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第二話 シェンテラン家の闇夜のカラス


リューム、体調がいいので調子付いてみましたが★


・・・・・・が。

 

 この方が私を呪った相手――。

 

 ・。・*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:・。・

 

 

 思えば夢だったのかもしれませんね。ええ。本当に――夢を見ているのかなと思ったものです。あまりに――・・・一度にいきなりこんなに恵まれたものですから、きっと夢なんだろうなって。

 

 こんなにおいしいもの食べたの、リュームは『初めて』でした。お腹いっぱい食べれたのも久しぶりでした。

 温かくって、こんなにもお腹と心を満たしてくれるスープは感動ものでした。

 それから。暖かい上質な掛け物が用意された寝台は、ふかふかしていて気持ちがいいのです。驚きました。

 だってここでこれから、毎日休んでもいいと言われたから。

 ここはリュームのための部屋だから、好きにしていいんだよって。

 

 

 だからあんまり夢に・・・浸りきってはいけないな。夢から覚めたらきっと・・・うん。何もかも霧の彼方だろうからと思ったものです。そして現在――7年経ちましたよ。

 

 夢を自分で終わらせようと決意した次第です。

 

 ナゼかって?――その夢にいられる価値がどうやらリュームには無い、という判断からです。

 前々から気が付いていましたが、何分子供でしたので分別など持ち合わせていなかったのです。図々しいですね〜・・・。

 

 お義父様もお亡くなりになり、母も後を追うように亡くなったから。

 

 あの方の視線が物語る『真実』に。・・・・・・目を覚まさねば成らないときが、いよいよ。

 ――いよいよ、来たな・・・の判断からでございます。

 

 はい。

 

 わたくしめこと、ジ・リューム・タラヴァイエですが。亡くなった実父がかろうじて貴族の親戚筋(本家の分家の分家のそのまた分家)の役職持ちだったため、一般庶民よりもほんのわずかばかり(ここを強調したいと思います!)身分持ちでした。

 おかげさまでリュームは、幼くして働かんでも済みました。字だって習えたから、読めるんですよ。

 これはなかなか幸先のいい、スタートだと思ったものです。

 大事ですよ。字が読める、っていうのは。上手い事行けば、女の身であっても役職にありつけるかもしれませんからね。

 よーっし!おとーさまの後釜狙って行こうかと、張り切ったものです。

 

 女の身であっても教養は大切だと、説いてくださったおとーさまには感謝です。

 そうです。このままちょいとがんばって、おとーさまとおかーさまを楽させてやりましょうか!

 そんな野望。あの頃は。ええ。

 

 そんな頼りのおとーさまが流行り病であっけなく亡くなったのが、9年前でございます。

 あ〜・・・おとーさま。

 おかーさまは、ただただ泣きじゃくるだけでした。亡くなった母ですが、はっきり申し上げて『働くのは不向き』でして。

 こりゃ、まずい。

 正直そう考えましたね。

 なにせ蓄えはそう多くもないし、お嬢様育ちの母もこの調子だし、リュームはまだまだ子供だし。

(良縁を望むべく動こうにも頼れる親戚もいやしない!しかもおかーさまに稼ぐ能力は限りなく・・・0に近い!――どうする?これから、どうやって生きて行こうか?)

 

 

 そんな調子で哀しいんだか。これからの先行きに、ただただ不安だけが募る重みに泣きたいんだか。

 なにやら子供の分際で身の上を案じる状況で、嫌に現実的な自分が憐れなんだか。(たくま)しくってよろしいんだか。

 

 ・・・とにかく!泣いてる場合じゃ、ないですわね。って言う結論に達しましたの、9歳です。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 ずーるずる・・・・・・。引きずられています。文字通り。

 腕に食い込むご領主様の大きな手が、まるで頑丈な縄のようです。そんな調子でしっかりと掴まれては、嫌でも足は前に進みます。

 一応抵抗を試みているんですけどね。その場に止まろうかと。しかし、力の差は歴然。

 リューム < ご領主さま。

 何気におとーさまが教えて下さった『数式』とやらを、用いてみる私。こんな時にしか使い所を思い浮かばない私。

 

 ・・・・・・嫌ですもん。『拘束』何て。あ〜あ〜・・・いよいよリュームも『前科持ち』かなぁ。

 始終この方を煩わせているのは我ながら『公務執行妨害』とか?『不敬罪』とか?

