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116「これが現代デートというものか」

「へぇ、こいつは思った以上に似合ってるじゃねぇか。お前もそう思うだろう? キョウ」


「あ、ああ、そうだな」


 今オレとオヤジの前には現代服に着替えたフィティスの姿があった。

 青いワンピースに髪留めと、シンプルだがそれが非常に似合っていた。

 もとよりフィティスは少し背は高めだが、スタイルがそれに似合う感じで決して主張しすぎず、かと言って控えすぎでもないバランスの取れた体型であり、言ってしまえばモデル体型だ。


 そんなフィティスが現代の服なんて着ようものなら、それはまさにこの世界のアイドルにも引けを取らない美少女。

 下手な雑誌モデルよりも輝く少女がオレの前に立っていた。


「え、えっと、こ、これでよろしいのでしょうか、キョウ様……。こ、こちらの服はなんというか私も初めて着るものですので、どこか気恥ずかしい気もするのですが……な、なにか着こなしなど間違っていませんか? だ、大丈夫でしょうか?」


 一方のフィティスは普段の態度はどこへやら、初めて着る服に戸惑いを覚えているのか、やや頬を赤らめながらオレの反応を待つ。


「いや、普通に似合ってるぞ。というか、滅茶苦茶似合ってる」


 そんなオレの素直な感想に対してフィティスはパァっと明るく微笑んだ。


「しかし、オヤジ。この服どこから出してきたんだ?」


「そりゃお前、母さんの持ち物に決まってるだろう」


 オヤジの答えにオレは納得する。

 確かに母さんは一時期、この地球で暮らしていたと聞くから、母さんの持ち物があっても不思議じゃないか。


「あれ? けどその割にはあの服、今の母さんに比べてちょっと小さくないか?」


「あのな、オレや母さんだってずっと今の外見だったわけじゃないんだぞ? 実際オレが母さんと出会ったのは16の頃で、その時の母さんは今よりも若い外見だったんだぞ。元々母さんのあの外見もオレに合わせて歳を取るように変化させてるだけだからな。出会った頃の母さんは、そりゃもう美少女でな、ちょうどヘルに似た感じだったな。そう考えるとあの子は母親似だな~」


「へえー」


 興味のないオヤジと母さんの出会いから始まるノロケ話が始まりそうだったので、オレは適当に相槌を打つことにした。


「ご主人様、私もどうでしょうか?」


「ああ、ドラちゃんも似合うぜ。よかったら、その服持ち帰っていいからな」


「本当ですか! やりました!」


 そう言ってオレの肩に乗ってくるドラちゃん。

 彼女には合う服がなかったので、とりあえずオヤジに頼んで人形の服を着せてみた。

 こうしてみれば精巧な人形として誤魔化しが効きそうだ。

 とはいえ、ドラちゃんに限って言えば、できるだけ人目につかないようにオレの上着の内ポケットの中にでも入ってもらうことにした。


「それではキョウ様。改めてエスコート、よろしくお願いいたします」


 そう言って軽く頭を下げて右手を差し出してくるフィティスに一瞬ドキリとしてしまうものの、オレは彼女の手を握り、街へと繰り出していく。








 「す、すごいですわ。なんだか目が回るようなチカチカした建物がたくさんです! あ、あれはなんでしょうか? あのへんな赤いタワー! この国の王様が住まう塔かなにかでしょうか?!」


「いやー、あれはそういうのじゃないかなぁ」


 予想通り、街に連れ出すと同時にフィティスは見るもの全てに好奇心旺盛にはしゃいでいた。

 オレの周りの女性の中では、フィティスはわりかし落ち着いた雰囲気のイメージであったが、そんなものなど関係ないとばかりにあっちこっちに移動したり「あれはなんですか?!」「これはなんですか!」とまるで子供のように質問攻め。


「き、キョウ様! あの巨大な建物に写っている巨大な女性……! な、なにか変ですわ! なんというか、作り物のような奇妙な感じと言いますか……! ですがそれがどこか魅力的で……ああ、しかも踊っていますわ! なんという奇妙な音楽でしょうか……! ですが聞いている内にだんだん中毒になっていくような……! もしやあの方はこの世界における音楽界の勇者ですか?! そうですわよね、キョウ様!」


