Magicにかけられて
あまりの事態だ、ふらりと倒れそうになる俺。その身体をアキラがなんとか抑える。
ふわりと香る甘い匂い。バニラ風味のアイスの匂い。
その身に纏う服装。動きが激しく、気が付かなかったがよくよく見れば、白く、少々眼のやりどころに困るような、こっ恥ずかしい、フリフリマシマシ、露出多めのファンシーファッション。
――言うなれば魔法少女。
(まぁ、確かに本人名乗ったからなぁ……魔法『少女』って)
だからこそ頭が痛い。俺がジロジロと見ているからか、顔を赤く染めるアキラ。
恥ずかしいならそんな恰好するなよ……。
「さて……洗いざらい話して貰うぞ、アキラ。なぁ、親父よぉ……」
「ちっ、違うよっ! ボクはアキラなんて名前じゃないよっ!」
手をこちらへ伸ばし、大きく振るう魔法少女服のアキラ。
「助けて頂き本当にありがとうございます! お名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「えっ!? えっ……えっと……そ、その……」
「さっき名乗ってましたよね? 魔法少女アキラと……」
「そ……その……きっ、聞き間違えだよ! お願いシューくん信じてっ!」
はい、論破。
「『シューくん』? 名乗った覚えは無いんですがねぇ……」
「あッ!?」
失敗に気が付いたのか、小動物の様に身体を縮こませるアキラ。
「わ、訳あって名乗れないけど、今日の事は忘れてっ! それじゃっ!」
そんな俺から、まるで逃げるように飛び出すアキラ。軽く跳ねただけでもう点のように映る。
流石の移動距離だ、膂力が違う。
《んな訳行かないですよ!》
またも声が。
《魔法少女の事は忘れさせないとダメって言いましたよね!?》
「うぅぅ……忘れさせるって事は……魔法を使わないとダメ?」
《はい》
ご丁寧に会話が全て聞こえる。アキラは本当にちょいちょいと歩くだけで、顔のわかる距離まで来た。
何やら顔を赤く染め、俯くアキラ。沈黙に耐えきれず口を開く。
「あー、忘れさせるって事は魔法を行使されるのか、俺?」
そう言い、何となしに頬を指さす。傷に触れ、痛む。やはり夢ではないようで。
《あーほっぺですか? うん、うん、良きかな良きかなそれはなかなかに甘酸っぱい感じがしてベネ》
脳に直接響く様な声。またその声にアキラの顔の赤が深まる。
「あ、あのね、ちょ、ちょっとしゃがんでくれる?」
「あぁ?」
俺の中で様々な思考が渦巻いて、真っ当な考えが出来て居ない。
だからこそ素直にしゃがんだし、気を抜いて居た。
「――ちゅっ」
俺の唇に触れる暖かく、柔らかい感触――キスだ。軽く触れる程度のキスが俺へ、アキラから送られた。
(アアアアァアアアアアアアア!?)
背中がゾワゾワと粟立つ感覚を感じる。ケツにツララ突っ込まれるみてぇだ。
当の本人は恥しそうにそっぽを向いている。俺にとっては余り嬉しくも無いこの行為。
《きゃぁ!! ホッペじゃないんですねぇ! 青春ですねぇ! ウェッヘッヘッヘッヘ!》
またも脳に響く声。
限界だ。俺は意識を手放した――手放すその刹那、『二つ』を認識できた。
一つ、聴覚。アキラの呟き。
「キスするのは、シューくんだけだよっ」
うれしくもない呟き。
二つ、視覚。アキラの下着。
――望んでもいない父親のパンチラが見えて、げっそりとする感覚。
願わくは、魔法が上手くかかっていますように。
もう忘れたい。