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16「VSグルメ勇者」

「ほお、これは素晴らしい。紅蓮龍の肉にレモンドラゴンの果実で味を付け、クイーンパインプラのサラダとシースルークラーケンの活き造り。さすがは前年度の優勝者ジョンフレストラン。今年は前年を上回る食材と味付けだ」


感嘆の息を上げながら出された豪勢な料理を口に入れる領主と、その周りの美食会メンバー。

ちなみに美食会メンバーについては「う・ま・い・ぞおおおおおおおおお!!!」というどこぞで聞いた感想しか言ってない。

まあ、それでなくともあんなもの遠巻きで見るだけでも間違いなくうまいのは分かる。

ここまでいろんな食堂屋がその料理を披露してきたが、やはりジョンフレストランが出してきた料理はそれを軽く上回っている。

事実、これまで出された料理には点数がつけられ、それらの多くは5,6点。多くとも7,8点だった。

だが、ジョンフレストランに出された点数は9.8。事実上の優勝数字だ。


ちなみにジョンフレストランのオーナーはどうだと言わんばかりに豪快に笑っている。

隣りでは例のグルメ勇者が最初と変わらず瞳を瞑ったまま静かに佇んでる。

あの子、やたら大人しいけどひょっとして寝てない?

まあ、それはともかくいよいよオレ達の出番だ。


「では最後に、本年度初参加! 以前はしがない小さな食堂屋でしたが、ここ最近の食材の質向上に一部の食通達を唸らせ、店主兼看板娘の笑顔にやられ密かにファンクラブ上昇中! 庶民の代表店ミナ食堂屋の料理でーす!」


アナウンサーの紹介に思わずドキドキと緊張した様子を浮かべるミナちゃん。

だが、オレは彼女の肩に手を置き、親指でガッツポーズ。

それに励まされたのか、彼女も微笑み、用意していた料理を領主ほか審査員一同の前に運ぶ。


「め、メニューは、ジャック・オー・ランタンのスープ。デビルキャロットとマンドラゴラの花添え。コカトリスのキラープラントソースかけ。焼きエントタケです」


どれもうちで採れた一級品の食材。マンドラゴラの花添えは、ドラちゃんの好意により頭についていた花を分けてもらった。

マンドラゴラは本体の方が味がいいのだが、花の方も食べられるらしく風味もよく味もちゃんとついていた。

ただ一度採ると生えてくるのに数週間かかるので、そんな頻繁には食べられない。


まずは領主ほか審査員達がスープと花添えを食べる。

そこに関しては向こうも想像以上だったのだろう。感嘆の声をあげ思わず全部食べてしまう。

そして、引き続き匂いが香ばしい焼きエントタケへと食らいつく。


「これは……素晴らしいな。食べる前からの香るもそうだったが、食べてなおその風味が口の中に残り食欲を刺激する。正直、ここまで結構な料理を食べていたのだが、この香りのせいで食欲を刺激され、思わず食が進んでしまう」


隣りでは美食会メンバーがやはり「う・ま・い・ぞー!!」と言っている。

ジョンフレストラン以外でなら高評価の感想だ。だが、やはり直前に連中の料理を食べていたために、それに比べれば一歩劣るという印象だろう。

ならば、勝負は最後の料理。黄色いソースをまんべんなくかけられたコカトリスの肉をその口に運ぶ領主達。そして。


「……!」


領主含む審査員達のフォークが落ちる。

その後、料理の審査による点数が発表されたとき、オレ達含む会場中が息を呑む。


10点。


「なっ……!」


その点数にさすがのジョンフレストランのオーナーもポカーンと口を開け、それまで隣りで静かに立っていたグルメ勇者の少女は静かに瞳を開き、その数字を見る。

あ、ちゃんと起きてたんだ。


「こ、これは! まさかの大どんでん返しーー! ジョンフレストランを上回す最高点10点により、ミナ食堂屋の勝利ですーー!!」


わっと湧き出す歓声。それにはミナちゃんも思わずはしゃいでリリィと一緒に飛び回っている。


「お待ちください」


が、その瞬間静かな一言が会場の声を停止させる。


「理由をお聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


それはあのグルメ勇者の少女が、審査員含む領主の前に立ち、その理由を問うていた。


「私は世界各地から様々な高級食材となる魔物を捕らえていました。今回捕らえた紅蓮龍も最難関クエストの果てに討伐したもの。シースルークラーケンに至っては数年に一度氷塊の絶海に現れる幻のイカ。それを捕らえるのは私のこれまでの冒険の中でも1,2を争うほどのものでした。

