくとも、ギュルミナ様とリハルド様とも上手くお話できなくって、

 恥をかかせてしまったというのに。リューム、もっと、じょうずに話せたらいいのに・・・もっと、ちゃんと気持ちを伝えることが出来ればいいのに)

 結局は『うるさい。黙れ』と叱られてしまったのを思い返しては、うな垂れるしか能のないリュームです。

『・・・・・・。』

(そもそもリュームは何を確かめたかったのでしょうか。ザクロ様にまつわる噂は本当かどうか?

 そもそもご領主様だって困りますよね。そこで本当だって言われたら、リュームはどうする気だったのでしょう?

 やっぱり目障りなんだな、嫌われたもんだな、と思い知りたかったのでしょうか?

 本当にお聞きしたかった事は、どうしてこんなに高価なものをリュームにやるとか言い出したんでしょうと、彼のお気持ちを知りたかっただけなのに。失敗しました。そういえば〜妻にとかって言い出しましたよね?正気ですか?何だってまたリューム?カラス娘ですよ?ギュルミナ様は?と言いたかったのに!しかもいきなり変ではないですか?やたらに構ってきて・・・あああ〜まとまらないです〜!!上手に気持ちを伝えられるようになりたいです)

 改めてそう思います。まずは収拾のつかない思考をスッキリとさせたい所です。

 それよりも、せめてきれいに話せるようになる事が先決かもしれません。

 それこそ聞き苦しくては、聞かされるほうが嫌になってしまうでしょうから。

 どもったり、もたもたしゃべったりしないようになるには、きっと訓練すればいいと考えました。

 それまで、誰とも会いたくないなとまで思ってしまいました。

(もう、公の場には出さないって言われちゃいましたしね。

 もう遅いかもしれませんが、だからと言って努力をしないのもいけませんよね!)

 

 静かです。

 リュームの頭の中は色々とぐるぐるしちゃって、ごちゃごちゃしておりますが辺りは静かです。

 こうやって考え事をするのには最適です、リュームの自室は。何てったって本館から離れてますからね。

 先ほどニーナが訪れてくれたのですが、扉越しに会話をしただけです。

『少しだけ、一人にしてもらえませんでしょうか?リュームは一人反省会中なので』

 と、告げたところ啜り泣きが聞こえてきました。一体、どうしたっていうのでしょう?

『お願いですから、リューム様。戻ってきて下さい』

 戻る?広間にでしょうか?

 もう、宴はお開きのはずです。不思議に思って扉を見つめてみましたが開く様子は無く、気配が遠ざかって行きました。

 ニーナはまだ仕事があるのでしょう。戻ったようです。

(ご領主様には黙れと言われましたしね。もう少し、ここから出ない方がいいでしょう。目障りでしょうから)

 それにお客様たちにまた何か粗相(そそう)をしでかしかねないリュームは、ここでもう少し大人しくしているに限ります。

 気配を殺して、やり過ごしましょう。

 

 にゃあーん、と足元にまとわりついていたエキが鳴き声を上げて注目を促がします。

『なぁに?エキったら、抱っこしてほしいの?』

 ”” う ん 。””

『はい、いらっしゃい。甘えっこさん』

 素直なエキに思わず笑みがこぼれます。その柔らかな身体を抱き上げてやると、エキはごろごろと喉をならしました。

 撫でてやると目を細めて気持ち良さそうです。

 ”” ね ぇ 、リ ュ ー ム 。 お 歌 、う た っ て よ ””

『はい。いいですよ〜』

 リュームはその可愛らしいお耳を掻いてあげながら歌いました。

 エキが一番気に入っている【闇ふり払い(たま)えし我らが光】という曲です。

 何でもエキはこの曲を聴くと一番、自分らしく在れると言うのです。

 自分らしく。エキはエキのままで充分だと思うんですけどね。

 そう告げましたところ、なるべくならこのエキのままで在りたいのだ、それがリュームのためでもあると言われました。

 そうですか。そこまで言われたら(何の事やらよくはわかりませんが)頷くしかありません。

 そんな事もあって気軽に請け負ってしまいながらも、気合を入れて歌ってしまうリュームです。

 

 ・。・:*:・。・::*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 ””ね ぇ ・ ・ ・ リ ュ ー ム ?””

