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第十八話 シェンテラン家の首飾り


はい。きた、R指定。


まだまだ、なまるいでしょうが。

 

「終わりにしたい?」

「ぅ、はい」

「俺とリュームの事か」

「そ・です」

 それ以外に何があるってんでしょうか。

「義兄妹であって・・・兄と妹ですらない、この関係です」

 どうせ最初っからお認めですらないでございましょうよの、この関係です。

 

「だからオマエを他家に出せと?」

「はい」

「――そうできるのならば、とっくにそうしている」

「そうですよね」

「何だ?そのわかった風な物言いは?」

「え?だってリュームが病弱だから、どこにも貰い手が無かったのでしょう?

 それでも、だいぶ丈夫になりましたから、大丈夫だと思うのですが」

「・・・・・・。」

「カ、カラス娘だからみっともなくて、というのもありますね」

「・・・・・・。」

「そ、そですね。他にも色々問題ありですからね、リューム。なかなか・・・それは貰い手が無いわけですね」

 自分の事は(わきま)えているつもりでも、いざ実際口に出してみると落ち込むものですね。

 気分はどんよりです。おかげで、さっきまでの勢いが無くなってしまいました。

 暗がりの中、しょげ返っております。

 

「リューム」

 ふいに名を呼ばれ、何でしょうかと口を開きかけたその時です。

「ん、むっ!?」

 声がくぐもってしまいました。

 何やら唇を押さえられてしまったようなので・・・って、はぃ!?

(ええっとぉ?)

 呼吸しづらい上に、生温(なまあたた)かいのですが。

 湧き上がってくる熱から逃れたいと、身を捩ります。

(ぅわ・・・っ、ぁ)

 きっと逃れようの無いものだとはわかってはいても、そうせずにはこの身が持ちません。

 身を任せ切ってしまってはいけないとだけ、それだけに縋ります。

 きっと、身を任せ切ってしまったら最後・・・取り返しの付かない事になる予感がします。

 痛いくらいに苦しいのは、どこでしょうか?

 もはや自分の身体であって、ないような感覚に眩暈(めまい)がします。

 目を固く閉じているのに、頭の中がぐらんぐらんします。

 世界が回っちゃってますよ、誰か助けてくださいですよ。

 

 それはきっと吐息に混じった酒気のせいに違いありません。

 微かに舌をシビレさせる、このお酒の味のせいに違いありません。

 くっそぅ!未成年に何て事をしでかしてくれるんですか!

 リュームはその昔、お酒飲まされて大変な事になったのを忘れたんですか!!え〜と、確かアレは・・・アレはっ!

(だ、だめだっ、ぅぇええ〜〜)

 思考を過去へと飛ばしてみますが、嫌でもこの与えられる熱と感触の生々しさに現実に引き戻されてしまいます。

「ん、」

 少しでも逃れたい一心で抗議の声を上げようとすれば、容赦なく悲鳴ごと飲み込まれていくようです。

「っ、ぁ――」

 自分が出したのかと耳を疑いたくなるような、鼻に掛かった声に失望すらします。

 体中をぞわりとした感触が這い上がって、波のように押し寄せてきます。

(イヤだ!)

 自分が目を開けているのか、頑なに閉じたままなのかすら、こうなってくるともうわからなくなってきます。

 顔を背けようとすれば、それすらも利用されてしまうような始末に終えない状態です。

 リューム、背中から伝わる石壁の冷たさが、これほどありがたいと思ったのは初めてです!

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 ――――・・・というか、ですねぇ・・・えええええええぇぇぇ!?

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*・。・

 

 ・・・ちゅ、と微かな音が届きます。

 やたらに響いて聞こえたのは、ここが静まり返っているせいでしょうか。

 微かに、しかし確かに、お互いの息が上がっておりました。

 いや。リュームなんぞはかなり肩が上下しちゃっておりますよ。

 まるで館内十周し終えた時のような疲労感に、虚脱感に襲われておりますよ。

(え?え?はぃ!?今、いったいなにがっ!?)

 これで、とご領主様が低く唸りました。

「これで。オマエが言う『今までの関係』はもう終わりだ」

「・・・・・・・・・・・・?」

 耳に直接囁きかけられた言葉に、問い返そうにも声が出ません。

 

 一体なにが起こったのでしょうか。

 どうやらリュームのお(つむ)では、ソレを処理するのに追いつけませなんだ・・・!

