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第二十一話 シェンテラン家の主の求婚


『ばかに長い』です。


『小話』までもが・・・。

 

 早く終わって――。

 切にそう願った時間は長かったのか。短かったのか。

 実際はわかりません。

 ただリュームにとっては永く永く感じられたのは確かです。

 またしても息が上がり、肩が上下に揺れるほどには呼吸が乱れておりました。

 そこに嗚咽まで加わったものですから、目も当てられない状態でしょう。

 まるで久方ぶりの病の到来です。

 せっかく健康を手にしたのに、思いがけないご領主様の言動のせいで台無しです。

 それなのに!それなのに、ご領主様ときたら!

「申し訳ありません、公爵。コレは慣れぬ場にくたびれたせいか、ぐずり始めておりまして。

 実年齢よりも幼き精神の者ゆえどうかご容赦を」

 しれっとそんな風に言うものですから、悔しくてもがきました。

 出来ればその胸をドンっと突放してやりたくて。

『ぐずってなんていません!』

 言ってやりたいです。そう思う時点で既にぐずってますよね、わかっています。

 そもそもぐずらせたのは誰のせいでしょうねぇえ!?出来る事なら、指差しながらそう訴えてみたいものです。

 でもそれは叶わずで、ますます悔しい。

「ああ、ああ――。大丈夫よ。気にしなくても。リューム嬢、大丈夫ですからね。アナタ無理していたのね」

 ご領主様の胸にがっちりと抱きかかえられていては、遠慮がちに声を掛けて下さるルゼ様を見る事ままなりません。

 そもそも一体いつからルゼ様はこちらにいらしていたのでしょうか!

 そこに思い当たった時は、思わず気が遠のきましたよ!頬がかっと熱く火照ります。

 ご領主様の手が(うなじ)を撫でています。背に回された手でぽんぽんと軽く叩いてきます。

 まるで幼子にするかのような仕草に、何だって言うのでしょうかと腹が立ってきました。

 というよりも『大人の彼にあやされる子供でしかないリューム』という構図は、怒りを通り越して情けなくなってきます。

 多分それは『泣くな』という事でしょう。

 公爵様の御前です。わかっています。わかって・いーまーすーとーもー!

 出来ればそうしたいのはヤマヤマなんですけど、そうそう簡単に行かないのです。

 人前で涙を見せるなど、ソレをやると責められるのはこのお方でしょう。

 いい気味です。困れ困れ。困るがいいです。体裁の悪い思いを味わってみて下さい。

 

 そんな調子で、ぐずぐずとぐずり続けるリュームは引っ込みが付きません。

 それはそれは優しく気を使って下さるルゼ様をまともに見ることも出来ません。

「・・・っく、・・・ぇ・・・ぅっ、く・・・やだ、や・・だ・放して」

「あらあら。リューム嬢、そんなにくたびれてしまったの?

 リューム嬢のおめかしした姿が見たくてお義兄様には無理を言いました。

 アナタの体調が優れないというのにも関わらず、無理をさせてごめんなさいね?」

 違うんです。

 さっきからご領主様、酷いんです。

 さっきも――。

 さっきも・・・・・・!

「!」

 そこまで思い当たったらまた、ぶわっと涙がこみ上げてきました。言葉に出来ません。

 訴えようも無く、ただ泣きじゃくるしか能の無いリュームです。

 ルゼ様にも見られてしまったかもしれません。

 急にまた恥ずかしくなって、リュームは顔を見ることが出来ません。

 不本意ながらも離れ様としていた、義兄の胸元に顔を押し付けるしかありませなんだ。

 ・・・ガシャ、ガシャと控えめながら耳障りな音が、先ほどのギュルミナ様とのやり取りを思い起こさせました。

 細心の注意を払って、侍女の皆さん方がガラスの破片を速やかに片してくれている音です。

『どうしてアナタみたいなカラスが!』

 そんな悲痛であった叫びと重なります。

 どうして?

 本当にどうして、でしょうか?

 ソレはリュームにだってわかりません、ギュルミナ様。

 この方の言動はいつだって理解不可能なんですよ――!!

