121「温泉とフラグ回収」
「いやー、しかしさすが宮殿のお風呂。まるで温泉のような広さだなー」
そこはシンによって提供された宮殿の浴場であり、ローマにあるような広大な浴場が存在していた。
「やっぱ一日の疲れを癒すならゆっくり温泉だよな~」
そう言ってオレはブクブクと口元まで湯に浸かり、一人きりの浴場を楽しんでいた。
本当なら、ここでロックやドラちゃん、フィティスなどが一緒に引っ付いてたりもするのだが、それは一日目に体験して、正直ゆっくり浸かるどころではなかったので、今では全員が寝静まった夜中に一人でこっそり入ってる。
なにしろ今日の作業は今までになく、体を動かしたものだったため、その疲れをゆっくりと癒したかった。
あれからシンにオレの新たな魔物を見せた後、更なる魔物栽培をするべくシンの案内に従って砂漠に存在する魔物達の狩りに向かった。
狩りといっても直接的なものは少なく、多くは砂漠に住む魔物から種や卵を取ったり、その過程でちょっとした戦闘がある場合はシンなどに協力してもらった。
前にコブダで移動中に見かけたサボテンに手足が生えて歩き回っている魔物、サボテンボール。
もともとサボテンは地球でも砂漠における貴重な食料とされていた。
水分を多く含み、食料としてはもちろん、薬用としても用いられた万能植物。
この世界でもそうしたサボテン型の魔物であるサボテンボールは貴重な食料であり、中身を割ればそこには水分を含んだ果肉がギッシリ詰まっているという。
味も意外とイケて、オクラのような感じだった。
他にはキラーサソリ。驚いたのはこいつの味もいいことだ。
たとえるならロブスターのようなものだ。中には肉がぎっしりと詰まって、ただ焼いただけなのにかなりの美味。
他にもコカトリスの上位種であるバジリスク。
これに関してはコカトリスと同じような感じだが、味はやはり上位種だけあってバジリスクが上だ。
他にもいくつかの魔物がいるらしいが、とりあえず今日確保出来た分はこれくらいだ。
あとはすでにオレが得ている魔物の種や卵などを使い、これらを品種改良していくつもりだ。
ただ以前にもシンが言ったようにここ最近、砂漠における魔物の数が減っているらしいので、他の魔物を探すとなると、今日よりも手こずりそうではある。
さしあたっては、手持ちのサボテンボールとキラーサソリの配合などを考えている。
キラーサソリが持つロブスターのような肉をサボテンボールの果肉に与えて、サソリボールとして栽培するつもりだ。
予定では樹にサボテンがいくつか実る感じで、その実を割れば中にはロブスターのような果肉がぎっしり詰まってる感じだ。
もともとサボテンの水分を溜めやすい性質もあって、これが成功すれば絶対に美味しいはずだ。
他にもいくつかの配合や、品種改良の予定もあるが、まずは一つずつ順番に行こう。
いやー、楽しいなー。
品種改良のスキルに目覚めたおかげで、今からどの魔物とどの魔物の性質を融合させて新しい魔物を生み出すか、やることが多すぎてワクワクしてる。
やっぱオヤジには感謝しておかないとな。
と、そんなことを考えていると、誰かが浴室の扉を開いて、中に入ってくる気配があった。
はて、こんな真夜中に湯を楽しむ奴なんてオレくらいだと思っていたが、他にもいたとは。
湯けむりでよく見えないが小柄な体格に僅かに見える褐色の肌、それに金の髪。
あれってひょっとして……。
「もしかしてシンか?」
「へ?! き、キョウさん?! も、もしかしてキョウさん、ですか?!」
オレのその声に、湯けむりの向こうからビクリと体を震わせるシンの姿が見えた。
なにもそんな驚くことないだろう。
「ああ、そうだぜ。ってか、お前もこの時間に風呂に入ってたんだな」
「そ、そうですね。この宮殿の浴室は広いですから、やっぱり疲れを癒すには一番ですからね……」
そう言ってなにやら傍目にもわかるほどうろたえ始める。一体なんぞな。
「……そ、それじゃあ、僕は失礼しますね。き、キョウさんが入っているとは知りませんでしたので、ど、どうぞ、お一人でごゆっくり浸かってくださいませ……」
そう言って慌てたようにそそっくさと扉へ向かうシン。
って、おいおい。
「いやいや、別にお前一人くらい入ってきたからって気にしねーよ。ってか、お前の方こそ、何そんなに慌ててんだよ。同じ男同士だろうが」
そう言って引きとめようと湯船から体を上げた途端、それに反応したのかシンがこちらをチラリと振り返った瞬間、足元に転がっていた石鹸に足を滑らせる。
「あっ!」
それはどちらが上げた声だったか。気づいた次の瞬間には見事にシンが尻餅をついて、悶絶したように震えていた。
「って、おい! シン、大丈夫かよ?!」
思わずそのまま湯から飛び出し、お尻のあたりを手で支えていたシンに近づくが、その瞬間。
「?! だ、ダメです! キョウさん! こ、こっちを見ないでください!!」
そう言って今までにない叫び声にも似た大声をあげるシンに思わず、顔をあげその上半身を見ると――
「へ?」
ショートの金の髪に、褐色の頬を真っ赤に染め、胸を腕で隠すようにしているシン。
しかし、その腕から溢れるように見えた胸にはわずかな膨らみが存在し、腰のくびれやお尻のラインなど、少年というよりも、どちらかというと少女のような体つきであり、というか、これはまさか……。
「お、おまっ! お、お、女だったのか?!!」
オレの絶叫に対しシンは再び顔を真っ赤にし、隠すべき場所を必死に隠した。




