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親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
紅の魔法少女篇
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シンプルなWish


 気が付けば、逃げるようにして家を出ていた。

「はぁ……」

 ため息が漏れる。



「うっ……」

 しかし、また喉元までせり上がって来る吐き気。


――つまりは、魔法少女は親父で、もりあがりはマジもっこりで、俺は親父のパンチラを見たという事だ。


 嘔吐(おぉっと)、吐き気。


 親父のパンツに興奮した、それで致した、そうした事態には至っていないので、何とか致命傷で済んだ。


 思春期の俺には、重すぎる痛み、深すぎる傷だ。


 学校休んでゲーセンでも行こうかなぁ……。

《もしもし、もしもし》

 脳裏に声が響く。

「……ん?」

《こっちです、こっちです、デス、DEATH》

 頭に言葉は響くが、姿は見えない。キョロキョロと辺りを見渡すが、見える影はただのイタチ位のもの。


――イタチ?


「いや……真逆な」

 そうして笑うが、新都心だとか胡散臭い言いかたされる位置のこの町で、イタチがそうそう居るだろうか?


《あぁ、そうですよ、こっちですよ、付いて来てくださぁい》

 また声が聞こえる。その言葉に合わせるように身振り手振りで意思表示をするイタチ。


 まぁ、親父が魔法少女ってのよりは現実的か……。


 そう思うと、大分気が楽になる。その声に従い、イタチの後を追う事にした。

 今日は学校、自主休学の日。



「……まだ?」

 そうは思ったが、ずいぶんと長い。学校に行けばよかったかなと後悔。

《さて、ここで良いかなー?》


 そんな声が聞こえた。辺りを見渡してみると、親父の痴態(魔法少女)と出会った地帯であった。

「……なんだ? 本体がここに居るのか?」

 そんな事を言ってはみるが、イタチと俺しか居ない状況。

 小動物に偉そうに話しかけて、誰か聞いてたら恥ずかしくて堪らない……。


《そうですねぇ~、マンモス哀れな奴ですよ今の貴方はッ!》

「うるせぇ! アブねぇ言語使いやがって!」

 何だってこいつは俺の考えが読めるのやら……。

 

「で、話があるんじゃねぇのか?」

 イタチを横目に見ながら訊く。考えれば通じるとは言え、それは気分が良くない。

《えぇ……と、ちょっと待って下さいねっと》


 イタチが飛び上がる。

「は?」

 ジャンプし、宙に停止。イタチは蒼白い光を放ちながら、ムクリムクリとそのシルエットを大きく変化させる。

《チェェエエエンッジィイ!!》

 叫びをあげる影。強い閃光が走る。突然の事に驚きを隠せない。


――BGM「なんかシャラララ聞こえる感じの奴」。

 耳から聞こえちゃいけない音が聞こえる!

 

 恐怖から耳と目を塞ぐ。

 

――映像「エフェクトマシマシの背景に、バンクっぽい変身シーン」

 本当に何事だこれ!?


「……ん?」

 どれほど経っただろうか、脳に直接投影されていたBGMも変身シーンも途中で切られた。恐る恐るとまぶたを開く。

 眼の前には、一人の女性が立っていた。


「ん~ふふふ、どうだ! これが私の本体のヒロイン面だッ!」

 蒼い長髪を掻き揚げる女性。その瞳もまた蒼く澄んでおり、明るいイメージを与える。どこか幼さを感じさせるが、十二分に大人の女性と言った風貌で、どこか人を惹きつけるような、そんな顔立ちをしていた。自信満々、意気揚々と言う表情を作りながら、その女は四肢を見せつける。


「どうですかぁ~ほれちゃいますかぁ~ん?」


 などと言いながらしなを作る女。体つきは少々華奢に見えるが、出る所は出た――古い言葉でボン・キュッ・ボンだ。肌もきめ細かい、そうした点が良くわかる。なぜなら――


「――って! 裸じゃないですかぁ!? キャァアアアア!!」


――なぜなら彼女は一切を身に纏っていなかいのだから。


「集人さんのエッチ!! トラブる体質! 変質者! この性犯ざぁあッ――」

 全てを言いきらせはしない。その口を掴み、無理矢理に黙らせる。


「名前を呼ぶな! 声を上げるな! 俺が死ぬ! 俺の社会的地位が死ぬ!」

《な、何するんですかぁアンタ!?》

 頭に強く響く声。あまりのボリュームに、一瞬意識が飛びそうになったが、何とか耐える。


「おっけぇ、おっけぇ。ほぉら、お口にチャックで話せるますよねぇ!」

 そう言い苦笑い。本当に頼むんで静かにしてください。彼女を押さえつつ、裏路地に入る。


《え? なんで裏路地に連れてかれてるんですか私? キャー! 貞操の危機!》

 ここまで騒がれるとなんか、だんだん落ち着いてきた。


「わざとだろ? 裸なのも、その後の対応も」

《げぇっ!?》

 一言の叫びの後には、何も響くものは無い。やはりそういうことか。


「なんでわかったんです!?」

 手を外してやった。とは言え、結構普通な感じに話してきたなコイツ。


「理由は三つ。一つ、こんな時間にここに人がいないわけないだろ」

 人差し指を伸ばす。

 ここは繁華街扱いされる場所だ。だと言うのに、人の気配がない。

 俺とコイツしかいない時点で、何かしらの力が働いているのだろう。


「意外とよく見てるんですね」

「二つ、余裕が有り過ぎる」

 中指。裸で会う事が想定にあったのだろう。気持ちの余裕がずいぶんと、こちらにも感じられるまでにあった。

 それにどうやって隠してるかもわからないが、乳首の一つも見えない。深夜アニメ見たいだぁ……。


――つまりは、そういう演技だろ、コレは。


「こちらの感情の機敏、ですか? あまり論理的とは言えませんね」

「三つ、アンタが美人過ぎる」

 薬指を伸ばし、告げる。

 これほどの美人、御目にかかったことがない。非現実的だと思うほどの美人。疑うには十分な理由だろう?


「とっ、突然口説いてきますね集人さん」

 顔を赤くする女。これも、演技なんだろう?


「論理的な話のつもりだったんだがな。本当にアンタは綺麗だよ」

「そ、そこまで言いますか」

「ああ、それで俺の出した結論は美人局だ。これをネタに俺を強請ってなにかをさせようって魂胆だろう?」

 答えを出してやると、どうにもつまらなそうな顔をする。


「あぁ、もう、わかりました、わかりましたよ単刀直入に言います……」

 青白い光。変身時に放たれる奴か? それが収まると、そこに立つ女の眼を見る。


「で、俺に何をさせたいんだ?」

「まず、名乗りましょう。エイダ、それが私の名前です。以後お見知りおきを」

 スカートの裾をつまみ、ぺこりと頭を下げる。


 目の前の女は服を着ている。先ほどの裸はやはり演技であったようで。


 蒼い髪、瞳に合わせた深い海を思わせる紺色の服だった。しかしながらそれは日常で着るような服装には見えず、コスプレ衣装と言われたほうがしっくりくる。


 意匠は魔法少女(親父のコス)と似たタイプだ。


「――集人さん」

 凛とした声だ。先ほどまでの冗談じみた雰囲気は一切感じさせない、真剣その物と言った声色。

 そんな様子に気が付けば背筋を伸ばし、言葉を待って居た。そんな俺の態度を見ると、彼女の紅い唇が言葉を紡ぐ。




「貴方には私たちと契約して魔法少女になってください!」



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