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41「VS親父」

「さて、と」


決勝戦まで一週間。

オレは久しぶりの自分の庭に帰ってきていた。

庭の前にあるボロ屋は相変わらず倒壊寸前であり、むしろさっさと補修しないといけないのを思い出した。


「ご主人様ー。決勝はどんな食材で勝負するんですかー?」


「んー、そうだなー。まあ、いつも通りオレの育てた魔物で勝負ってところかな」


「ぱぱの育てた魔物さんならみんないきいきしてるから、絶対大丈夫だよー」


そう言って頭の上で聞いてくるドラちゃんに答えながら、足元ではロックがしがみついてくる。

思えば賑やかになったものだ。

今では畑のあっちこっちにマッシュタケや、ウィードリーフ、バハネロといった様々な魔物が栽培し、中には歩き回ってる連中もいるが、オレが育てた魔物は比較的穏やかな連中なのか人間に危害を加えることはない。


「そうだな。ここまで来れば素直に兄ちゃんの栽培師としての腕で勝負したほうがいいだろうよ」


おっと、忘れてはいけない、いつの間にか人型に進化していたジャックもいたな。

ジャック・オー・ランタンも無論のように多く栽培しており、いくつかは街の食材屋にそのまま流通するようにしている。


「けれど、大丈夫なの? 相手はアンタの父親って聞いたけど」


「キョウ様のお父上ということで少し調べさせてもらいましたが、あの方これまで全てオール5票という支持を受けて決勝まで勝ち残ってきたようです」


マジかよ。親父そこまで圧勝していたのか。

まあ、野菜というだけでも新鮮だろうが、それを使った料理ともなればそれだけの高評価もあり得るか。


「いずれにしてもお主が決勝まで少しでも料理の腕を上げておきたいのなら、儂は協力を惜しまぬがどうする?」


「それじゃあ、適度にお願いします。言っときますけど一週間睡眠なしのフルタイム修行は勘弁してくださいよ」


カサリナさんのその申し出をオレは素直に受け取る。

そんなオレの返答に隣に立っていたミナちゃんも名乗りをあげる。


「そ、それなら私も一緒に! 私もキョウさんと一緒に料理をさらに鍛えます! 準決勝ではあまりお役に立てなかった分、決勝ではしっかりと料理面でもサポートできるようにしますから任せてください、キョウさん」


「ああ、ミナちゃんにはいつもお世話になってるよ」


必死にオレのために頑張ろうとするミナちゃんを見て、オレもまた決意を固める。

ミナちゃんだけじゃない、リリィもフィティスも、これまでオレを支えてくれた皆に恥じないよう決勝戦では全力を出すだけだ。


そうして久しぶりのこの地での滞在をし、ミナちゃんの食堂で過ごしていた時、思いもよらぬ珍客が現れた。


「全くなんだいこのボロい食堂屋は。こんなところの代表が僕に勝ったなんて未だに信じられないな」


それはあの天才勇者シン=ド=バードであり、わざわざオレ達のいる場所を委員会から聞いて会いに来たらしい。

というかなんでわざわざ会いに来たんだ?


「……ほら、これ」


そう言ってオレに手渡してきたのは複数の瓶であり、その中身は香辛料と思わしきものであった。

えっと、なんですかこれ?


「僕が自ら調合した香辛料だよ。お前がこの間作ったカレーに合うように調整してやったんだよ。ありがたく使っておけよ」


そう言ってぷいっとそっぽを向いて立ち去るシン。しかし帰り際なぜか顔を赤らめながら、こちらを振り向く。


「い、言っとくけど、僕に勝ったんだから決勝でも勝てよ!」


なんだろう。新たなツンデレ枠かな。

とりあえずくれるものはもらう主義なのでもらっておくけれど、ごめんシン。

決勝ではカレーを作る予定はないんだ……。


そうこうしながらも決勝までの一週間は過ぎていく。

途中、領主が挨拶に寄ったり、以前お世話したオーガ達が自分たちの里で収穫できた魔物を持ってきたり、雪の魔女ことイースちゃんとドリちゃんが二人して顔を見せに来て、決勝でも観客席で応援してると言ってくれたり、この世界に来てから思ったよりもたくさんの連中と知り合い、彼らからのエールを受け取った。


結局、一週間という期限ではなにか新しい魔物を栽培することも、野菜を作ることもできなかった。

もとより今順調に育ってる何かを下手に変える気もなかった。

今ある全てで勝負する。それがオレの出した結論だったから。


そして一週間後。

大料理大会の決勝戦。その舞台にはかつてない観客と熱狂が存在していた。


「遂にお待たせしました皆さん! いよいよこの世界の中心にて、食の頂点を極める大料理大会の決勝戦が開幕されます!」


司会者のその声で先程から興奮の坩堝であった会場はさらに熱気を高める。

オレとミナちゃんはその熱気に包まれながら静かに舞台へと上がる。


「では決勝戦に残った両名の紹介です。片や無名の食堂屋から現れた料理人とその栽培師、それがまさかこの大舞台の最後に残ると誰が予想したでしょうか! ミナ&キョウ選手ー!」


オレ達のその紹介に観客席から多くの歓声が上がり、見るとそこにはリリィ、フィティス、カサリナさん、イースちゃん、ドラちゃんにロックと皆が応援の声を上げていた。


「そして、一方もこれまた全くの予想外! ミナ&キョウ選手と同じく全くの無名で今大会の出場が初! にも関わらずその戦績は全て圧勝というまさに今大会のダークホース! ヒムロ=ケイジ選手ー!」


オレ達と同じか、あるいはそれ以上の声援を受けながら舞台に上がるのはオレの父、氷室敬司。


「よお、どうだ、キョウ。なにか対策はできたか?」


「んなもの一週間で出来るかよ。こっちは手持ちの食材と技量全部で勝負するだけだ」


オレのその返答に対し、親父はなにやら楽しそうに微笑む。


「そうか。なら、そのお前の成果ってやつを見せてもらおうか」


その親父の受け答えと同時に司会者の口から開始の声が告げられる。


「では、大料理大会決勝戦――開幕!」

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