だいじょうぶじゃないマイプライド
「嫌いな役より、好きな役。良かったですね、惚れたでしょう? 自分の役に」
エイダはニタニタ笑いを辞めない。
「いや、この写真のモデルは居るはず!」
俺に見惚れたわけじゃない! モデルが良い、そうモデルが良いからだ!
「未来の貴方自身ですよ。別次元と言ったでしょう? どれだけ技術に差があるとでも? 未来撮影機だって高精度で実現してますよ」
嘘だろ、エイダ。
満面の笑みを浮かべるエイダ。
「御自分の女装姿にドキマギですか? 貴方、御父上を馬鹿に出来ないのでは?」
「止めろ! 止めろ!」
耳をふさぎ、声を上げる。ここまでの辱めを受けたのは、人生で初めてだ。
「まぁ、これで貴方は私が別の次元の存在で、貴方の御父上は魔法少女、と言う所までは理解して頂けましたか?」
「魔法だなんだと見せられちゃな……」
《魔法少女姿にも魅せられましたしね》
「うるせぇんだよ!? わざわざ脳に送り込んで来やがって!」
なんとか持ち直し、裏路地の壁にもたれかかる。
「わかったよ、親父は魔法少女でテメェは撮影。それで、俺は二期だから魔法少女になれって?」
「理解が早くて助かります」
すまし顔で答えるエイダ。
「――お断りだ」
流石にあんな格好はしたくない。更にそれを何処でかは知らないが、放送されると言う。
勘弁願いたい。ってかジャンルはコメディか? 男の魔法少女に男同士の恋愛? ブラックなジョークが過ぎる……。
「実は」
エイダが呟く。俺の断りに何の反応も示さず、まるで聞いていなかったかのように。
「二期が出来ない場合、出来たとしても視聴率が宜しくない場合の指示がされて居まして」
ニッコリと笑顔で俺にまた新しいパンフレットを手渡す。
――うわぁ、嫌な予感がする。
無言で受け取り、一気に開く。
「えぇい! ままよ!!」
【魔法少女☆アキラ mode:Adult】
ちょっとHな魔法少女の物語だった「魔法少女☆アキラ」。今回ではなんとアダルト対象版タイトルとしてOVAが放送されます! あの暗転、あのシーンとシーンの間、合ったはずのシーンが補完され、今までのバトルシーンや日常シーンもボリュームアップ!
「あァァんまりだァァァアアああ!!」
「売れなければ、売れるタイトルを作る、それは当たり前の事でしょう?」
しれっと言ってのけるエイダ。
「だからって結果がアダルト対応か!?」
「エロスは絶対です! 週刊少年雑誌だって、Hなシーンを増やして、フェチズム描写をしてやれば、掲示板やつぶやく奴で、てんやわんやで大騒ぎ! 結果売れるんですよ!」
「クズかよ!」
殴ってやろうかとも思ったが、殴って済む話ではない。
「あーどっちにしろ出ねぇよ! 俺には関係ない話だ!」
「――関係ない?」
不思議そうに聞くエイダ。本心からその言葉が信じられない、と言った表情だ。
それ前もしてたよな。
「ぁ?」
尋ねる。何かまた恐ろしい話の様な気がしてきた。
「私達の次元の番組、基本で、やっぱ愛のあるH以外ってなかなか……」
「何、何、何が言いたい!?」
「まぁ、ぶっちゃけて答えだけ言いますと、貴方が望まずとも、貴方の御父上はお望みですんで。あっちのサポートをこっちでしてあげて、それを撮影するだけでいいんですよねぇ、アダルト版なら。ってか自分の父親がポルノになるってのに関係ないとか薄情ですね」
「うっわぁッ! 最悪ッ!」
叫びを上げるが、エイダは我関せずと言った顔。
「で、返答がありませんでしたが、お応え下さい」
事務的、そんな言葉がよく似合う、お外向けの笑顔でエイダが訊く。
「二期? アダルト? 何方を撮影しましょうか?」
「どちらも嫌……」
《おおっと! アダルト版のイメージビジュアルが漏れてしまったぁッ!》
脳裏に送り込まれる映像。
『シューくん駄目だよっ! そんなところ舐めちゃっ!』
裸の俺とアキラがベッドの上。
『あっ! シューくんっ! シューくんっ!』
うまく隠れてはいる、だが何をしているのか、怪しく前後する俺の姿。
「はい! すみません! すみません! やります、二期、二期撮りましょう!」
「現地人の協力を得る事が出来るとは、とてもありがたい話です」
「……ぐぅ」
ぐうの音しかでねぇ。
「あぁ、そんな熱視線を送らえては私も役者とはいえ照れてしまいます」
そんな事を言いながら頬を両手で抑え、エイダはわざとらしく「ポッ」と音を漏らす。
「あーウゼェ……」
「さて、二期をしたい、どうしてもやりたい、二期出来ないなら死んでやるぅ、とそんなやる気満々の貴方の為に、ちゃぁんと用意して有りますよぉ、コスチューム!」
そう言うエイダの手には蒼い粒子が集まり、弾け、そこには赤いメイド服の様な、先の魔法少女装束が。
「……ぁ」
「どうしても二期がしたい=どうしても魔法少女の格好がしたい。はい、Q.E.D.」
「……お試し期間! お試し期間!」
「まぁ、良いでしょう」
エイダの左手の先、ハンガー、魔法少女装束。もう片方の手はぬるぬると動きを見せる。
「さぁて、試着タイムって奴ですよ~、大丈夫ですよ~、痛くありませんよ~」
「いてぇよ! 心が! 精神が!」
「大丈夫ですよ、だんだんそれが気持ち良くなってくんですって」
「いかねぇよ! そんな変態になってたまるか!」
そう言い、逃げようとするが、右腕が掴まれる。
「さて、どうしますか、素直に着替えます? それとも私に全部脱がされてから着ます?」
「どっちも御免こうむる!」
引き抜こうとするが、万力に挟まれたかのようにピクリとも動きはしない。よくよく見てみればその手が蒼白く発光している事に気が付いた。魔法かっ……!
「さぁて、どっちの方が楽しいですかね~」
ニヤニヤエイダ。それでも必死に逃げようとするが、その様がまたエイダの加虐心を煽ってんのかもしれない。だって、表情がヤバイよ、ヤバイ。怖いもん。
「あぁ、堪らない。堪らないけど、仕事なんですよねぇ……」
溜息と共に、エイダはその手から蒼い粒子を振り撒く。と、見る見るうちに変わっていく服装。紅く、露出の少ない、それでいて必要十分は満たしたと言う魔法少女装束が形作られる。
「さぁて、ちょっとだけ『お試し』、してみましょうか?」
エイダの笑みがさらに深まった。