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159「フェリドの記憶③」

「フェリド! まさかお前がSSランク魔物を倒すとはな!」


「いやー、我々の村から大勇者が生まれるとは!」


「めでたい! 実にめでたい! 今夜はぜひ、この村の主役としてパーティに出席してくれ!」


「お前は我々の誇りだぞ!」


「オレはいつかお前ならやってくれると信じていたぜ!」


 SSランク・バハムートの討伐。

 それはすぐさま国の確認と、女神モコシ様の直接降臨によって知らされた。

 フェリドは大勇者となり、生まれ故郷は勿論、国中からももてはやされる。


 それはフェリドがずっと求めていた他人に認められるということの達成。

 これまで彼から距離と取っていた幼馴染の者達すらも、フェリドを親しい友人のように近寄ってきた。

 首都に向かえば、それまで無視されていた大勢の冒険者、勇者の資格を持つ者達より声をかけられ、気さくな態度を取られる。

 求められれば、彼らの多くがフェリドを友人のように扱った。


 だが、そうした人々から好かれる立場へたどり着いた時、フェリドが気づいたのは自分に近づく者達の浅ましい感情であった。


「フェリド。実は頼みがあるんだよ。最近、村の近くに危険な魔物が現れて、なんとかしてくれないか? なあ、同じ村のよしみだろう」


「フェリド。よければオレ達のパーティに入ってくれないか? 大勇者のお前がパーティにいるってだけでオレ達も注目を浴びるんだよ」


「フェリド。実はオレも勇者目指してるんだけど、ポイントがなかなか入らないんだよ。そこでお前と組んで、実績をちょっと分けてくれないか? 大勇者になったお前なら今更勇者ポイントとか必要ないだろう?」


「フェリドよ。よければ今度、この城の宴に来てくれぬか? それだけではなく貴族の爵位もお主に与えたい。その代わりとは言わぬが、よければ我が国の守りのためにこの城に住んではくれぬか?」


 ああ、そうか。

 大勇者という立場になることでフェリドはようやく知った。

 人々に認めてもらうということがただの自己満足に過ぎなかったことを。


 友達を作りたい。そのために社会的地位、立場を得る。

 だが、そうした立場になった際に、自分の本当の友になってくれるものなどはいない。

 多くのものは高い地位となった自分に擦り寄り、その立場を利用しようとする。


 そんな当然のことを彼はそこへ至ることでようやく気づく。

 だが、彼が感じた過ちはそれだけではない。

 自身が『大勇者』となることで、この国の人々は『大勇者』を目指すことは諦めた。


「フェリドがいればなんとかなる」

「あいつは単独でSSランクを倒したんぞ」

「もうあいつひとりで十分だろう」

「オレ達はなあなあで過ごして、何かあればあいつに頼めばいい」

「あいつは英雄。生まれながらの勇者なんだから」


 世界の進化。それを行うために人々が自ら自主的に成長を行わなければならない。

 だが、大勇者というその世界におけるひとつのゴールにフェリドが到達した事で、他の皆はそれを“諦めた”。

 国に一人、大勇者がいればそれで十分。


 フェリドは自身の浅ましい目的のために、この国の、いや、世界の進化を停滞させてしまった。


 人々はフェリドに勇者であり続けることを求める。

 求められたフェリドはそれを断ることが出来ない。

 なぜなら、この道を選んだのは彼自身。

 なによりも彼はミーメという大きな代償を払うことで大勇者となった。

 ならば、その自分が英雄となったこの立場を安易に捨てるわけにはいかない。

 なによりも人々に求められること。それが自分の目指したものだったはず。


 そうしてフェリドは大勇者となってもなお、たった一人で戦い続けた。

 人々に求められ、人々に頼られ、そして、人々に使い捨てられるように。


 何のために戦ってきたのか。

 何のために勇者となったのか。

 目的を失った男は原初の己に立ち戻る。


 それはまだ自分が笑っていた頃。幸福だった頃の記憶。

 それがなんであったのか。


 それは勇者を目指す前、森の奥でミーメと彼女を慕う魔物達と暮らしていた頃。

 村の人々からは蔑まれ、人間の友人もいなかった。

 だが、それでもフェリドはその時、幸せだったのだ。


 温かな『家族』がいた。

 人ではないが、魔物という友人達もいた。

 なのに、なぜ自分はそれを捨てて、旅立ったのか。


 答えは簡単。

 周りの人々の視線、声に耐えられなかったから。


 人間ならば人間の友人を持つべき。

 魔物や魔女と暮らすなど、普通ではない。おかしい。

 そんないわゆる世間の声に耐え切れなくなったため。

 ようはフェリド自身の心の弱さが、そこに居座る勇気を持てなかった。


 ああ、なんということだろう。

 大勇者となりながら、フェリドは自身の心の弱さを自覚した。


 生まれ故郷の森、かつてミーメと暮らしていた小屋を訪れたフェリドが見たのは朽ち果てた廃屋。

 かつて、そこに集まっていた魔物達の姿はなく、今や魔物の血にまみれた自分を見た瞬間、森にいた魔物は一匹として近寄らなかった。


 そうしてフェリドは一人、遠く旅に出る。

 目的はない。

 ミーメを犠牲にしてまで大勇者となっても、世界の成長は行えない。

 仮に自分ひとりが努力したところで、もはや意味はない。


 そんな折り、彼はキョウと出会う。

 そこにあったのはかつてフェリドが捨てた魔物との暮らし。

 彼はそんな暮らしの中にあって笑っていた。幸せそうであった。なによりも彼の周りには仲間がいた。

 ああ、なんて羨ましい。

 この人物は自分がなれなかった存在になれている。

 大勇者になるよりも、よほど眩しい光景がそこにあった。


 そうして、キョウと別れた後、フェリドが出会ったのは女神の守護者とされるセマルグル。

 彼は言った。

 世界の成長のためにはキョウの成長こそが一番であると。

 彼と彼の周りにいる者達こそが、その鍵を握る。

 それを聞いてフェリドは、今度は己がミーメのようになる番だと気づいた。

 世界の進化のため、なによりも大勇者としての役割のために、フェリドはその依頼を請けた。

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