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第十二話 シェンテラン家の祝福の道


早朝から色々と仕度だの、何だので慌ただしかったリューム。


はい、もうじき『晴れ舞台』ですよ。

その、一歩手前。

・・・まできました、がんばって。


 

 

 ご領主様は、あちらから――。

 聖堂の扉からまっすぐに突き進む。

 この真紅の”祝福の道”を辿り、”栄光”と称される祭壇へと至る。

 そうしてから、ルゼ様の御前にまで進み跪く。

 公爵様から任命のお言葉を賜った後、ご領主様の儀礼に(のっと)った了承と返礼の言葉を待つ。

 ・・・・・・その後です!

 いよいよ、いよいよ、その後がリュームの『勤め』なんでございますよ!

 ぜぇはぁ。

 そして・・・・・・。例の”作戦”なるものも『そのあたり』で実行(予定)。

 リュームはルゼ様の一部始終を見逃さないように、瞬きすら最小に抑えて臨む所存にございます。

 タイミングを見誤ったら最後、どのように物事が展開するかなんて。

 ・・・っはっはっはっはって、思わず苦笑い。

 じゃ、すまされませんから!

 落ち着けぇーリューム・落ち着けー・必死で落ち着け!って必死になってる辺りでもう落ち着きは皆無でしょう!

 リューム、思わず頭を抱え込んでその場に(うずくま)りました。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:・。・:*:・。・:*:・。・:*・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:

 

頭の中(・・・)で予行演習なるものをして、備えたいと思います!』

 力一杯拳を握り締めました。しかもソレを、小さく振り上げてその構えをアピールしてみました。

 ご領主様にこの聖堂に案内され、立ち位置なる物の確認をした直後の事でございます。

 

『――つきましては一人で集中させていただけませんか?』

 拳をそろそろと下ろしつつ、恐るおそる窺いますれば。

『・・・・・・あまり頭を暖めすぎない程度(・・・・・・・・)にしておけよ?』

 呆れたように呟かれつつも、許可が下りました。リュームはこくこくと頷いて見せましたが、ご領主様が『どうだか』と言い残されて行かれたのでその背を見送りました。

 優雅に――。ゆうがぁ〜に礼をとり。その実、舌を出し。その影を一瞬でありましたが、爪先で踏みつけてみたりして――見送りましたの。何が・・・どこら辺が『優雅』か述べてみろ!リューム!こういうのを慇懃無礼っていうのだぞ!ええ、存じております事よ!

 小さいなぁ〜リューム。本当に器、小さい人間だなぁ。我ながら呆れます。もっとこう違う腹いせは出来ないものですか?

『腹いせ。』ええ。先ほどの嫌がらせの数々に流石のリュームも、むっかり来てるんですの。

 ご領主様にはもちろんの事。何より、やられっぱなしの無力な自分自身に一番。

(どうしよう上着。早い所持ち主に返さないと〜・・・ねぇ?)

 ――原型から(いちじる)しくかけ離れる事、請け合い(かくじつ)

 

 ・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*・。・:*・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。

 

 蹲りつつやっている事は『頭の中で予行演習』どころか、今日が始まってから繰広げられている嫌がらせの数々

 ――の再演(・・)

(あああ〜もぉ〜・・・すっかりご領主様の調子にいいようにされてる感じで始まって、ずっとこの調子で来ましたよっ!)

 気配を感じさせないくせに、威圧感だけはたっぷり振りまかれてご登場。リュームが何より恐怖を感じるのを熟知されてらっしゃいますね?確信犯ってモノでしょうかね?

 そのくせ名前を・・・根気良く教えて下さったかと思えば、引っ張られて勢い良く転んで。

 そのせいで公爵様には笑われて、せっかくの淑女(の演技)も台無しデスよ。

 あげく――。本当に今日はどうしちゃったんですか、ご領主様。大丈夫ですか。それこそ春の陽気のせいで頭・・・温まりすぎちゃってませんか?