『なあに?エキ』

 ””あ の ね ー ・ ・ ・””

 リュームが歌い終わり、その余韻に浸っていたかのように目を閉じていたエキがこちらを見上げます。

 あの方とおそろいの――。雨にぬれた葉のような、綺麗な緑の眼がリュームをとらえています。

 ””あ の ね ー ・ ・ ・””

 エキが何か言いかけました。その時です。ドンドンっと荒々しく扉が叩きつけられました。

『リューームっ!!ちょっとぉ!いい加減に戻りなさいよね!早くっ、わたくしを待たせないでよ!

 リューム、聞こえているのなら返事をしなさいよぉ!!』

 威勢のよかったのは最初の方だけで、後は明らかに涙に濡れた声に驚いて扉に駆け寄りました。

『ミゼル様?どうされたのですか!』 

 扉の取っ手に手をかけたのですが、びくともしません。

 押しても引いてもダメでした。開きません。

(もしかして、鍵をかけられてしまったのでしょうか?閉じ込められた?・・・ご領主様の命令ですか?)

 慌てて扉を拳で叩いてみました。しかし、リュームが非力なのでしょうか。たいした音は立てられませんでした。

『ミゼル様!』

『ううぅ・・・リュームのばかぁ・・・返事くらいしなさいよ』

 扉の向こうで聞こえる少女の泣き声があまりに悲痛で、リュームは心底慌てました。

『ミゼル様、ミゼル様、ミゼルード様!どうされたのですか?』

 しかし返事はありません。そのうち、すすり泣きながら気配は薄れていきました。

 

(一体、何があったのでしょうか?)

 リュームが扉に張り付いたように離れられないでいると、今度は控えめにコン、コンとノックされました。

『ちょっと、アナタ。本当に身体もおかしかったのね。

 だからと言ってこのまま、戻ってこないなんて許さないから。後味が悪いじゃないのよ』

『ギュ、ギュルミナ様ですか!?な、なぜ?』

『リューム嬢!どうかお戻り下さい!』

『ええ?そのお声はリド様ですか?』

(な・・・何事でしょうか?一体、皆さんどうしちゃったのでしょうか)

 そこまで言われては戻らない方が無礼でしょう。

 リュームは無駄に力を振り絞りました。うんうん唸りながら、扉と格闘します。

『エ、エキ?どうしちゃったんでしょうか、ここ開かないんですよ!鍵でもかけられちゃいましたかね!?』

 ””リュームが悪いんだよ。ボクの・・・ボク以外のために歌ったりするからいけないんだよ。

 せっかく、シェンテラン家の怨嗟(えんさ)から守ってあげていたのに!””

 にゃあ――――ん!

『エ・キ?』

 エキが長々と鳴くと、その真っ赤な舌が良く見えます。毛並が真っ黒な分、真っ赤に、それはそれは真っ赤に見えます。

 まるで、真っ赤な血に濡れたように鮮やかに紅く。

 ””ボク以外のために歌うなとは言わないけど、これからは気を付けた方がいいよ。

 明らかに誰かさんはものすごく君に嫉妬心を向けたから。

 ああ、まぁ、誰かさん以外の人間もいたけど、彼の比ではないからアレだけどさ””

 取るに足らないって言うか?とエキは可愛らしく小首を傾げて付け足しました。

『エキ。意味がわかりません』

 ””わからなくていいよ。まだ””

『そんな!中途半端な情報は混乱するだけですよ。そこまで言っといてそれはないですよ』

 ””だって〜リュームってほら。ばか、じゃない?だから理解できないよ””

 ぅぐっと言葉を詰まらせました。反論できない自分も何ですが、認めるのも(しゃく)に障ります。

 