 

 体がやたらと痺れております。

 体の奥深くからじわじわと湧き上がってくる熱は、いつもやり過ごして来たものとは全く別物だという事くらいは解ります。

 身体から力が抜けたようになって、支えられて立っているのがやっとです。

「リューム」

「っ!?」

 首筋を捉えられた途端に、体がビクリと跳ね上がりました。

 それから、体の震えが止まりません。――涙も。

 暗闇の中、温かな雫がぽろぽろとこぼれて頬を伝います。

 それが触れるご領主様の手を、濡らしたのでしょう。

 闇の中見えないながらも、彼の眉間が寄せられた気がしました。

「泣くな。泣き止め」

「ぅぇ・・・っく」

(そんなことを言われても、今アナタが取り返しのつかない事をしでかしてくれたせいではありませんか)

 何て反論すらする気も失せています。

 顔を背けようという抵抗は易々と封じられ、思わず大きな手に自分の手を重ねました。

 もちろん力を込めようとも、ビクともしませんでしたが。

「リューム、泣くな」

(だったら放して下さいよ、ですよ)

 思考だけは威勢を保つリュームです。

「・・・・・・!?」

 そんなリュームの瞼やまなじりを、温かな『何か』が押し付けられます。

 泣くな、とまぶたに。

 泣き止め、と眦を。

 リューム、頼む、と涙をすくうのは、ささやきを紡ぎ出すご領主様の唇です。

 睫毛の先まで震える気がします。

 それがリューム自身の震えによるものなのか、彼の吐息によるものなのかはわかりませんが。

 そのどちらも、認めたくもありませんが。 

 嗚咽の止まらなくなったリュームに、そんな事をしてはダメでしょう。

 ますます止まらなくなるってものでしょう。

 しかも、何気に『頼む』って仰いました事に驚きます。

 いつだって命令口調なアアタ様が、そのように仰るとは何事ですか。

 よほどリュームに泣かれると困るんですね、と嫌に冷静に判断つけちゃったじゃないですか。

 いいんですか、そんな下出に出て?

 リューム、今つけあがる気まんまんですよ?

 って『付け上がる』と言ったって、具体的にはせいぜいこうやって泣き止まないくらいしかできません。

「リューム、コレをやるから」

 ――だから、泣き止め。

 そう言われて、思わず吹き出してしまいました。

 子供じゃないんですから、といつもとは明らかに出方の違う彼に調子が狂います。

 これ?お菓子か何かでしょうかね?

 何て気の抜けたリュームの(うなじ)に、ご領主様の手が回りました。

 しゃららん、と涼やかな音色が耳元をすべりぬけます。

 リューム、首元に感じる冷たさに思わず身を引いてしまいました。

 それ(・・)にじわりと体の熱を冷ましてもらうかのような、ひんやりとした感覚にまた胸が震えます。

 

 首にかけられたずしりと重いその、暗闇にあってさえ存在感が尋常ではないこれ(・・)

 

 笑えませんから!!

 

 ――確かに涙は止まりましたけどね。ええ。

 

 ・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

「皆様お待ちかねでございます」

 

 広間の前の控え室に連れて来られ、改めて灯りの元で自身と向かい合いました。

 鏡台の前に座らされ、何もかも承知していたかのように控えていたニーナが、髪を化粧を整えなおしてくれます。

 いつも通りに。

 紅は――。

 改めて直さずとも充分赤く色づいている唇に、なぜか寒気がしました。

 自分自身のそんな姿もさることながら、何より己の首に掛かる首飾りに目を凝らしてみるばかりです。

 銀の台座にはめ込まれた大粒の紅色の宝石を中心に、やや小ぶりの紅玉が連なっています。

 その宝石の台座の下からは、銀細工の雫が揺れています。

 それが身に着けた者が身じろぐたびに、しゃらり、しゃらりら、と軽やかな音色を奏でるのです。

 音色と共に蘇るのは、在りし日の懐かしいお声です。

 『ごらん、リューム。この中央の飾りは柘榴石(ざくろいし)だよ。おお、そうか。リュームは宝石を見るのは初めてか?』

 そうかそうか、と優しく頭を撫でながら、教えて下さったのはお義父さまでした。

 

(え、と、コレはですね。確か、この館の女主人が持つものって、お義父様が教えて下さいました首飾りですよね?

 間違いなく、少し前までおかー様の持ち物で、その前はご領主様のお母様の物で、その前は――。)

 あわわわわわ、デスよ。

 何と言いましょうか。この重みを嫌でも感じてしまいます。

 この重み――。

 なぜ、今、リュームが感じているんでしょうかね?そんな調子で今ひとつ、実感に乏しいリュームです。

 

 代々のこの館の女主人が所有するもの、その(あかし)の首飾りですよね?

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 バルハートさんもニーナも、あまりにいつも通りなので、何もかも夢だったのではないかとすら思えてしまいます。

 すべて暗がりが思わせた錯覚だったのでは、何て。

 そう思いたい。ええ、はい。見たくないのです、現実・事実。

 そんな事を考えながらぼんやりと、ただ周りを見ているようで見ちゃいなかったのですが。

 バルハートさんが、無言でご領主様に手拭を差し出しました。

 鏡越しに、二人のやり取りをぼんやりと眺めるリュームです。

 鏡の中のご領主様は無言で受け取ると、口元を拭われました。

 拭い終わると、それをまた無造作に返します。 

「!?」

 バルハートさんが受け取った手拭が、うっすらと紅く色づいておりましたのを、リュームは見逃しませんでした。

(ああ、そうかぁ。リュームの紅が)

 紅が?