 この七年間はどうなったんですかというくらい、やたらリュームを構ってませんか?

 極め付けが、ミゼル様との。せっかく久しぶりにお会いしたミゼル様とのお茶の機会を、阻まれてしまいました!

(何だったのでしょうか。アレ(・・)。)

 アレ、とは。『ぐいっ』後、『ひょい』のアレです、アレ。

(持ち上げられちゃいましたよ!しかも片腕でって、どういう事ですか!)

 悔しい事に手も足も出ませんでした。出せませんでした。

 いつぞやの――『ずるずる』のち『ぐいっ』後の、『ぽいっ、どさ。』を彷彿(ほうふつ)とさせませんか。

 はい、させます。あの時感じた恐怖と悔しさが再び、舞い戻ってきております。

 だって。悔しいです。あんなに軽々とリュームの動きを奪うんですもの。歯が立たないって改めて思い知らされるから。

 思い知らされなければ、いつかは敵う気満々のリューム自体にもかなり問題あるとは思いますけど。

 ――相手の力量が読めずに挑んでいくのは、確かに身の破滅を招かざるを得ないと。

 この間身に染みて学習したばかり・・・じゃなかったのでしょうか、リュームよ?

 定着していなければ、学習した事にはならないのだぞ。と、おとー様の言葉が思わず蘇ります。――はい。

 

 まずは置いておきましょう。それより何より。リュームはこれから臨まねばならない『勤め』があるのですから。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。・:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:*:・。:

 

 頭が暖まりすぎる前に、切り替えねば――。

 そう考えをまとめて、リュームは立ち上がりました。慎重に。でなければ、くらりとしてしまうので。

 

「――!?」

 どなたでしょうか?

 興味深そうに辺りを見上げては、何やら一人呟いてらっしゃる方がいました。

(いつの間に?――まぁ、リュームが蹲っている間にか・・・・・・)

 その黒い出で立ちはこの聖堂の影の一部分のようでありながら、不可思議な異彩を放っておりました。

 ここはシェンテラン家の聖堂であり一部例外を除いて、一般の方が訪れる事はそう滅多にありません。

 では本日のために招かれたお客様?そう考えるのがごく普通なのですが、任命式という祝いの式典に真っ黒の衣装?

 だからといって警備の方でもなさそうです。確かに今日は人手が必要でありましょう。

 それでも日雇いで警備を雇う事は考え難いです。

 では何故『彼』は、腰に剣を佩いておりますのでしょうか。リュームがそれを見逃せるわけもありません。

 ・・・・・・何せ、恐怖の対象ですから。嫌でも過敏になって目ざとさを発揮してしまうようです。

 剣を身に着けている――それを扱うに適した身体。大きくて頑丈そうな。それこそリュームなんぞ抱え上げるくらい、難無くこなせるでしょう。そう腕の太さが充分に物語っているようで、怯みました。

 何せご領主様のような痩躯の方でも、片腕で事足りたのには驚いたばかりです。

 女の身の作りとはまるで違うのですから、男の方ってズルイ。

 そんなやっかみを込めて観察する『彼』の表情は和やかでありました。

(そ、そんなに警戒しなくても大丈夫そう・・・でしょうか?)

 こんなに近くでリュームが熱心に見守ってるのに――まるでお構いなし。

 そんな様子で聖堂の天窓から差し込む日差しを見上げて、手でひさしを作っていたりします。

 眩しさに目を細めつつ、口元は笑み浮べながら。何て暢気なのでしょうかと、リュームに思われてますよ。

(大丈夫でしょうか?まるで意識飛ばしちゃってるときの『リューム』です!もしかして春の陽気で頭、温まりすぎましたか?

 何て失礼でしょうが)

 そんな心配をよぎらせつつ、見守ります。

 髪は・・・光の加減もありますでしょうが、明るい赤褐色。瞳は――ここからは良く見えませんのでわかりません。

(どなたでしょうか?リュームに気が付いていない?)