「ま、まあ、そうだな。そんなものだ」


 とまあ、終始こんな感じ。

 ちなみにオレの内ポケットに収まっているドラちゃんも時折、顔を出して覗いてはフィティス同様にはしゃいでいた。

 けれども、フィティスと並んで歩いていることでオレは別の目立ち方をしていた。というのも――


「お、おい、あの子、滅茶苦茶可愛くないか?」


「ほ、本当だ! すげえ可愛い! それにスタイルもいいぜ!」


「なんかどこかのお嬢様かな? 気品も滲み出してるし、はしゃいでる姿もそれっぽくね?」


「いや! むしろどこかのアイドルがお忍びで出かけてるんじゃね? あれ絶対モデルかなにかだって!」


「そんなことよりも隣の男は誰だよ! あんな滅茶苦茶可愛い子と腕組んでるなんて彼氏か?! 彼氏なのか?!」


 と、そんな話し声がちょくちょくオレの耳に入っていた。

 やはり、ほかの皆から見てもフィティスの外見はかなりの美しさであり、彼女が横を通るたびに男女問わず皆、彼女の姿に釘付けとなる。


「キョウ様、次はどこへ連れて行ってくれるのでしょうか?」


「そ、そうだな」


 そんな周りからの目もあってか、今まで以上にドキドキした胸を抑えながらオレは考える。

 というか周りから見れば、これはまさしくデートと言っていいものであった。


「? なにやら顔がお赤い様子ですが、どうかされたのですか、キョウ様」


 そんなオレの変化に気づいたのか、フィティスが腕を組んだまま上目遣いに聞いてくる。


「ああ、いや、その、お前が可愛いから周りが結構気にしてるみたいなんだよ。お前自身はあんま分かってねーみたいだけど」


「? そうなのですか?」


 そう言って周りを一望するフィティスは自分たちを見ている人たちの視線に気づくが、しかし特に気にした様子もなく、むしろより一層オレの腕に胸を押し付けてくる。


「ちょ、フィティス?!」


「構いませんわ、キョウ様。私は誰になんと思われようとも気にいたしません。周りが私達のことを見たいと思うのなら存分に見せてあげましょう」


 そう言って顔まで肩に当ててくるものだから、オレは急いでその場から移動する。

 その際、オレの内ポケットに収まっていたドラちゃんも負けずと抱きついてきたが。


「キョウ様! あちらのピカピカした建物はなんですか! なんだかすごい音が鳴り響いてますが!」


 フィティスが指した方向を見るとそこにあったのはゲームセンターであった。

 折角だし、地球の文化というか遊びを体験するにはちょうど良いかもしれない。


「ゲームセンターだよ。ちょっと寄ってみるか?」


 そのオレの誘いに対しフィティスは「ぜひ!」と 一も二もなく頷く。




「キョウ様、このガラスの中に閉じ込められているぬいぐるみ……どうやって取るのですか?」


「それはこうやってお金を入れてだな……」


「わっ! なにやら上空から金属の手が! な、なるほどこれで掴むのですね!」


「フィティスもやってみるか?」


「は、はい! ぜひやらせてくださいまし!」




「き、キョウ様、こ、この音ゲーというものい、一体どのようにして遊べば……?!」


「画面の丸いものが中心に重なる瞬間に足場をリズムよく踏むんだ。音楽を聞いてそれに合わせるように踊れば簡単だから」


「な、なるほど。ようはダンスですわね! それなら得意ですので見ていてくださいませ!」




「キョウ様、この箱のようなものはなんでしょうか? プリクラ、とかなんとか?」


「ああ、映像を紙に記録する機械なんだが……実際にやってみたほうが早いな。フィティス一緒に写るか?」


「ぜ、ぜひ!」


「ご、ご主人様! それなら私も! 密室ですから人に見られても大丈夫です!」


「わ、分かった分かった。それじゃあ三人で写ろうか」




「とまあ、だいたいこんな感じで二人共満足してくれたかな?」


「はい! 素晴らしいところですわ、地球という世界は! 本当に見るもの全てが新鮮でなによりも楽しいもので溢れております!」


 そう言ってフィティスはオレから買ってもらったハンバーガーとポテト、それからコーラを口に入れながら興奮した様子で語る。


「このジャンクフードという料理も素晴らしいですわ! 私達の世界にはまだない料理です! このハンバーガーとやらも食べやすい形でポテトも指につまみやすく、このコーラなる飲み物も口の中でパシャパシャして驚きましたが、物凄く濃い味で何より甘くて美味しいですわ! キョウ様、ぜひともこのジャンクフードなる料理を私たちの世界にも流行らせましょう!」


「お、おう、そうだな」


 いつになくテンション高めなフィティスにちょっと押されてしまうが、それでもここまで楽しんでる彼女を見るのは初めてであり、やはりオヤジの言うとおり連れて回って正解であった。


「ドラちゃんも楽しめたかい?」


「はい! 色んな面白い光景が見れて私もフィティスさんと同じように興奮してました! それにプラスチック? とかいうもので出来た植物などもあってびっくりです! あれも魔物とは違うんですよね?」


「そ、そうだな、違うな」


 ドラちゃんもまたポテトをモグモグしながら興奮気味にそう聞いてくる。

 いやー、こうした異世界人たちに地球の文化を教えるというのは見ていて、反応が楽しいな。

 そんなことを思いつつも、もうすっかり日も暮れてきたのでオレはフィティスとドラちゃんに提案する。


「それじゃあ、今日はこれくらいにして家に戻るってことでいいかな?」


「はい!」「もちろんです!」


 そう言って二人共、満足げに微笑んだ。

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