 ――ってぇのに、分類されるかも。まずいかも。

 

 思考から見れば割とのんきに構えていますが、心臓はばくばくうるさくて仕方がありません。

「・・・・・・。」

 ハッキリ言って恐ろしくて、なかなか声をかける勇気も出ません。

 何でしょう・・・本当に。この方を包む暗ーくて冷たーい空気は。こりゃ、下手したら手打ち(・・・)かも。

 

 このさっきから嫌〜に昔の事が思い返されてしまうのは、アレですか。

 俗に言う人が今わの際に思い返す、これまでの人生とか言う・・・・・・ものですか?

 ふぅ。やれやれ。そうとしか思わない自分をちょいとばかり、哀れんでもいいのではないかと思えてきます。

 

 どこまで行くんでしょう。カッカツとご領主さまの靴音が回廊を響いて、先に渡っていきます。

 そこに続くは(続いちゃいないけど)、ずるずるずるーっと表現するのが相応しい私の足音。

 

 ご・りょう・しゅ・さま。

 

(頭の中ではきちんと発音出来るんですけどね)

「・・・あ、あ、あの?ご、りゅ、・・・りゅしぅ(・・・・)さま?」

 また失敗。リューム、舌の回りが悪いのです。

 今から2年ほど前に高熱を出して死に掛けてから、少し口に麻痺が残りました。――後遺症というモノです。

 それがこの方を余計に苛立たせるのは承知しておりますが、もういいです。構ってるばあいじゃありませんから。

「・・・・・・。」

 ずるずるが止まりました。でも見つめ上げても、こちらを向いては下さいません。

 何の返答もありませんが、止まってくださったのは聞いていてくださったと言う事。

「リュームをどう・て拘束すぅのですか?わかりません。私、もう元気にな・たからご迷惑をお掛けしぁくて済むように、一人で生きていけまぅよ?」

「――・・・・・・。」

「ごりゅ、しゅ、さま。お義父さまも――お亡くなりになりましたから、も・仕方なく取り決め(・・・・)に従わなくともいい・のですよ?」

「・・・・・・。」

「リューム、もうこぇ以上ご・・・ごりゅ、しゅさまの邪魔になりたくありません。この館にいても私、何の役にも立てませんし。ず・と・・・考えていたです。『身体を丈夫にして、元気にな・て一人で生きて行こう』って」

 

 思えばこんなに長く自分の意見を申し上げたの、初めてです!おお!――ちょっとは進歩したかな?

 自分がつっかえつっかえ話すたどたどしさが、たまらなく情けなく耳障りだから。

 それこそおぼつかない子供のままみたいで。

 そう思われるのも怖くて、なるたけこの方の前では短く切り上げていたのです。

 ――苦手な発音は避けれるだけ避けて。必死に『普通』の子でいたいと思いましたから。

 いつもと同じ話し慣れた言葉ならば、ゆっくりならば大丈夫なのですが・・・・・・。

(『申しわけございません』『ごめんなさい』『わかりました』など等なのがちょっと・・・何ともはやですねぇ)

 そこにこの精神的圧力が加わりますと、もう!――話は別でございますですよ。

 

 

 しんと静まり返った回廊は恐いくらい穏やかです。これほどまでに私の心中とは反した情景も無いでしょうよ、ってくらいに。

 日も昇りきり、心地よい風が吹きぬけていく春の一日。

 リュームの新たな旅立ちに、なかなか相応しいサワヤカさがある気がしたのですが。気のせいでしたか?

