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117「親父の長話にはビールが付き物」

「よお、帰ったか。それでどうだった、お嬢さん。地球の観光は?」


「はい! とても素晴らしいところです! 色んな知らない物に触れたり、見たり、味わったり、とにかく私のいた世界にはない物で溢れています! 可能ならば、こちらの文化を私の世界にも持ち帰りたいほどです!」


「ははっ、まあ、それについてはお前さん達で出来る程度にやるといいさ。けど、ほどほどにしときなよ。あんまりこっちの文化を持ち込んで、進化を加速させても、その結果、危うことになるってオチもあるからな」


「それよりもオヤジ。さっさと説明しろよ。なんでオレをこっちの世界に戻したのか? あといい加減、オヤジについての説明もしてくれ」


 帰ってそうそう、オヤジへの報告を喜んでしているフィティスを抑えながら、オレは改めてオヤジに問いかける。

 そもそもオヤジの正体というか、なんであの世界にいたのかとか、そういった大事な部分をこれまでずっとスルーしていたからな。そろそろ話してもらってもいいだろう。というかいい加減、説明しろ。


「そうだな。まず最初に言っておくと、オレは偶然、異世界に飛ばされた人間の一人だったんだよ。その当時は十五くらいで、飛ばされた先があの世界だったってわけだ」


 オヤジの年齢を考えれば、今からおよそ二十年くらい前か。

 そんな前から異世界転移とかあったんだな。

 けど、考えてみればそうだよな。アニメや漫画でもそれくらい前から異世界への転移とかたくさんあったし。


「けどまあ、オレがあの世界に転移したのは女神様に呼ばれたからだな」


「モーちゃんに?」


「そうそう」


 ほー。しかしなんでまた?


「それに関してはお前さんと同じだ。世界の進化のため。異世界人という外部の手を借りて促進を行いたかったんだろう」


 なるほどな。


「で、オヤジはその役に立ったのか?」


「まあ、間接的にな。その飛ばされた先でオレは母さんに出会ったんだ。ちなみにあの当時の母さんは今とはイメージだいぶ違うぞー。なにしろ女神様の命令とはいえ、自分たち魔物が人間を進化させるために用意された当て馬的存在と知って、かなりやさぐれていたからなー」


 そうなのか、と思わず問いかけそうになったが、しかし言われてみればそう考えるのは当然かもしれない。

 リリィやベヒモスに関しては自分たちの役割を受け入れ、むしろ自ら世界の進化のためにその身を捧げる覚悟であった。

 しかし、言ってしまえばこれは人柱に近い、自己犠牲のような行いだ。

 SSランクの魔物がそのためだけに生み出された存在だとしても、全員が受け入れるわけじゃない。

 母さんのジレンマは当然である。


「しかも、当時のあいつはかなりの人間嫌いだったからなー。いやー、オレのこともすっげえ冷たくあしらわれたよー、はっはっはっ」


 笑って過去の出会いを話すオヤジ。

 なんでも今で言うツンデレの走りのような存在だったらしく、何度も冷たくされつつも、友人の魔女と呼ばれる少女と一緒に人間嫌いの母さんの感情を少しずつ溶かしていき、気づくと父さんと母さんはお互い惹かれあう存在になっていたと。

 まさにどこかの王道的異世界ラブロマンスだな。


「で、結局その後どうなったんだ?」


「ああ、まあ、色々あって当時の魔王との戦いに巻き込まれる形になってな。その後、オレと母さんはこっちの地球に飛ばされたんだ」


 随分飛んだな?! っていうか当時の魔王ってなに?!

 さらりと後の伏線になるようなことを言うなよ!


「で、その後、オレをこの世界で産んで母さんと一緒に向こうの世界に戻ったのか?」


「そうなんだが、お前さ、そんな普通にポンポン異世界を渡ったり出来ると思うのか? それってある意味、神様の領分だとは思わんか?」


 まあ、それはなんとなく思った。


「元々この能力はオレじゃなく、女神の側近と呼ばれるセマルグルの能力なんだ」


「あ、あの女神の守護者さん」


「そうそう、あの人が地球に飛ばされたオレと母さんを元の世界に戻すために、オレに異世界を渡る能力をくれたんだ」


 なるほど、そういうことだったのか。

 というか久しぶりに出たな、あの人の名前。


 セマルグル。オレを女神様のところまで迎えに来たSSランクの魔物シームグルの青年で、ロックの父親でもあったはず。

 そういえば、ロックをあっちの世界に置いてきたままだが、大丈夫だろうか?

 すでに半日以上経ってるし、このままだと一日以上向こうに置き去りになってしまうかもしれない。

 とそんな風にオレが心配をしていると、問題ないとばかりにオヤジが笑う。


「安心しな、キョウ。オレがあのセマルグルからもらった異世界を渡る能力は時間の操作も出来るんだ。だから、こっちからあっちに移動した際、あっちではまだ一時間しか経ってないとか出来るんだぜ」


「え? そんなことまで出来るの?」


「おう、というよりもこいつは異世界を渡る能力ってわけじゃないんだ。言ってしまえば『時空』を生み出す創生スキルだ」


 『時空』の創生スキル。これまたなんか壮大なスキル名だな。


「つまり時間と空間を操作し作り出す。オレがこうして異世界を渡っているのは、こっちの世界とあっちの世界を繋ぐ空間を作ってそこを渡っているからだ。で、その際に時間の操作もして、向こうについた時には数十年経過したり、逆に一分くらいしか経ってなかったりと言った操作も出来るってわけさ」


