47A列車 次来るときは稚内へ
「ふぅ・・・。」
時刻は17時41分。
「着いた。」
荷物を置いて身体を伸ばしながら、そう声を上げた。
「着いたねぇ・・・。」
萌も疲れ切った表情だ。さすがにこの距離の度は答えたのだろう。「のぞみ202号」で京都を出発したのが6時17分。札幌到着17時41分だから、11時間24分かかっている。この時間鉄道に絡んだ場所にいたのは高1の浜松から博多への移動以来であろう。
「やっぱり、新幹線出来ても北海道は遠いねぇ。」
そう続けた。
「うん。」
それ以外言う言葉がなかった。
「さて。切符に無効印押してもらって、早くホテルに行こう。」
萌はそう言い、荷物を担ぎ上げた。
「えっ、その前に「スーパー宗谷」を撮ってからだよ。発車時間までそんなにないんだし、走って行こう。」
「・・・元気だねぇ・・・。」
とは言ったものの、「スーパー宗谷」に使われているキハ261系が本州に行くことはない。ここでしか撮れないものを収めておきたいのは自分も変わりないか・・・。翌日の着替えが入ったカバンを持って走れる体力には脱帽だが・・・。
「待って。」
(あっ、私も人の事言えないわ・・・。)
5番線に来ると、4両編成の気動車が低い声で唸りを上げていた。これがキハ261系0番台。ヘッドライトは横に配置されており、1000番台の縦配置とは違う印象を持つ。「スーパーとかち」や2016年3月改正から運用に加わった「スーパー北斗」に用いられる1000番台は先頭1両が全室グリーン車なのに対して、0番台は先頭半室がグリーン車になっている。また、1000番台にはリニューアル車であることを示す先頭やドア周りが白ベースの塗装を纏っている車両が少なからず存在するが、こちらは青ベースの塗装のままで、リニューアル工事さえ施工されていない。
「これに乗っていくと稚内に行っちゃうんだよねぇ。」
「次来るときはこれに乗りたいね。」
「・・・ここからもっと遠く行くの。」
「ああ、でも一日で稚内まで行く気にはなれないね。ここまですっごく疲れてるし、これに乗ってったら稚内に着くの22時とかそんぐらいだよ。」
17時48分発の「スーパー宗谷3号」が終点の稚内に到着するのは22時58分。ほぼ23時である。
「・・・でも、いつかは行きたいよね。鉄道で。車では行ったんだし。」
「・・・うん。またお金がたまったら来よっか・・・。」
キハ261系のヘッドライトが付いた。どうやら出発時間が迫ったようだ。
「5番線から、特別急行「スーパー宗谷3号」稚内行きが発車いたします。」
ベルの音が響き、ドアが閉まる。エンジンの音が高まり、キハ261系は煙を噴き上げ、札幌のホームから離れていった。
(次来るときは見るだけじゃ終わらせないよ。)
「スーパー宗谷」を見送ると僕たちは駅近くのホテルに行った。1室しか取れなかったから萌と同じ部屋に止まるわけだけど、旅の疲れで変な気を起こすこともな、いや起さないけど・・・。
翌日は環状運転を開始した札幌市電に乗車、12時15分に札幌を出発する「北斗12号」で札幌を離れ、「はやぶさ30号」で東京へと戻った。そして、家に着いたのは0時15分。慌ただしかったものの、北海道への旅は終った。
なお、この日夜勤があるのは公然の秘密である。