天才王子とローズのお話 8
前半ディックで、後半ローズです。
御者に馬車で城に送らせ…る前にクリスを送ってから帰宅した。
そして、父の執務室へと向かい、ドアの前でノックをする。
「父上、ただいま帰りました」
言いながらガチャリをドアを開けて…中の様子に愕然とした。
「お、おお! リチャード、すまんな。メイドのリリーが紅茶をこぼしてしまっ「父上、いいのでさっさと執務を終わらせてしまってください。これは僕がかたづけておきますので」…ああ」
父上はおとなしく、席は座り執務を再開した。
僕もそうしたいところなのだが…1番にやるべきはここの掃除か。
僕は、慣れてしまった書類、一枚一枚に目を通して書類を捨ててしまう。
割れたティーカップの破片と床を拭いた時のゴミであろう雑巾と一緒に袋にまとめる。
大変なのはこれからだ。
僕は、数十枚の紙を取り出すと、王族だけが使える特別なインクで、書類を寸分違わず書き直していく。
印鑑が押されていた書類には詫びの手紙も忘れない。
出来るだけ早くやったのだが、インクのノリが悪い古いタイプの羽ペンでは仕事は捗らず、結局終わったのは深夜になってしまった。
「んんー」
大きく伸びをして、辺りを見渡す。
父はとっくに寝落ちており、廊下からは物音一つしない。
流石に僕も眠気が出てきたので、自室に戻ろうとドアを開けると、廊下には、「ごめんなさい」と書いたメモと、まだ暖かいホットミルクが用意してあった。
僕は、それを口にし、ほっと息をつく。
甘い蜂蜜をたっぷり入れた僕の大好物。
こんな夜に飲むのは体に悪いと分かってはいるが、今日くらいはいいだろう。
そう思って、ホットミルクの入ったマグカップを持って、ふと思ってペンをとった。
そのままガサゴソと思いついたままに筆を取ると、そのまま部屋を後にした。
自室に戻り、マグカップを枕元に置き…ふと思い出して胸ポケットから匂い袋を取り出す。
不思議な匂いだが、どこか落ち着く。
その日、僕は、匂い袋を抱きしめたまま、微睡みの中へと落ちていった。
ーーーーーーーーーー
私は、魔力と言うものを持っている。
貴族は、結構皆持っているものらしいけれど、平民であるマリンにはないもの。
私だって、まがいなりにも魔法ではなく科学が発達した現代日本の生まれ、魔力を持っていると分かった時には夢も抱いた。
でも、魔力は持っているだけでも体の中で暴れて苦しいし、それを解き放つことも許されない。
ただでさえ、破滅フラグしかない乙女ゲームの悪役令嬢ロゼッタに転生してしまったのに、この仕打ちは何? とすごく思った。
ゲームでは、攻略対象は、一人一人、違う色の魔力…と言うか、ヒロインが魔力の色を見るという能力を持っている設定なのだけれど…を持っていた。
これまで私が出会った攻略対象は4人。
私の婚約者であるディック、その親友であるクリス様、そして、私の義弟であるフィンセント、そして…私の従兄であるジェレミア兄様。
私の従兄であるジェレミア兄様の家名はアームストロング。
ジェレミア・ロネ・アームストロングだ。
ジェレミア兄様は、私より三歳年上の13歳。
誰からも美しいと評価れる黄金の瞳と懐かしい黒の髪を持つ。
まぁ、と言っても、私はなぜか嫌われているらしくてあまり話したことはないのだけれど。
…いつも、喋るのは父様たちの前だけ…建前で…それでさえ、社交辞令のみだけれど。
それぞれ、ディックの魔力の色は青。
クリス様が緋色。
フィンセントが銀色。
ジェレミア兄様が金色。
そして、ヒロインが桃色。
ちなみに、あと、緑と黄色がいる。
ゲームと同じか分からないので、当たっているかは分からないが、名前は、ラザフォードとアイザック。
ラザフォード・ペルロネとアイザック・ペルロネ。
お気づきの通り、2人は兄弟…それも双子だ。
ラザフォードが緑色。
アイザックが黄色。
ペルロネ家は子爵家だが、まだ三代目の新米…悪く言えば成り上がりだ。
そのため、周りの目が鋭く、肩身の狭い思いをしていた時にヒロインと出会うと言うのが主なストーリーだった筈。
その後、当主争いやなんやかんやがあって…ラザフォードルートかアイザックルート、もしくは2人からの禁断の愛ルート、それか、どの攻略キャラを選んでも出来る、ハーレムルート、シュガーハッピールート、ハッピールート、バッドルート、ジ・エンドルートに派生していく。
まぁ、2人と関わりのない私には関係のない話である。
私は、ディックを選んだ時の悪役令嬢であって、他のキャラを選んだら、また違う敵キャラが出てくる。
クリス様なら、ディックの妹の1人であるサラ様。
フィンセントなら、同じくディックの妹の1人であるノル様。
ジェレミア兄様なら、パーシー伯爵家令嬢のアンジェリーナ様。
そして、ラザフォード様ならハワード公爵家令嬢のシャーロット様。
アイザック様なら、シーモア侯爵家令嬢のハンナ=ミッシェル様。
ラザフォード様とアイザック様、2人の禁断の愛ルートを選んだ時だけ、ヒロインは、シャーロット様とハンナ・ミッシェル様、2人の悪役令嬢と対決することになる。
一応、二週目以降だけ、ディックとクリス様の2人の禁断の愛ルートが存在しているのだが、あまりにも難しすぎる、本当に幻のコースだったことを覚えている。
「お嬢様〜、もうお休みの時間ですよ〜〜」
おっと、時間だわ。
「わかってるわ。マリン、もう寝るから」
「はいー、お休みなさい〜」
まぁ、これからのことは、これから考えましょうか。
また、明日は来るのだから。