 そう、出来る事なら今すぐ叫んで訴えてやりとうゴザイマス。

「公爵。ここは危ないですから。まだ、破片がどこかに無いとも限らない。こちらには入られない方がよろしいかと」

「お気遣いありがとう。もう片付けも済んだようだから、大丈夫でしょう。

 あなた達、どうもご苦労様。手など切らぬよう気をつけてね?」

 もったいないお言葉感謝いたします――。そう、礼を述べると侍女の方たちは下がっていったようです。

 コツ、と乾いた音が響きます。どうやらルゼ様はこちらにいらっしゃるようです。

 リュームはいい加減なんとかルゼ様を見ようと、首を(ひね)りました。

 遠慮がちに(とばり)のドレープを持ち上げて、こちらを(うかが)っていらっしゃるルゼ様と目が合います。

「かわいそうに、リューム嬢。驚いたのよね?もう、大丈夫ですからね」

 相変らず余裕の笑みです。

 るぜさま、と言葉も無いまま唇をわななかせて、リュームはやっとの事で頷いて見せるのが精一杯でした。

 

 ・。・:*:・。・:*:。・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 ルゼ様に縋りつきます。残念ながら気持ちだけですが。

 何せ駆け出そうにも拘束されておりますから、身動きが取れません。

 視線だけがさ迷いながら泳ぎます。

「あらら、リューム嬢?放してもらえそうも無いようよ?」

 くす、と小さく笑われてしまいました。気恥ずかしくなってしまいます。

「ルゼさま、ルゼさま、ルゼさ・・・」

 助けてください。もう無理です。耐えられそうもありません!

 今それがお願いできるのはルゼ様だけなのです。ルゼ様が頼りなのでございます!

 そんなリュームなどお構い無しで、ご領主様は切り出されました。

「公爵。どうか先ほどの了承に上がる件の日取りをお決め願いたい」

「あらあら――。」

 くすり、というよりもニヤリ、という表現ふさわしくルゼ様が笑われました。

 何やらきらりと光宿る瞳には迫力があります。

 その笑みはご領主様に向けられているようで、その愉快そうに眇められた瞳はリュームの頭上にありました。

 な、なんでしょうか・・・・・・!?

 こ、この重苦しさのある雰囲気は?

 リュームが息を呑むほどのこの感じは、式典時の剣を渡す場に似通っています。

 恐らくは二人、またしても睨み合っているのでしょう。

 ルゼ様はフンと鼻を鳴らされると、ぱち・しゃらん、と流れよく扇を開かれ口元を隠されました。

 そうする事で深い緑の眼差しが、より一層強調されたように思います。 

「それは私よりも先に『了承』を()わねばならない相手がいるでしょうに。

 他でもない、貴方の腕の中にいる彼女(・・)にね」

「そうすればお許し願えると?」

「さぁ?彼女(・・)次第かしらね」

「・・・・・・リューム」

 背に回された腕の力はそのままに、顎を持ち上げられました。

 反射的に背けようとしましたが、思いのほか真剣な眼差しに射すくめられては固まるしかありません。

(お・・・怒られる!?)

 怯えも隠しようがないまま曝け出すしかありません。

 緊張の走るリュームをご領主様は、ふ・と軽く一息つかれました。

 笑われたようです。

「!」

 ――次の瞬間、またしても意味不明の行動に途惑います。

 む、と引き結んだ下唇の輪郭を、その親指でなぞるのは止めてもらえませんか。

 寒気が。そう、何だか背筋がぞわぞわするので止めてクダサイ。

「ジ・リューム・・・シェンテラン嬢」

「はぃ?」

 な、なんでしょうかな?嫌にあらたまって、ご領主様?

「このヴィンセイル・シェンテランの妻にお迎えしたい。どうか『了承』を」

 

 ・・・・・・・・・・・・妻?

 

『妻』とは『奥方様』の事ですか?

 誰が誰の?

『婚約者さま』は『ギュルミナ様』では?

 色んな疑問がよぎっては次々と現われます。

 リュームのお(つむ)では整理が追いつきません。

 そもそも、そんな事仰られるご領主様の気が知れません。

 正気の沙汰ではないように思います。

 何故でしょう?何故、リュームに?今、この場で?

