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21「ドリアードを育てよう」

「え、えーと」


なんだろう塔に入った途端、謝られた。

途中豪雪に遭いながらもなんとかここまで来れたが、相手は雪の魔女という異名。

ついにバトル展開あるか?! と思いながら塔に入りましたが、特にそんなことはなかったです!


えーと、それはそうとこれはどういう展開だろう。唐突すぎてさっぱりわからん。


「ご主人様!」


「お、ドラちゃんじゃん! 無事だったのか」


そうこうしているうちに奥からドラちゃんが現れてオレの肩に飛び乗る。

あれ? これでもう目的達成じゃね?

しかし目の前の魔女っ娘は頭を下げたままで、このまま帰るのはなんかすごい気が引けた。


「ご主人様、この人のことを助けてくれませんか?」


「ん、どういうことだい?」


そういえばさっき助けてくださいとも言っていたような。

もう一度改めて聞こうかと思うと雪の魔女さんは帽子を深くかぶり直して奥の方に行っちゃう。

たまに後ろを振り返ってこっちをじっと見てる。まあ、目は髪で隠れてわかんないけど。

それってもしかして付いて来いってことですか?

とりあえず両隣にいるリリィとフィティスにアドバイスを求めるが二人共オレに任せるといった感じだ。

まあ、こうなったら何かの縁だ。最後まで付き合ってみるか。

そんな感じで魔女さんの後を追うことしばらく、広いホールのような空間に出る。

そのホールの地面は土で覆われており、そこに下半身が樹の女性がぐったりとしていた。


「ドリアード」


隣にいるフィティスがぽつりと呟く。

ああ、なるほど。あれがドリアードか。

そう思い彼女の近くに寄ろうとした時、雪の魔女がオレの袖を引っ張りなにか口をパクパクさせている。


「……あの子」


しばらくの口パクのあと、ようやく絞り出したセリフがそれだった。

え、えーと、たぶんだけど、この子、口下手……なのかな?

で、あの子を助けて欲しいと、たぶんそんな感じか?

とりあえずオレはそのドリアードに近寄りその子の容態を確認する。

と言ってもオレ別に医者でもなんでもないし、樹木研究家でも魔物博士でもないよ?!

そう思いながらもその子に触れた瞬間、衰弱しているのが分かってしまった。


「……マンドラゴラのご主人さんですか? イースちゃんがご迷惑をおかけしました」


その瞬間、目の前のドリアードが口を開く。


「あ、いえ、ちゃんと返してくれたので、特にそれほどは」


「イースちゃんに頼まれて私の症状を見ているんですよね? ですが、なんとなくお分かりでしょう。私のこれはもう完治することはありません」


そういう目の前のドリアードにオレは静かに頷くしかなかった。

触れた瞬間、なぜかこのドリアードの衰弱がなんとかく分かってしまった。

これはおそらく寒冷地に長く居すぎたために起きた衰弱。

仮に今からこの子を移動させたとしても間に合わないだろうと。


「……や、やだ」


見ると先程まで後ろにいた魔女、おそらくはイースという名前なのだろう。その彼女が表情は見えないが泣きそうな雰囲気なのは分かる。


「ドリちゃんがいなくなるなんて、やだ……! いなくならないでよ……! だ、だって、わ、わた、私の……友達、なのに……!」


そう言ってドリアードに必死にしがみつく。

そんな彼女をドリアードはまるで妹をあやすように優しく撫でる。


「もうイースちゃんは仕方ないな。でも、もうイースちゃんも大人なんだから。私がいなくても大丈夫だよ」


「……やだ……やだよ……」


優しく諭すドリアードに対して必死に懇願するイース。

その姿を見ていると何とかしてやりたい気持ちが溢れてくる。

とはいえ、さっきも言ったように医者でもないオレにそんなことができるのか。

そう思い目の前のドリアードを観察していた時、あるひとつの方法が閃く。

もしかして、これなら。


「雪の魔女さん。いいですか? 彼女を、ドリアードを救うことはオレにはできません」


そのオレの発言に雪の魔女がびくんと反応しているのが分かる。


「けれど、ひとつだけ。別の方法で彼女を生かせる方法があるかもしれません。その方法を試させてください」






それから数日後、結論を言えばドリアードは助からなかった。

その現場にオレ達はいなかったが、雪の魔女がものすごく悲しんでいたのは後日の印象でわかった。

けれど、そのすぐ後に彼女のその悲しみを拭うことはできたかもしれない。


「どうだい、なんとか成功しただろう」


そういったオレの前には小さな苗木があり、その上半身からは小さな女の子が生まれスヤスヤと寝息をたてていた。

その光景を雪の魔女はじっとしゃがみこんで懸命に見ていた。


あのあと、オレはドリアードの髪の一部、木の一部をもらい、それをオレの庭に植えることにした。

いわゆる挿し木というやつだ。

植物によっては種だけでなく、こうした木の一部を植えることで育つと本で見たことがある。

ドリアードもそうした樹の一種かもしれないと試してみたのだが、なんとか上手く根付いて育ってくれたようだ。


そうして育った小さなドリアードを見ているのと、彼女が起き「ふわ~」とあくびをしながら、目の前にしゃがんでいる魔女に気づいて屈託ない笑顔を見せる。


「いーす、ちゃん」


そう言ってまだ上手く喋れない舌っ足らずな口で目の前の魔女の名前を呼び、彼女の手をその小さな手で握ってくれた。


「……ぁ」


「うん?」


「……あり、が、とう」


見ると雪の魔女がこちらを見上げるように顔をあげていた。

そこから見えた彼女の顔は白い前髪で隠されていた部分があらわとなり、涙を浮かべながらもはにかむその表情はとても――


「か、可愛い」


思わず呟いたそんなオレの一言に雪の魔女は白い肌をぼっと赤く染めてまた目を前髪で隠し帽子を深くかぶってしまう。

ちなみに肩に乗っていたドラちゃんが、また不機嫌そうに頬を膨らませていた。

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