94「仲間の意味」
「これでわかったでしょう……アタシは最低なのよ……あの子のことを忘れてはいけない、あの子との思い出を忘れてはいけない……けれど、そうやってアタシがやったことはあの子の存在そのものを消した行為なのよ! あの子に成り代わってあの子との思い出を全部侮辱した! 死ぬべきはやっぱりアタシだったのよ! もうこれでわかったでしょう! さっさとアタシのことなんか軽蔑してここで切り捨てなさいよ!」
そう言って生まれて初めての感情を吐露し、爆発させるリリィ。
彼女の話、その全てを知っていたわけじゃない。
オレが知っていたのは彼女の兄から聞いた範囲。
あとはオレ自身の予想のみであった。
けれど、その根本は間違っていなかった。
リリィの中にあったのは友達に成り代わった自分自身への怒り。
そして、彼女がリリィを偽った状態でオレ達と絆を結んだことへの後悔と懺悔。
なぜなら、もし本当のリリィが生きていたのなら、いまオレ達の隣にいるのはそのリリィだったはずなのだから。
彼女は二重の意味でもリリィの居場所を奪った。
そう感じたからこその贖罪、けれど。
「リリィ。お前……何度言わせればいいんだ」
その根本が間違っているって言うんだよ。
「いい加減にしろよ! てめえがそうやって後悔して本当のリリィが悲しむとでも! 自分に成り代わったお前を恨んでその場所を返せとあの世で叫んでるとでも思ってんのか?! それこそお前の友達を侮辱する行為に他ならねぇだろうが!!」
そう、もしもリリィが話したとおり、本当のリリィの性格が話の通りなら、彼女がそんなことを恨むはずがない。
「なによりも許せないのはオレ達に対するその勘違いだ。オレが! お前がリリィを演じていた偽物だからって軽蔑するかだって? ふざけんなっ! だからどうした、だ!!」
オレは叫ぶ。
これ以上ないほどの怒りと真実を込めて。
オレのその叫びを聞いて、リリィは呆然とだがハッキリとオレの瞳を見ていた。
「関係ねぇんだよ。お前が誰だろうと、何に成り代わっていたとしても、オレが知ってるリリィはお前だけだ。オレが絆を結んだのも、仲間だと思ったのも、一緒に魔物栽培したのもお前というリリィだ。お前が誰かなんて関係あるか。なにより、お前がSSランクの魔物だとして、それこそどうした? お前、オレが誰だか忘れてるのか」
そう、ほかの誰かならともなく。
この世界とは全く関係ないオレだからこそ、魔物という存在を全く恐れなかったオレだからこそ、言えるセリフだろう。
「オレは、魔物を育ててきた魔物栽培士キョウだ。オレの周りにいる仲間も全員魔物。今更お前がSSランクの魔物と知って恐るとでも? だとしたらうぬぼれ過ぎもいいところだぜ、お前」
言ってオレは呆然とするリリィの鼻を人差し指で軽く弾く。
それに驚いたように鼻を押さえながら一歩後ろに下がるリリィ。
その瞳には先程とは違うなにかをこらえるような涙が溢れていた。
「……アンタ、言ってることめちゃくちゃ。普通、アタシが魔物だったら驚くか恐怖するか騙していたなって怒るはずなのに」
「だから言ってるだろうが、別にそんなの大したことねぇよ。それを言うならオレの母親はSSランクの魔物で妹も魔王四天王のひとりだぞ。そっちの方が驚きだっての。今更お前が実は魔物だったって知って軽蔑するかっての」
それはこの世界に生きている人間ならまず言えないようなセリフであろう。
魔物は人に倒されるもの。
そう用意され、そう役割を与えられたもの。
その魔物が、本来いたリリィという人間になり代わり人の社会に溶け込んでいた。
知る人が知ればそれだけで大惨事ともなりかねない事実。
だが、オレに言わせればそれこそどうしただ。
「本物かどうかなんて関係ない。オレが知るのはお前というリリィだけ。だからオレの仲間はお前なんだよ、リリィ」
言ってオレはリリィに手を差し伸べる。
それはかつてリリィという少女が彼女に手を差し伸べたように。