 そんなエキと見詰め合っていた時です。また、扉がどんっと大きくひとつ打たれました。

『リューム・・・返事をしろ。幾日も俺を無視していい度胸だ』

 苦しげに絞り出すかのようなお声に、リュームは震え上がりました。

『ご、ご領主様!?』

 扉越しに聞こえた呻くような声に、リュームは何故か胸が絞られたかのように苦しくなりました。

『リューム、リューム、リューム!』

『ご領主様!ご領主様、ご領主様!』

 リュームの声は届かないのでしょうか?必死で呼び声に答えているのに。

 何やら悲痛な叫びに近いご領主様のお声に、コレはただ事では無い状況だという事だけが伝わってきます。

『ご領主様・・・・・・!?』

『・・・・・・・・・・・・。』

 呼び声が止みました。気配も遠ざかっていきます。

 扉の向こうにはただ、絶望したかのような哀しみだけが残っているようです。

『エキ!リュームは戻らないと行けません!ここは、開けられないのですか?』

 身体ごと体当りしながら、びくともしない扉を押します。

 耳を押し当てる格好で、扉一枚向こうの気配にすがりました。

 ””リューム、戻るのかい?それよりも。ここでボクとこうやっていたらいいと思わないかい?ねぇ。もっと、歌ってよ?”” 

『エキ・・・』

 ””ん・ね?戻らない方が幸せだと思わない?誰も君の事いじめたり、馬鹿にしたりなんてしない。

 厄介ものだなんて気に病む必要もないし。ボクとシンラと遊んでいられるよ?””

『エキ』

 ””ね?ステキじゃない?リューム、それがいいよ。そうしなよ””

 エキの綺麗な緑のおめめがキラキラと輝いています。

 その輝きは見つめていると、吸い込まれてしまいそう。むしろ、吸い込まれたいと願ってしまいます。

 思わず促がされるままに、頷きかけておりました。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:**・。:**・。・:*・:・。・:**・。:*:・。・:**・。・:*:・。・

 

『はい、そこまでー!!』

 バタァアアン!!と派手な音を立てて現れたのは、なんとも意外な人物でした。

 そこにいたのはリュームが無条件で親しみを覚えてしまうそばかすのある頬に、明るい赤褐色の髪と淡い青い瞳の――。

『クレイズ!?』

 その瞬間、エキは全身の毛を逆立てて威嚇(いかく)しました。

 ””シャアアアアア!!””

『エ、エキ!?どうしたの!』

 そのままエキの身体は膨らむと、ばんっとはじける様に散り散りに散ってしまったのです!

 まるで濃い闇色の霧が日の光の下、霧散(むさん)してしまうかのように跡形も無くなってしまいました。

『エキ!』

『ダメじゃないか、リューム嬢!あんな魔物と馴れ合っちゃあ!』

『魔物?エキが?』

 

 クレイズは苦笑しつつ、腕を組んでリュームを見下ろしておりました。

 


『十二話の伏線が・やっとこさ。』


クレイズ君お待たせ!出番だよ。

長かった。

またしても、どうしてこんなに書き出すとそれるのか。

おかげで次回の更新も、私にしては早いと思います。


『またしてもといいましょうか。』


小話はまた後日!

只今、本編連続更新強化月間開催中です。

小話も大詰めな、ハズ。


 『はい!もう容赦なく長いよ!すみません、小話で済まない小話』

   

  7・8 UPしました! 〜とりあえず・十九歳と十二歳編・ラスト!〜


★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


 平伏してはならない。

 少女はそんな事は望んでいないはずだから、途惑わせるだけだろう。

 だからワタクシはひたすらに見守るに留める。

 

 歌い終えたと同時に跪き、リューム様は女神様に祈った。

 そのか細い背を後ろから抱きしめて、寄り添ってやりたいと思ったのはワタクシだけではないはずだ。

 

 今日はリューム様のお父様が亡くなられてから、ちょうど三年目に当たる日なのだ。

 

 ・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:::*:・。・::*:・。・。

 

