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第十一話 シェンテラン家の美少女


こいつ。


現代なら軽く『ス』で始まるアレでしょう。


微妙にイタイです。


 

 失礼致します、それではまた後ほど。

 そう礼をとり退室します。出来うる限り扉をそろそろと閉めました。

 ぱたん、と静かに扉の向こうにルゼ様の笑顔を閉じ込めた気分。

 はぁぁぁぁ〜どきどきした!今もまだ、どきどきしてる!

 ルゼさ、ま。何だかステキすぎて緊張してしまったようです。

 今さらながら、あんなに泣きじゃくってしまった自分が恥ずかしくなります。手足を思いっきりじたばたさせたいくらいです。

 それに加えて、ごろごろ転がって暴れだしたいくらいです。

「・・・・・・。」

 リュームときたら呼吸すら制限されていたようなので、しばらく扉に両手をついたままでいました。

 ぜぇぜぇはぁはぁと軽く息が上がっているのを、認めざるを得ません。

 ――これしきの事で・・・まるで館内10周した時と何ら変らない疲労感を訴えないで下さい。

 我ながら何この脆弱な身体。こんな調子で『約束』果たせますか、リューム?

『おいおい。駄目ですねー全然なってませんね、相変らず。』

(ルゼ様・・・本気ですか?本当は『正気』ですかと尋ねそうになりましたよ。無礼もいいところだから堪えましたが)

 でもリュームや?例え無理があったとしても、やる前からそんな心意気で許されるとでも?

 そもそも、それでアナタは満足ですか?いつまでも病弱だの脆弱だのを理由に、何一つなし得ないままで?

 自分自身に問いかけます。答えは、もちろん――ひとつ。

 己の中で閃き放つ一筋の光が、ひときわキラリと煌いたかのように感じました。

 眼を閉じていようとも、射し込む確実な光に勇気付けられます。良かった。

 リュームの根性もまだまだ腐ってもおらず、捨てたものでもないようです。

(いや!やり遂げてみせますともよ!)

 がんばるぞ!がんばるぞ〜がんばれ〜気力体力共に総動員して!

 そもそも『人並みの体力とやらを見せてみろ』という挑発に、受けて立ったのはリュームです!

 そうです。例え契約のすえ手に入れた『偽りの健康』であろうとも!手に入れたものは『本物の健康』なのです。(何気に時間制限はありますが。)リュームとて独り立ちできる可能性を見せ付ける、またとない機会をみすみす見送るのは感心しません!ですから闘います。

 決意も新たに思わず小さく拳を握り締めつつ、控えの間に戻ろうと回れ右したところで――。

「ご、ごりょ、しゅ・・・さま」

 リューム硬直。――またしても。

 い・・・いつからそこにいらっしゃたのですか?

 何故そこまで気配無くせるんでしょうかね、この方。存在感・・・半端無いくせに。毎度毎度毎度。

 何なのでしょうかねーもー?アレですか?修練の賜物とかってものですか。――そうですか。

 もちろん。そんな事はお聞きできませんので、恐るおそる向き合うしかありません。

 それが最善の対処と導き出した答えが、ここの所の学習の成果です。我ながら嫌な答えを導き出したモンです。

 ここでため息でも付こうものなら。かなり面倒臭い事にまっしぐらなので、堪えるのが賢いですからそうしています。

 壁により掛かり腕を組み。気だるそうに見下ろす、ご領主様の視線が突き刺さしてきました。

『まさか――。公爵の御前で無礼は無かったろうな?』

 そんな無言の責めに、リュームは無意識の内にこくこくと頷いておりました。

『だいじょうぶだと思います!――おそらく』

 そんな意思表示を込めて。

 ・・・・・・嫌だなぁ・・・リュームの気のせいとは言え、何やら最近ご領主様とは言葉交わさずとも会話が成立しているような。

 気のせいであって欲しいものです。ええ。なぜかって?

