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第180話「父と母の出会い」

「キョウさん達、一体どこに行ったんだ……?」


 戦場と化した街を走り抜ける少年が一人。

 彼の名は氷室敬司。

 先ほど、突如としてこの街を襲った魔物達に向け走り去ったルーナと、それを追ったキョウに遅れるような形でケイジもまた街中を駆けていた。

 しかし、まだこの街に来たばかりで街の構造をよく知らない彼がキョウ達に追いつけるわけがなく、魔物達の襲撃も相まって、戦場となった街をなるべく被害に遭わないよう恐る恐る進むのがやっとであった。


「というか一体この街になにが起こっているんだ……?」


 周囲でたくさんの魔物と戦う騎士達を見ながらケイジはそんな疑問を口にする。

 やがて、あたりに魔物の気配がないのを感じるとケイジは一気に駆け出す。

 せめて、どこか安全な場所に避難を、そう思った矢先であった。


「!? あれは!?」


 そこにはいたのは街中を歩くひとりの少女。

 全身を真っ黒なドレスで着た年の頃十四、五の女の子。

 漆黒の長い髪に、それと似合うゴスロリ調の服。

 誰が見ても絶世の美少女と言えるほど、その少女の外見は美しく同時に愛らしかった。


 そんな少女の前に立つのは巨大な岩のゴーレム。

 ゴーレムは少女に対し、腕を掲げると、それを振り下ろすような体制を取る。

 それを見た少女はさもつまらなさそうに顔を歪める。

 この時、ケイジは知らなかったが、ゴーレムは魔導王国イシタルが誇る防衛のためのガーディアンであり、その目的は街の内部に侵入した魔物の排除であった。

 だが、ケイジにとってみればゴーレムはこの街を襲っている魔物と区別がなく、また目の前で少女が魔物に襲われているという構図以外には映らなかった。


「危ないっ!」


 ゆえにケイジが自らの身を顧みず、少女に飛びつき、その身を守ろうとしたのはある意味、当然の行為である。

 ケイジに押し倒されるような形で少女はゴーレムからの攻撃を回避するが、それに一番驚いたのは少女本人である。


「だ、大丈夫だった? 君?」


「…………」


 無論、続くケイジのセリフにも少女はなんのことかと目をパチクリさせる。

 やがて、ゴーレムが再び少女に狙いを定めるのを見ると、ケイジは慌てた様子で少女の手を掴む。


「こっちに! 急いで! あのゴーレム、まだ君を狙ってるみたいだ!」


「え、ちょっ!?」


 何かを言おうとした少女であるが、それより早くケイジは彼女の腕を引っ張るように路地へ向かう。

 そうして狭い路地の奥に身を隠すと、ゴーレムの姿がなくなったのを確認して、そっと胸をなで下ろす。


「ふぅ、なんとかなったみたいだね。君、大丈夫だった? 怪我してない?」


「……別に。大丈夫よ」


「そっか、よかった」


 少女に怪我がないのを確認するとケイジは安心したように微笑む。

 そんな少年の笑顔を前に、少女は戸惑うような顔を見せる。


「……ねえ、あなた。どうして私を助けたの?」


「え? だってそりゃ、魔物に襲われそうになっていたら助けるのは当然じゃん」


「魔物?」


 思わぬ少年の答えに顔をしかめる少女。

 それに対してケイジは「あー」と、どこか気まずそうな顔を向ける。


「……はは、ごめん。実はそれだけじゃないんだ。君みたいな可愛い子が死ぬのが見たくなかった。その、僕も一応男の子だからさ。君みたいな可愛い子を救ってみたいなーって感情に突き動かされて。ほら、せっかくこういうファンタジーな異世界に転移したんだし、漫画とかみたいにそういうかっこいい場面の一つや二つやってみたかったから」


「…………」


「あ、ご、ごめん。呆れたよね。は、ははっ……」


「……そうね、呆れたわ」


 少年の答えに少女は呆れたような顔をして、僅かに微笑む。


「あなた、私が誰か知らないの?」


「え?」


 不意な少女の問いにケイジはよく分からないという風な顔をして、すぐさま何かに気づいたのような顔をする。


「あ、ああ! そうだったね! 僕ら、まだお互いが誰か自己紹介してなかったね! 僕、氷室敬司って言います。ケイジって呼んでください。それで君の名前は?」


 そんなケイジの名乗りに対し、少女は驚いたような顔をするが、わずかなためらうような顔を見せた後、静かに呟く。


「……ファーヴニル」


「へえー、じゃあファーちゃんでいいかな?」


「え?」


 ケイジの答えにファーヴニルは驚いたような顔を向ける。


「あ、ご、ごめん、馴れ馴れしかったら謝るよ!」


 すぐにそのように慌てるケイジであったが、そんな彼の姿を見てファーヴニルは思わず笑みをこぼす。


「くすっ、別にいいわよ。ただそんな風に呼ばれたのは初めてだから」


「へえー、そうなんだね。君可愛いから、僕みたいなやつにそんな風に言われるの慣れてるかと思ったよ」


「そんなことないわ……」


 そう言って僅かに暗い表情を浮かべるファーヴニルであったが、その瞬間、


「いたぞ! 奴だ!」


 路地の奥から武装した騎士達が姿を現す。

 その表情は皆、殺気立っており手にはそれぞれ武器を持っていた。


「奴め! 人質を取っているのか!? ええい、構わん! ここでの最重要任務は奴を倒すことだ! なんとしてもあの小娘を取り逃がすな!」


「な、なんだよ、この人達!?」


 路地へとなだれ込んでくる騎士達を前に、ファーヴニルが戦闘の構えを取ろうとするが、しかしその瞬間、ケイジが思わぬ行動に出る。


「ファーちゃん! ファーちゃんは逃げて!」


「えっ!?」


 なんとケイジが自ら騎士達を足止めするように向かっていき、それに対し騎士達が「邪魔だ! 小僧!」と路地の入口で混雑する形となった。


「ケイジ、なんで……?」


「よくわからないけれどファーちゃん、こいつらに狙われているんだろう! いいから、ここは僕に任せて早く逃げて!」


「小僧! 貴様、自分が何をしているのかわかっているのか!? ええい、早くどかんかー!」


 ファーヴニルを庇うように騎士達と取っ組み合いを始めるケイジ。

 そんな彼にファーヴニルは僅かに視線を向けると、そのまま背後を向け走り去る。

 ファーヴニルの姿がいなくなったのを確認するとケイジが微笑み、その隙を突くように騎士団がなだれ込む!


「くそ! 小僧、邪魔をしおって! ええい、いいから奴を追えー!」


 そうして騎士団に弾かれたケイジは路地裏に一人尻餅を突くように倒れるが、その顔は満足そうに微笑んでいた。

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