 

 ただ驚いて。

 驚きのあまりに言葉を発するのも、発し方も忘れて、その信じられない発言をしたご領主様を見つめ上げました。

 式典の『シェンテラン家の鞘』としての『了承』は立会人としてのもの。

 このお方がエキナルドの領主に任命されたものとしての『了承』とはワケが違うって事くらい、リュームにだってわかります。

(ええ――と?それは・・・・・・・?どういう意味でしょうか?)

 そんな想いはこの一言に尽きます。

「そぇ、は『ご命令』ですか?」

「――――。」

 純粋にそう思いましたから、そう尋ねました。

 だってそうでしょう?

 何か・・・体裁とか。何かしらの理由があって、ギュルミナ様とのご婚約は辞退せねばならないから、とか。

 身近にリュームがいたから、それを一時的に利用しているだけでしょう?

 そういうことは前もって打ち合わせなどして、教えてクダサイな。そうでなければ対処に困ります。

 

 見上げた瞳が(すが)められた気がしました。ほんの一瞬でしたが。

 次の瞬間には背に回された腕に力が込められ、隙間がなくなるほど抱きしめられました。

 苦しいです――。そんな抗議を込めた眼差しで、リュームはご領主様を見つめます。

 長く無言のままのご領主様は何も仰らないまま、ただ静かに見つめ下ろしてきました。

「ほら、ごらんなさいな。未だにこの子の心は幼いと貴方自身が言ったばかりでしょうに?受け止めきれる状態ではないの」

 苦笑しつつ、というよりもなじるようなお言葉でした。

「・・・・・・。」

 ご領主様はそれに対しては何も返さず、変らずリュームを見下ろしているばかりです。

 静かに見つめられ居心地の悪いったらないリュームは、少しばかり身体を捩って抜け出そうとしました。

 もう解放してくれないかなと思いながら、両腕も突っ張ります。

 そう、エキが『だっこは嫌!』と拒絶するときみたいに。

「や・・・・・・。」

「リューム」

 ご領主様に後ろ頭を押さえ付けられてしまいました。そのまま、再び抱き寄せられてしまいます。

 腰周りにも彼の腕が回っています。それが先ほどのイマシメよりも、心ばかりですが強さを増しました。

 つぶされはしませんでしたが、ありえませんな状況です!

 温もりに包まれる安心感は否めないものの、苦しくもあり混乱してしまいます。

(ど、どうされちゃったのでしょうか?ご領主様?)

 出来れば彼の表情を見てみたいとは思ったのですが、この体勢では無理でした。

 常はわからぬ彼の感情が、回された腕や、頬を預ける胸板から感じ取れそな気がしないでもないですが。

 

「見たところ、貴方焦りすぎだわご領主・・・ヴィンセイル殿?」

 ルゼ様が笑いをひそめながら仰る言葉に、リュームは驚きました。

 この方でもそんな時があるのでしょうか、と考えてぼんやりしてしまいます。

「まぁ気持ちもわからなくもないけれど?山ほどの縁談が舞い込む前に、貴方のものとしらしめたい(・・・・・・)気持ちは、ね。

 痛いほどよ。――豪商・メルシュア商会。ここの縁談をそう無下に出来るものでは無いでしょう。

 それに黙って大人しく、はいそうですかと引くような家ではなくてよ?あの家の利用価値・・・もとい協力は有力よ。貴方とて嫌というほど知っているでしょうに!流石の私も『口利き』を頼まれたら断る理由は何も無い。むしろ協力せざるを得ないと認めるしかないの」

 コレは、とご領主様は呟くとリュームの頭を撫で付けました。そうしてから言葉を続けます。

「コレは身体も弱く、病持ちだ。そんな大きな家に(とつ)いだとしても、

 負わねばならない責任という重圧に耐えられるとは思いません」

「そうね。わたくしもそう思う。何よりも大事な跡継ぎを残さねばならないのが、()した女の定めでもある。差別に満ちた哀しい事実だけれど、そこは貴方にも言える事ですよ。その覚悟はあって?シェンテラン家の主人」

「コレに無理はさせぬつもりです」

「そう。もし跡取りに恵まれなければ別に妾を持つの?」

「いえ」

「そう。では、その子は『妾』の立場に()えればいい。何も『正妻』等にする必要もない。それこそ、この子にとっては重荷でしかないのではなくて?シェンテラン家の正妻の座など」

