天才王子ととある駄従者 11
早速城に帰ったあと、報告書を提出した…のだが…。
「ほほ、王子ー、こまりますよぉ。こんな事を勝手にされては。財務も、生活改善も、いま我々がやっているではありませんか?」
…と。
報告書を読むでもなく、それどころか話すら聞かずに一括されてしまった。
「ですがですね。エドワール卿、銀行はー」
いくら簡単に説明しても理解しようとすらしない。
こんな時、ヘレンの父であるヘレン卿か、アームストロング卿らがいれば話が聞いてもらえるのに。
こんな時に限って出張していていない。
それどころか、父上まで居ない。
つまり、今はこの、バカでアホで間抜けな、なぜ退職になって居ないのか分からないダメ従者と2人きりというわけだ。
…いや、流石に特技の一つや二つくらいあるか。
例えば計算が早いとか、実は剣の腕前が凄いとか。
…ないな。
僕は、エドワール卿の丸々とした腹を見てそう思った。
領民から搾り取った税金で、贅沢三昧した結果、手に入れたのがそのお腹か。
…哀れだな。
「それに、医療体制の強化ですって? ほほほ、なんの冗談ですかな? 薬なんてものは治療士も雇えない凡人が使うものです。そんなものに税を我々に、使ってなんの得があるのですか」
…エドワール卿、凡人と金持ちは違うぞ?
まぁ、いい。
それより今はこの馬鹿を早くなんとかしないと…。
お、いいこと思いついた。
僕は、部屋にある秘蔵庫から、上質なワインをとりだすと、冷やしたグラスを二つともって、エドワール卿の元へと歩み寄る。
「エドワール卿、一杯いかがです?」
「ほほ、これはこれは。気が利きますな、殿下。ありがたく頂戴致します」
…ふんっ。
馬鹿が。
物欲には逆らえないか。
僕は、給仕の真似事までやって見せ、エドワール卿に渡したグラスにワインを注いでやった。
「どうぞ?」
「うむ」
なにが、「うむ」だ!?
立場をわきまえろよ、この狸じじい。
ついでに在らぬ事を考えたが、顔には出さず、外面…所謂王子スマイルを浮かべて、どんどんエドワール卿にワインを勧める。
ちなみにこのワインは父上のだ。
…あとで謝っておこう。
…それとも隠蔽するか?
ーーー
あれから、数杯煽ってやると、エドワール卿は酒に弱いのか、執務中であるのに、この部屋でそのまま寝てしまった。
まぁ、僕がそのように仕向けたんだがな。
「さてと」
僕は、エドワール卿の席にある印鑑を、僕の持ってきた資料全てに押していく。
こうしないと父上の目に通る前に捨てられてしまうからな。
そうしてできた書類を父上の机に並べてから、僕は寝落ちたエドワール卿を放って部屋を後にした。