173「魔導の国」
「イシタル……?」
「うん、そうだよ。魔導王国イシタル。もしかして聞いたことあった?」
そう言ってサンドワームから降りたオレ達はその国の門をくぐる。
そこにはこれまでオレがこの異世界で見てきたどの国とも違う、あらゆる意味で幻想的な光景が広がっていた。
宙に浮かぶ様々な都市。
街の様子も中世というよりも、どことなく科学が進んでるような文化があり、人型のゴーレムが人に交じっては歩いており、街の掃除や人の運搬などを行っている。
他にも見たことのない魔道具に溢れ、魔女のほうきのようなものに乗って空中を移動する人達。
そこはまさにオレがこれまで見てきた国の中で一番栄えていると言っていい国であった。
しかし、先ほどルーナはここがイシタルと言った。
それは間違いなく、あの滅ぼさったとされる文明イシタルのことか?
オレ達は一度、その滅ぼた場所へ趣き、地中で廃墟となっているこの国を見た。
確かにあの時見た廃墟と、どことなく面影は似ている。
だが、ということは、ここはまさか――
「キョウ。なにぼーっとしてるの?」
「あ、ああ、いや」
考え込んでるオレに横から覗き込むルーナ。
……とりあえず、今の段階ではまだハッキリと断定するのは危険か。
もう少し、この街のことを調べないと。
「ところでキョウはどこに泊まるとか予定あるの?」
「え? いや、特にはないけど」
「そうなんだ! あ、じゃあさ、僕の家に泊まらない?」
「へっ、ルーナの家に!?」
思わぬ誘いに思わずドキリとしてしまうオレ。
い、いいのか? 女の子のいる家にいきなり泊まるって……!
「あ、家って言っても僕のうち、すっごく大きいからさ~。部屋いっぱいあるのに全然使われてなくって、それでキョウが使ってくれるなら嬉しいかな~って。それにロックちゃんもよければ、どうかなって?」
そう言ってルーナはしゃがみこんでロックの目線に合わせる。
それを見たロックは嬉しそうにルーナに抱きつく。
「うん! ロック、ルーナおねえちゃんと一緒のところに寝泊りする~!」
「あはは~、そう言ってもらえると僕も嬉しいな~」
ロックの返答にルーナは嬉しそうに抱き返す。
うん。どうやらオレというよりもロックのことを心配しての誘いだったようだ。
それに聞く限り、家と言ってもどうやらルーナの住んでるところは屋敷みたいな大きな場所のようだ。
だったら、部屋は違うだろうし、同じ屋根の下と言っても問題なさそうだ。
それにオレとしても始めてくるこの街では、どこに泊まればいいのか分からなかったので、ルーナの誘いはありがたかった。
「それじゃあ、遠慮なくお世話になろうかな」
「うん、こちらこそ、ぜひ来てよ。お父さんとかに紹介したいから!」
そう言って笑顔のルーナに連れられるまま、オレとロックは彼女の言う家へと向かった。
◇ ◇ ◇
「ここが僕の家だよ!」
「……はい?」
そう言って連れられた先はこの国で一番大きな浮遊城。
というか、明らかにこの国の城らしきところへ案内された。
なお、ここへ来る際、空中を移動する円盤のようなものに乗って移動した。
その際、ルーナとすれ違う人達は皆ルーナに挨拶をしていた。
「さあ、入って入って」
「いや、あの、ここって……」
戸惑うオレを無理やり背中から押しながら中に入る。
そこはまさに想像を絶する大広間であり、見たこともない装飾や飾りなどがあちらこちらにあり、そこを奇妙な服を着た人達が行き交いしていた。
「おや、ルーナ様ではありませんか。お戻りになられたのですか?」
「うん、そうそう。ついさっき」
見ると、そのうちの一人がこちらに挨拶をしてくる。
っていう様って。
「そちらの方々は?」
「あ、この人達は僕が砂漠で見つけた人達。迷子みたいだったんで、しばらくうちに寝泊まりさせようかなって」
ルーナがそう説明すると、その人は「なるほど、そうでしたか」とアッサリ納得してくれた。
「ですが、一応お父上に言っておいたほうがいいかと思いますよ」
「うん。だよね。だから、今から会いに行こうかと。キョウもいいかな?」
「えっと、ルーナの父親に会うってことだよね? オレは構わないけど」
隣にいるロックを見ると、ロックも問題ないとばかりに頷く。
それを見たルーナが「それじゃあ、行こうか!」とオレ達を先導するように歩いていく。
しばらく通路を歩くと行き止まりにぶつかるが、その瞬間、床が輝くと同時にオレ達のいた地面が急激に上へ上へと上がっていく。
これはエレベーターのようなものか? す、すごい作りだ。
というか、ある意味、オレのいた地球よりも文明が進んでる部分がある。
そんなことを思っていると、景色が先ほどとは異なり、まるで大空に浮かんでいるような部屋に出る。
そんな開放感のある部屋にて、ひとりの老人が玉座のようなものに座って、こちらを見ていた。
「おや、ルーナ。もう帰ったのかい」
「うん、ただいま。お父さん」
父と呼ばれたその老人は柔和な笑みを浮かべて、こちらを見る。
「ふむ、そちらの人達は客人かな?」
「うん。砂漠で迷っていたのを助けたんだ」
「ほお、そうか。なるほどのぉ」
そう言って老人はオレの顔を見て、興味深そうに目を細める。
「初めまして、若者よ。私の名前はガリオン。この魔導国イシタルを生み出した者じゃ」