「――公爵。それ以上は、コレに聞かせるのはお控え願いたい」

 それはまるで庇うように、耳を塞いでしまおうとするかのように。ご領主様の腕がリュームの頭を抱え込みました。

「あら。お義兄さまはどうも過保護すぎですわね。大事なことよ。それをきちんとこの子には聞かせなさい。

 まずはそれからでしょう。そうね。席を外していただきたいわ。ヴィンセイル殿」

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 それは初めから拒否するのは許されない(たぐい)のものだって、リュームにだって解りました。

 ルゼ様は話があるのです。リュームと、二人きりで。 

「さぁて。ではこの子が領主の奥方(・・・・・)の座に相応しいか否か。

 それを見極めるためにも二、三質問したいわね?よろしくて?」

 それはリュームにではなく、ご領主様に確認を取るかのようにされた言葉でした。

 そう念を押されてご領主様は腕を解いてくれました。

 ようやっと解放されたリュームは、やっと自由に息が出来た気がします。

 

「口づけは」

 

 ―― 交 わ す も の で あ り 一 方 的 に 押 し 付 け る も の で は な い わ ね ぇ ?

 

 ご領主様の立ち去り間際、すれ違い様にルゼ様は歌うように呟かれました。

 その真横で一瞬だけ足を止めたご領主様に、なぜかひやりとしたものを感じました。

 そのいつもリュームを怯えさせるに充分なソレも、ルゼ様にかかっては取るに足らないもののようです。

 そんな事はお構い無しでさっさとご領主様を追い出すと、リュームへと向き合います。

 にっと笑われて、思わず一歩下がってしまったリュームです。迫力負けもいいところでしょう!

 

手強(てごわ)いなぁ、リューム嬢。ヴィンセイル殿もだけど」

「?」

「自業自得とはいえ――。アナタのお義兄様には同情する」

 ほんの少しだけれど、と付け足して笑われました。その瞳はちっとも笑っていないのが、気がかりです。

「いやぁ、今日は面白いものをたんと(・・・)お見せいただいたわ」

 

 そんなルゼ様におでこをぽん、と扇で一打ちされてしまったリュームでございます。

 


『おいぃ!!』


誰かこのお方止めてください、って気持ちで書きました。それはルゼにお任せする気分です。


『小話・・・じゃないよね?もはや。』


――カララン♪

 

 と、扉を開けると同時にベルが鳴った。

 それはこの家の住人に来客を知らせるためのものだろう。

 

「いらっしゃいませ」

 可愛らしい声に出迎えられ、ワタクシめはその声の主に言葉を失うほど感動した。

「なっ・・・・・・!」

 何と言う可愛らしさかと思った。

 かわいい!かわいい!!か〜わ〜い〜い〜!!

 セピア色の波うつ髪は豊かに長く、頭の高い位置で二つに分けて結い上げられている。

 それがまた少女の活発そうな雰囲気に良く似合っていた。

 ぴょんぴょん跳ねるといいだろう。ウサギさんみたいで。

 それにこの少女の深みのあるすみれ色の瞳は、くるくると良く動く。

 あわい水色の生地の、フリルの付いたエプロンドレスがまた良く似合って!

 少女自身がまるで砂糖でこしらえた菓子のようではありませんか。

 

 うちのリューム様とはまた趣の違う美少女だった。年の頃は十歳前後だろうか?リューム様より少し幼い気がする。

 その血色のいい、ぷくぷくのほっぺはバラ色ってやつだ。そこで少し胸が痛んだのは、うちのお嬢様の頬を思い浮かべたからだった。

 白く透き通った頬が自然と紅さす様になりますようにと願いながら、お世話してきた。

 はにかんだ笑顔を見せてくれるのは、少しづつ応えてくれるようになった証。

 うちのお嬢さまは、ほんの少〜しだけつり目なんです。

 豊か過ぎる睫毛と彫りの深い二重が、それを打ち消しておりますがね。白状しましょう。

 初めて少女と会った時は「子猫みたい。しかも野良ちゃんの」等と思ってしまったフトドキ者はワタクシです。

 

 このお嬢ちゃんが春の華やかさをまき散らかすお花なら、うちのリューム様は夜露に濡れた白バラがいいだろう。

 どこか気品と幼いながらも思慮深い、落ち着いたオトナの魅力ある子なのだ。ふと心配になる。

 そこがまたえもいわれぬ色気を醸し出す少女に、よからぬ思いで近付く者がいないとも限らないからだ。

 いい加減、本気をだして捜索に当たろう。

 

 ええ。ワタクシ美少女が大好きですが――何か?