 ――だってリュームの考えなど、全て見透かされているも同然ではないですか。何となく。

 あんな事とかこんな事とか。近い将来絶対自立して、ちょっとは――と言わせたいと目論んでいるとか。

 例の刺繍は取り掛かるたびに、いちいちご領主様との今までの喧嘩(バトル)が浮かぶものだからまるで集中出来なくて放置してる事とか。

 あまつさえ、頭にきて八つ当たりしてる事とか。

 上着にって?えええ!潔く認めましょう。そうですとも――上着に!(開き直るな)

 うう。小さいなぁリューム!と空しさが募るだけですが、思わず日課になりつつあるのでそろそろマズイです。

 早い所『何かもうこれでいい感じ』に適当に仕上げて、さっさと持ち主に返さねば。

 このままだと原型を留めていられるかどうかすら、保障できません。

 出来上がったとしても、一針一針がリュームのそんな邪念が篭っていて何ともはやな出来栄えの予感。

 きっとこの方はそんな事、全部お見通しだと思われます。一枚も二枚も上手。

 ・・・・・・一枚や二枚で済んでいてくれればいいと、思わず祈ります。この方今さらですけれども底、読めなさ過ぎでしょう。

 7年という月日を費やしても、未だに謎の方。何がしたいのか。何をリュームに望んでいらっしゃるのか。

 ここのところさらに輪を掛けて、全く持って理解不可能に拍車の掛かっている次第ですから〜ららら。

 と、茶化してしまうくらいには考えても解りませんので、これもまた放置。いいのか、それで。

 リュームがいくら歯軋って悔しがろうが、何だろうが認めざるを得ない事実であります。

(うーん?でも実際あの黒の上着に施す糸の配色は難しいんですよね〜さてさてどうしよう?それにしても見事なかがり具合ですな!その御召しの上着。うん・・・素晴らしいですねぇ〜・・・濃紺にあえて藍と薄青とはやりますね!職人の方――・・・に頼めばいいのにもう〜嫌がらせ、反対ったら反対!)

 思わずご領主様の正装の上着に目を取られていたために、またしてもリュームの思考はあさって方向に行っていたようです。

「――リューム」

 は、っと焦点を取り戻しますれば、ぶつかりますは不機嫌な眼差しの――染み入るような緑の瞳。

「ヴィンしぇぅ・・・セ イ ル、さ・ま」

 今日はそう呼べと散々言い含められていた事を思い出し、慌てて言い直しましたが・・・かえって声の上ずり具合から発音が不明瞭になり、怯えも動揺も丸出しです。

 あぅ。リューム、思わずたった今退室したばかりの扉に背を預けます。

(もう一度、戻れたらどんなにいいか。うう。ルゼ様〜やっぱり”作戦(いいこと)”は止しておいた方がいいのでは?)

 ――余計に不機嫌にさせてしまう可能性の方が高いですよ!

 そうお伝えするために引き返したい、この扉一枚の向こうに。

 しかしそんな事、このお方の目の前でやらかした日には一体どうなることやら――ねぇ、リュームや?

 リュームせっかくの決意の現われの拳は解いて、そのまま心臓を押さえつける形に。

 はふ、と一呼吸吐き出します。

「早くしろ」

「――?」

 理解できなくて小首を傾げますれば、手を差し伸べられました。近付くこともなく、その場で。

 しばらくそのまま立ち尽くして、ただただその手を眺めてしまいました。その指先が鬱陶しそうに、一度曲げられまで。

 ――シンラを呼ぶ時と全く同じような調子で。

『来い』

 宙に浮いたご領主様の左手に促がされ、ふらふらとリュームから近寄って行きました。

「式典の立ち位置などの確認もある。それに他の招待客に挨拶がまだだ」

「挨拶、まだ・・・・・・?」

 どなたにご挨拶すればいいかなんて、ルゼ様フィルガ様以外の名前を窺っておりませんでしたから慌てます。

 練習しておりませんから、それこそ恥をかく・・・『かかせる』可能性がありますので。

「親戚筋だからあまり問題無い。リューム()知っている者達ばかりだ」

「はい」

 頷くよりも早く、持ち上げかけた右手を取られました。そのまま、引っ張られるようになりながら続きます。

 リュームは瞬間すばやく身構えて、歩幅を普段よりも意識して大きめに取りました。先ほどの経験から、早速学ばねば!