『おかー様!だってその日はおとー様の、』

『そうね、リューム。忘れちゃいないわ。でもね、よく聞きなさい。その日はお義父様と大切な御用がある日なの。

 それをないがしろにするわけにはいかないのよ』

『おかー様・・・そんな、だってリューム、約束したのに』

『リューム。聞き分けてちょうだい。おかー様の立場もわかって!お願いだからわがまま言って困らせないでちょうだい』

『・・・・・・はい』

 

 少女がわがままを通そうとする事など、滅多にない。よほど譲れないものなのだとは容易に推し量れた。

 ――というよりも、少なくともワタクシめなんぞは初めて耳にした。リューム様ご自身が意見する様というものを。

 母と娘の事だから、ましてやタダの侍女のワタクシが口を挟んでいいものではないという事くらい、よっくわかっている。

 だが、なにか釈然(しゃくぜん)としないものを感じないわけにはいかなかった。

 何食わぬ顔でやり過ごすように、自分の仕事に精を出す以外なかったのが五日前。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 控えめに見守っていた皆も、儀式が終了したと思ったのだろう。

 歓声と賞賛の声を上げながら少女に駆け寄る。あっとう間に少女の姿は囲まれて見えなくなり、ワタクシは少し慌てた。

 特に子供たちは小さいながらもやんちゃ盛りの男の子たちだ。

 一人ならまだしも数人が一度にとあっては、リューム様の身体では受け止めきれないだろう。転んでは危ない!

 少女のか細い体つきを思うと、そのよからぬ可能性に焦ってしまう。

「ちょっと、待って・・・!」

 かき分けて少女に駆け寄ろうにも、今一歩遅い自分を悔やんだが・・・そんな心配はいらなかった。

 どうしてかって?

 リューム様は若様に抱え上げられていたから。

「・・・・・・!」

 ワタクシはあまりの素早さと意外さに驚いて、ただ驚いて眼を見張るばかりだった。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 リューム様もそりゃあ、驚いたようだった。当然だろう。

「あの・・・おろしてください」

「大人しくしていろ」

 はい、と恐縮してリューム様は小さく答えたきりだ。

 その様子を見守っていた、リューム様の手を引いていた少年が割り込む。

「リューム。良かったな。オマエの気も済んだだろ?」

「ジルエル!ありがとう・・・付き合ってくれて」

「どういたしまして」

 若様に抱え上げられながらも、少女は一緒に歌った少年に礼を述べている。

「ふぅん?」

「何だ?」

「思いのほか、リュームを大切にしてくれているみたいだからさ。意外だった。でも安心したよ」

「何?」

「決まっている。大切に出来ないようなら、やれるわけが無い。大切にしてやって欲しい。オレ達の大切なリュームだから」

 ジルエルと先ほどから呼ばれる少年は、若様を見ている。

 真っ直ぐに逸らすことなく、まるで少女を託していいものかどうか見極めるみたいに。

 この少年・・・?実に整った端正な顔つきをしている。

 まつげが濃くて目鼻立ちもはっきりしており、少し異国情緒漂わせているような不思議な雰囲気を持っていた。

 声質も凛と響くが甘さもあって、声変わりはまだのようだと思わせる。

(見たところ十五、六歳くらいのようだけど・・・まぁ、成長には個人差があるか)

 その年頃で加わり始まってもおかしくない、男らしさの片鱗を探すが見つからなかった。

 そのせいか男の子でもなく女の子でもない、中性的な魅力があるようである。どちらにしてもキレイな子だ。

「ジルエル・・・!」

「リューム。元気で。もう、しばらくはサヨナラだ。オレは今日のこと、忘れない」

「リュームも忘れないよ」

「そっか」

 二人はそれはいい笑顔を交し合った。その割り込めない雰囲気は、ちょっとおかし難くて・・・やきもきしてしまう。

 

「おばちゃんも、リュームちゃんのこと忘れないよ。いつかきっとまた、歌って聞かせておくれね?」

「うん!きっと、また歌うわ。ここにいる皆の、皆のために!」

「リューム。たまに抜け出して来い。タバサもララサも俺も待ってる」

「ウォレス。・・・変なの」

 しっかりタバサちゃんの隣に割り込んだ、制服の少年はウォレス君というのか。

「何だと」

「だって、いつもいばってイジワルなのに。リュームがいなくなって清々したかと思っていたからびっくりしたの」

「ふん。何とでも言え」

 ははは。少年特有の照れが誤解を招いていた模様。早く、素直に振舞えるようになるといいねぇ、ウォレス君や?

