176「オレとオヤジと」
「お、お、おや――!」
「おや?」
「お、おやー! 奇遇ですね! オレも日本からの転移者なんですよー!」
「あ、だよねー。黒髪だし、いかにも日本人って感じだしー。あっ、もしかして地元も近かったりして」
「あ、あははー。かもしれませんねー」
あぶねぇあぶねぇ。
危うく素でオヤジと叫ぶところだった。
だが、これは夢でもなんでもなく紛れもない現実。
今、オレの目の前にいる明らかにオレより年下の少年。
この人物が名乗った名前は氷室敬司。
それは他ならないオレのオヤジの名前である。
ということは、今オレの前にいるこの少年が幼き頃の父親。
なんとも不思議な気分にオレは思わず、目の前の少年の凝視してしまう。
「あ、えーと、どうかしたの?」
「ああ、いや、なんでもないです。ちょっとこっちの世界に来て転移者に会ったのは初めてだったもので……」
いかんいかん。
あまり凝視するのも疑われる。
ここは適度に距離を置きつつ、落ち着いて対処するべきだ。
ここが過去でオヤジが初めてこの異世界に転移してきた時代だというのなら、あまりそれに干渉しないほうがいいだろう。
下手するとオレのいた未来に影響があるかもしれない。
……いや、すでにオレと会ってる時点で影響あってるのか?
うーむ。よくわからん。
「あのー、もしもしー」
と、そんな風に悩んでいるとオヤジ……じゃなかったケイジがなにやらオレに声をかけている。
「あの、すみません。よろしければあなたの名前を聞いてもいいですか?」
「へっ、オレの?」
「はい。よければいいのですが」
そう言われましても本名を言うわけには……。
しばらく悩んだ後、オレは一言答える。
「……き、キョウです」
「キョウさん、ですか。なるほど、わかりました」
オレが答えるとケイジは笑顔で頷く。
ま、まあ、本名は恭司だから、これくらいならセーフ……か?
と、再びそのように悩んでいると、今度は一緒にいたルーナが物珍しげにオレとケイジを見比べながら声をかける。
「へえー、ひょっとしてキョウとそっちのケイジって人は同じ大陸の生まれなの?」
大陸というか異世界といいますか。
詳しく説明すると長くなりそうなので「まあ、そんなところだ」と頷いておく。
「そうなんだー! じゃあじゃあ、もしかしてケイジ君も魔物の栽培とかできるの? できるの!?」
「ま、魔物の栽培?」
急にルーナにそのように質問され戸惑うケイジ。
まあ、そりゃそうだよな。
というか、オヤジは自分のスキルについて気づいているんだろうか?
見る限り、栽培というワードにも困惑している様子だ。ふむ。
「ケイジ君。だったよね。実はこの世界って魔物は栽培で生まれることができるんだ」
「へ? 栽培? 魔物が? あ、あの、キョウさん。僕が異世界に来たばかりだからって、冗談はやめてくださいよ」
「いやいや、マジマジ。まあ、全部が全部そういうわけじゃないけれど、栽培で生まれる魔物もいるって話だよ。まあ、見たほうが早いか。ついてきてくれ」
そう言ってオレはルーナ、ロック達と一緒にケイジを連れて、先ほど魔物を植えた庭へと戻る。
◇ ◇ ◇
「……マジ?」
そこで先ほどオレが植えた魔物の種から小さいがキラープラントの苗が生え、実の部分から小さな口が生え、飛んでる虫をパクリとしている様子があった。
「なっ、言ったとおりだろう。ちなみにこれがオレの植えた魔物な」
「植えた。あなたが。マジで?」
信じられない様子で目の前のキラープラントを指差すケイジだが、隣ではルーナが「本当だよー」とオレの言葉に頷いてくれた。
「……ま、まあ、それがこの世界の普通なら僕を慣れておかないといけないか……」
そう言って悩むように頷くケイジであったが、その後なにかに気づいたのか目の前のキラープラントを見ながら、オレに質問する。
「あの、さっきこの世界の魔物は栽培出来るって言いましたけど、それって僕も可能なんですか?」
「あー、それな。一言で言うとちょっと難しいかなー」
ケイジからのその質問にオレはどう答えるべきかと言葉を選びながら説明する。
「魔物の栽培ってのは普通の人には難しいんだ。全くできないってわけじゃないが、自由自在ってのは限られた人間にしかできない。これは天性の素質とかスキルが関係しているらしい。で、オレにはそのスキルがあった。これは転移者特有のやつだな。君もラノベとかアニメとかで、そういうの見たことない?」
「あー、なんとなくわかるかも。レイ○ースとかエルハ○ードでもそんなのあったなー」
とオヤジは一昔前の異世界転生作品を例に挙げる。
というか、それ相当懐かしいな。
「まあ、そんな感じ。で、ケイジ君。君にもそのスキルが宿っているんだよ」
「魔物を栽培するやつですか?」
「いや、それとは違うちょっと異なるスキル。君の場合は……魔物ではなく、地球の野菜を栽培出来る能力だ」
そう告げるオレにケイジは再びキョトンとした顔を向けるのであった。