 

 声を掛けるべきか否かと迷ううちに、目が・・・かち合ってしまいました。

 

 リュームが思わず怯み背を向け、逃げ出そうと足を一歩踏み出した瞬間に声が掛けられました。

 『ああ。驚かせてしまって申し訳ない――まさか君が気が付くとは・・・・・・いるとは思わなくて』

 むしろ驚かせたのはリュームの方なのではないでしょうか?

 それは『彼』の慌て具合からも、そう思わずにはいられませんでした。

 この聖堂の造り上、声は響きます。それは独特の余韻を持たせて。だからでしょう。この方のお声が何やら、耳慣れない響きを持っていたとしてもリュームは何の疑いも持ちませんでした。

 この方のお耳にもリュームの声が、同じような余韻引きずる響きと届いていることでしょうし、などと勝手に結論付けて完結させました。

 説明のしようはありませんが、その時はそう考えたのです。

 

 ・。・: ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ :・。・

 

『や・・・・・・リューム。はじめまして』

はじめまして(・・・・・・)――?どして、わたくしの名前知っているのですか?」

 警戒心と。もしかして知人なのに忘れてしまったかも知れない、己への焦りから声がかすれます。

 それは彼があまりに屈託の無い笑みを見せるから。嬉しくてたまらない。もしくは、おかしくてたまらない。

 そう笑顔が告げている気がします。

 それでいて、ゆったりとさりげなくも――慎重に彼は近付いてきます。真っ直ぐに、。

 一段高いこのリュームの居る、立ち位置とされた”祭壇”へと。

 恐らくはリュームが怪訝な表情を、より強張らせたからでしょう。『彼』は宥めるように、目尻を下げました。

『ああ、驚かせてしまったかな?当然か。申し訳ない』

 両手を軽くあげてひらつかせ(・・・・・)ながらの、優しい声音です。

 リュームにもこの表情と仕草には覚えがあります。例えば初めて見かける猫さんが、屋敷に居た時など。そろそろと。

 驚かせて逃げ出されないように慎重に、かつ絶対にその毛並を撫でてやるんだという下心満々のもの。

((だいじょうぶ、だいじょーぶ。こわくない、こわくな〜い――。))

 いいえ!怖いです。大丈夫な気がちっともしません。

 リュームが今まで試みてきて、全部失敗に終わったのも頷けます。

 納得!はい、回れ右!――しようにも、出口にたどり着くには『彼』を突破しなければなりませぬ〜!ぬ〜ぅ・・・・・・!

