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56「グルメ勇者VS賢人勇者」

「さて、準備は出来たかの、フィティスよ」


「いつでも構いません。師匠、今日こそあなたを越えさせて頂きます」


カサリナさんとフィティスの勝負の約束より三日後。

遂に二人の料理勝負の時がやってきた。

場所はここミナ食堂屋。

そこには審査員としてこの町の領主と天才勇者シン、そしてなぜかうちの親父の三人が審査員席に座っていた。


「領主さんとシンはわかるんだが、なぜに親父なんだ……?」


「そりゃお前、この中で一番公平なのはオレだからだろーが。お前やそっちのお嬢ちゃん達じゃ公平とは言えないだろうし、なにより味の評価についてはオレが一家言あるだろう」


まあ、確かに言われてみればそうかと納得する。

なんにしてもこれで準備は整いあとはお互いの全力を見守るだけ、領主さんの開始の合図と共に二人の調理が開始され、やがて鮮やかな手並みと共に香ばしい匂いが漂い、双方の料理が完成される。


「ではまず先に儂の料理から試食をしてもらおう」


そう言ってカサリナさんが運んできたのは蓋をされた大きめの丼と、その隣に置かれた小さなコップ状のお椀。そして深い緑のお茶。

領主を始めとした審査員達がその丼の蓋を開くと、そこから現れたのは黄金の輝き。


「こ、これは――!」


その丼の中にあったのは白いご飯の上に乗った小さな朱色の卵の数々。そしてその朱色の卵を彩るように様々に配置された大葉、卵焼き、クラーケンの足、様々な魚の肉であり、色とりどりなそれはまさに魚介の全てを詰め込んだ美しき丼――って


「それ海鮮丼じゃないですか―――!!!」


思いっきり突っ込み。

ちょっ、卵料理って主旨はどこ行ったの?! カサリナさん!

するとカサリナさんはまるで口笛でも吹くようにさも当然のごとく切り返してきた。


「なにを言う。これは立派な『卵料理』だぞ。見ろ、この丼の中心となっているのは朱色の卵であり、これこそ色彩魚の『卵』魚卵の数々。これを卵料理と言わず、なんという?」


イクラ丼って言うんだよ!!

きたねぇ! さすが賢人勇者きたねぇ!

前にフィティスが言っていたとおり自分の土俵に持ち込むその手腕は確かに賢人勇者の名に相応しい。限りなく反則に近い気がするが。


「なるほど、ですが卵は卵。卵料理の主旨には外れていない以上、反則とは言えないでしょう。では早速実食させて頂きます」


そう言って溢れるほどの色彩魚の卵をご飯と共に口の中に運ぶ審査員達。

その瞬間、領主たちの顔に走るのは衝撃の美味さ。


「これは……なんという美味!」


「本来、色彩魚の卵は透明であり、色彩魚本体と同じく海と同化したそれを見つけるのは非常に困難。けれど、この卵は朱色に染まっている。それはなぜかと思っていたけれどこの味――」


「調味料、醤油だな」


口に含んだそれを味わいながら親父が的確に答えを着く。


「おそらくは一夜しっかりと醤油につけて味を整えていたのだろう。そのため色彩魚の卵の色が醤油を吸い込み朱色に似た色へと変化した。それをご飯の上に乗せ、わずかな刺身と合わせるだけで十分すぎるほどの味わいが全体に広がる」


「まだまだそんな物ではないぞ。その丼の隣にある小型のお椀も開いてみてください」


そう言ってカサリナさんに誘導されるまま、審査員達が開いたその小型のお椀の中にあったのは薄い黄色のゼリー状の食べ物。


「これは、茶碗蒸しか」


そう、それはある意味、最も海鮮丼と合う卵料理の一つであり、蓋を開けた瞬間、鼻腔をくすぐるのは茶碗蒸しの匂いだけでなく山菜の香ばしい匂い。そのあまりの香ばしさに思わずヨダレが出てしまう。


「卵には砂漠の王者と名高いバジリスクの卵を使用させていただいた」


「バジリスク! 僕の故郷に生息するBランク相当の魔物。強力なものになればAランクに成長し、相手を石化する能力を備えた危険な魔物。だが、それゆえ奴らの肉は至高の美味とされ、卵に至っては鶏系の魔物の中でも最上位の味と謳われているもの。いつの間にそんなものを……!」


「最高の料理を調理するためには最高の食材を欠かさない。それが儂の流儀であり、そしてそちらのキョウ殿に負けてから儂もアレンジの精神を忘れないようにしていた。無論、全体の料理としての調和もぬかりはない」


そう言ってカサリナさんが目で指し示したものは無論、審査員達が飲んでいるお茶。

色彩魚の卵を中心とした海鮮丼を主役に、それをサポートする山菜風の茶碗蒸し、そしてそれらと合うように用意された口直しを含めたお茶。

以前、オレが指摘した全体としての料理の流れ、調和を見事に体現している。

これは文句なく海鮮丼としての理想そのものであった。


こいつは正直マズイ流れだ。

カサリナさんの実力は十分に分かっていたつもりだったが、予想外だったのはカサリナさん自身の実力もオレとの勝負を経て成長していたことだ。

この料理に勝つのはいくらフィティスでも難しい。


そう思い彼女を見るが、しかしフィティスは慌てた様子もなく、ただ静かに己の料理を運んでいく。


ああ、そうだったな。今更オレがうろたえたところでどうにもならない。

彼女は持てる全てをその料理に込めた。ならあとはオレ達も彼女のその料理を信じて、結果を待つのみだ。


審査員達がカサリナさんの料理を食べ終わると同時に、フィティスが用意した料理を彼らの前に広げる。


「お待たせしました。こちらが私の料理――オムライスにございます」


そこに用意されたのは黄色い卵の革に包まれ、それ以上の黄色いソースを全体にかけられた卵料理のオーソドックスとも呼べるオムライスであった。

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