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54「師は弟子を千尋の谷に突き落とすと言うが…」

「料理対決、ですか? ……はい! 私でよければぜひ協力させてください!」


ということで、あれからオレ達はミナちゃんに事情を話して魔王城での料理バトルへの参加を要請し、ミナちゃんはそれを快く請け負ってくれた。


「これで五人決まりってところか、キョウ」


「ああ、ってか親父を入れるかどうかはまだ悩んでるけどな」


「お前ツレねーこと言うなよー。父さん悲しいぞー」


そう明らかに心にもないことをボヤいている親父。

しかし親父の実力は大料理大会の時に実証済みであり、単純に戦力として考えるならオレ達の中で一番と言っていいだろう。

断る理由もないので、無論親父にもこのまま協力をしてもらう予定だ。


「とりあえず、これでメンバーは決まったわけだが、あとはひと月後の料理バトルに向けて新たに魔物の栽培や料理の腕を磨く感じでいいかな?」


「それなんだけど、キョウ。アマネスのことは放っておいていいの?」


「ああ……彼女には彼女のやり方があるだろうからな。オレ達はそっとしておこう」


あのあと、オレ達が残りのメンバーを迎えに行こうとした際、アマネスはオレ達とは別行動を取り、ひと月後の料理バトルに向けて準備を整えると言っていた。


『任せておけ。最上級の魔物を今から狩りに行く! そう、私の能力を存分に活かせる太くて硬いやつをな!』


もうその時点で方向性が別のところに向かってる気もしたが。

ま、まあ、あの人が負けてもオレらで3勝すればなんとかなるかと前向きに考えることにした。

とそんな風に考えをまとめていた際、ミナちゃんの食堂屋の扉が開き、聞き覚えのある生意気な声が聞こえてくる。


「やれやれ、相変わらずここは埃っぽいね。もっと豪勢な建物に建て替えたらどうかな?」


それは大料理大会でオレと対戦した天才勇者のシンと、その後ろからはフィティスの師である賢人勇者カサリナさんが現れた。


「やあ、聞いたよ。キョウ、それならミナ。なんでも魔王と料理バトルをするそうじゃないか、相変わらず面白そうなことしてるね」


お前どこから、その情報を聞きつけてきた。と思っていたら、なにやらシンが懐から何かを取り出す。

はて、これは?


「サンショウウオから取れるサンショウにタラドラゴンの鱗を削って出来るタラゴン料。バジルリーフにブラックペッパーとホワイトペッパーの香辛料。ああそれからサソリドラゴンの肉にサボテンボールの花と灼熱蟹もおまけでくれてやるよ。ほかに欲しいのがあったら良心価格で譲ってあげるよ」


と言ってなにやら香辛料その他どっさりと机の上に置く。

というかどこからこれだけの食材を。


「えっと、オレらに協力してくれるの?」


「ば、馬鹿言ってんじゃないよ。た、単に僕に勝ったお前らが魔物相手に料理勝負で負けるのが許せないだけだよ。これは僕の名誉のためにやってるだけだよ。か、勘違いするなよ」


なんだろう。こいつはツンデレ枠なんだろうか。

けどごめんよ、シン。いくらお前が女顔でもオレ男の娘萌えはないから……。


「ありがとうございます、シンさん。この食材、大事に使わせていただきますね!」


と、そんなアホなこと考えてるとミナちゃんがシンの両手を手で取りお礼を言っている。

そんなミナちゃんのお礼に対してシンはわずかに頬を染め、どこか俯くように返事をする。


「あ、ああ、まあ、頑張れよ……」


こいつなりに以前のことを反省してるということだろうか。

まあ、なんにしてもこうして食材などの協力をしてくれるのはありがたい。


「それでカサリナさんもオレらに協力しに来たってことですか?」


「まあ、協力と言えば協力じゃな」


そう言ってカサリナさんはフィティスの前まで来て


「フィティス。ひと月後の魔王城での料理バトル、儂に席を譲れ」


と、その一言にこの場にいたオレ達全員が一瞬動きを止めた。

だが、すぐさまフィティスが師であるカサリナさんを前にハッキリと答える。


「お断りいたします。いくら師の頼みとは言え次の料理バトル、キョウ様のために貢献致すのは私の使命です」


「フィティス、確かにお主の料理の腕は一品だ。だがわかっているはずだ、お主はまだ儂には届かぬ。ならばより勝算のある相手に席を譲るのが貢献になるとは思わぬか?」


カサリナさんの言うことには一理ある。

確かに単純に勝算を求めるならより料理の腕が確実な人物に席を譲ったほうがいい。だが。


「カサリナさん、申し出は嬉しいのですがオレはフィティスの腕を信頼しています。前はどうかは知りませんが今のフィティスはオレ達と行動を共にしてその価値観も料理への応用力も変わったはずです。なによりこうした料理の腕は一概に誰が優れているかなんて簡単には測れないはずです」


「キョウ様……」


フィティスを庇うように言ったオレのセリフにフィティスは感動を押し殺すような声をあげる。

だが、これはオレが思ったことの事実であり、料理の腕がいいからと言ってそれがそのまま勝敗につながるとは思わない。

以前の大料理大会の時もそうだったようにこの世界の料理は過程を含めた全てが審査基準。

ならばより伸び代のある信頼出来る人物をオレはパートナーに選びたい。

ここ数ヶ月共に過ごしたフィティスならオレの隣を任せられる。

そう断言したオレのセリフにカサリナさんは面白そうに微笑む。


「いいだろう。そこまで言うのならば儂に直接証明してもらおうか。

フィティスよ、儂と料理勝負をしてもらおう。それでお主が儂に勝てたのなら儂もお主を認めよう。

だが儂が勝った際にはその席は儂に譲ってもらおう。ここで儂に負けるようならいくらお主の信頼が高くとも実力が成長していないということじゃからな」


そのカサリナさんからの申し出に対し、フィティスは迷うことなく再び断言した。


「わかりました。その勝負受けて立ちます」


フィティスのその答えにカサリナさんは狙い通りとばかりの笑みを浮かべる。


「では勝負は三日後この場所で、題材とする料理は――『卵料理』じゃ」


カサリナさんのその申し出にこの場にいた全員が固唾を飲み、二人の対決に火花を見た。

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