表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

2 【スキルの石版】

 元の世界の親友に瓜二つ…と言うより全く同じ顔のメイドのルカに、召喚された場所とは別の部屋に移動すると言われ、今はそのため無意味に長い廊下を歩いている。

 抑えることの出来ない不安に押しつぶされそうになりながら、神音は黙ってルカの後ろに付いて行く。

 初めは驚愕(きょうがく)を覚えたメイドのルカの顔だが、今の状況ではその顔が逆に安心感をもたらしていた。全くの別人とは言え、親友の顔が側にいるのだ。例え本当は異世界に一人きりだとしても彼女の顔は、親友と共に異世界に召喚されたのだと錯覚するのに十二分だった。

 微かな罪悪感はあれど、神音は自分が冷静になる為にルカのその顔を利用させてもらうことにした。

 もし瑠夏が私と共に異世界に来ていれば…。

 そう考えると、心は段々と楽になり寧ろ楽しくすらなっていた。

 そうこうしているうちに、いつの間にか目的地に着いていたようだ。


「この部屋ですわ。今から使者様…シオン様にはここでスキルを鑑定していただきます。」

「スキル?」


 聞き慣れた単語だが、現実の日常会話ではまず出てくることはないその単語をオウムの様に返せば、ルカは優しく微笑み「詳しい説明は中でしますわ」と扉を開けた。


「おぉ…」


 神音は口から思わずそう言葉をもらした。

 それもそのはず。その部屋の中には石版の様なものが所狭(ところせま)しと宙に浮いていて、その一つ一つがまるで(ほたる)の光の様に柔らかく光っているのだから。


「こちらにお立ちください」


 そう言われ神音は中心にある学校で使う教卓の様な物の前におずおずと立つ。

 今から何が起こるのか…。緊張と興奮で手が微かに手を震わせていると、四つの石版がフワフワと神音の前に来た。


「四つ……珍しいですわ」

「えっと…あの、これは」

「あっ…申し訳ありません説明がまだでしたわ!」


 慌てた様子でそう言う彼女に神音は微かに微笑む。

 現実の瑠夏はいつも堂々とマイペースを(つらぬ)いていて慌てるなんてことはない、その為同じ顔のルカが慌てるのを見ると何だか…滑稽(こっけい)というか驚愕(きょうがく)というか、面白いものを見た様な感情が湧き出てしまうのだ。

 ……まぁ、全く瑠夏を知らないルカには申し訳ないのだが。


「この部屋は入る前に言った通りスキルを鑑定する部屋なのです。この宙に浮いている石版一つ一つには、この世界に存在するスキルとその詳しい説明が刻まれています。」


「そして目の前のその四つがシオン様のスキルになります」と言うルカの言葉に導かれる様に石版を見つめる。

 それぞれには「敬愛(けいあい)」「恵愛(けいあい)」「契約(けいやく)」と書かれていた、のだが…。


「あの、この一つだけ何も書かれていないんですが…」

「書かれていない、ですか…?」


 一つの石版だけ、他の石版と違い何も刻まれてはいなかった。不思議に思っているのは神音だけではなく、ルカも同じ様だった。


後日(ごじつ)専門家に尋ねてみますわ。申し訳ありませんシオン様」


 そう深々と頭を下げられ神音は慌てて頭を上げる様に言う。


「私にそんな気を使わないで下さい。使者とか何とか言われてますけど、私自身ただの平凡な高校生…えっと、元の世界で言うまだ子供の分類にギリギリ入ってるんです。ですからそんな手厚くもてなされると逆に戸惑ってしまいます。」


 ですから、と微笑めばルカは感極まった様に神音を見つめる。その瞳には尊敬に近い色が映されていた。


「シオン様はとてもお優しいお方です。一介(いっかい)のメイドにもその様なことを言っていて頂けるなんて…まるで聖女様ですわ」

「いえ、聖女とは程遠い欲だらけの人間ですよ、私」


 わりと本気でそう言ったのだが、ルカは神音が謙遜(けんそん)で言っているのだと勘違いし再び感極まった様な瞳を神音に向けた。

 ルカが神音の前に来た石版を全て回収した後、彼女は何も刻まれていなかったスキルの石版について報告をしないといけない言う事ともう夜も更けて来たと言う事で、当分滞在する事になる部屋に移動すると神音に告げた。

 部屋に向かう道の途中、夕食について何が良いか聞かれたが、正直未だ拭えない混乱と不安でお腹は全く空いていなかったので神音は遠慮した。


「それでは私はここで。また明日の朝、お向かいに上がりますわシオン様」

「……あ、あのルカさん!」


 勇気を振り絞った様な声で神音はルカを呼び止める。ルカは笑顔で「はい」と聞き返し、神音の言葉を待つ。


「もし…もし出来るのなら、でいいんですけれど。様付けを辞めて神音、って呼んでくれませんかね」

「え!?」

「さっき言ったみたいに、本当に私平凡なモブ…んん、一般人で様付け似合う様な人間じゃないんです。それに…ルカさん、元の世界での私の親友にとても似ていて、その顔で様付けされるとむず痒いと言うか悪寒(おかん)が走ると言うか気色が悪いと言うか…」


 後半はもはや悪口に近い言い方だったが、ルカには通じた様でクスリと笑われた。


「本来私の身分でそれは許される事ではありませんが、もしシオン様…いえ。 ” シオン ” がそう望むのでしたら」


「しかし敬語は癖ですのでご了承くださいませ」と悪戯っ子の様に微笑むルカに。神音は安堵した表情でありがとうと言い、部屋に入ったのだった。

ちょっとだけ、ようやく異世界っぽい事が出来ました…。

個人的に、石版ってかっこいいと思うんですが…どう思います?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