 紅が!

 ――うつったのか、何て認めたくない現実を突きつけられて、リュームはその場に倒れ込みそうになりました。

 

 そんな鏡の中のご領主様と目が合いましてゴザイマス。

「・・・・・・。」

「何だ」

 何も。

 そう答えようにも、声が出ませんでした。

 何も無いわけがないでしょうよ、リューム。

 リュームの髪を整え終わったニーナが、きっちりと礼を取りました。

 それは恐らく、ご領主様に対して取られたものでしょう。

 ニーナの流れるような退室の仕草すらも、ぼんやりと見送りました。

 扉の脇で控えていたバルハートさんともう一度一緒に、二人は頭を下げます。

 

 ――ぱたん、と静かに扉が閉められました。

 

 二人きりです。

 尋ねるなら今でしょう。

 コレは何のつもりなのかと。

 価値の無いカラス娘に、せめてもの付加価値として与えた『持参金』のつもりでしょうか?

 それとも。

 それとも?

『コレをやる』

 そう仰ったアナタ様の真意がいまひとつ、よく解らないのだけれどもリュームはどうしたらいいですか?

 

 鏡の中の彼が近付いてくる間も言葉を、答えを問いかける言葉を探しているはずなのですが・・・浮かびません。

「リューム」

 距離はあっという間に終わり、傍らに立たれたご領主様に手を差し出されました。

「行くぞ」

「・・・・・・。」

 どこへ?

 ああ、広間へでしたね。

 皆が待っているのは、誰でしょうか。

 どちらにせよ、そこで答えが示されるでしょう。だったら、尋ねるまでもないかと彼の手を取りました。

 

 預けた指先に、彼の唇が寄せられました。

 触れるか、触れないかの掠めるもの。

 どうせ触れるなら、それくらいの距離を常に保って下さいよ。

 なんて今さらながら、恨み言が湧き上がってくるような・・・優しいものでした。

 


(仮)「いよいよ15禁」〜なんちゅうタイトルだよ。

★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


「は〜い、ミゼル様〜広間はあちらですよ〜」

「ちょ、何!?」

僅かな灯かりの中、背後から両目を覆い隠された。ニーナだ。

「ミゼル様〜これ以上はなりませんよ。何せ、ミゼル様は14歳と半分ですからね〜」

「何よ、っ・・・っむぐ」

口も押さえられてしまった。

””それ以前に。こうやってのぞき見ようとしている、我々の方が問題だろう””

「はいはい、ケモノ様も行きますよ。お二人の問題ですからね〜このニーナも気になって、気になって、気になって

しっかたありませんが、仕方がありません。これ以上は踏み込んじゃなりません〜いきますよ〜」

リューム、とうい声は押さえつけられたまま、ニーナに引き摺られていくしかなかった。


〜小話とは別に、削った余計なシーンでした。〜


 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


ま・・・まだ、あるのか!


『侍女は見た!見守ってきた!★小話〜つづき〜』


「お夕食までに戻ると思いますか・・・?」

「何ともいえない」

今はまだ昼過ぎ。

ちょうど昼食を終えたばかりの時刻。

夕食までは確かに、たっぷり時間はあるのだ。

しかも。

今日はご領主夫妻は揃ってご公務で不在なのだ。

おのれ。計画的犯行か、リューム様。

まさか。まさか、まさか、まさか。

『家出』


思い当たる事がありすぎて、その可能性が否めやしないよバルハートさん!

ああ、そうだな・・・ニーナ。


二人、無言でかわすそんな思いのやり取り。

「どうしましょうか」

「とりあえず、館内は捜索するよう指示を出してある。しかし、どうやら先ほどの報告では・・・野菜の運び屋の

出入り場所付近で、リューム様が遊んでいらしたと・・・」

みなまで言わなくてもいいですよ、バルハートさん!

あああ〜もぉぉ〜、リューム様そりゃ街でちゃったわ。

本当に計画していたんだな、と妙に感心した後泣けてきた。

問題は・・・これを、あの方に報告すべきか。否か。


「行きましょう!いいえ、私ちょっとばかり心当たりがありますので、行ってきます!それから、」

「ニーナ・・・ヴィンセイル様はもうご存知だ。何せ手紙を見つけたのは」

――彼、だったと。

うっわ。

ははは。

もう、笑うしかナイですね、バルハートさん。

お互い、苦労しますよねぇ。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★


「心当たりだと?ニーナ、オマエも付いて来い。探しに行くぞ。あのバカ、見つけたらたっぷり説教だ」


そんな無言のやり取りを遮ったのは、冷たいお声でしたとさ。


りゅ、りゅーむさま!逃げてっ!


・・・っていうか、逃げたのか。


そんなワケで、午後の捜索隊の一員に加わりましてゴザイマス。


まだ、つづく。



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