5 【元人工知能と王】
長すぎるテーブルの上には種類豊富な食べ物の数々。そしてそれらに全く集中できない原因の男性が一人…。
「……時間もそうだが、一体それは何だ、ルカ」
「それは…」
「私の名前はIris。神音さんのスキル、 ” 契約 ” によって人の身体を得た元無機物であり、彼女の最初の仲間です。」
時間をも凍らせる王の空気など全く気にせずそう笑顔で言う元神音のスマホの人工知能、Iris。
神音はそんなIrisに内心焦っていた。
使者としてこの国に呼ばれ、恐らく自分はこの国にとって一応重要な人物なのだろうと理解はしているが…もしここで王の機嫌を損ない、全く何も知らない今の状況で追放なんて受けた暁には…
「詰み確定………」
ぼそりと溢す言葉。
王は威圧を込め疑い深くIrisを見つめていたかと思えば、瞬時に空気を変え微かに口角を上げた。
「ふっ…今回の使者は本当に使える者のようだな。良い、このテーブルに座る事を許そうアイリス。」
「え…?」
「ありがとうございます。王、エフェシア様」
「えぇ!?」
一人、王とIris交互に目を向け驚愕している神音。何故王は正直に言って得体の知れないIrisを受け入れたのか、と言うか何でIrisが王の名前を知っているのか…。
そんな疑問など知りもしないIrisはそっと神音の席であろう隣に座り、神音を見つめ微笑んだ。
「さて、使者シオン。貴殿も座ると良い。」
「は、はい…。」
「まずは軽く腹ごしらえからだ。昨日の夜から何も口にしていないだろう、話はそれからとしよう」
恐らく多少頭と神経を使う話だからな、と言い王は目の前の料理を食べ始める。
王であるエフェシアの言った通り、確かに神音は空腹だった。昨日の夜は緊張からか空腹感など感じなかったが、今朝になってみると空腹でふらつくほどだった。
「神音さん、こちらをお食べください。この国でこちらは高い栄養価とエネルギーを持っています。昨日無意識とは言え、私に人の身体を与える程力を使ったのです。今の貴女にはエネルギーが必要です」
「あぁ、だからこんなにお腹が減ってたんだ…」
元からそんな大食いではない神音は、一食抜いたくらいでふらつくと言うのに酷く疑問を持っていたのだが…そんな理由だったのか。
「やっぱ異世界なんだなぁ…。Irisも食べたら?」
「お気遣いは不要です。私のエネルギーはこの世界では神音さんの力、魔力です。その為食物を口にする必要はありません。」
「へぇ…つまり、私が充電器で私の魔力が電気、って事であってる?」
はい、そう言うことで問題ありません。と微笑むIris。
しかし神音は一つその事について疑問を持った。自分がIrisのエネルギー、活動のソースなのだとしたら…
「……私が倒れれば、Irisはどうなるの?」
「神音さんの意識がなくなる、と言う意味でしたら私はそのまま活動可能です。生命活動が危うくなり魔力を作れない程衰弱した時、と言う意味でしたら私は神音さんとの繋がりを自己判断で中断し、スリープモードに入ります。」
「私が、死ねば…?」
恐る恐るIrisを見つめる。
本当は、その質問な回答などおおよそ予測出来た。しかしそれでも聞いておきたいのだ。本人の口から、直接。
「すみません、その解答はっきりとは分かりません。」
「え?」
「恐らく私も神音さん同様死亡、消失すると予想しますが…。なにぶん、前例がない為はっきりとは断言出来ません。しかし少なからず活動は出来ないと思います。」
「…やっぱ、そうだよね」
断言はできないと言うが、恐らく神音自身が死ねばIrisも死んでしまうだろう。
その事実に神音は深い溜息を吐く。
いくら元人工知能とは言え、今は身体を持つ人間に近い存在だ。つまり女子高校生でしかない神音は、今この世界で二つの命を抱えている事になる。
この事実に、溜息を吐かないでいられる筈がない。
「それまでにしておけ、アイリス。先程言った通り、朝食が終わり次第それに似たような話をするのだ。それまでは休ませておいてやれ。」
「そうですね、すみません神音さん。あ、こちらのフルーツはどうですか?」
「あー……うん、貰うよありがとう。」
朝食の後の話について考える神音。
正直に言えば怖い、しかしこの世界で過ごすのなら聞かなければいけない話…。
「はぁ…。今日だけで何回溜息吐くんだろう…」
やや重くなった気がする食事の手で、神音は溢れる溜息と共に朝食を飲み込むのだった。
次、王様がスキルについてとか説明してくれます。
これは全く関係ないのですが、王様と言うと王国の心のやつをプレイしていた影響で、某夢の国のネズミさんが頭に浮かんでしまうのですよ…。
あ、ちなみに王国心ではテラで心がパァンってなりました。アクアもヴェンも尊くてもう…もうっ……!