 

 〜・★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★・〜

 

 そんな感動と焦りに内心打ち震えていると、思わずいらないところに力が入ってしまったらしい。

 目の前の少女の瞳が戸惑いがちに揺れた。

 そりゃそうだ。いくらなんでも見つめすぎだ、ワタクシよ。

「あの、お菓子がご入用ですか?それともキャンディーでしょうか?」

(君を!)

 なんちゃって。

 そんなおっさん思考はモチロン表に出してはなりません。

 

「菓子ではない。ここの双子・・・」

「うん!お菓子も欲しいけど、ちょっとお尋ねしたいことがあってね!

 ここの看板娘って双子って本当?もしかしてアナタがそう?」

 抜群の瞬発力を発揮して、ものすごい勢いで若様の言葉を遮った。

 この方に少女を思いやれとかいう方が土台無理なので割り込んだ。

 でなければ目も当てられない結果になるのは目に見えている。

「あ、はい。お姉さん、なぜソレを?」

「うふふ〜のふ。あのね〜もしかして『ララサ』ちゃん?」

「え〜!?お姉さんもここの生まれですか?」

「違ったか。では『タバサ』ちゃんですか?」

「はい、タバサです、けど?」

「では、リュームさ・・・ちゃんをご存知ですか?」

「リューム!!はい!モチロンです。ずっと一緒に遊んでましたけど、もうずっと会ってません」

「そっか〜。じゃ、今日はここのお店には来ていないのね?」

「はい・・・リュームどうかしたのですか?お姉さん達は一体?」

 

「リュームの『義兄あに』に当たる者だ」

 

 きゃわきゃわ女同士で盛りあがっていたせいで、その存在をうっかりすっかり忘れていました。ハイ。

 しかも――なんだその自己紹介。

 さりげなくも『リュームはうちの子だから。』を露わにせんでもいいでしょう。も〜〜〜!

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 

 

「とーさーん!!行ってきますー!」

「はいよ。気ぃつけてな」

「はーい。バイバイ」

「はいはい。バイバイ」

 少女が無邪気に父親に手を振って見せた。父親もそれにならう。親子の儀式なのだろう。

 見ていて微笑ましかった。

 そのまま駆け出す少女。その背を見送る父親。

(おじさんはこんなかわいいこをいつかお嫁に出すのか〜しかも二人も。泣けるね。その日を思うと)

 そう思って実に余計なお世話だが、ここん家のお父さんには密かに同情した。

 

「ではタバサ。案内しろ」

「・・・ハイ」

 おい。イキナリ呼び捨て命令口調はやーめーろー!

 この子が怯えたらかわいそうだろうに。

 しかし案外少女に応えた様子は見られなかった。さっすが。

 やっぱり商店街の子だけはある。いろんな大人たちと仕事をしているから、鍛えられているに違いない。

 それを思うとリューム様は過保護にしすぎているかもな、とちらと思った。

 それは少女のせいではない。そもそも少女は元々、ここの子だったのだ。

 案外鍛えられているに間違いないに100・ロートだ。賭けてもいい。

 ちなみに100・ロートあればここのキャンディーが一つ買える。

 

「お姉さん、はぐれると悪いから」

 そういって無邪気に手を繋がれた。少女の手のふっくらした感触に、思わず頬が緩む。

「おにいさんも!」

「「!?」」

 無邪気ってすごい。ある意味、尊敬すらしてしまう。

 勢いのままに若様も手を取られてしまった。

 ぶんぶんと嬉しそうに、タバサちゃんは手を振り回すように繋いでいる。

(何だろう・・・このシアワセな図は!)

「ねぇねぇ、おにいさんとお姉さんは『お付き合いしている仲』なの?」

「「違」」――う。――います。

 否定の言葉は仲良くかぶった。

 それはない。断じてない。

 よくて好敵手だろう。さしずめ恋(?)の。リュームという一人の少女を巡っての。

 

 だからと言ってワタクシめにそのような性癖がない事は、誤解の無いようここに明言しておく。


まだまだ続く(!)

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