 あまりの重苦しさに自問自答。おかしいな。今日の午後には街には着いている予定だったのにな。

 

 ぴちちちちちち・・・・・・・・。

 

 ――高らかな小鳥のさえずりが耳に心地よいのが、せめてもの救いです。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

「――言いたい事はそれだけか?ジ・リューム・タラヴァイエ!このカラス娘(・・・・)!」

 勢い良く振り返るとご領主様は、大声を上げました。押し黙って聞いていたけど、もうかんべんならなくなったご様子です。

 

 ピィ・・・ッチチチチチ!!

 

 ・・・・・・明らかに警戒音を発しながら、小鳥さんたちは飛び去った模様。驚かせてすみません。でも羽根があるっていいですね。

 好きなところに飛んで行けますモンね。逃げて逃げて。――あの空の彼方。

 

 今のリュームで在っては、とうてい渡りえない広い広い青空。思わずこのお方越しに仰ぎ見た空の青さに、心がふっと軽くなった気がしました。

 きれい。私も自由に飛んでいけたらいいのに――。

 そう願ったほんのつかの間。リュームの心はあの大空にあったようです。

「――おい?リューム・・・どうした?」

 いくらか低められた声音に我に返ってみれば、深い緑の眼差しとぶつかりました。

(あれ・・・あぁ・・・そうか。この方は・・・わたしの・・・?)

 

 わたしの。――何でしたでしょうか?

 

 あまりに間近だったため息を飲んで、せわしなく瞬きを繰り返しました。

 いつの間にか両方の二の腕を掴まれて、乱暴に揺すぶられています。

「あ・・・ぇ?」

「おい、こらカラス。――しっかりしろ。正気に戻ったか?・・・珍しいな。リュームが言いたい事を抑えず俺にぶつけてくるのは。・・・ずいぶん、久しぶりだ。生意気め、もう気が済んだか?」

 

 はい。カラスカラス。リュームの髪と瞳は真っ黒なので。そう呼ばれます。カラス娘、羽根が無いのが残念です。

 見栄えのしない、不吉な黒・黒・一色です。それが何か?カラスさんに謝ってください。ネコさんにも。ちょっと、むか。

「いえぇ?まだまだ。盛りだくさんぇ、ございます。お答え下さい、お館様。リュームなんて放・ておけぁいい・ないですか?」

「は!放って置いたらおまえ。何をしでかすか解らないからな。それでなくてもオマエは目立つんだ――カラス娘(・・・・)

 そうなのです。この国の人たちの髪と目の色は、それはそれは鮮やかなものが多いというのに。

 色彩の明度に差こそ有りますが基本、金糸のような髪にキレイな青やら緑やら紫やらの瞳。この世の中の美しいものを映したかのようですね。羨ましいです。

 そんな中に紛れ込んだ、リュームと言うカラスが一羽。それは良くも悪くも人目を引くのです。

 ど・しょっぱなから『オマエを例え義理でも妹とは認めない』と宣言されるのも頷けます。はい。

 この目の前のお方もこの国の基準から、外れちゃおりませんから。

 雨に洗われた常緑樹の森を映した瞳に、存在感の強い光を放つ、金の髪がサラサラです。

 サラサラ加減ではリュームも張り合えそうですが、だからどうしたですね。すみません。

 

 このお方のお母様はそりゃ美人さまだったそうで。百聞は一見にしかず!!と、はりきってこっそりお義父さまに頼み込んでみました。誰にこっそりかといいますと、おかー様と・・・もちろん・・・この方です。多分――ものすごく嫌な気持ちにさせてしまうかもしれないな〜っと考えましたので。

 こそこそする罪悪感もありましたが、好奇心には勝てませなんだ。お許しを。

 

 そこで初めてお目にかかったご領主様の『お母様』は・・・この方の『女性版』?生き写しってものですかね。素晴らしいものを譲り受けましたね、と肖像画を見せて頂いてリューム納得。

 ・・・・・・おかー様!大丈夫、おかー様はお色気では微妙に勝っている気がします。(身内のひいきを差し引いたとしても。)

 リューム?