今度こそオレが彼女の無二の仲間になろうと。
そう決意と想いを込めて彼女へ手を差し伸べる。
それを見てリリィはこらえていた涙をこぼし、声を押し殺しながら泣き始める。
自分の罪。自分の正体。自分の行い。自分の過去。自分の偽り。自分自身の全てを話てなお、拒絶されなかったこと。
また誰かに手を差し伸べられたこと。
そのことに彼女は生まれてから二度目の感謝をしながら涙を流し、その手を取った。
「――アンタって本当に変わってる」
「よく言われるよ」
いつもの会話。いつものリリィ。
それだけで十分だった。
オレとリリィとの関係はようやく始まったのだから。
「……で、話の腰を折るようだが我々は先に進んでもいいのかなぁ? リリィよ」
気づくとオレの手を握り知らず抱きつような形になっていたオレ達の背後からアマネスのそんな声が聞こえる。
それによって我に戻ったのか、現在の状況を冷静に確認するオレとリリィはなぜだか顔が赤くなり、思わず弾けるように距離をとってしまう。
「べべべ、別にいいんじゃないの……あた、アタシの役割はこれで終わりみたいだし、そ、その先に行きたかったら邪魔はしないわよ……」
なぜだかリリィの口調もやたらと動揺していた。
ちなみにそんなオレ達を先程から見ていたヘルは「ううっ~」と唸っている。
「そーかそーか。では我々はこの先に行くとするからお前と栽培勇者とのイチャイチャはあとでゆっくりして構わんぞー」
「ばっ、そ、そんなんじゃないわよ! アマネスっ!!」
やたら顔を真っ赤に否定してくるリリィ。
先程までの絆うんぬんは一体どこへやら、まあいいや。
「……けど、オレからも一ついいか、リリィ。お前が自分のやった行いを悔いて贖罪をしようとしていたのは分かる。けど、なんでわざわざ帝王勇者の味方を? オレ達に討たれるために、ってことなのか?」
それはリリィの過去を聞いてから疑問に思っていたことだ。
彼女の言っていた魔物の役割というものに関係しているのかとも思ったのだが。
「ああ、それね。そっか、アンタ達はまだあいつのことを知らなかったのね。あいつは……」
言ってリリィがなにかを話そうとした瞬間。
一階から轟音が響く。
おそらくは英雄勇者フェリドとジャック達との戦いになんらかの決着がついたのか。
そう思わせるような激しい振動であった。
「……話したいところだけど、今はそんな場合じゃなさそうね。いいわ、とにかく行きなさい。アンタ達、というか少なくてもキョウは帝王勇者のやつを殴りに来たんでしょう?」
「ああ、そうだ。あいつには顔面に一発ブチ込んでやらないと気がすまないからな」
それはオレがここへ乗り込むと決めた際、リリィ達を取り戻す他に決めた決意。
今回の件に関して、あいつには詫びの一言と共に顔面に一発ブチ込んでやらないと気がすまない。
これは怒りだとか復讐だとか意地だとかそういう問題ではない。
ケジメの問題なのだ。
オレのその答えにリリィは満足したように頷く。
「なら行きなさい。この先の三階に帝王はいるわ。あとは誰も邪魔者はいない。アンタ達だけで決着つけなさい。アタシはアンタ達の邪魔が入らないよう、ここで後背を守っててあげるから」
「ああ、正直お前が一緒に来てくれた方が心強いんだが、ここはオレ達だけで決着つけた方がいいんだろう?」
リリィが言わんとしたことをオレも読み取り、それに静かに頷くリリィ。
なんだかんだとこれまでずっと一緒にいたんだ。
仲間であるリリィの考えならもう大体分かる。
そして、それはほかの仲間たちも同様だ。
ジャックもイースちゃんも、オレは全員を信頼している。
だからこそ、先ほどの爆発を耳にしてもオレは振り返らない。
仲間を信じ、ただ全力で前に進むのみ。
この城のボスである帝王はオレ達で倒す。
「じゃあ、ちょっと行ってくるぜ、リリィ」
「ええ、頑張りなさいよ、キョウ」
顔を見ずとも信頼しあえる仲間の声を背に、オレ達は階段を駆け上げる。
その先にいるこの城のボス――帝王目指して。




