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97「帝王最終戦」

 二階大広間を抜け、三階へ続く階段を登る。

 それは大広間同様に広い作りの大階段であり、王座の間へと続いているのであろうその階段と通路の作りはこれまでとは異なった煌びやかな作りであった。


 とはいえ、そんなことは眼中にない。

 今オレ達の眼中にあるはただ一つ。

 今回の件の元凶であるこの城の帝王。

 そいつをぶん殴ることだけなのだから。


 やがて、長い大階段を抜けた際、二階大広間よりはやや手狭となっている空間だが、それでも圧倒的広さを誇る王座の間にて、はるか向こう側の王座に座る人物がいた。


「ようこそ」


「ああ、会いに来たぜ、帝王様」


 帝王勇者ロスタム。

 この城の主にして、オレ達の最終目的、最後の敵へと、ようやくたどり着いた。


「よくぞあの獣人勇者を退けたものだ。それだけでなく、英雄勇者に我が兄と、それぞれの場にて決着がついたらしい。勝敗面だけを言うならばいずれも君たちの陣営の勝利だと伝えておこう」


 それを聞いてオレは安堵すると同時に仲間達の活躍をなによりも賞賛した。

 イースちゃん、無事にフィティスを取り戻せたんだな。

 ジャック、オレの畑で最初に生まれて、一番弱かったはずのお前が英雄相手に一矢報いたんだな。

 それを聞いただけでオレは胸のうちの震えを止められなかった。

 相棒がやったんだ。

 なら、ここでオレがやらずにどうする。

 単純な戦力で言えばオレと帝王との差はおそらく、ジャックと英雄フェリド以上の開きがあるだろう。

 だが、それがどうした。

 こちとらチートな戦闘力は持ってないが意地はある。

 それだけでこいつに一矢を報いるのは十分なんだよ。


「帝王勇者。オレは今からお前をぶん殴る。オレに対してあれだけの事をやったんだから理由は分かってんだろう?」


「無論。そのためのお膳立てだ。効果はてきめんなようで何よりだ」


 言って満足げにオレを眺める帝王を見て、腹の虫が更に怒り出す。

 こいつは最初と会った時から、こちらを試すような態度で本当に気に入れない。

 どんだけ帝王様気取りなんだよ。

 フィティスや、アマネスがこいつを嫌う理由がよーく分かる。

 マジで顔面に一発、ってか数十発くらいぶち込まないと気がすまねぇ。


「もしも君がオレの顔に一発でもその拳をぶち込めることができたのなら、その時点で君たちの勝利としよう。その後は勝者である君の言うことにはなんでも従おう。無論、オレの命を求めるならば喜んで差し出そう」


 ん? いまなんでもって言ったよね? それじゃあ――


「オレが勝ったら、お前がオレの知り合いにかけた洗脳全て解いてもらうぜ。つーか、他にもいるなら全員解いてもらう。あとどうするかはそのあとに考える。それよりも今はさっきも言ったとおり」


 言ってオレを中心にヘル、アマネス達が帝王目掛け、同時に駆け出す。


「お前をぶん殴るのが最優先事項なんだよぉ!!!」


「よかろう、来るがいい」


 そして決戦の合意と同時に帝王が立ち上がり、瞬間異変が生じる。


「?!」


 オレ達全員の足が瞬時に止まった。

 それはまるでなにかの時間停止でも受けたかのようにその場から動けず固定された状態となった。

 なんだこれ?! 金縛り……?!


 そう戸惑うオレ達を尻目に帝王が構えた長さ二メートルを越える大剣をその場で振り放ち、そこから放たれた衝撃波でオレ達全員を後方の壁へと吹き飛ばす。


「うっ、ぐっ!」


 数メートル以上も離れてこの威力って……ってかマジでさっきのあれはなんだ?!

 時間停止か?! いや、時間はちゃんと動いていたし、そういうのとは違う気がする。

 むしろ金縛りという表現の方が近い気がした。


「どうした? オレを殴るのだろう。ならばまずは近づかなければ話にならんぞ。最もその近づくことさえ、オレの前では難しいだろうがな」


 そう言って悠然な態度のままこちらを見下ろす帝王勇者。

 のやろう……。


「おい、アマネス。今のは一体なんだ? あいつの能力かなにかか?」


 そう言ってこの中で一番奴のことを知るであろうアマネスに問いただすが。


「わからん!」


 とはっきり断言。

 あー、はい、そうですよね。


「だが、少なくとも帝王勇者があんな能力を持っているなんて……見たことも聞いたこともないぞ」


 そう言うアマネスの表情にはわずかな冷や汗が流れている。

 なるほど、同じ七勇者でも知らない能力ってわけか。

 おそらくはこれが奴の切り札なんだろうが、これを破らないことにはあいつに近づくことはできない。


「なーに、近づく必要などないさ、栽培勇者よ」


 見るとアマネスが地面に手を付き、そこを中心に無数の武具を創生し始める。

 そうだ! 距離をとってしまえば有利なのは逆にこちら!

