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60「親父VS母親」

第一回戦。

その組み合わせと指定料理が発表された際、二人の顔に浮かんだ表情は笑顔であった。


「さすがね、あなた。こちらの対戦表を読んでいたみたいね」


「当然だ。お前なら奇をてらい、最初から全力のオーダーを出すと読んでいた。つまりお前自身が先鋒を務めるとな。だが正直、指定料理に関してはちょっとばかり裏を取られたぜ」


「あら、そうかしら? 料理に関してはむしろ王道で攻めてみたつもりですけれど」


二人の視線の間にあったのは純粋な闘士とお互いの実力を認めた者同士の尊敬の眼差し。

この二人やはりどちらもタダ者ではない雰囲気が溢れている。


「それではここで改めてルールの説明をする」


とそこで今回の審査員を務めることになったであろうグルメマスターよりルールの説明が行われる。


「まず最初に対戦相手の発表と指定料理の開示を行う。その後、指定料理に関する準備として三日間の猶予を与える。発表より三日後、改めてこの場所にて料理バトルを開始する。これを互いのチームどちらかが3勝するまで繰り返すこととする。なお、先にどちらかが3勝した際はその時点で勝敗は決定。その後の料理バトルに関しては双方が望んだ場合のみ最後まで行うこととする。異論はないか?」


「ないぜ」


「こちらもそれで十分ですわ」


父と母、双方の合意を得てグルメマスターは静かに頷く。


「よろしい。ではこれより三日後、ヒムロ=ケイジ対“魔王”ファーヴニルの対戦を行う。指定料理は麻婆豆腐。なお今回の料理バトルは味は無論、指定された料理をいかに上手く調理するか、あるいは『その者にしか作れないこだわり』を披露すること。そうした技術、独創性、あるいは料理人としての誇り全てを審査の基準とする。故に双方ともに己の出しうる全てを出すこと。それを期待する」


グルメマスターのその宣言終了と同時に、第一回戦の料理バトルはすでに静かな始まりを迎えていた。







「それにしても母さんが先鋒を務めたのも意外だったけど麻婆豆腐の指定も意外だったなー。この世界って中華料理ってあんま普及してないんだろう?」


「まあな。けど思い出してみろ。母さんはお前の生みの親で一時期はオレと一緒に日本にいたんだぜ? つまりその時に地球の料理ならあらかた口にしたことはあるのさ」


「あ、なるほど」


言われてみればそうだった。ということは母さんは地球に異世界転移できるということか。

もしかしたら親父にくっついて一緒に行っただけかもしれないが。


「けど、それにしても母さんもやたら自信家だよな。麻婆豆腐って言えば親父の得意料理の一つだろう?」


そう、オレの親父であるヒムロ=ケイジの得意料理は中華料理。中でもその王道とも言える麻婆豆腐はその十八番である。

実際、前回の大料理大会の決勝戦でオレが親父に負けたのもその中華料理であり、その時の麻婆豆腐の味はいまのオレでも勝つのは難しいとさえ思っている。


「ああ、それに関してはオレも驚いた。というのもオレが地球で料理屋始めたときにあいつに最初に教えたのが麻婆豆腐だったんだ」


へえー、そうだったんだ。両親の馴れ初めとか聞いたことなかったのでなんか新鮮。


「あいつはとにかく昔から覚えが早くてな。特に料理の腕は本当に天才的だった。オレが教えた中華料理も全部マスターして、一時期はあいつが店仕切ってた方が盛んだった時期もあった。まあ、すぐに飽きてやめちまったけど」


「つまり要約すると母親も父親と同じくらい中華料理が得意だと?」


「今のあいつがどのくらいの腕に進化してるかはわからない。だが、麻婆豆腐を指定するあたりよほどの自信があるってことだろう」


その親父の言葉には珍しくどこか震えるような声色があったが、それは決して恐れなどではなく戦いを待ちきれない武者震いによる興奮だとすぐに気づいた。


「面白くなってきたぜ。こっちも準備を整えるとするか。幸い、打って付けの食材もそろそろ実ってる頃だしな」


「そういえば親父もオレと同じでどこかの庭で野菜育ててるんだよな? 今から取りに行くのか?」


「おう、よければ見に来るか?」


その親父の誘いにオレはもちろん、背後で聞き耳を立てていた他のメンバーも覗き込むように宣言した。


「「「ぜひ!!」」」







「すげえ、マジで野菜農園だ」


そこに広がっていたのは様々な野菜が栽培されている農園の姿。

キャベツ畑はもちろん、キュウリにトマト、ナスにジャガイモ、ピーマン、更にはリンゴやぶどうといった果実まで幅広く菜園されていた。


「まあ、一通りの野菜はこうして栽培に成功している。一応いくつかはもう市場に回しているが、現時点で野菜が栽培出来てるのはオレのこの農園だけだからな、かなり貴重だと自負してるぜ。もしよかったらお前らもいくつか好きなのもらってくか?」


「いいのですか?! お父様」


「おーおー、構わないぜ。特にかわいこちゃん達は好きなだけ持っていっていいからな」


親父からの提案に身を乗り出すように答え、早速地面に生えていた野菜を珍しげに採取するフィティスとミナちゃん。

オレも後からいくつかもらうつもりだが、今はそれよりも気になることがある。


「で、母さんとの対決では一体何の野菜を使うつもりだ?」


オレのその質問に親父は待っていましたとばかりに不敵な笑みを浮かべ「ついてきな」と言って奥の方へ歩いていく。

しばし歩いたそこは果実ゾーンであり、様々な果実に目を奪われていたが、やがてある場所にて親父の足が止まる。


「こいつを使う」


「こいつって……親父、次の指定料理は麻婆豆腐だぞ?! 正気かよ?!」


親父が指し示したそれはオレですら思いも寄らないものであり思わず親父の正気を疑う。

だが、親父は自信満々にむしろオレの反応を楽しむように手に持ったそれを口に運びながら答える。


「なーに、答えはすぐにわかるさ。まあ、楽しみにしてな」







「では、指定料理の発表より約束の三日後となった。双方ともに指定料理の準備は出来たと思われる」


「無論、できておりますわ」


「おーよ、こっちも準備万端よ」


親父に連れられた野菜農園から三日。

親父はあの農園で採取したあれをどう使うのかオレ達に一切伏せたまま勝負の時を迎えていた。

だが、親父のあの様子から決して伊達や酔狂でそれを選択したのではないということだけは分かっていた。

あとはどんな料理を出すのか、オレ達の興味はそこにあった。


「よろしい。では魔王料理バトル一回戦。ヒムロ=ケイジ対“魔王”ファーヴニル。指定料理、麻婆豆腐――開始!」


グルメマスターのその一言と共に親父と母さん、二人が同時に獲物を握り調理を開始する!

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