 また転びましたなんて、避けたい展開ですもの。

 ドレスの裾も邪魔にならぬよう、空いた手でたくし上げながら進みます。

「――何を話したのだ?公爵殿と。何を訊かれた?」

「え?・・・ぇえ、はい?」

「何を話したのだ、と訊いている!」

 

 振り向かずに突然投げ掛けられた質問に、返事をする事がやっとのリュームにすぐさま叱責が飛びます。

「も・・・もうしわけ、ございません。ただ、あの、リュームの額が赤いからおもしろいって、笑われました。撫でなでされて『手を放す気がしなくなる』と仰って、たくさん・・・撫でなでしながら、また笑われました。――まだ赤いですか?」

 ドレスを絡め取っていた手を放し、自分の額を押さえながら尋ねてみました。

 唐突に歩みが止まりました。

 しかし手は引かれたままだったので、当然身体は前にのめり込みます。

 倒れこんだ身体は、そのままこちらに向き直ったご領主様に抱き止められました。

 それも一瞬のうちの事。次の瞬間には両肩を掴まれ、真上から見下ろされておりましたよ。

(ひぃぃ!!この体勢苦手です!・・・良からぬ予感がひしめき出すからっ、ご勘弁を!)

 そんな恐怖もあってかリュームは両手で、ご領主様の胸元を突っぱねる格好を取りました。

 ちょうどエキが気が向かないのに、無理やり抱っこされた時と同じ体勢です。顔も背けます。

「――オマエが聞いたくせに、逃げるな。見せてみろ」

「うぅ・・・・・・」

 確かにそうですけど。そんなにまじまじ見なくてもいいでしょうよ。

 絶えられません至近距離。耐性もあまり持ち合わせちゃいないので、もうこのくらいにしておいて下さい。

 ぎゅう、と頑なに目を閉じて耐えます。早く過ぎ去って下さい、この拘束のお時間。

 ――ご領主様の指先が、額に掛かる前髪をかき上げます。

(あれ?いかんせん、瞳を閉じているせいなのか嫌に・・・・・・?)

 リュームの全感覚は鋭さを増して、額に集中しているせいでしょうか。

 先ほどよりも余計に冷たい気がします。

 

 ・。:*:・。・:*:・。・:*・。::・*:・。・:・。・*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:

 

 そろと薄目を明けてみようかと思ったのと。

 微かに湿り気帯びた温かな何か(・・)が、リュームの額を掠めたのと。

 悲鳴とも歓声とも取れる声が響いたのは、すべて同じ瞬間であったようです。

「っもう!こんな所にいらしたわ!ヴィンセイル様ったら、リュームを迎えに行くといったまま戻っていらっしゃらないんですもの!わたくし、待ちくたびれました!――まったく、リュームったら。早くわたくしにもご挨拶なさいよね!」

 見つけた!とばかりに興奮したお声を上げられたのは――!

 流石のご領主様も、不意をつかれて驚かれたのでしょうか。リュームを掴んでいた手が弛められました。

(このお声は)

 喜んで振り返ってみれば、飛び込むように抱きついてきたのは金の髪の美少女。

 薄淡いすみれ色のドレスが、ふんわりとまとわりつきながらも落ち着くまで。しばし無言で抱きとめたままでおりました。

 本当に花びらを抱きとめているみたいなので、リュームは思わずうふふと笑ってしまいました。

 重ねた生地とレースから覗くか細すぎる足に、少女が生身だとやっと認識できるような錯覚に囚われてしまいます。

 

「――ミゼル様。お久しぶりでございます。お元気でいらっしゃいましたか?」

「もちろんよ。アナタと一緒にしないで。――早く!こっちに来なさい。わたくし達と一緒にお茶を飲むのよ。急いで、ぐずぐずしないでちょうだい。任命式が始まる前に挨拶を済ませておくのが礼儀ってものでしょうに。本当にリュームったらトロいんだから」

 言葉は容赦も無く厳しくていらっしゃるのですが、語調は明るく笑顔を絶やさずにリュームと向き合って下さっておりますので、怒ってはいないと判断していいと思われます。

 何というか・・・照れ隠しのような気がするものですから。

 告げたら最後『違うわよ!』と全力で拒否されるので、もう黙ったままでいます。

(なんて相変らずお可愛らしい)

