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親父が魔法少女で俺まで巻き込まれた件  作者: フジオ
紅の魔法少女篇
5/63

父さんは魔法少女


 並んだ皿から料理を口にする。確かに美味い。店の料理と比べても負けていない。

 だが食い慣れている。その為にそれほどの驚き、感動が無い。


 白米をかき込み、味噌汁に手を伸ばす。

「……美味い」

 感情が、感動が口を裂いて漏れた。


「ほんとっ!?」

 小さく呟いただけだというのに、聞こえていたらしい、アキラが嬉しそうに声を上げる。

 その頬にはホットケーキを食べるのに使ったのだろう、はちみつが付いていた。


「ほんと? ほんとにおいしい?」

「あぁ、美味い」

 何時もと味付けが違うのだろうか? 変化もわからないが、ともかく美味い。

 一言答え、黙々と食事を続ける俺を、アキラはニコニコと見つめる。


「えへへ……。ねー、シューくん?」

「何だよ……」

「ボク、ごほーび、欲しいなぁ……」

 そう言い、頭を向けるアキラ。


「んー……」

 声まで出して訴える。「撫でろ」と。だが嫌だ。何とか逃げようと思案する。


「んー!」

「わかった……」

 また一鳴き。根比べに負けた俺は箸を起き、アキラの頭に手を置く。

「んっ……」

(……辞めなよ、そう言う声出すの)


「ん……うぇへへ……」

 銀色の長い髪が手の動きに合わせて揺れる。その手触りは決して良い物では無い。この銀髪は正しくは白髪だ。今までの苦労、努力、アキラの生きてきた道のりがこの髪色だ。


(……そう思えば、この髪は綺麗だと、素直に思う)


「ん……っ。ねー、シューくん」

「あ? 何だ?」

 アキラが口を開く。少々珍しい。こうして撫でている時にアキラは喋らない。


「こーして、毎朝起こして」

「……だからどーした?」


「そーして、御飯作って」

「……それがどーした?」


 顔を赤くしてちらり、ちらりとこちらを見るアキラ。視線を合わせるのが恥ずかしいのだろうか、眼が合うとその視線を逸らす。

(恥ずかしいと? 俺とお前の仲で? 頭を撫でさせておいて?)


「何か……」


 俯き、顔を赤くするアキラ。まるで小動物のようだ。モジモジとして、なかなか言葉を続けない。少しすると、意を決したのか眼を向け、口を開く。


「夫婦、みたいだよね!」


「……何が何とやら」

 何だろう、風邪ひいてるのかな? 熱でもあるのかな?


「『夫婦』? ありえない」

「でもぉ……」

 アキラは今にも泣きそうな顔をしている。感じなくても良い筈の罪悪感に苛まれる。だが――


「――親子で結婚とかありえない。相性は良いだとか、馬鹿言うなよ親父(・・)

 そう、生物学的に言っても、法律的に言っても、アキラは俺の父親だ。全くもって少女――それも美少女と言っても過言でないその見た目であっても、アキラは『彼』(He)であり、男なのだ。 


「シューくんは……嫌?」

 眼尻に涙を浮かべ、縋るように見上げる晶。その姿は捨てられた子犬の様で、心揺さぶる。

「嫌」

(……確かに可愛いよ、それは事実。でも俺、同性愛者じゃないし……)


 まぁ、ちゃんと親として見てるかと言われると、NOだ。

 俺にとってアキラは、父と言うよりは子供の扱いだ。


「親父、息子が「夫婦みたいだね」って父親に言われて、普通喜ぶか?」

「シューくんがおとーさんで、シューくんに言われたなら、ボクは嬉しいよ?」

 あぁ、やっぱ駄目だこの親父。頭の中で答えが弾き出される。この答えは数年前から変わっていないが、今日もまた同じ結論だ。


「シューくん、ボク子供は野球スタジアムが埋まるくらい欲しいなっ」

「すごい人数だな。三万人くらい?」

 どれだけ子供が欲しくても良いけど、(子供)に言うな。


「シューくんは九人、十一人くらいで、少ない方がいーの? 一人の事じゃないから、シューくんの意見を尊重するけど……」

「親父……」

 それでも野球、サッカーのチームが組めるゼ。

 後、俺関係無い事にして。本当に頼むから。


「めっ!」

 アキラは、ぴんと指を伸ばし、俺の唇に軽く付ける。身体を必死に伸ばしてだ。机を乗り越えて指で触れる、それだけの事が、アキラには遠い。



 ところで唇触られたら鳥肌が立った。なんでだろう。



 理由はわからないが、何やらぷんぷんと怒気を放ちながらアキラは言う。

「シューくん、いつも言ってるけど、ボクの事を「親父」って言ったらただじゃすまないよ」

「……どうなるんです?」

 アキラの指を退かしながら、言う。真剣な眼をしているアキラは久々だ。


「……それは……」

「それは……?」

 何と無しに息を飲む。


「ひっぐ……やっぱりっ、無理だよぉ……ひっ、シューくんにっ酷い事なんて出来ないよっ」

 まさかのマジ泣き。自分で想像して、自分で謝罪して、なんなのこの親。


 泣き出したアキラは机を潜り、グイグイとの頭を押し付けてくる。

 このままでは泣き止まないので撫でてやる。少しすると、嗚咽も止んだ。


「やっぱシューくんは優しーよね……」

「自発的行動で撫でたなら、その評価も正しいかもな」


「シューくん……ボクはね、親父とかね、言われたくないんだ……」

「えぇ……」

 事実だろう? と一瞬喉まで出かかったが、頑張って抑える。


「シューくん、ボクの事は『アキラ』か『お前』の二択で呼んで?」

 え、なにこのメンドクサイの。

「『アキラ』……」

「なーに? シューくん?」

 いつも通りの反応。念の為、もう一度呼ぶ。


「……『お前』」

「アナタ、どうかしましたか?」

 声の調子が違う。元気な子供って声じゃなくて、『しな』を作った声だ。


「あー、どっから突っ込むか」

 突っ込み所が多すぎる。どこから正していくべきか。


「つ、つっこむの!? しゅ、シューくんのえっち! こんな日の高いうちから何言ってるのっ! めーっだよめーっ!」

「いや、人の子の父親だろォ!? なんだってそんな恥ずかしそうな顔をする!?」


――瞬間、フラッシュバック。アキラの顔と重なる、恥ずかしそうに赤く染まる魔法少女。パンチラ。クロノレース。


「は……?」

 色濃く、鮮明に、脳裏に浮かぶ。白い魔法少女装束、白のフリルの奥、異様に映える黒レースのパンツ。際どいデザイン。そしてちょっとのもりあがり。



「大丈夫!? シューくんどーしたの!?」

 あまりのショックに椅子から転げ落ちていた。心配したアキラが駆け寄る。


「――あぁ、ああああああ!!」

 忘れていた記憶、消すべき記憶。



――父さん(アキラ)は、魔法少女だ。




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