バカホント
眼前に広がる異形の数々。それらは強い違和感と自己主張をもって、俺の視界を埋める。
「……そうか、やはり”上手く”出来ているようだな」
吐き捨てるように呟くサヨコ。
――そして嘔吐。
眼前でサヨコがゲボ吐いた。
「はぁ!? サヨコさん!? 大丈夫かよ!?」
「大丈夫ではない、問題だ」
そう言い、いつの間にか出した錠剤を水も無しに飲み込む。足元はよくよく見てみれば金網のようになっており、吐瀉物の処理はしなくて良いようだ。
「不快に思わないのだな、彼女たちを」
「いや……キツイぜ?」
「にぃ、戻してないし、とりはだも出てない」
流石にそこまでの拒絶反応はださねぇよ?
――と思っていたが、サヨコとナギの表情を見るに、どうやら特殊な状態らしい。
「人間はソレを恐れる、そう刻まれて居る」
「自分で死ぬほど」
サヨコとナギが淡々と語る。俺はそれを静かに聞く。
「生きた人間はソレに触れてはならない。そうすれば種が滅びる。故に自ら死ぬ」
「それは”穢れ”」
ガラス筒の中の女性と目が合う。深遠を覗くような、暗い目。俺は、それを、綺麗と思った。
「シュウ、お前は間違いなく私とアキラの子だ」
そう言い、サヨコは地下室の中央、個室に入って行く。それに無言で続くナギ。俺も必死に追いかけた。
「――だが私の腹を痛めた訳ではない」
そこにあったのは、中身のないガラスの筒。しかし、何かを思い出す。何かを覚えている。
「シュウ、お前は穢れと戦うために、調整されたデザイナーチャイルドだ」
『これ』が、俺の母だ。
「つまりは、私もアキラもヴァージンと言う事だな」
「そういう話じゃねぇだろ!?」
「いや、大切な話だ。アキラがシュウの事を好いているのは知っている」
「そうかよ……」
どう思ってんのさ、自分の伴侶がその状態って。
「そして、私もシュウ、君を好いている」
「はぁ、ありがとうございます」
「無論、性的だぞ? 繁殖対象としてだ」
「そんな話聞きたくねぇ!」
まてよ!? 本当に何事だよコレ。
「にぃ! にぃ!」
「なんだナギ!」
「私もシューにぃの事好き」
「あぁ、ありがとう」
「性的」
「……もうなんなんだよ」
緑の長髪を揺らしながらピョンピョンと意思表示をするナギを見て、一つため息。意味わかってんのかお前?
「シュウ、私もアキラも今現在、二十四。適齢期だ」
「そうかよ、コレで出来てるんだもんな、若いよな、アンタも」
「そして、ナギは私たちよりもはるかに年上だ」
「は?」
その言葉を聞き、ナギを見る。薄い胸を張り、ナギが口を開く。
「我こそ、天叢雲剣。齢、数千を超える超常の者なり」
もういい加減、頭が痛くなってきた。




