隙間 2
不快な表現有り
気にする方は、読まないで下さい
四年目に入り何か変化があったかといえば、就職活動が忙しくなりマンションの住人と合うことが減ったくらいだった
だが、自分は卒業したらこのマンションから出るつもりでいたので特に気にも留めなかった
マンションの住人と合うことが減ったことの異常事態について何か考えていたら…
就職先も決まり、卒業の目処がたち気が緩んでいた冬の寒い日に久しぶりに201号室のお婆さんが202号室から出てくるところに出会した
自分に気付いたお婆さんが
「久しぶりだねぇ~ 元気だったかい?」
と軽い挨拶がてら話しかけてきたので当たり障りのない返事を返していた
そこで気になっていた202号室から出てきたことをお婆さんに聞いてみると
「ここの人は ちょっと難しい事情があってねぇ
あぁ でもあなたならもうここに三年以上居るし
1度 会ってみるかい?」
と、お婆さん自ら202号室のドアを開けて招き入れてくれた
自分には特に否も無いので招きに応じて部屋に入るとまだ夕方でそれなりに日は差していたが部屋は足下が見えないほど暗かった
自分は明かりがないかお婆さんに聞こうと振り返ろうとすると、頭に激痛が走りそこで意識を失った
鈍い痛みで目が覚めた
覚めたと同時に体が何かに拘束されているのに気付いた
起き上がれない
それだけではなく、頭も固定され口も猿ぐつわを咬まされマトモに声を出すことができなくされていた
目だけで周りを見ても部屋に入った時と同じく暗くよく分からなかった
背中には硬い板を感じるのであのまま部屋に押し倒され拘束されたのだろう
それからどのくらい経ったのか周りが暗くて時間の経過が分からないなか、足の方から光が射した
咄嗟に目を閉じて身を堅くする
板の間を歩く小さなギシギシとした音がやけに大きく聴こえ、それから引き出しを引くスーという音、続けて何か固いものを取り出すカタカタとした音、お皿をテーブルに置くときのカチャンとした音、そしてカチッカチッとなかなか火の点かない安いライターを扱う音…
暫くしてそれらの音が鳴り止んだ後に自分の顔の左側に気配を感じそおぅっと目を開ける
最初は回りに灯りがポツポツと灯っているのに気が付いたが、暗闇に馴れた目には少し明るく馴れるのに何度か目をしばたいた
目が慣れ左側を見ようとしたとき急に目の前に顔が出てきた
瞬間、息を呑む
「あの子にやっと逢えるよ」
201号室のお婆さんがそれは嬉しそうに微笑みながら自分を覗き込んできた
目が離せない
唾を飲み込むこともできず喉はカラカラ、呼吸と心臓はまるで全力疾走直後のように浅く速くなる
そんな自分をまるで気にすることなくお婆さんは微笑みながら喋り続ける
「隙間だよ 隙間なんだよ この部屋は
あんたが寝ている場所から隙間に嵌まったあの子は向こうに行ってしまった
隙間は埋めてあげると向こうのモノが戻ってくるんだよ
だからあんたを隙間に埋めてあげよう
大丈夫、あんたはここに三年以上住んでいたが一度も誰かを連れて来たことなんか無かった
だから埋ってもだぁいじょうぶ
下の住人は丁度出掛けて明後日まで帰らないから心配しなくても良いよ
だからしっかり隙間に埋まり」
お婆さんの最後の科白は聴こえなかった
お婆さんの右腕から伸びた先に長い鈍色が見えそれが自分に降り下ろされたから…
あぁもっと考えるべきだったなぁ
そこで自分の記憶が終わる
ドクドク
ドクドク
ドクドク
赤黒い液体が流れる
お婆さんの顔、手、体に同じ液体が飛び散り布が液体を吸って赤黒く染まる
それでもお婆さんは動かない
それどころか目の前の人間だったモノを見て
「まだ 足りないのかねぇ」
そう呟いてから徐に立ち上がり、手際よく右手の鉈を抜き取り着いた液体を拭き取る
拘束具を取り外し部屋の隅に置いておいた道具箱に片付けた
人間だったモノは奥の部屋に引きずりながら運び他にもあったモノと同様無造作に置いた
着ていた服を脱ぎ、部屋に唯一置いてある箪笥から新しい服をだして着替え床に落ちた衣服はそのまま赤黒い液体のなかに放り込んだ
明かりとしていた蝋燭の始末をしてから何事も無かったかのように部屋を後にした