 ぎゅう、と抱きつくお力が以前よりも、心なしか増されたように感じました。

 それに何より。リュームに抱きつく場所が前回は腰周りでありましたものが、今日はそれよりも高い位置です。

「はい。それでは急ぎましょうか」

 ぎゅうぅと抱き返しますれば、ミゼル様のお顔をリュームの胸に押し付ける格好になります。

「――背が高くなりましたね、ミゼル様」

「子供扱いしないで頂戴!アナタとは三つと半分しか違わないのよ?それともなぁにぃ、自分の方が成長(・・)してるからって嫌味?嫌味なの?」

「成長?リュームは多分もう背は伸びないみたいですよ。ですからいつかミゼル様には、追い抜かれてしまいそうですね」

「・・・・・・アナタ・・・って本当に愚鈍なのね!もう!」

 素直に流れる髪を撫でながら感じたままを口にした途端に、やっぱり怒られてしまいました。 

 ミゼル様。ミゼルード・シェンテランお嬢さま。言わずと知れたシェンテラン家の一族の、由緒正しいお嬢さまでございます。

 見事な黄金色の髪と色鮮やかな新緑の瞳が印象的な、文句なしの美少女です。

 そんなミゼル様は、ご領主様の又従兄妹(またいとこ)様に当たられるそうでして。

 こっそりご挨拶させて頂いたご領主様のお母様(の肖像画ですけど)に、面立ちがよく似てらっしゃいます。

 きっと将来は、あのような美貌の貴婦人にご成長される事でしょう。

 すんなりとした少女特有の肢体が、お会いする度に丸みを帯びて行かれるのがわかります。

 それは喜ばしい事であり・・・先が楽しみでもあり、少し寂しくもあります。

 ――あと何度・・・こうやってためらい無く、リュームに抱き付いて下さいますでしょうか?

 それを思うと不思議と胸が締め付けられてしまいます。

 なので今のうちとばかりに、リュームは思い切り良く抱きしめ返すのです。

 返すというより、飛び込んできたのをコレ幸いとばかりに捕まえちゃうのです。

(抱っこしたら最後、逃がしませんよ?ミゼル様!)

 ミゼル様のツヤツヤの頭に、どさくさに紛れて唇を押し当てました。あまりに愛おしいので、ついつい。

「もう、リュームったら!甘えっこなんだから、世話の焼ける。――いいから、もう行くわよ・・・・・・」

 ――はい。

 急ぎご挨拶することに、異存などあるはずも無く。リュームは頷き、右手を引かれるままその華奢な背に続こうとしたのですが。

「!?」

 ぐい、と左手を引かれました。

 当然、その場から一歩も進めなくなりました。

 驚いて振り返るよりも早く。

 そのまま視界は半回転――。

(はぁ!?はぃ?――って、えええええええ!!)

 ふわりと感じたのは浮遊感。しかもかなり不安定な。

 己の爪先が床には着いていないという、驚きの状況。

 それより何より、ご領主様の左腕一本に抱えあげられてますよ?何とご領主様の腕に腰下ろす格好ですよ!

(きゃあああ!高いっ――高いんですけど!怖いじゃないですか、イキナリ何ですか!もうぅぅ・・・うう・・・嫌がらせ反対〜!)

 何と言う早業。何と言う力持ち。

 感心するよりも慣れない視点に恐怖を覚えて、ためらい無くご領主様の頭に抱きつく体勢で落ち着きました。な、なんとか。

 寄りかかるようにして、しがみ付いて見下ろすと――。

 精一杯両手を差し伸べて『返して』と訴える、ミゼル様が見上げていらっしゃいました。

「酷いわ!――ずるい、ヴィンセイル様。リュームはわたくしと遊ぶのよ、返して」

「いい加減にしろ、ミゼルード。今日はコレ(・・)は勤めがあるのだから、あまり振り回して疲れさせてくれるな。――後々面倒だ」

「・・・・・・。」

 突っ込みどころ満載です、ご領主様!と告げられたらいくらかこの胸もすくのでしょうが、そんな勇気はございません。

 ですが何やら脱力のあまり、おろして下さいなんて抗議する事すら忘れましたよ。思わず無言になります。

(その台詞・・・そっくりそのままお返しいたしま・・・)――すデスよ、というリュームの思考を遮って、ミゼル様のお声が響きます。

「その台詞そっくりそのまま、ヴィンセイル様にお返しいたしますわ!そんな風に抱え上げられたら、リュームが驚いて目を回すに決まっていますのに。早く下ろして差し上げてよ」

(うわーミゼル様!最高です、代弁ありがとうございます。ますます大好きになっちゃいますよ〜たすけてぇ!!)