 ふふふっ、戦術を誤ったな! 帝王勇者!

 と、思ったその瞬間。

 ガラスが割れるような音と共にアマネスを中心に地面から創生される直前の武器が次々と砕けていった。


「?! 馬鹿なっ?!」


 それはアマネスだけでなく、オレ達も驚愕だ。

 一体いまなにが?

 帝王がなにかをしたような素振りはない。

 にも関わらずアマネスの武器が勝手に砕けたような現象……一体?


「言っておくがアマネス。お前の創生能力はオレの前では役に立たん。オレに傷をつけたいなら直接近寄って拳でも振り上げるのだな」


 そう言って挑発を行う帝王。

 ここまで奴の能力に翻弄されっぱなしでまるで遊ばれている。

 くそっ、いや落ち着け。

 オレはゆっくりとその場で深呼吸を行う。


 オレはアマネスやヘル達のように特殊な力もなければ、戦える能力もない。

 だが、そんなオレにもできることはある。

 かつてヘルに様々な厨二設定を教えたときのように、オレには地球で学んだ様々な漫画・アニメ・小説・その他もろもろ雑学に至るまで、あらゆる情報が蓄積されている。

 これまでもそうであったように。

 オレができることはただ一つ、小細工を仕掛けることのみ。


 フィティスとの料理対決の時も、その後のカサリナさんとの料理対決も、そして魔王城での料理勝負も、全てはそうした無駄に思えた知識から引っ張り出した小細工によって掴み取った勝利。

 絡め手こそがオレの武器ならば、それを貫いて相手の小細工を見抜く!

 オレはもう一度、帝王勇者の動きを観察する。

 それに気づいたのか、隣に立つヘルがオレに微笑む。


「お兄ちゃん、私があいつの隙を作るから、お兄ちゃんがあいつの能力を暴いて、顔面に一発ぶち込んでよ」


 言ってヘルが駆け出す。

 瞬時に帝王との距離を詰め、残り数メートルに迫った瞬間、震脚を用いた跳躍で一気に懐へ入ろうと足を大きく踏み込んだ際。


「?!」


 わずかな衝撃。

 その違和感が体に走る。

 同時に、ヘルの体がまるで地面に固定されたかのように一歩も動けなくなり、再び帝王の剣が放たれ、その衝撃波によりヘルの体がオレのいるところまで吹き飛ばされる。


「きゃあっ!」


 吹き飛ばされたヘルをなんとか全身でキャッチ。

 傷がないのを確認してほっとするが当のヘルはオレに抱かれた状態のまま「お、おおお、お兄ちゃんに抱っこされた、ああああっ」とか赤くなってる。

 すまんが今ちょっとシリアスな場面なので、そのツッコミはあとにさせてもらうぞ。


「やっとわかったぜ、帝王勇者。お前のその能力の謎」


「ほう?」


 そう、先ほどのヘルの突進と、それに対する帝王の動きをよく観察することで理解出来た。

 しかし、まさか、そんなことが可能なのか?

 けど、ここはズバリ言ってやろう。


「お前……恐ろしいほどの貧乏ゆすりだな」


 オレのその発言にヘルは「へ?」って顔をし、貧乏ゆすりという単語がこの世界にはないのか当の帝王とアマネスはキョトンとした顔をしている。


「振動波。こちらが地面を蹴る瞬間、お前自身の右足でこの空間に恐ろしい程の振動を与える。その振動波が床を伝い、地面を蹴ろうと大きく踏み込んだオレ達の足に同じ振動を与える。それにより地面との振動で足がくっついたような現象が起き、その場から動けなくなる。これがお前の金縛りの正体だ」