 そんなリュームの気迫など微塵も感じていないのか、歯牙にも掛けていないのか。

 恐らくその両方の『彼』はにこやかさを崩さずリュームの目の前、祭壇の一歩手前まで来ておりました。

 また誰かさんとは違った意味で余裕です。腹立たしいです。

 気持ちだけはエキを見習って、体中の毛を逆立てている・・・つもり。体勢は低くとります。

 そんな警戒心もあからさまなリュームに、笑いながら『彼』は一言。

『初めて会う気がしないね。――姉さんからいつも聞いているせいかな?』

「姉さん?」

 そうだよ、と彼は語尾に笑いを含ませながら頷きました。

『ニーナ。ニーナ・ルシア・フォルテンシァ。』

「ニーナの弟?」

 それを聞いた途端にリューム、肩の力が抜けました。そう言われてみれば確かに。

 ニーナと同じ髪の色に、そばかすの薄っすら浮かぶ頬に加えて、瞳は淡い青の空模様。眉の形はやや太めで、目尻は笑っていなくとも下がり気味な所が似ています。

『そうだよ。姉がいつもお世話になっております。リューム嬢。改めて――。僕の名前はクレイズ・ルシア・フォルテンシァと申します。以後お見知りおきを』

 そう礼をとりながら彼は私にも、返礼を求めてきました。すい、と流れるような仕草で、その右手を差し伸べられまして。

 迷いましたが、おずおずと左手を差し出しました。

「はじめまして。ジ・リューム・・・と申します」

 姓は告げませんでした。あの方の嫌そうな顔が思い起こされたせいもありますが、別に彼はニーナから聞いて知っているだろうから。

 何もいちいち名乗る必用も無いだろうと解釈しての事です。

 クレイズの指先が、リュームの中三本指を支えます。

 そこに触れるか触れまいかといった距離まで、彼の唇が寄せられました。

 『不躾に申し訳ないのだがお願いだ、リューム嬢。後で”正式”にご挨拶に上がるから、ここで俺に会った事は誰にも言わないでもらいたいのだが・・・・・・。何せ一番にこの”祝福の道”に足を踏み入れるべき人を差し置いてしまったのだからね。つい、この素晴らしい建築に惹かれたとは言え申し訳ない』

 にこ、と屈託の無い笑みを浮べながら言う彼が、ニーナの優しい笑顔と重なりました。

 リュームもつられて笑います。

「――えい!」

 リュームは頷きながら、一歩だけぴょんと飛び乗りました。この真紅の布地が敷かれた”祝福の道”に。

 クレイズに手は預けたままで。飛び乗ったときよりも勢い良く、素早く飛びずさって戻りましたが。

『リューム嬢?』

「わかりました。二人だけの秘密ね。ナイショですよ。ばれて叱られるときは一緒ですよ?」

 これで二人は晴れて共犯者となったわけです。ですから片方がお咎めを受ければ、もう片方も逃げられない訳です。

 二人、顔を見合せて笑いあいました。

 そうしてどちらからとも無く拳を握り締め、突き出し、互いにぶつけ合いました。ごちん、と。

 下町っこ時代に広場の皆から伝授された、仲間同士の挨拶の仕方です。

 ――っぐぐっっとお互い押し合って、自然に離れるまで左手は腰に当てますのが正しい姿勢ですよ。

 (ああ、みんな。元気かな?)

 久しぶりにこの挨拶ができて、ちょっと持ち直しました。――重圧力(プレッシャー)から。

 

 ・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・

 

 リュームは何とも誉れな事にですね。――この祝福の道の果てに当たる、栄光の祭壇に立ち位置を取る事になっていると告げられました。先ほど。ええ。ほんの、つい(・・)!先ほど!

(も、もっと早くにお伝えくださいよ!何故につい、今しがたまで黙ったままでいるのですか!――もぉぉ〜嫌がらせ反対!反対ったら反対!)

 ――したところでリュームの心の中だけの、反対運動に留まってしまうのが情けないです。

「・・・・・・・・・。」

 思わず勢い良くうな垂れました。その役はきっとシェンテラン家のご親戚筋のどなたかがやるに普通!相場が!

 ――決まっているではないですか!

『リューム?』

(そもそもですね、シェンテラン家の一員とも見なされず、ましてやリュームの立場は義妹ですよ?『義妹』!『養女』ですよ?血、一滴も繋がってないのですよ?知ってますよね。その上、唯一の義兄様からも『認めない』宣言された上にですね〜・・・しかも。何ですか葬儀の時のあの仕打ち!『献花すら認めてやらない』と公に発表したのと同じ事ですよ?――そんなリュームに何て場所を寄こすのですか!それこそ後々面倒な事に・・・やっかまれたりとかする――のは『リューム』ですか!ああ、そうですか。そこが狙いですか。でなければ『カラス』を祭壇に上げるなど、どういう神経されてらっしゃるのかと問い質したくて仕方ありませんよ!まったく、もう!)

『――じゃあ、後でねリューム?俺は姉さんに呼ばれてるから、戻るよ』

 

 何て。聞こえたような。聞こえなかったような。

 

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 

 ”リュームが立会人となれ。立ち位置はここだ””

 

 はい。

 そもそも何で、リュームは頷いちゃったのでしょう?

