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99「帝王の真相」

「……リリィ」


「久しぶりね、フェリド」


 一階の大広間へと降ってきた勇者リリィを見て、フェリドは上でなにが起こったのかを理解したように呟く。


「……オレが二階に行ってキョウ達の行く手を阻む前に、その邪魔をしに来たのだろうが、その心配はない。どのみち、この傷ではキョウ達と戦うには厳しいだろう。それにどうやら目的は達成されたようだからな」


「それってどういう意味よ」


「君もわかっているはずだろう。先程上で起こった振動と窓の外から見えた光。おそらくあれこそが世界樹の覚醒。ならばここでの目的は果たされたということだ」


「やっぱりアンタの目的も帝王と同じだったってわけ?」


 英雄と呼ばれるほどの勇者であるフェリドが帝王に手を貸していた理由も、帝王の目的が世界樹を覚醒させ、世界を進化させることと知れば、それに力を貸すのは道理であろう。

 そうリリィは思ったのだが。


「いや、オレの目的は君や帝王ほど崇高なものではない……。オレは誰よりも勇者とは程遠い弱い存在なんだ」


「? 変なことを言う奴ね。今の七大勇者の中でアンタ以上に正しい形の勇者なんていないでしょう」


 フェリドのこぼしたそのセリフにはリリィも思わず疑問符を浮かべる。

 少なくとも今の七大勇者の中で最も世界に対する貢献を果たしたのはフェリドであると断言してもいい。

 なぜならば、彼だけが唯一SSランクの魔物を単独で討ち果たし、その結果として七大勇者の一人となったのだから。

 勇者制度、ひいてはSSランクの魔物を打倒して成長を果たすという世界が定めた進化を最も体現したのがこのフェリドをおいて他にはいないはずなのだから。


「……買いかぶり過ぎだ。オレは好きで七大勇者になったわけではない。それに……好き好んでSSランク魔物を倒したわけでもない」


 言ってそこにはどこか後悔するような感情をリリィは感じ取っていた。


「それよりも君の方こそ、記憶を完全に取り戻してキョウ達とまた仲間に戻れたようで何よりだ」


「……気づいてたの? アタシの正体に?」


 あの戦場でフェリドと戦っていから両者がこうして会話を交わす機会はなかった。

 だが、それでもフェリドの態度を見る限り、彼は自分の正体について気づいている風であった。


「確信が持てたのは今だ。あの戦場ではなんとなく程度にしか感じられなかった」


 さすがはかつては単独でSSランクを倒した勇者ということか。

 それと同じ気配を持つ自分の正体をなんなく察していたのかとリリィは思った。


「……やはり、オレは君たちが羨ましかったんだな……君とキョウの関係全てが……オレも君たちのように絆を結べれば良かったと、どれほど後悔したことか……」


「フェリド、アンタ……」


 そう呟いたフェリドの表情に隠しきれない後悔と悲しみの感情をリリィは感じ取っていた。


「……心配しなくともここでのオレの役割は終わった。なによりも世界にとっての成長がなんであるのか、それを示してくれたのは他ならないオレと戦った彼らの方であったから」


 そう言ってフェリドが指した場所にはジャックをはじめとする魔物達が床に倒れている姿があった。

 急ぎ駆け寄るリリィであったが、それよりも早くフェリドが呟く。


「皆、生きている。特にその彼、かぼちゃ頭の紳士にはやられたよ……。ある意味で、彼こそが今回の影の貢献者であったと賞賛をしておく」


 そう言って微笑んだフェリドは傷ついた利き腕を抑えながら、この一階大広間より離れ城の入口の方へと向かう。


「ここでのオレの役割は終わった。またいつか会う機会があれば、そのときは今度こそ君たちの仲間になりたい。そう、キョウにも伝えてくれて」


 そう言い残し、この場より去っていくフェリドの背をリリィは静かに見送った。







「ロスタム、あなたに一つお聞きしたいのです」


 そう言ってフィティスは混乱するオレ達をよそに跪いたままの帝王勇者へと問いかける。


「私と初めて会った時、その時にどんな言葉を交わしたか、覚えておりますか?」


「……無論。お前の誕生パーティの際に、オレはお前に皮肉めいたい挑発を行い、それにお前が激高し、自らの価値を証明すると吼えた。そして、それに相応しい女になれば、いずれオレがお前を迎えると宣言した」