「ミゼルさま・・・・・・」

 嬉しくて思わず瞳も声も潤みます。

「リュームをいじめて遊んでいいのは、わたくしなのに!」

「――ミ、ミゼルさま?」

「何を勝手な。ずいぶん子供じみた事を言う」

 悔しそうにだん!と荒々しく足を踏み鳴らすミゼル様に、ご領主様は鼻先で笑われました。

(うわ。一笑に付しましたよ?何て大人げの無い・・・・・・)

「リュームを返して下さい、ヴィンセイル様」

「――返す?返すも何も」

「・・・・・・せめて下ろして差し上げて下さい。リュームが怯えております」

 子供扱いされた悔しさからか眉根を寄せながらも、冷静さを心がけていらっしゃるのでしょう。

 ミゼル様は丁寧に言葉を選んで進言下さいました。

「――・・・・・・。」

 お願いいたしますと付け加え、真剣に訴えるミゼル様に免じてかリュームは下ろしてもらえました。――ゆっくりと。

「リューム!大丈夫?」

「は・・・はい、少し驚いただけですよ」

 色々な意味で。

(いじめて・・・遊ぶおつもりなのですか。ミゼル様?)

 そもそもこの目の前で繰り広げられた、傍から見れば『歳の離れた兄妹』に見えなくも無い二人のやり取りは一体・・・・・・?

「リューム・・・行きましょう?」

「駄目だ」

「何故ですの!?」

「コレには勤めがあると言ってるだろう。ミゼルード、お前も戻れ。――ではまた後でな」

 

 有無を言わせぬ口調に、流石のミゼル様も従うしかないようです。

 

「リューム、また・・・・・・後で!」

「――はい」

 振り返り肩越しに、そうお答えするのがやっとです。

 

 リュームはご領主様に肩を抱かれる格好で、歩き出さねばなりませんでした。

 

 


『この、ムッツリが』


何なのでしょうかね、この一族は。


感情の表現の仕方も似ているようですね。


片方は女の子なので許される部分も多いのですが、もう片方の彼はねぇ・・・・・・。


かわいいものはいじめてしまう。


でもそれは他人には許さない。かなり歪んでるよ、あんた達。

曲がって伝わるから、それ。

しかし、周囲にはダダ漏れ。


 ★ ☆ ☆ ★ 


『どうでも・・・小話★劇場!』


〜ミゼルード嬢〜


リュームはまだ公爵様のお相手をされているらしい。

つまらない。

あの、ほわ〜っとしてぼけ〜っとした、リュームがいないならこの館は退屈極まりないったらないのに!


(きっと公爵様もリュームのボケ加減がお気に召されたのね・・・早く返して下さらないかしら)


それを思うのはわたくしだけではないらしく、本日の主役のヴィンセイル様も『迎えに行く』と言い残したまま戻ってこない。


――他にすることもあるでしょうに!


こうやって控えの客間に押し込まれているのも、もう限界!

お母様には外の空気を吸ってきます〜などと貴婦人ぶって告げたのに。

「・・・・・・リューム様を引っ張りまわさないのよ?あとあまり邪魔しないようにね」

と、見事に見透かされていた。

邪魔?邪魔なんてしないわ・・・失礼しちゃう!


ぷりぷり怒りながら回廊を突き進む。

幼い頃から訪れているから、勝手は知っている。

迷子の心配は無い。

公爵様をお通ししてあるだろう、客間を目指す。

その角を曲がって、突き当たり――・・・!?

「!?」

思わず一歩、慌てて引き返した。が、そろりとまた用心しつつ覗く。

見覚えのある流れる黒髪に、これまたさっき見送ったばかりの金の髪。

(ヴィンセイルっ!!何を・・・っ)


明らかにリュームは逃げ出したそうに身体を捩っている。

手だって、突っぱねた格好だ。

ヴィンセイルの事は思わず呼び捨てだ。

彼の唇がリュームの額に近付いている――。


気が付いたら、思いっきり良く駆け寄っていた。

大声を上げながら。

リュームに抱きついた瞬間、ヴィンセイルの舌打ちが聞こえてきそうな勢いだった。


――・・・邪魔って・・・こういう事かしら?


でも、しるものか。全力で『子供の自分』を使う事に決めた。




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