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・::*

 

「リューム」

「はい」

 若様が少女に注意を促がすと、居心地悪そうにリュームさまは若様を見た。二人、見つめあったようだった。

「帰るぞ」

「はい」

 少女は実に潔く頷いた。若様もすっぱりと『帰る』のだと告げた。

 もっと、嫌みったらしく帰る気はあるのかとなじるかと思っていたワタクシはいささか拍子抜けした。

 若様はリューム様を抱えたまま、その場で優雅に一礼すると歩き出した。何事もなかったかのように自然に。

「ばいばい!みんな、ばいばいっ!今日はありがとう」

 

 リューム、またな!

 元気でね、リューム、またね!

 リュームちゃん、またここにおいでね!

 ばいばい、りゅーむ!!

 

 集まった人々も口々に見送りの言葉を言いながら、手を振って見送ってくれた。

 ワタクシも慌てて皆に挨拶すると、その後を追った。

 いや、いいのですけどね?

 なんというか、この二人の間にある暗黙の了解みたいなものを見せ付けられた気がして、正直驚いている。

 

 ・。・:::・。*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:。・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 そんなこんなの帰り道。

 リューム様は若様と一緒に馬上で揺られている。

 実はリューム様に目線で『ニーナと一緒に乗せてください』と訴えられたのだが、流石にそれは出来なかった。

 うん。ごめんなさい、リューム様。そうしたいのはヤマヤマなんだけど、ね?

 ほら、若様アナタを放そうとしないから。とても言い出せる雰囲気ではないのだよ。

 ワタクシは先ほどごっそりいただいた『おやつ』と一緒につく帰途でございます。

 

「タバサちゃんとララサちゃんと、お菓子を売って。そぇから、ルカ兄ぃとタリムとはハーブを売ったりしました。あと、ジルエルとはお花を売ったのです。楽しかったな」

 無邪気にそう告げる様は、幼子が今日の報告をするのと同じ調子だった。

 うっとりと目を細めて懐かしむ、その今を見ぬ視線の先にいるのは誰なのか――。

 頬を上気させる、微笑ませる威力あるのは今日出会った商店街および神殿前のみんな。

「そうか」

「――はい」

 その浮かれた心をすぐさま引きずり下ろすような若様の声の低さは、この少女を怯えさせるのには充分過ぎた様ですよ!

 

「・・・タバサとララサとは?」

「フォリウムさんの、飴屋さんの双子です」

(本当はもう、知ってますよね〜?)

「ルカとタリムとは?」

「ルカ(にぃ)のところは乾燥した薬草や、お花の種も売ってるお店です」

「ルカ()?」

「はい。みんなのお兄さん役で、面倒見てくれたのです。色々と今日も柱の影にいてくれました。

 ルカ兄、小さい子達の面倒見てたから話はできなかったけど、笑ってくれていたから充分です。

 ばいばい、ってさっき手を振ったの。ジルエルも一緒に」

「ジルエル。さっきの黒髪の少年・・・あれもオマエと同族か?」

「どうぞく?ジルエルは東の国から来たって言っていました。

 その、戦でおうちの方といられなくなったから、おじいちゃんの家に来たって。

 ちょと、変った子。イジワルだけど、優しいの。リュームに広場、案内してくれたり、一緒に歌を練習したり・・・・・・」

(それは聞き捨てなりませんね〜?若様?)

 

 馬上では若様、彼の知らない少女の過去を詰問しつつ。

 ワタクシは心の中で一人、ツッコミを入れつつ。

 

 そんな調子で無事に午後の捜索隊は任務完了でございます!

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