 そう、前になにかの漫画で見たことがある。

 振動する物体に触れることで共振し一体化するという現象。

 あいつはそれをこちらに気づかせないほどのスピードで右足を振動させ、それを引き起こしていた。

 全くなんて恐ろしい貧乏ゆすりだ。

 ってか、あんなのできるなんて、もう人間じゃねぇよ。


「ほお、さすがだな。わずかな時間でそれを見破るとは、いや実に大した男だ、キョウ。お前の言うとおりだと認めておこう」


 そう言って自らの能力の種明かしをする帝王だが、しかし、それで現状が変わるわけではない。

 むしろ、これだけの距離、地面を蹴らずにどうやって近づけばいいのか。

 おそらくアマネスの創生武器を破壊したのも、その振動を利用した現象であろう。

 武器が完全に創生される前に一定の振動を加えることで創生を崩壊させる。

 アマネスの武器は地面や床などからしか創生できない。

 そこに異なる振動での邪魔が入れば、構造に亀裂が走るのは自明の理。

 こいつとアマネスとの相性はあまりに悪すぎる。


「くっくっく、なるほど。兄上よ。問題はない。要は地面を蹴らずにあいつに近寄ればいいだけのことであろう」


 そう言ってなにやらいつもの厨二臭い笑みを浮かべるヘル。

 ヘル、お前なにを……って、よせ! それはやめるんだ! とオレが止める間もなく。


「地面がダメなら、空中から近寄ればいいだけのことよ!」


 言って即座に鋼のような脚力を用いて、一気に跳躍を果たし、帝王勇者目掛け近づくヘル。

 だが――。


「浅はか、とだけ言っておこう」


 その帝王の呟きはまさにオレの考えと同じであった。

 空中からの跳躍。

 そんな誰しもが考えつくような方法に対してこの男が何の策も打たないはずはない。

 いや、むしろ空中からの跳躍など、もっとも隙を晒す行為。

 なぜなら自由落下の他に回避する場所などなく、それは簡単に弓で射るほどの決定的な隙を生むのだから。

 そして、それにヘルも気づいたが時すでに遅し。


「次からは兄の進言を聞いてから行動に移すのだな。魔王の娘よ」


 言って構えた帝王の剣は着地するヘル目掛け振り下ろされる一太刀。

 まずい! あれをまともに受ければヘルでも危ない。

 そう思い、即座に駆け寄ろうとするが、そんなオレ達の行動などお見通しとばかりに帝王の足から響く振動により、再び地面に固定されてしまう。


 ちくしょう……っ!

 下半身は動かなくても上半身は動く、腕も指先だって動くのに、足だけが完全に固まったように動けないっ!

 目の前に見えるはずの距離があまりに遠すぎる。

 走れば数秒で届くはずの距離が永遠に到来しないジレンマ。


 そうだ、こういう時、あいつの能力があれば……!

 リリィでもアマネスでも帝王勇者に近づくことはできないだろう。

 だが一人だけ、同じ七大勇者の中でも帝王にとって天敵とも呼べる能力を持つ勇者がいた。

 けれど、そのあいつはいない。

 この戦いでは手を貸さないと言った。

 今更、ここまで来て他人の手を借りたいなんて腑抜けた話だが、それでも目の前で傷つく仲間が助けられるなら、オレはなんでもする!

 頼む! 力を貸してくれ!

 そう、オレが強く心で念じた瞬間――


「……ぱぱっ」


 それまでオレの頭で肩車のまま掴まっていたロックがオレの顔を覗き込むのが見えた。


「……あいつがぱぱの居場所をとったのは知ってる……だから、あいつを倒すためならロックも力を貸す……」


 それはいつかの時のように恨みや憎しみなどを宿した目ではない。

 ただ純粋にオレの力になりたい。

 目の前で傷つこうとしている仲間を助けたいとオレと同じ目線の表情であった。


「……ぱぱが走れないなら、代わりにロックが繋げるよ。あいつとぱぱの居場所……だから――」


 瞬間、体がなにかに引っ張られるような感覚が起きた。

 いや、これは空間が歪んでいる?


 気づくと目の前に広がっていた帝王との距離が一気にゼロへと縮まる。

 瞬時に先程オレのいた場所から、帝王のいる場所へと瞬間移動をしたのだ。

 それはまさにオレが願った七大勇者ツルギが持つ瞬間転移のような能力。

 オレと帝王との距離をロックが繋げてくれた。


 瞬間、驚愕に目を開き、こちらへ振り向く帝王。

 だが、一歩遅い。

 ヘルへの対応、さらにはこちらのありえないはずの転移による動揺はオレが帝王へ拳を振り上げるまでの十分な時間を作ってくれた。


 そうだ、ここに来るのに無駄な仲間なんて一人もいなかった。

 アマネスがいたからリリィの攻撃を止められた。

 ヘルがいたからリリィを倒し、帝王の隙を作れた。

 ジャックがいたから英雄勇者フェリドを足止め出来た。

 イースちゃんがいたからフィティスを無事に救出出来た。

 ロックがいたから帝王への最後の詰めを取れた。

 そして、これがその答えだ。

 これはオレだけじゃなく、仲間たちの成長があったからこその拳。

 だからこそ、帝王勇者ロスタム、お前の敗因は――


「オレの仲間に、手を出したことだああああああああああああああああああああっ!!!」


 渾身一撃。

 かつてないほど力を込めたオレの拳が帝王の顔面に入り、その綺麗な顔を吹き飛ばすほどの力となって、帝王勇者の体が大きく吹き飛ぶ。


 遂に――やったぞ!!

 その目的達成を感じた、その瞬間。


 オレの持つ荷物が輝き出す。

 それだけでなく、城全体が揺れるような振動、そして窓から遠くどこかの地で立ち上る光の柱。

 まるでなにかが新生するかのようなその振動に呆気に取られているオレに、倒れたまま口から流れる血を拭き取り帝王が呟く。


「……どうやら、達成できたようだな」


 振り向くとそこには顔面に拳の跡を受けたまま、しかし望み通りと微笑む帝王の姿があった。


「世界の――成長だ」

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