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77「帝王勇者」

 そこは帝王が治めし帝国。その中枢に位置する皇帝の間。

 そこにひとりの白いローブに身を包んだ小柄な人物が瞬きの間に現れる。


「ただいま、帝王陛下。向こうへの書状、確かに渡してきましたよ」


 そう言ってやや大仰にお辞儀を行う勇者ツルギ。

 それに対し叱責をするでも任を終えての労りの言葉をかけるわけでもなく、ただ一言「そうか」と玉座に座る人物が呟いた。


「それにしてもわざわざ会談なんて、帝王様のお力があれば向こうの国ごと奪うことも出来るでしょうに」


「それでは面白くあるまい」


 玉座に座るその帝王は初めて愉悦を含んだ笑みを浮かべ、目の前の道化のような人物に対して諭すように語る。


「覇道の本質とは塗りつぶすことにあるが、力のみでそれを行っても意味はあるまい。それになによりもまずはその“栽培勇者”とやらを直に確かめてみたい。それによってどのように趣向を凝らすべきか方針も定まるというもの」


 そこには自らに対する絶対の自身と共に、まだ見ぬ栽培勇者に対する期待と興味が込められていた。


「それにオレの計画には奴らとの対峙は避けられぬもの。ならば直に会って宣戦くらいはしておかねばな」


 そこには帝王ゆえの余裕にも似た感情が込められ、それを見ながらツルギは大仰に頭を垂れる。


「さすがは帝王様。ではその遊び心に僕なりに付き合うとしましょう」


「相変わらず道化は口先だけだな。お前はお前で自分の目的を好きに果たすがいい。なんなら向こう側へ付いてもいいのだぞ?」


「そうですね。それも悪くないかもしれませんね」


 道化師のその対応に対し、帝王は口先に笑みを浮かべ返す。


「お前たちも同様だ。今はお互いの目的が一致していることによる共闘を演じているに過ぎん。もしもお前たち個人の目的がオレの目的と相容れなくなったら好きに行動して構わんぞ」


 そう言って帝王は自らの背後にて待機をしているふたりの勇者にそう声をかける。


「……オレがここにいるのはあなたの目指すものがオレの目指す理想と重なった結果だ。目的が果たされるまでは行動を共にする」


 それは勇者の中の勇者、英雄と呼ばれる称号を持つ“英雄勇者”フェリドであり、彼はそう静かに帝王へと付き従う。そして――


「……お前の好きにすればいい……私は、お前の意思に従うだけだ……」


 その反対。もうひとりの側近として帝王の横に立つ人物。

 全身を漆黒の衣装にて包んだ影のような人物。その顔も口調も全てが影のように生気がなく、まるで傀儡のような印象さえ与えるその人物に帝王はいつものように語りかける。


「では、そのように取り仕切らせていただきますぞ。兄上」


 自らの兄と呼んだその人物。

 七大勇者の一人にして“帝王勇者”の兄である人物ザッハークは虚ろなまま静かに頷く。

 やがて帝王は自ら玉座より立ち上がり、これより自らの国へと招来せし、ある客人に対し期待と羨望を込めその名を呟く。


「栽培勇者もそうだが……お前との再会も楽しみにしているぞ、フィティス」


 三人の七大勇者を従えし“帝王”の名を冠する勇者。

 その彼が呟いた少女の名こそ、栽培勇者キョウの隣に立つ一人の勇者の名前であった。

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