「……そうですか」


 ロスタムのその答えに、しかしフィティスはなにかを確信するように瞳を瞑り、やがてはっきりと断言する。


「それこそがあなたがロスタムでない証拠ですわ」


「なに……?」


 眉をひそめるロスタムにフィティスは真実を突きつけた。


「あの時、その言葉を発し、私を挑発したのはあなたではありません。あなたの兄――ザッハークですわ」


「――!」


 その事実にロスタムは初めて驚愕の表情を浮かべ、自らの隣にて同じように跪きうなだれたままの兄ザッハークを見る。


「あの時、あなたは兄ザッハークの隣に立っていた。確かにその時、私はあなたとの婚約を披露されるはずでしたが、兄であるあなたが弟の代わりとばかりに私の値踏みをした。その時の私を迎えるという発言も、弟の婚約者として迎えるという意味。あなたと正式に言葉を交わしたのはあなたが帝国の継承権をザッハークから奪い皇帝になると決まった時、その時に同じようなことを言われ、兄弟揃ってどちらも変わらないと思いましたが、まあ、それはともかく本物のロスタムなら、そのことを間違えるはずはありませんわ」


 フィティスのその発言に困惑したままのロスタムであったが、しかしどこか頷く部分があったのか、それを肯定するかのように沈黙したままであった。


「……ザッハーク。一体なにがあったのか話してもらえませんか? このロスタムは誰なのか、そして本物のロスタムはどこにいるのか?」


「……それは……」


 フィティスの問いかけにザッハークがなにかをためらうような素振りを見せたが、そこに現れたのは更なる第三者の声であった。


「本物はすでに死んでいる。そうでしょう? 七大勇者のひとりザッハーク」


 その声に反応し、振り向くとそこにはオレ達のよく知る人物の姿があった。


「母さん! それにオヤジ!」


 今回の件において、最も早くこの帝国の城に侵入し、その後、音沙汰のなかった二人。

 まあ、ふたりのことだから無事だとは思っていたが、このタイミングで現れますか。


「……私と同胞の匂いを探ってこの城の地下に値する通路を辿り、その先にある秘密の区画へと私とこの人は訪れました。そこであるものを見つけましたわ」


 そう言って母さんから告げられた言葉は更なる衝撃をこの場へともたらす。


「それは棺桶。王侯貴族の収められる立派ものでしたわ。おそらくその中に入っているのが本物のロスタム。そうですわね、ザッハーク?」


「……ああ、その通りだ……」


 母さんからの指摘に対し、それを素直に認めるザッハーク。

 ということは本物の帝王勇者はすでに死んでいるということ。

 なら、ここにいるこの帝王勇者は一体……?


「不思議に思っていたのです。私と同じSSランクのベヒモスがどうやって人間の手によって連れさらわれたのか。しかも、SSランクの魔物を監禁出来る場所など、そうやすやすと作れるはずもない。けれど、こう考えれば辻褄はあいます」


 言って、母さんは告げる。


「ベヒモスは最初から『自らの意思でこの帝国へと渡った』。そして、SSランクの魔物が持つ人化の能力を持ってその姿をある人物の姿へと変化させた、そう――」


 そして母さんはその人物――いま、オレたちの前に跪く帝王勇者ロスタムを指した。


「帝王勇者ロスタム。あなたの本当の正体こそ、SSランクベヒモス。この城に存在したSSランクの匂い、それはあなたから漂っていたのね」


 誰もが静かに息を呑むしかなかった。

 もともと、母さんの目的の一つでもあった自分たちの同胞でもあるSSランクの魔物ベヒモスを取り戻すということ。

 だが、その目的のベヒモスこそが、目の前の帝王勇者であり、ベヒモスは帝王勇者としてこれまで行動をしていたことになる。

 もはや、なにがどういうことなのか、オレの頭ではいっぱいいっぱいであった。


「……話そう……」


 だが、そこでザッハークが全てを白状するかのように語り出した。


「……全てはロスタムが新たな大勇者として選ばれた時、あいつが七大勇者、当時はまだ四大勇者であったが……それに選ばれた時、私があいつに対し抱いた感情を自覚したとき、私の罪は始まったんだ……」

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