 わたくしは〜まぁ『おとーさま』譲りですかね。カラスなのは闇夜からとでもしておきましょうか。ハイ。

 

「む〜・・・そぇが放り置けなぃ理由のお答えでぅか?」

「・・・病弱のくせに。一人で生きて行けるわけなかろう?」

「ですぁ・ら、もう健康ですよ。咳もしなけ・ば、熱だって出てません」

「それもここ五日ばかりの話だろう!」

「五日間も咳も熱も出なか・たのなぁ、もう大丈夫です!お薬だ・てもう要りませ・から、飲んでませ・ん」

「何を根拠に言うのだ、リューム?」

「――・・・自信が有りぁす。リュームもう、健康です。だ・ていつも身体に力が入らなくて、口ごたえすぅ気も起きませんでしたが。今は違いまぅもん!」

 

 そう。もう・・・おかー様もいませんから。いつも不興を買ってリュームのせいで、おかー様まで被害を被ったらどうしよう!

 っていう心配もですね、しなくていいのです。不興を買うのはリューム一人。何とも気楽です。

 

「そのようだな、リューム?それでもおまえは・・・自分がよほど大切じゃないと見える」

「――そ・・・ぅれがなにか?」

 流石に。その凄みのきいた声音に、ちょっとばかり引けました。気持ちも身体も。

(ええい!怯むな、負けるな、ガンバレ・リューム!!)

 自分を奮い立たせます。心臓が相変らず痛いくらい早いですけど。

 ――息がしにくいんだか、息切れを起こしそうなんだかもはやわかりませんが、ぜぇはぁ言い出しそうです。

(何!なにをぉ〜!気力。こんな時はおいでませ『気力』!!)

 負けるもんか(何にだ)とぎゅっと目を瞑って、拳に力を込めました。爪よ、食い込めとばかりに。

 

「――何が””花を売る””だ・・・。誰がオマエから買うか、ばかめ・・・・・・」

 勝ち誇ったように唇の端を持ち上げて言い放たれては、なけなしの自尊心を保つのもままなりません。とほほ。

「それは・・・・・・リューム、『カラス』だぁらでしょか?」

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*・。・

 

 おかー様よ。

 やたらきれいだった、おかー様が浮かびます。

 リュームが『この先どうやって生きていこうか?』と、いよいよ本格的に途方に暮れ始めた頃に・・・・・・。

 あっさり。

 ””リューム。お母様、再婚する事に決まったの。喜んでちょうだい。もちろん、リュームも一緒に行くわよ””

 ――・・・ぇえ!?どこに?どこにですか?いつの間に!!

 ””ふふ。何と『シェンテラン家』よ〜。もちろんお母様の身分上、お妾さんだけど。いいでしょ?””

 ――・・・ええとぉ、おかー様?・・・そこに『愛』はあるのでしょうか?

 ””嫌だわ!リュームったら、おませさん!もちろんじゃないの””

 

 やりますね、おかーさま!さすが。期待してなかったけど。

 最後の最後でご自分の魅力を余すところ無く、かつ遺憾なく発揮して!御領主様に気に入られるとは。何やったんだか。

 結局・・・最後の最後まで、教えてもらえませなんだ。

 しかも。――しっかり、ちゃっかり。『お妾さん』どころか『後妻さま』になってるし。何でだ。

 

 ””だってぇ。リューム・・・まだまだかわいい『子供』のままでいて欲しいんですもの。親心よ””

 ――そうですか〜・・・じゃ、リュームがオトナになったら教えてくださいまし。

 ””いいわよ。リュームがうんと魅力的な女性に成っている頃に、おかー様が直々に殿方を『めろめろ』にする秘策を伝授してあげますからね!ふっふっふ〜””

 ――・・・め、めろめろ・・・ですか〜はぁ〜??