 なるほど。それならオヤジが今までどこへ行っていたのかという謎も判明する。

 そして、オレがあの異世界に行ってから間違いなく半年以上は経っているのに、戻ったこっちの世界ではジャ○プの積み冊が三ヶ月くらいしか経ってない理由も把握出来た。


「すげー能力だな、オヤジ。それって過去に行ったりとかも出来るのか?」


 むしろ羨ましい。オレにもくれよ、そのスキル。


「いやー、そいつはオレには無理だな。本来の持ち主であるセマルグルとかなら、そういった過去への時間操作もできるかもしれないが、オレの場合は授かっただけだから、そこまでは出来ねーんだわ。というか、最初にこの能力を使った際も慣れるまでかなり時間かかってなー。母さんと一緒にあっちの世界に戻ってみたら百年以上時間経過してて、その後すぐに母さんが魔王に任命されちゃったからなー」


 な、なるほど。下手に扱いきれてないと移動の際に何百年も経過してしまうのか。

 怖っ、ってかこっちから向こうの移動の際で良かったなそれ……。

 逆だったら目も当てられないっていうか、オレとオヤジの再会は二度となかったってことだろう……。

 欲しいと思ったけど、慣れるまでのデメリットが大きいのでやっぱ遠慮しとく。


「で、ここからが重要だ。戻ったオレや母さんが女神様に頼まれたことがあったんだ。それが、いつか大人になったお前さんをあの異世界に召喚するってことだ」


「はい?」


 そこで唐突にオレの名前が出てきて驚いた。

 なんでオレ?


「最初に言っただろう。オレがあの世界の進化に間接的に役に立ったって。そいつが母さんと結ばれて、お前を産んだことだったんだよ」


「つまり、どういうことだってばよ?」


 どこかの漫画で聞いたようなセリフを思わず口走り、オヤジがそれに対して答えてくれる。


「オレが向こうの世界へ行った時、ある創生スキルを持っていたんだ。そいつが魔物を変化させるって能力だ」


「魔物の変化?」


「魔物の進化の方向性を操作する能力と思っていいぜ。その魔物の進化に対して、より良い進化を示したり、あるいはまったく別の物へと進化を促すことも出来た。その能力を使って、オレはあの世界である物の栽培に成功した。もうここまで言えば分かるだろう?」


 そう言って自分のスキルについて解説するオヤジに対して、オレはオヤジがあの世界で行っていたある物の栽培を思い出す。


「そうか、野菜! オヤジが野菜を作れたのってそのスキルのおかげだったのか!」


「そういうことだ。魔物を野菜へと変化、成長させたのさ。けれど、オレじゃあ、そうした魔物たちの進化や成長までしか操作出来なかった。魔物そのものを生み出し、栽培するなんて能力はなかったんだよ」


 要するにオヤジの能力は品種改良のようなものなのだろう。

 元ある物を食べやすい物へ、あるいはより良い物へと改良していく。

 しかし、その元となる物そのものを生み出すことは出来なかったということなのだろう。


「だがオレの血とSSランクの魔物である母さんとの間に生まれたお前は文字通り、オレのそのスキルを上回るスキルを持って生まれてたんだよ、それこそが――」


「魔物栽培のスキル、ってことか」


 そこまで聞いてオレはどこか感嘆の息をつく。

 これまでオレがあの世界に転移したのには、なんの理由もないと思っていた。

 ましてや、魔物しかいない世界で魔物を生み出す能力なんて、ただの偶然だと思っていた。


 しかし、そうではなかった。

 全てはオレが生まれる前から、こうなるように定められていたんだ。

 伝説の勇者の血統とは言わないが、オレがあの世界に転移するのも、このスキルを持っていたのも、そして世界を進化させる役割を担ったのも、全てはその前、オヤジの段階から用意されていたことだったのか。


 そう考えるとオヤジや、あの女神様の壮大な計画に関心すると同時に不思議な気持ちとなる。

 まさかオレにそこまでの価値があったとは予想だにしなかったから。


「そういうわけだ。だからお前さんがあの世界に呼ばれたのは最初から決まってたことだったんだぜ」


 なるほど、そういうことだったのか。

 ここまで聞いてオヤジのことについても大体、理解が及んだ。

 となると残るはここへ来る前にオヤジが言っていたオレのスキルの進化についてだが……。


「察しのいいお前さんならもう気づいてるだろう? そう、お前さんにはオレの血が流れているつまり――」


「オレの魔物栽培のスキルの中にはオヤジが持つ魔物を進化・改良させる能力も含まれているはずだと?」


 そのオレの言葉にオヤジは正解とばかりに笑う。


「そういうことだ。詳しくは明日あるものを見せてやるから、それでヒントを得るといい。そろそろ自信持ちな、恭司。お前さんの魔物栽培の能力はかつて誰にも成し得なかった偉業をこれからも成せるほどのスキルなんだからよ」


 そんなオヤジからの珍しい褒め言葉に、なんだか照れくさくなるものの、悪い気はしなかった。


 最初はただなんとなく生き抜くため、あるいはスローライフな日々を過ごすために用いていたこのスキルだが、それはオレが思った以上に多くの人や女神様たちの関わりによって、育まれてきたものなのだと実感するのであった。

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