天才王子は神に誓う 6
あの時のローズは、無理も祟ってか、魔力暴走を解放してしまう本当に寸前だった。
…侍女のマリンが来てからでは、間に合っていなかった。
…ただし、ローズはこれで、必ず僕と結婚しなくてはならなくなった。
婚約破棄などあり得ない。
だってそれは、盟約に反することなのだから。
「…お嬢様が、罪に問われることは無いのですね?」
すると、ずっと黙り込んでいた侍女マリンが口を開いた。
震えそうな手を、無理やり押さえつけているのがわかる。
顔は強張り、青白い。
「ああ。…神に誓って」
僕がそう言うと、侍女マリンからの震えが止まり、青白かった顔色に少し、桃色がさした。
「…そう、ですか…なら、言わないといけませんね。…お嬢様を助けてくださって、ありがとうございました」
侍女マリンは、目尻に涙を浮かべ、微笑みながら、深く深く頭を下げた。
僕は、それに応じ…そして、とあるタイピンを彼女に渡した。
「これは…」
「フィンセントの分だ。…フィンセントも魔力を持っているのだろう? あのままでは危ない。そこの宝石箱に入っているものよりもそれの方が丈夫だ。…僕用に作られたものだからな」
「そ、そんなのいただけませんっ」
僕は、たしかに魔力を持っているが…こんな豪勢な魔力制御アクセサリーが必要なほど大きな力ではない…と、自分では思っている。
自分で抑えることのできる程度であるし…それに、魔力を図る技術なんて、この大陸には無いのだから。
「もらって良いと思うよ? せっかく良かれと思って渡したのに、拒否される方が不幸だと思うし。そうだろ? ディック」
…こいつ、僕に掴みかかったこと、なかったことにしようとしてるな。
「…その前に、僕に何か無いのか? クリス」
「んー、何かってなんだい? それよりローズを早く部屋に連れてってあげなくっちゃ。こんなところにいるのはかわいそうだとは思わないかい?」
「…チッ。今回だけだからな」
その言葉に、ニンマリと笑うクリスを放って、僕は、いわゆるお姫様抱っこと言うやつでローズを抱き上げる。
「マリンと言ったな。ローズの部屋はどこだ」
「は、はいっ〜。こっちです〜〜」
…いつものゆるゆるな彼女に戻ってるな。
さっきのはなんだったんだ? 演技か? だとしたらどっちがだ?
流石に、自分の姫が危ない時に演技をするとは思えないし、こっちか?
いや、でも…。
「こ、ここです」
二階へと階段を上がり、中庭を囲むように建てられている離れを抜けて、本邸の階段をさらに上がったところにある広い角部屋。
木の扉を開いた先にあるのは、女の子らしい、レースやピンクで飾られた部屋。
ベッドの縁にはティディベアが置かれており、そのティディベアに着せられている服から出ている縫い掛けなのだろう…針と糸からは、ローズの手作りだということがわかる。
「お嬢様をここへ」
「ああ…」
僕は、ローズをベッドに寝かせると、あとのことを侍女に任せ部屋を出た。
いくら、婚約者と言えども流石に着替えまで見るのは頂けないしな。
「…クリス、今日は帰ろう」
「え? でもローズ嬢が心配だし…」
「ここの使用人達が困っているだろう。帰るぞ」
「ローズが目覚めるまでここにいます」なんて言って今日中に目覚めなかった時の気まずさと言ったら。
一度昔、ノルが風邪をひいた時、ノルは離れに連れていかれて…僕は「ノルが治るまでここにいるっ!」と啖呵を切ったのだが、ノルは一週間は安静にと言われ…流石に僕も「一週間も…?」と愕然としたのを覚えている。
「んー、しょうがないね。…今日は帰ってまた明日様子を見に来ようか」
「僕が、行くから良いぞ」
「はぁー? 俺も行くに決まってんじゃん」
「…好きにしろ」
あー、そのニヤニヤとした顔を殴りたいのは僕だけなのだろうか。
またまた短くてすみません。
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