 

 かくして。リュームはシェンテラン家の養女となり・・・現在に至るっと。

 

(めろめろかぁ〜結局、聞かず終いでしたね。ま、いいですけど。天の国とやらでおかー様にお聞きしましょう・・・・・・)

 ちなみに。おかー様は天の国では、『おとー様』のお側でしょうか?それとも『お義父さま』のおそばでしょうか?

 ああ、でも、お義父さまは先の奥方様のお側かな?

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

「リューム?――貴様本当にわかっているのか?『自分の立場』を。わかっていないな?」

「わ、わか・ていぁすとも!」

 

 ひー!こわいこわい!!やっぱり怖いモンは怖い!!

 何が?――この方が。嫌でも腰帯に()いた剣に目が行きます。

 

 こんな調子ですがリューム軽く、覚悟決めちゃってます。来るならこい。ずばっと行け。出来れば一息にお願いします。 

 

「いや。わかっていない。ついでに己の力量もだ。計れずにいるから、自分よりも遥かに力の強い者に食って掛かる気を起こすんだろう」

「・・・・・・。」

「――己の身をわきまえている者なら、けっして取らない愚挙だな。自分がどれほど危うい立場にいるか、理解していないようだな」

「・・・・・・。」

「どうした?もう口答え(・・・)はオシマイか?」

「・・・・ぅ・・・・・ぅ・・・え、っ・・・」

 ――怖い・・・怖いです。やっぱり、怖いものは怖い。情けないです。

 こうも身動き取れずに間近で睨みつけられた上、お怒りのお言葉はほぼ脅しで成り立っているとはいえ。

 

 情けないナァ。

 ほんとうに。

 ただなす術も無く

 泣き出しそうな自分が

 たまらなく情けないです。

 

 それでも最後の強がりで気力を振り絞って、嗚咽を飲み込みます。かみ殺すというか。せめてもの意地です。

 

 ――・・・でしたが。・・・が!

 

 ・ウウ!ワン!!ヴァン!!!ワンワンワン!!!

「〜〜〜!?」

 いつの間にか駆け寄ってきていた犬に吠えられました。

 ワンワンワンワン!!・・・ヴァン!!ウウ・ワンワンワンワン!!

 犬は巨体を低く構えて、今にも飛び掛らんばかりの勢いで吠えたてます。

「――退け。シンラ」

 シンラ。そう名を呼ばれた彼は、リュームの事が大嫌いな――ご領主様の猟犬なのです。

 犬は飼い主に似るそうですので。シンラはリュームを見ると、いつも酷く吠えるのです。

 きっと嫌われているからに違いありません。犬は一番強い者に従うけど、弱い者はバカにするそうですから。

 彼の中で順番は確立されているのでしょう。

 

 ウウ・・・・ワンワンワンワン!!ヴァン!!ヴァン!ワンワンワンワン!!

 

 主が退けと命じているのを無視して、シンラは吠え続けます。

 オオカミの血を引く優秀な彼が吠えると、リュームは震え上がるしかありません。

(――怒ってるんだ、きっと。リュームが主人に逆らって生意気だって、シンラも怒っているんだ・・・・・・か、噛まれるっ)

 

 いつもなら逃げるのですが。今日はそうも行きません。がっしりと肩を固定されたままで、身をすくませて瞳を閉じました。

「う、ぅ・・・えぇ・・・っく」

「リューム・・・。いいから退け、シンラ!」

 何かを訴えるかのように、シンラのうなり声は止みません。

 ひどく興奮していて、いつもならお利口さんのはずの彼が・・・いっこうに鳴きやみません。

 牙をむき出しにして、リュームに向かって吠え続けるのです。

 

「シンラ!!」

 どうしたんだ、とご領主様が続けたのとほぼ同時に。

 

 シンラが飛び掛ってくるのを、嫌にゆっくりと感じました――。



『ジ・リューム・タラヴァイエ』


いやに強かな精神力の子。


身体の弱さを補って余りある、忍耐力の持ち主。


髪は黒。瞳も黒。


カラス娘は、何も黒いばかりじゃございません。


カラスはなかなか賢いのです。


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