別品
頭の頭痛が痛ぇですことよ……。
自らの頭を押さえつつ、俺の横の席を指さす。
「あぁ、そうか」
ハッとした表情で、六花が言う。
席に腰を掛け、呼吸を落ち着かせる。見計らったように店員が表れ、注文を取る。少々おどおどとしつつも、六花は注文を済ませる。
「意外だな」
俺が呟くと、エイダも頷きながら言葉を続ける。
「慣れてますねぇ」
「はぁ? どこが?」
どう見ても慣れねぇ注文した顔してただろ。
何を言っているのか、と言う表情をするエイダとナギ。俺がおかしいのかよ?
「そんな事よりもだ、集人! なぜそんな恰好を!? この人たちは!?」
そう言い、六花は二人を見る。
深みのある萌葱色の長髪。その肌は白く、緋の色をした瞳が映える。
どうにも幼いその肢体を、髪色に似た緑の和服で着飾る。
可愛らしいその顔。表情はしかしながら、大人びた、落ち着きと色気を漂わせる。
「御嬢さん、お名前は」
そういう奴だよなぁ、六花さんはさぁ。
「折井 ナギ。しゅうちゃんのお姉ちゃん」
ナギは何を言っているの。訂正をしようと口を開こうとし――紅い瞳の輝きが俺を刺す。
「お姉さん。何時も集人くんとアキラちゃんとは仲良くさせていただいています」
六花は何を言ってくれているの。どうしようもなく、言葉に詰まる。
それじゃあ、アキラが学校に行ってる事を話さないといけなくなるだろう!?
「はいはーい、お久しぶりです六花さん」
そんな俺に助け船を出したのはエイダだった。
「あぁ、貴方は……」
思い出せないと言う表情だ。そんなことはわかっているとばかりにエイダは言葉を続ける。
「エイダですよ、エイダ! ほら、プールで一緒に遊んだじゃないですかぁ!」
あぁ、確かにあの時、認識阻害がどうので一緒に遊んでたな。
それを聞くと、思い出したのだろう、そういう表情をする。
「すみません、お名前を忘れてしまっていて」
そう言い、ぺこりと謝る六花。ナギは首を傾げ、「六花?」とつぶやく。
「あぁ、申し訳ない。氷室 六花と申します」
頭を下げる六花。それに頭を下げ答えるナギ。
「しかし……」
六花は納得がいかないと言う表情で呟く。
涼しげな蒼の長髪を後ろで一纏めにした髪型。
澄んだ海の様な青い瞳はキラキラとランランと楽しそうに輝いている。
整った顔立ち。しかしながら人懐っこい、子供の様な表情が眩しい。
《やぁ~ん♡ そんな風に思っているんですねぇ♥》
こう言う所が出なければ本当に可愛いのになぁ。
「知り合っていれば名前の一つは訊くだろうに……」
小さく言葉を続ける六花。そうっすね。そういう人だよなぁ貴女は。
「しかし、お二人とも良いお趣味をしていらっしゃる」
腕を組み、ふふんと鼻を鳴らす六花。自慢げだが何故だ。
そう思っていると、俺の顔を見て手の片方、親指を立てる仕草。
――見出した私の眼に、狂いはなかった。
そう言いたいのだな。
「しゅうちゃんは未だ原石。磨き、鍛え、更に上を目指せる」
「私も嫉妬しちゃうくらいですよ。なんだってこんな肌がプリプリしてるんですかねぇ」
肩幅も狭いし、指も細いしとどんどんお褒めの言葉が頂けるが素直に喜べない。
女みたいな手しやがって、とか言い方にトゲがあって嬉しくないわ。
こんな変な褒められ方して居てると、居心地が悪い。
すでに来ていたコーヒーを啜る。悪化した居心地の悪さに震えるぜ。
話に花が咲く。しかしながら話の種は辛いもんだ。
店員たちや客もひそひそと俺を見ている。自意識過剰だとか言われるかもしれないが、俺だって女装してる奴が居たら気にするわ。
《いや、バレてませんよ。会話内容も外に漏れないようにしてありますしね》
じゃあなんでこんなチラチラ見られるんだよ!?
《原石、言い得て妙ですねぇ。本当に顔が良いですよねぇ貴方は》
全然嬉しくねぇ。
ふて腐りながらも店員の動きをみると、どうもパンケーキが来たようで。
並べられる、パンケーキの大皿と、オレンジジュース。そして、オレンジジュース。
「どうも、勘違いされやすいようだ」
六花が苦笑いをこぼす。つまりは、注文ミスと。
「慣れない事は難しい」
呟く六花。ナギとエイダが俺を見る。良くわかったものだ、と。
そんなに分かりずらいかね、六花の表情は。