問わせてください。私が集めた高級素材がなぜ負けたのかを?」


少女の問いは至極最もだろう。彼女のこれまでの冒険の研磨によって揃えたであろう高級素材の数々。

それがぽっと出のオレ達に負けたのだから、それを素直に納得することなんか出来ないだろう。


「それについての答えはこの料理を食べればわかるだろう」


そう言って領主が差し出したのはコカトリスのキラープラントソースかけ。

オレ達が出した料理の中で明らかに高級素材と思われたのは焼きエントタケ。それではなく、どこにでもありふれた食材であるはずのコカトリスのキラープラントソースかけを差し出されたのだから、当然疑問符を浮かべるグルメ勇者。

だが、それを一口入れた瞬間、それまでの無表情だった彼女の表情が変わる。


「?! こ、これは……!」


「わかったかね」


その一口で全てを理解したのか、グルメ勇者は信じられないと言った表情を浮かべる。

そして、間髪入れずこちらの方へ早足で歩き、オレに問い詰める。


「この食材を提供したのは貴方ですね? 一体どうやってこれを見つけたのですか? 教えなさい」


かなり顔が近いんですが。まあ、それはともかくこうなることを見越してオレは今回の料理の主賓となる魔物を連れてきていた。


「分かりました。では、お教えしましょう。これがその料理の秘密の魔物です」


そう言って奥から持ってきたのは壺の中に入れてきたキラープラント。ちなみにちゃんと生きてます。

それを見るや否や会場中が大騒ぎ。


「なななな、なんとー! ここでミナ食堂屋の食材提供者が出してきたのはキラープラントだー! というかそれ無差別に人を襲いますよー! なにを考えてるんですかー!」


オレが持ってきたそれを見てすぐさま腰の剣に手を伸ばすグルメ勇者。

だがやがて、奇妙な点に気づき、その警戒を緩め始める。


「……どういうことですの? なぜ、襲ってこないのですの?」


そう、こちらが連れてきたキラープラントは全く人を襲う気配がゼロなのだ。もちろんすでに成熟しその口からは牙も生えている。だが動きは緩慢であり、人を襲う気力がまるでないかのよう。

それに会場中の人も気づいたのかやがて疑問の声が次々と上がっていく。


「簡単なことですよ。おそらくこれが本来のキラープラントの姿だからですよ」


オレのその答えに会場中はおろか、目の前のグルメ勇者すら疑問を顔にあらわし戸惑い始める。


「……説明してください」


「まず、こいつは普通の平地や森や土のある場所で育てたやつじゃない。こいつはここから北にある草一本生えない水が全く通ってない荒地で育てたキラープラントだ」


「?! 馬鹿な、そのような場所でキラープラントが育つはずがありません!」


まあ、そう思うのが普通だよな。キラープラントだけでなく、普通の植物や魔物なんかもそこでは育たないはずだ。


「ところが、キラープラントは育つんだよ。むしろ、キラープラントだからこそ育った」


「どういうことですか?」


「ある漫画で見たことがあるんだ。断食農法ってやつをな」


それはとある有名な美味しい某の漫画であった、必要最低限の水や肥料を使って植物が飢えるぎりぎりの状態に追い込んで、本来の力を最大限にひきだします旨みを上げる農法。


オレは前々からこのキラープラントに対して一つの疑問を持っていた。それが成長した際、むやみやたらに人に攻撃することだ。

いや、人だけでなく隣のジャック・オー・ランタンになど、明らかに捕食や栄養を得るための攻撃ではなかった。

そこでオレは発想を逆転させた。もしかしたらキラープラントは育ちすぎて逆に元気が有り余って凶暴になっているのではないかと?

キラープラントが実らせる果実はトマト。そして、トマトは肥料を与えすぎると水太りになると聞く。

つまり、キラープラントが育っている環境はむしろ彼らにとっては逆に水太りになっていたのではないかと?

そこでオレはあえて荒地で水も必要最低限に奴らをスパルタ的農法で育てることにした。

結果、実ったのは赤ではなく黄色の果実。そして、成熟した後も奴らは人を襲うことはなく、むしろ自身の実を実らせるのに集中している感じだった。


「そして出来上がったこの黄色い果実。これこそがキラープラントの本来の果実。その旨さ、甘さ、全て既存のキラープラントの果実の遥か上を行く。そこらの高級素材にも負けない味が、そこらのありふれた魔物に隠されていたってわけさ」


そう言ってオレは育てたキラープラントからもぎ取った黄色い果実をグルメ勇者に向け投げる。

それを一口かじり、グルメ勇者は静かに納得したように俯く。


「では、これで両者共に異論はないな? この勝負、ミナ食堂屋とそれに貢献した素晴らしき魔物栽培師キョウの勝利とする!」


その宣言に今度こそ会場中の人間が歓声を上げ、祝福をしてくれた。

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