 ――ご命令だから仕方なくというのも勿論あります。

 あの方に認められたいの・・・・・・?

 若くしてこの地の主となった、何もかもに恵まれたあの方に?

 何一つ誇れるものを持たない自分を?

 義妹とすら認めぬとされてもう七年?

 何のお考えあってのものかと図れませんが、またとない機会と捉えてですか?

 ・・・・・・リュームの望み。

 それは。

 それは?

 ・・・・・・。

 ・・・。

 ?

 

 リュームよ、何か、忘れておりませんか・・・・・・?

 

「――っクレイズ!!」

 

 弾かれたように頭を上げて、辺りを見回しましたが姿が見えません。

 聖堂にはリュームが一人きり。

 いません。どこにも。いつの間に・・・って、それは。

 

 またリュームが意識を飛ばすほど、考えに囚われている間にでしょうけれど――。

 

 聖堂にある人影は、リュームのもの一つ切りなのでした。


またしても、ここまで書くか!

――までたどり着けませんでした。何のこっちゃですね。


出ました新キャラ、クレイズ君。

そんなワケで★どうでもいい・・・ってか、もうコレ本編に食い込むだろうよ!後々!

そんなツッコミをしつつ、行きます!


『小話★劇場』〜クレイズ・ルシア・フォルテンシァ〜


クレイズ・・・?

クレイズ!

ク レ イ ズ !


「――・・・やぁ、姉さん」

「やぁ、じゃないでしょう。全く。こんな所でうたたねしてるなんて、暢気なものね!」

自分と同じく、うっすらとそばかすの浮かぶ頬が目の前にあった。

かけた椅子を利用する格好で、体の節々を伸ばす。

呆れた、と姉さんに軽く頭を叩かれた。

姉はここの館の侍女だ。しかも噂の美少女『ジ・リューム嬢』付きの。

噂の出所はもちろん、この実姉からである。

(――別に”うたたね”していたわけじゃぁ無いんだけどな。)

そんな思いはもちろん、口には出さない。

「こっちはこんなに忙しくしてるのよ。不謹慎だわ。もう少し、シャンとしてなさい」

「あいにくと式が始まるまで、俺にはやることが無くてね」

そうなのだ。俺は今日これでも”仕事”で来ている。

ここの俺より若いご領主殿には、一応挨拶は済ませたがそう長くは時間は取られなかった。

「なぁに?クレイズ、ったら。思い出し笑い?」

「ちょっとね・・・姉さん。すごいカワイイのな、あのリューム嬢」

――色々な意味を込めて。

「そうでしょう!って、アンタご挨拶、出来たの?」

「・・・・・・いや。お見掛けしただけだ。ご領主殿に手を引かれてらした」

「そう」

姉さんが茶器を片す手を、一瞬だけ休めた。小さくため息を付きながら。

「ああ」

「・・・アンタ。変な気起こすんじゃないわよ?」

「心外だな」

「ほらほら、もうそろそろ仕度する!」

「ハイハイ」

「はい・は、一回!」

「はいよ」

笑いながら手を上に、もう一度椅子にかけながら伸びをした。この長い手足を持て余すように。


「アンタねぇ・・・本当にいい加減に引っ込めなさいよ?そのいやらし〜い、笑い」


おかしくてたまらないのだ。

何もかもが、話通りで。

リューム嬢の『自分の世界に入り込んだら全てがそっちのけ』の様子から。

ご領主殿の、リューム嬢に対する振る舞いまで――何もかも。

(まさか。ほんの一瞬目を離した隙に・・・等とは夢にも思うまい)

野郎が。――リューム嬢に接触した等とは。

「クレイズ!」

「はいはい。」


ハイは一回!と姉にはもう一度、後頭部を叩かれた。


 ★ ☆ ☆ ★ 


姉と弟。

作者も姉なので。こんな調子です。


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