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親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
紅の魔法少女篇
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ぼくを攻め立てる魔法の言葉たち


「貴方には私たちと契約して魔法少女になってください!」



「なんでだよ!?」

 叫びが無人の町に響く。あぁ、エコーして聞こえる。


「なんでだよ? と言うと、どう言う事ですか?」

 彼女は本当にわからない、と言った様子で首を傾げ尋ねる。


「俺は男! 流石にわかるだろ!?」

「ええ、わかりますよ」


「じゃあ何だって……」

 肩を落とし、消え入りそうな声が出る。それに対し加虐的な笑みを浮かべ、答えるエイダ。


「貴方のお父上とて、男性でありながら、魔法少女でしょうに」

「やっぱり、あれ親父かよぉッ!?」

 頭を抱える。あれが父親だとは理解していた、だが何かの間違えであって欲しいのも事実だ。

 そんな僅かな可能性を折られ、事実を突きつけられれば泣きたくもなる。


「まぁ、強く生きてください」

 俺を見下しながらニタニタ笑いを浮かべるエイダ。


「テメェ、なんかキャラ違うよな……」

 もう現実を見たくない。そんな俺には、そんなどうでも良い事が気になった。

「あぁ、そうですね。私についても説明しましょう」

 手を叩き、愛嬌の有る表情を見せる。


「もう一度名乗りましょう。私、ADのエイダ・ベクトゥです」

 もう一度、スカートの様な腰の布を両手の指先で摘み、ちょこんとかわいらしい会釈を見せる。


 しかしながら、その布は守るべきであろう股の部分を丁度開けている。短いマントを腰に着けていると言う様なデザインだ。


 うん……視線が少し泳ぐ。


「AD?」

 そんな状態であろうと、話は聞ける。その中でどうにも聞き覚えがある単語が聞こえ、オウム返しで尋ねてしまった。エイダはそれを受け、にこりと笑い、答える。


「はい、AD。「The "A"ssistant director of another "D"imension」略してADです」

「アシスタント、ディレクター。別次元の……」

 ぼんやりとオウム返しをすると、頭を押さえ、思案に入る。


 なんだ、ADと言うからドッキリかと思ったが、まだ続くのかこれ。コイツは頭がおかしいのか? いや、俺の聞き間違えの可能性も……。


《事実、私は別の次元から来ました。それとも、貴方の考える一般的なADもしくは、一般人に、このような会話方法が出来ますか?》

 思考に対し、言葉が返る。これが何よりの答えか。やれやれと両の手を上げ、お手上げのジェスチャー。


「まぁいい。百歩譲って別次元から来たとして、AD? テレビ撮影でもしてるのか?」

「ええ、撮影をしています。魔法少女物の撮影を」

 そう言いエイダは指を宙に走らせる。蒼白い光のラインがその軌道を追い、図形を描く。そうして完成した図形――円とその内部に走る無数の幾何学模様、魔法陣ってやつか――が更に鋭い光を放つ。


 腕で顔を隠し、光から眼を守る。

「どうぞ」

 エイダの声が向けられる。目を開き、自分に渡されて居る物体を手に取る。


「……『魔法少女☆アキラ 2nd』薄いな、パンフレットか?」

「ええ、視聴者向けの軽い紹介紙です」

 そう言うエイダの話を聞き流しつつ、パンフレットを開き、内容を確認する。


「なになに……主人公「折井 アキラ」は「集人」の事が大好きな元気いっぱいの女の子、だけど本当は世界の平和のために戦う正義の魔法少女「魔法少女☆アキラ」だった! 痛快ラブコメディ魔法少女アクション、第二期決定!」

 頭痛が痛い。一体今の一文でどれだけの嘘があるのだろうか。

 そして二期とは。集人の背筋に嫌なものが走る。


「はい、二期です。視聴率が良くて、円盤もそれなりに売れましたし、グッズもバカ売れ、株主の受けもいいものでして、予算が更に下りて二期が始まります。有り難い事ですねぇ」

 そう言いしみじみと懐かしむ様な顔をするエイダ。


「いや、まて聞いてねぇぞそんな事……」

 パンフレットの端に登場人物紹介の欄が合った。一期からの登場人物として自身が紹介されて居る現実に目の前が真っ暗になるような感覚を憶える。

「はぁ!? なんだって俺がこのリストに居るんだよ!? 聞いてねぇぞ!? プライバシーは!?」

「あぁ、安心して下さい。この番組は一応全年齢対象番組なんで、乳首一つ出てませんよ」


 そう言うエイダ。よくよくパンフレットを確認するとエイダの名前と姿もある。

「ADじゃねぇのか?」

 エイダを睨む。彼女は涼しい顔でその視線を無視する。

「あぁ、この次元の事はわかりませんが、私の次元の番組では、ADが役者として出演するんですよ。まぁ、そこら辺はおいおい話して行きましょう」



「で、何だよ今更こんな事教えて、何が目的だよ……」

「ええ、先も言ったはずですが、私と契約して魔法少女になって頂きます」

「嫌だよ、なんでそんな事しなくちゃならねぇんだよ」

 拒絶。それもかなり真剣な物だ。そんな言葉を無視しながらエイダは続ける。


「パンフレット、開くんですよね」

「開く?」

 手元を見ると、開いたその厚紙の中央が左右に捲れるようになっている事に気がついた。

――つまり観音折だ。言われるままに、そのパンフレットを開く。


 真っ赤な長髪、血色の瞳が目を引いた。


 それは魔法少女であった。アキラの様な薄い服装ではない、古めかしいメイド服を思わせる固さを感じさせ、露出の少ない服装だ。しかしながら、全身に付けられた装飾華美なフリルが華やかさを演出している。

 そして、少ないとは言え、露出は有る。丁度腹部がぱっくりと開いており、綺麗な形の臍とお腹のラインが見える。


「それが二期からの新キャラクター、新魔法少女です」

 エイダがニヤリと笑みを浮かべる。その言葉に集人は思わず唾を飲む。


 これは……はい、すみません、結構好みです。


 痴女の様な服装と言えばそうだが、そこに写っていた魔法少女の姿は何処か知性を感じされる佇まい、そして綺麗だった。顔立ちだけではない、その服装、纏う雰囲気、全てが調和した美しさがそこに合った。胸が無いのだけが、少し残念だった。


「気に入ったようですね」

「うるせぇ……」

 ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべながら言うエイダ。そんな彼女から視線を外し、パンフレットをまた確認する。


「あぁ、誰がその人かと言う確認ですか、無意味ですよ」

「うっせぇ! いいじゃん、誰なのかくらい確認したってさぁ!」


 両の手を上げ、やれやれとため息を付くエイダ。

「集人さん、先の言葉を忘れましたか?」


 その一言で、先の言葉が脳裏をよぎる。

『貴方には私たちと契約して魔法少女になってください!』


 丁度その言葉を思い出した次の瞬間であった、[出演 集人]の文字を確認したのは。


「まぁ、気に入って頂いたようでなによりです」


「うわぁあああああああああああああああああああああ!!」


 俺はパンフレットを投げ捨て、頭を抱え叫びを上げた。



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